織斑一夏[感性 A+]   作:卯月ゆう

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1巻の半分終わるのに7話もかかってるんですけど。
まぁ、今作はわりとテンポよく短めにまとめてるんで話数は嵩んでますね。


その7

「雪片……」

 

 俺の記憶にある雪片とは姿も形も異なるが、漂う雰囲気だけは似ている。只者ではない、寄らば切る、そんな殺気めいた気迫。

 軽く振り下ろせばその剣は軽く、ヒュンと風を切った。

 

「これからが本番、ということですわね」

「ああ、ブリュンヒルデから重々しいプレッシャーを感じるからな。勝つ…… とは言わずとも、追い詰めてやる!」

「そこは高らかに勝利を宣言して欲しかったですわ……」

 

 ぐっと足元に力を込めて、跳躍。

 というより、飛び出す? うーん、なんというべきか。何はともあれ、オルコットさんが目を見開くほどのスピードで一気に距離を詰めると通りすがりに一薙。浅い!

 それでも初めてオルコットさんにダメージを入れたのだ。100倍乗ってる経験者に手が届いたのだから、更に燃えてくる。ワンチャンあるだろこれ!

 

 

「機体のスペックが上がって……!」

「避けられる! 行けるッ!」

 

 エネルギーを取り込み再点火。口ではそう言うが、吹き出す炎に溢れ出たエネルギーを吹き付けてやるのだ。

 これでケリを付ける!

 

 

「――ッ!!!」

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

 吠えろブースタ! 唸れ雪片! これが俺の、本気の一撃だ! なんて、アニメの主人公を気取るのは頭の中だけにしつつも、実際に吠えてるのは事実。

 視界の真ん中に焦った顔のオルコットさんを捉え、端から端までを雪片で結ぶ。あれ? 雪片の刃って青白かったか?

 

 

『試合終了! 両者シールドエネルギー残量ゼロ!』

 

 そんなアナウンスが耳に届いて、俺はそのまま壁にキス。止まり方教えてもらってねぇもん。そもそも止めるためのエネルギーすら切れてたがな。

 

 

「ああ、これで俺は……」

「織斑さんっ!」

 

 青い空と光る縦ロールを見て、俺の意識はすっ飛んだ。

 ところ変わって保健室。まぁ、連日の疲労でヘロヘロだった身体に気絶クラスの衝撃を与えれば簡単に意識を手放すのは当たり前。

 保健室の先生(養護教諭ではなく、ガチの医師だった)に『過労ですね。若いから限界超えても気付かなかったりするから、気をつけるんだよ』と診断されたのは今さっき。その今は火曜日の午後1時半。ほぼ24時間睡眠だったようだ。やべぇよ、コレ。

 体を起こそうと力を入れるとまず腹筋が悲鳴を上げ、たまらず腕をついたら見事に連鎖反応。そして再びベッドへ。ははっ、起きられねぇ。

 

 

「ようやく起きたか、馬鹿者」

「怪我人にかける言葉がそれかよ」

「自爆特攻しかけるような愚弟にはこれで十分だ」

「そんなつもりは無かったんだけどな」

 

 日も暮れた頃に千冬姉がやってきた。

 開口一番で罵倒してくるあたり、今日もお姉様は絶好調。どうやら、昨日はオルコットさんが慌てて俺を担ぎ込んでくれたらしい。これはお礼を考えないと。

 最後になにがあったのかを聞けば、俺の機体『白式』と俺の相性は抜群らしく、ワンオフアビリティという特殊能力的な物が発動したらしい。その特殊能力が曲者で、自分のシールドエネルギーを食い散らかしながら、雪片を当てた対象のシールドを無視して絶対防御を発動させ、エネルギーをゴリゴリ削る超ピーキーなもの。

 千冬姉の現役時代と同じ能力だそうで、千冬姉はこのワンオフ(長えから省略)とこの前教えてもらった瞬時加速のヒットアンドアウェイ戦法で無敗だったそうだ。

 

 

「なるほど…… それで自分のシールドエネルギーを使い切るのと同時にブルーティアーズのシールドエネルギーも雪片で吹き飛ばしたと」

「そういうことだ。機体に慣れてないとはいえ、昨日のお前は10必要なところに100注ぎ込んだようなものだからな。燃費が悪くて当然だな」

「初心者に手厳しい。もっと褒めてくれてもいいのよ?」

「調子に乗るな」

 

