「捜査打ち切り・・・ですか?」
「ああ、今回ばかりは仕方がない。なんせ厚労大臣直々のプロジェクトに関わる案件だからな。我が国の国益にとっても悪い話ではない」
白神の上司、柳瀬は淡々と捜査中止を言い渡した。もう定年間近で、ただ安泰に過ごしたいのだろう。もともと自分の保身にしか興味がなく、責任回避ばかりを常に考えている男だった。白神にとっては上司は無能な方が動きやすかったので、今までは引きずり下ろすことはしてこなかった。
「もう知っているのですか?往見霧香失踪に関わるプロジェクトを」
「君が知る必要はないよ。まあ、これでわざわざ捜査して目的を探る必要もなくなったというわけだ。下手に続けていたら、協力者を失うことだってあるからな。何か言いたいことはあるかね?」
「我々警察庁が厚労省の圧力に屈しろというのですか?」
「人聞きの悪いことを言うなよ。これは内閣そのものの意思でもあるんだ。『政治判断』だよ。今後の捜査の為には学園都市とも円滑にやっていく必要があることぐらい君にだってわかるだろ」
まさかここまであからさまな形で圧力が来るとは・・・そういえば今の内閣は学園都市に追従的だった。今に始まったことではないが現在の内閣は今まで発足した内閣の中でもそれが顕著であった。
「わかりました。ただ捜査を中止するにあたって少し時間をください。協力者の安全を確保しておきたいのです。それに関連してアイテムへの依頼が中止になるよう統括理事会へのリークもしておきたいのですが・・・」
「わかった。但し全て5日以内で済ませろ。政務官への報告の際には全て終わらせておきたいんでね」
「・・・・・・」
「ということだケイ、タイムリミットは後5日だ」
「マジで?別に俺はこのまま中止でも良かったのに・・・」
今までの話の概要をケイに話した白神は、捜査続行の意思を伝えた。このまま何もわからずに引き下がるわけにはいかない。
「アイテムへの依頼はどうにか中止に追い込めたんだ。いいから早く往見陵と合流しろ。往見霧香を確保することが最優先事項だ」
死んだ刑事の子飼いのスキルアウトの証言、あれは間違いなく霧香が重要な情報を持っていたことを意味してたものだ。おそらく彼女は核心に近い部分まで知っているはず。
「わかったよ。いつになく無茶ぶりだな」
電話が切れたあとケイは陵に連絡を取った。陵は第7学区のスキルアウトの拠点に潜伏しており、浜面と一緒にいるらしい。幸いにも同じ学区内だ。場所を確認した後すぐに羽原のアパートを出て行った。
陵は今までの戦闘での精神的な混乱を、ようやく静めたところだった。そこにケイの電話で自分たちが警察の上層部に完全に見捨てられたことを知ってしまった。本当にこのまま終わってしまうのではないか・・・自分たちの状況がだんだん追いつめられているのが肌で感じ取れる。
連絡を取って1時間もしないうちにケイは陵の元に現れた。
「やあ、ケイ。君も無事だったんだな」
「再会を喜んでる暇なんてないよ。もう時間がない」
「おい、あんたらこれ見ろって」
一言言葉交したところで、急に焦った様子で浜面が2人に携帯を見せてきた。学園都市内の公式のネットニュースだ。
「速報です。先日、研究施設に潜入、襲撃した人物がアンチスキルに特定されました。容疑者は往見陵、学園都市に通ってた行方不明の女子生徒、往見霧香の保護者です。現在アンチスキルはこの男を指名手配し、公開捜査をしています。またこの人物の情報提供は・・・」
陵は思わず頭を抱えた。これではもう学園都市の外へ脱出することが不可能になる。仮に娘を見つけたところで・・・
「アンチスキルだ!!大人しく両手を頭の上に組んで地面に伏せろ!!」
陵の絶望に更に追い打ちをかけるようなタイミングで、アンチスキルが現れた。陵だけではない。浜面を含めたスキルアウト全員が慌てふためいている。
「誰かチクったか。なんだよ白神の奴ダメダメ過ぎんだろ」
ケイは手元にあった催涙弾をありったけ撃ち込み、陵と浜面を含めたスキルアウトとともに、ワンボックスカーに乗り込んだ。
「さっさと出せさっさと!!」
道路に即座に出ると、車に搭載した光学迷彩でアンチスキルをまき、ただひたすら走り続けた。
どれくらい走っただろうか・・・人気のない場所に車を止め、ケイたちは今後の方針について車内で話し合っていた。ケイは自分たちの置かれている状況をスキルアウトにも簡単に説明した。
「今上に見放されてる状況だ。アンチスキルに通報したのはおそらく他の刑事の息がかかったスキルアウトだろうな」
「じゃあこれからどうすんだよ!!何の支援も受けられない状況で何ができるっていうんだよ!!」
浜面がケイの話を聞いてそう怒鳴っていた。他のメンバーもおそらく同じ心境だろう。陵はアンチスキルに指名手配までされているだけでなく、浜面を含めたスキルアウトまでも共犯になってしまう。
「とにかく5日だ。それまでにリストに上がってる連中の1人を拉致して情報を吐かせれば何とかなるかもしれない。5日過ぎるまではおっさん以外は俺達の情報まで洩れることはないだろうからな」
見捨てたのは今のところは往見陵だけだ。ケイは施設侵入の際協力した警備員に連絡をとったところ、今のところは捜査の手は伸びていないらしい。これからわかるように協力者までは上も切り捨ててはいないことがわかる。
「最も情報を持っていそうな奴に絞ろう。おそらく厚労省のつながりが深いこいつが一番可能性が高いな」
名前は透野俊介、陵と同じくらいの年齢の研究者だ。だが誘拐するのに致命的な問題があった。
「まずいな・・・こいつの活動記録を見るに平日は自宅付近の研究施設勤務か。この区域での拉致はかなり難しいな・・・監視カメラの死角となる場所もほとんどないし・・・」
「じゃあもうそいつの研究施設そのものを襲えば・・・」
浜面の提案をケイは一蹴する。
「そこに娘さんがいるとは限らないだろうが。仮にそうだとして今の状態で施設に侵入するのは無理だ。警備員と接触して買収するにしたって時間が厳しい」
完全にお手上げの状況下の中、陵はこの男の家族構成をぼんやりと見ていた。妻に子ども2人、上は学園都市内の高校に通う女子高生、ちょうど霧香と同じ年だ。そのとき、天啓のように陵に策が浮かんだ。1人の父親として決してあるまじき行為、だが1人の父親であればこその行いに陵はこれから手を染めることとなる。
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