織斑一夏[感性 A+]   作:卯月ゆう

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その9

「そうか……」

 

 箒が買い置きしているお茶を勝手に淹れ、持ってきたお菓子を開け始めた鈴に魚偏の漢字がひたすら書かれた湯呑を差し出すと、向かいに腰を落ち着ける。

 

「ありがと。それで、昼間のアレについて説明、してくれる?」

「相変わらず回りくどいのは無しってか」

「あんだけ意味深なこと言われれば嫌でも気になるっての。どういう意味だったの?」

 

 いずれ説明を、とは思っていたが、うーん。箒やセシリアも一緒にいた方が何かと都合がいい気がするな。

 

 

「そうだな。箒が帰ってくるまで待ってもいいか? まぁ、ざっくり言っちまえばお前の告白のせい、だな」

「アタシのせい? まさか、あの二人に告られたんじゃないでしょうね!?」

「そのまさかだ。それを引き伸ばす口実に使った」

「口実って…… 一夏、アンタいつか刺殺されるわよ?」

 

 実に耳が痛い。このツインテチャイナ娘はやたらと勘が鋭いし、言いたいことは言うタイプだから、こんな俺が明け透けに言わなかったことまであっという間に踏み込んできた。

 

 

「ねぇ、ちょっと待って。いまさ、箒が『帰ってくるまで待って』って言ったわよね。どういう意味?」

「どういうも何も、言葉通り。箒と同室なんだよ。それに、寮長は千冬姉だぜ? お泊まり会はまた今度だな」

「なによそれ! 男女七歳にして同衾せず、でしょうが!」

「箒みたいなこと言うなよ。俺だって辛いんだぜ?」

 

 隙あらば女の子は見せつけてくるし、箒もそれでピリピリするし、そう簡単に"処理"もできない。

 男の子的にね? 拷問みたいなもんですよ。生殺しですよ生殺し。ISの実技なんて始まってみなさいよ、あんなのスク水ですよ? 頭の中で素数数えてたら最近は641まで数えられるようになっちまうし。

 

 

「ねぇ、一夏、アタシでよければ、その……」

「…………」

 

 やべぇ、ぶっちゃけ過ぎた。これは、ウス=異本的展開が……!

 いやいや、アカンやろ常識的に。(なぜかエセ関西弁)第一に、ここは千冬姉の庭、第二に俺らまだ高校生! いや、高校生と合法的にできるのは高校生の内だけ、と言うことはこれは一世一代の大チャンスなのでは。とここまで考えを巡らせること0.1秒。

 少しばかり潤んだ目で見上げてくる(これだけでかなりクる)鈴の両肩に手を置き、お互いの目を覚ます一撃を入れることにした。

 

 

「いや、もう少し大きいほうが俺は嬉しいから」

「ッ……! アンタぁ、歯ァ食いしばりなさい!」

 

 殴られた。

 グーで。

 まぁ、それでブチ切れた鈴は部屋を出てったし、入れ替わりに箒も帰ってきてベッドの上で伸びる俺と、鈴が開け放ったドアを交互に見てから、ため息を吐いた。

 

 

「はぁ、お前はバカか?」

 

 ここまで一連の流れを正直にお話した後の、箒大先生の第一声。なんか千冬姉に似てきたぞ。

 ムラムラします。と宣言するも同じことなので、男の尊厳的なものが音を立てて崩壊しているが箒はお構いなし。

 けれど、今までの箒と決定的に違うのは「お前の心が弱いのだ」的な根性論が一切出てこなかった事だ。俺もまさか箒の口から思春期男子なら、ある程度持て余すのは仕方のない事だ、なんてセリフが出てくるなんて、明日は日本刀でも降るのだろうか?