 ばすっ、と今日は出席簿では無いもので頭を叩かれた。それも割と重量級のなにかで。

 首まで響いた衝撃に辟易しながら千冬姉を見ると、ドスンと音を立てて枕元に電話帳が置かれた。どうやら俺はあれに殴られたらしい。

 

 

「これが専用機を持つにあたってのルールブックだ。熟読しておけ」

「うげぇ、分厚い……」

「それが持つものの義務ということだ。オルコットにちゃんと礼を言っておけよ」

 

 それだけいうと、千冬姉は保健の先生と少し話してから出ていった。

 翌日の目覚めは最高。涎か汗か、たぶん前者で少しシワシワになったルールブックをカバンに放り込んでから自室に寄って、教科書を詰め込むといざ教室に向かった。

 出遅れ気味に教室に入ると、一斉に視線が突き刺さる。思わず顔をしかめたのは悪くない。

 

 

「一夏!」

「箒、オルコットさんも、心配かけて悪かった。それに、ありがとう」

「千冬さんから、筋肉痛で唸ってるだけだとは聞いていたが」

 

 それでも心配したんだぞ、と続きそうな気がしたが、そういう目で見られるだけだった。

 そう、オルコットさん、彼女は……

 

 

「織斑さん、いえ、一夏さん!」

「は、はいっ!?」

 

 名前呼びっ!?

 あのオルコットさんが? あのとき頭でも打ったんじゃないだろうか。

 大またでこちらに向かってくると、俺の手を取り胸に押し当て…… 柔らか…… じゃなくて何をしていらっしゃるのですかぁ!?

 

 

「このセシリア、一夏さんをお慕い申し上げますわ。先日見た闘志、日頃のたゆまぬ努力。そして芸術を尊ぶ感性。いきなりお付き合いをとは申しません。まずは友人から、始めませんこと?」

「……??」

「……一夏、ちゃんと返事をせんか!」

 

 いやね、箒さん。小声で怒鳴るなんて器用な真似されるのは結構なんですが、わたくしオルコットさんに惚れられるような事をした覚えがまるでございませんのよ?

 それに、貴女のその態度を見るに、裏で協定でも結びました? ねぇ?

 

 

「オルコットさん、気も――」

「セシリアと、呼んでくださいな」

「セシリア、気持ちは嬉しい。けど、俺にはまだちゃんと責任を果たさないといけない相手がいるんだ。ああ、決して卑しい意味じゃないぞ! 告白してくれたのに、ちゃんと答えてない子がいる。その子にちゃんと答えるまで恋人は、ごめん。けど、友達から、なんて。もう一週間前から友達じゃないか」

 

 一瞬クラスが湧いたのがわかったから釘を刺す。そしてフォロー。オルコットさん……じゃなくて、セシリアは少なくとも昼に同じテーブルで飯食った頃からは嫌なクラスメートから友達にランクアップ済みだ。

 夜にサイダーを飲む俗っぽさもあるしな。

 

 

「やりましたわ、箒さん!」

「予想通りだな」

「やっぱり、お前ら謀ったな」

「謀ったとは失礼な。私はセシリアから相談を受けたから、正々堂々、一夏を巡って争うライバルになろうと受け入れただけだ」

「本人に同意無しでか」

「同意なら今しただろう。問題ない。あとはお前が泣かせた女の子をもう一度泣かせれば、私とセシリアの勝負だ」

 

 もう一度泣かせるって、振ること確定かよ。けどまぁ、こうして後腐れなくおわ――

 

 

「はいはーい、青春するのもいいですけど、SHR始めますよー」

「はぁ……」

「ふふっ、織斑くん。モテる男は辛いですねぇ」

「山田先生、癒やしてもらえます?」

「ええっ! そんな、いまオルコットさんを、わわっ、で、でも織斑くんとなら……」

 

 そこですかさず出席簿アタック。もちろん山田先生にも。教師同士でも容赦ねぇな織斑センセ。

 

 

「んんっ、山田くん?」

「は、はいっ、えと、えーっと、そうでふ!」

 

 クスクスっと笑いが漏れて、また慌てる山田先生。織斑先生はうつむいてこめかみを揉んでいる。

 さてまぁ、こうして後腐れなく終われた…… いや、懸念事項が残ってる。先日のセシリアとの勝負は引き分けた。クラス代表はどうなったんだ? 数日前とは別人な彼女が引き受けた?

 

 

「織斑くんも戻ってきましたし、これでクラス代表も任せられますね」

 

 そして、山田先生は俺に絶望を投げつけて柔らかい笑みを浮かべた。

 いまはその笑みが三途の川の船頭に見えますよ、ええ。




次は23日
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