織斑一夏[感性 A+]   作:卯月ゆう

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その5

 はてさて、箒の熱い重い、じゃなくて想いの告白から一夜明け、クラスは、というか学校はその話題で持ちきりになっていた。

 昨日の昼間、箒が抜け殻になっている間に千冬姉がサラリと箒が束さんの妹であるとバラしてしまったがゆえに、有名人の弟妹同士だなんだと尾びれが付きまくって広がっていた。

 そして、当の本人だが……

 

「……なんだ、私の顔になにかついてるのか」

 

 平然としていた。

 一昨日までの箒なら、あっという間に赤面して直ぐに手が出ていそうなものだが、謎の余裕で以って女子たちの質問攻めをのらりくらりと(ときに事実を交えて)躱しつつ、交友関係を広める事にも成功していた。

 えぇ、箒さんに一体なにが……

 それを思っていたのは俺だけではなかったようで、昼休み、織斑先生の授業が終わると箒になにがあったのか聞きに来た。もちろん、噂は耳に入っているようだったので告られた、振ったと簡潔に話すとそうか、とだけ言って職員室に戻ってしまったが。

 

 

「篠ノ之さん、織斑くんに告白したんでしょ!」

「ま、まぁな、結果は知っての通りだったが」

「ううん、でも、今の篠ノ之さん、なんだか一皮むけたっていうか、別人みたい!」

「そうか? でも、確かにそうなのかもな」

 

 と、また質問攻めな箒を教室に残して食堂へ。

 なんだかリボンの色が違う人も入り乱れている気がするが、そんな事まで気にしていたら胃がいくつあってもたりない。弱った胃にやさしいきつねうどんの食券を買うと、トレーを持ってカウンターへ。

 その間に空席に目星を付けてからあっという間にできたうどんを受け取ると、見ておいた席に着いた。

 

 

「はああああああ……」

 

 魂の抜けるようなため息まで出てしまうが、しかたなかろう。

 

 

「お隣よろしくて?」

「どーぞー」

「お疲れのようですわね。篠ノ之さんの事ですの?」

「そんなトコですよ」

 

 腑抜けた返事をしても怒らなくなったオルコットさん。どうやらノブレス・オブリージュを学んだらしい。なんとなく持てるものの余裕が出ているし、そのほうがかっこいい。

 

 

「織斑さん、週明けにはわたくしとの対戦ですが、ISの実機練習などはしていらっしゃいますの?」

「練習機が取れなくて全く。織斑先生に頼み込んでなんとか土曜日に3時間取れただけかな。面目無い」

「それは、仕方ありませんわ。だからと言って手加減は致しませんが」

「いや、そんなんで手加減されたときにはそんなの俺のメンツが立たないよ。容赦無くボコボコにしてくれ」

 

 箒に(かま)けていただけでなく、もちろんオルコットさんとの対戦に備えて動いてもいた。だが、限られた練習機を数百人の生徒が奪い合うのだ。なんなら数ヶ月前から予約までして。そこにぽっと出の俺が入り込む余地などあるわけなく、なんとか織斑先生に頼み込んで教官機を貸してもらえる事になった。

 けど、そもそもノリと勢いで動かせるものでもないし、本当に基礎の基礎だけで終わりそうな気がする。

 そのまま食事を終えてオルコットさんと教室に戻ると、今度はオルコットさんに手を出したと噂される。ああ、もういい加減にしてくれ。

 なんだ、俺は一人でいないといけないのか?

 隣でオルコットさんが悲しそうな顔をしている気がした。

 

 

 その夜、一夏が部屋にいないことを確認した上で1025号室の扉を叩くものがいた。

 金髪の髪は手入れが行き届き、身を包むナイトウェアも上質な生地でできている。1025の住人は、少し開けたドアの隙間から来客を見ると、一瞬驚いてから迎え入れた。

 

 

「それで、一夏の事とはなんのようだ?」

「織斑さん、お疲れのようですわ」

「ああ、朝にはランニング、昼はついていこうと必死だ。部屋に戻れば剣を振り、寝る前にはまた復習と予習をしている」

「まぁ、そんなに。ですが、わたくしが言いたいのは彼の努力ではありませんわ」

「どういうことだ」

「織斑さんの立場上、周りに噂されるのは仕方ないと思います。ですが、度が過ぎると思いませんか」

 

 1025の住人、箒は記憶を遡る。というか、遡るまでもなかった。初日から奇異の目に晒され、二日目も同様。昨日は自分が一夏に告白する瞬間を大勢に見られている。そして、昨日の今日だ。昼にオルコットさんと戻ってきた彼を真っ先に突き刺した言葉はもちろん耳に入っていた。

 

 

「昼休み、わたくしと織斑さんが一緒に教室に入ったとき、なんて下卑た言葉が織斑さんを襲ったのでしょう。彼は小さな声で『一人でいないといけないのか』と呟いていましたわ」

「周りに心許せる友達はいない、か」

「彼も男性ですし、篠ノ之さんも幾ら古くからのご友人とはいえ、言えないこともあるでしょう」

「確かに、周りも男に免疫のない、というか誘ってさえいる者もいる始末」

「それに反応すれば残酷な言葉が襲いますわ」

 

 どちらに転んでも地獄というわけだ。

 目をそらせば男の子だねー、と言われ、釘付けになる……ことはなかったが、そのときは更に肩身が狭くなるだろうことは簡単に想像できた。

 珍しいもの、唯一の男、青春の希望。様々な見方があるだろう。だが、1人分ならまだしも、数百人のソレは15歳の思春期男子には重すぎた。

 

 

「策を練らないとな」

「ええ、幾らなんでも目に余ります」

「だが、私達が動けば」

「確かに、また騒ぎを大きくするだけ」

 

 困った…… と言わんばかりに重い沈黙が部屋を包み込んだ。




次は19日
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