 

 

「そ、その、どうしても始末をしたいときは言ってくれ。私も席を外すなり配慮はしよう」

「箒さん…… すまねぇ、すまねぇなぁ……!」

「なんだ、その時代劇の小作農みたいなセリフは!」

 

 決して他人に迷惑はかけません、と言う誓いを立てると箒も(多少顔を赤くしつつ)仕方ないのだ、と半ば自分に言い聞かせるようにしてからお互い眠りについ…… た訳がない。

 昼間にあんな話してみろ、互いに変な意識しちゃってそわそわして寝られねぇよ。他人に迷惑はかけません、も誓いを立てたからしないし、そもそも他人の前でできるかっての。

 今までで一番げっそりして迎えた翌日。廊下に貼り出された紙には『クラス対抗戦』の告知。まさかまさか、2組の代表は鈴に成り代わったようで、1回戦で俺と当たることになったようだ。

 昨日、逆鱗に大剣で溜め斬り叩き込んでしまった鈴に昼休みに謝りに行ったところ、華麗にスルーされちまい(というかマジおこだ)、それは日を改めても同じこと。

 いくら胸と身長の事は鈴のタブーとはいえ、キレ過ぎじゃないだろうか、なんて責任転嫁することすら考えだした頃、助け舟は思わぬ場所からやってきた。

 

 

「一夏さん、鈴さんに何をしましたの?」

「何をって、何もしてないよ。自己防衛、互いに不幸せになりたくないしな」

「はぁ、これは重症ですわ。一夏さん、日本では好きな者同士、お互いに手紙をしたためて投げつけると聞きましたわ。お互いに避けていないで、無理にでも一歩近づいてみてはいかがですの?」

 

 鈴に何を聞いたかは知らんが、確かに、セシリアの言うことを実行する価値はある。

 投げつける、と言うのは若干違うから、多少彼女の知識も訂正しつつ、手紙を投げることにしよう。

 ならば即実行。昼休みの食堂でお腹に優しいチーズリゾットを食べながら鈴の様子を伺う。

 どうやらクラスメートと一緒に食事をしているようだが、気の抜けた今がチャンス。

 胸ポケットから小さく畳んだ手紙と、スリングショット(所謂パチンコだ)を取り出すとよく狙って引き絞り、手を離す。head shot! ヘブっ、とか情けない声を上げた鈴は狙い通りに手紙を広げて読み始めたので、残ったリゾットをかき込んで返却口へ。

 手紙の内容は、ざっくり言っちまえば『クラス対抗戦で決着つけようぜ』って感じ。もっと謙った文にはした。

 

 それから時間は経って対抗戦当日。

 アリーナのど真ん中、俺と鈴は向かい合って睨み合って。うひゃぁ、怖いぞー。

 

 

「ねぇ、一夏。冥土の土産に教えてあげる。ISのシールドバリアって完璧じゃないの。それは絶対防御も同じこと。耐えられる以上の衝撃を与えれば簡単に崩れるのよ」

「そうか。なら喰らわないようにしないとな」

「チッ、いつまでその調子でいられるかしら!」

 

 パーンと高らかに試合開始の合図が鳴れば、予想通りに鈴は衝撃砲をぶっ放してくる。

 けれど、それも完璧じゃない。目線を追えばある程度の予測は可能だし、現に初弾はそれで回避ができた。あとは隙を見て千冬姉仕込みの瞬時加速と、だいぶ使い方のわかってきたワンオフ、零落白夜でワンパンだ。

 時までは耐えるべし。そう言い聞かせながら時折攻めるブラフを噛ましつつ鈴を苛立たせていく。

 

 

「一夏ぁ! アンタなんなのよそれは! いい加減に攻めてきたらどうなの!」

「んじゃ、お言葉通りにッ!」

 

 ポン、と軽い音と、その音に似合わぬ加速力。千冬姉曰く、音のエネルギーすら使い尽くして最大限の加速力を得られるそうで、そう考えると静音化(従来比-125% *当社比)に成功したとはいえ、まだまだ甘っちょろいということだろう。

 一瞬で近づいた鈴に刃を突き立てて一瞬だけ零落白夜を発動、ゴリッとエネルギーを削り込んだが、ワンパンとはいかなかった。それでも鈴の動揺を誘うには十二分な効果があったようだ。

 

 

「はぁっ!? どんな魔法使ったのよ!」

「魔法じゃない、テクニックさ」

「ッ!!! スカしちゃってぇ!」

 

 やべぇ、さらに怒らせちまった。

 こういう時は気取っとくのがカッコいいんじゃねぇのかよ弾!

 けれど、弾に文句垂れるのも長くは続かなかった。

 爆音を立ててアリーナのど真ん中に何か降ってきたんだから。




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