とある能力の代償   作:きんぴら大根

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16話 猟犬部隊

「おい、白神。猟犬部隊が動いてるって連絡がきたぞ」

 

唐崎が慌てた様子で白神に告げた。

 

まずいな、このタイミングで猟犬部隊とは。十中八九今回の件と見て間違いない。学園都市が厚労省を切ったというのか?それとも往見霧香を欲しくてたまらない過激派の一部か?いずれにせよこのままだと我々は最後の手掛かりまで失うこととなる。

 

「取り合えずケイと連絡を取る」

 

あいつはこのことを知っているのだろうか?どっちにしろ早く出てくれ・・・

 

「ケイ、今猟犬部隊の動きがあった。往見霧香の場所は」

 

「うっせーな、今そこまで向かってるところだよ。その情報も知ってる。いつも遅いんだよアンタは。とにかく、場所は教えるから期待してないけど増援よこせ」

 

「なるべく努力はする。それと厚労省に揺さぶりを掛ける。今までのやり取りは記録してるんだろ?それもこっちに送れ」

 

「こんなときに・・・ったくわかったよ。今度こそ役に立てよ、クソ上司」

 

悪態をつかれ、一方的に電話を切られる。ケイがいらつくのは無理もない。このところの自身の失態続きであることには変わりないのだから。

白神は自分自身の独自の人脈を駆使することにした。警察庁のかつての後輩、正直言って使いたくない手ではあったが・・・

 

「久しぶりですね、先輩」

 

「詳しい事情を話してる時間はない、GPSコードを送るから今すぐアンチスキルを連れて第10学区の研究施設に行ってくれ、当然武装してだ」

 

「ずいぶんと唐突なものですね、でもこっちだって状況を知らないことには動くにも動けませんよ?」

 

「1人の重要参考人が猟犬部隊に消されようとしている。俺の部下が向かってるがあの人数相手じゃきつい。少なくともお前の信条に反することじゃないはずだ」

 

「・・・わかりました、でもそれ相応の見返りは要求しますよ。それにちゃんと後処理の方はきっちりしておいてください、こっちだって首が飛ぶだけじゃ済みませんから」

 

「そこはわかってる、じゃあ後は頼む」

 

電話を切った後ひどく頭が痛くなった。大方ろくでもないものを要求されるに決まってる。金が欲しいだけの単純な奴ならまだ良かった。こちらの情報網を丸ごと取られたことだってある。理屈で動いているだけにやりにくい相手だ。それも昔の後輩となればなおさら・・・

 

「はあ・・・これじゃあ俺もどうなるかな」

 

この任務をしくじれば、おそらく今の立場を追われるのはほぼ間違いない。ここのところ情報漏れが非常に深刻なことになっている。こちらにもネズミがいるのは間違いないが・・・

 

(今はまだ尚早か・・・)

 

厚労省にとっても往見霧香を渡したくはないだろう、今の状況を知ればこちらと協力することにも躊躇することはないはずだ。

 

(とにかく、ケイの奮闘を祈るしかないな)

 

こちらもただ手をこまねいてる訳にはいかない。部下の成功を祈り、その先にある結果のために白神は動く。

 

 

 

 

 

 

木原数多は高揚していた。まさかこんなに面白いモルモットが存在していたとは。最近暗部の動きがきな臭かったので、ずっと探りを入れていた。それが厚労省と日本の警察のショバ争いだと気付くのにそう時間は掛らなかった。

正直言って役人連中の縄張り争いなんぞどうだっていい。だが往見霧香という女子高生が有している能力は、木原の血を疼かせるには十分だった。あんな興味深いものを、役人の下らない政治の道具にされてたまるか!この街の能力者は全て我々のモルモットだ、あんな連中には決して渡さない!

 

「おい、お前ら絶対にサンプルは殺すんじゃねえぞ。相手はただの女子高生のガキだ。そう手こずることはねえ。後は皆殺しにしろ。役人連中に遠慮する必要なんざさらさらねえ!全員まとめてぶち殺せ!」

 

何台も連なったワンボックスカーが往見霧香のいる研究施設に到着した。何も知らない警備員がその葬列に近寄る。

 

「おい、ここは私有地だ。ちゃんと許可証を見せ」

 

警備員の頭に銃弾が浴びせられた。

 

 

 

 

 

「くそ、もう始まってるじゃねえかよ!」

 

着いた頃には多くの警備員の死体があちらこちらに転がっていた。相当強引に侵入した為か、壁が一部崩壊している。

 

「おい、一番往見霧香に近いルートはどこだ?あんたなら知ってんだろ」

 

ケイが透野俊介に問いただす。俊介もこの状況を全く予想していなかったのだろう。狼狽しながらも猟犬部隊に見つからないようにひっそりと、ケイ達を裏口の機材の搬入口に案内した。

 

「あんたには最後まで付き合ってもらうぞ、お互い娘の命がかかってるんだからな」

 

陵がそう言うと拳銃を俊介に向けた。

 

「ああ、わかってる。だからそれをこっちに向けないでくれ」

 

ケイは浜面達スキルアウトに、一端退いて車で待機しておくよう命じた。浜面達もここまでの命のリスクを背負ってまでケイと一緒にいる気はないだろう。

 

「言われなくてもそうするわ、じゃあな」

 

浜面達との別れを合図に、ケイ達は施設への侵入を開始した。

 

 

 

 

 

 

銃撃と悲鳴が木霊する中、ケイ達は往見霧香が監禁されている部屋へ向かっていた。セキュリティは猟犬部隊が破壊したのか、もう半分も機能していない。だがまだ機能しているものもあり、何よりも道案内として透野俊介の役割は非常に重要なものだ。

 

(まずいな・・・往見霧香のところへはまだ辿り着けそうだが、時間的に考えてどうしたって猟犬部隊と鉢合わせになる)

 

正面切ってご挨拶なんてことになれば、一瞬で蜂の巣にされるのは目に見えている。

向こうはこっちと違い強引にセキュリティを破ってきてるから、こっちの方が早いはずだ。だから出来るだけ早く往見霧香を確保しなければ・・・

 

「着いた、ここの部屋にいるはずだ。もういいだろう私は・・・だから早く娘を」

 

「『私の』娘を確認してからだ」

 

透野俊介の言葉を陵は一蹴した。

 

自動ドアのロックが解除される。思ったよりもずっときれいな部屋だった。そして簡素なベットの片隅に、往見霧香が座っていた。

 

「霧香・・・なのか?」

 

「え?嘘・・・お父さん?」

 

陵が娘の存在を確かめるように手を伸ばした。すると父親の手が触れるよりも早く霧香は陵の懐に飛び込んだ。

 

「何で来ちゃったのかなあ・・・バカじゃないの?」

 

両手で陵の服を掴んで顔をうずめると静かに泣いた。陵はそっと娘を抱きしめた。

 

「遅くなっちゃったな・・・ごめん」

 

だが2人の再会を喜ぶ時間は余りにも短い。猟犬部隊もすぐにこちらにやってくる。ケイは持参していた小型爆弾を取りだし、今まで通ったところと反対の通路に仕掛けて急いで部屋から出るよう皆を急がせる。

 

「もうすぐ連中がこちらに着く。とっとと出るぞ」

 

急いで廊下に出るがもう敵が近くに迫っている。ケイは壁に耳を当てて敵がせまっている方向を探った。

 

(あーあ、これじゃあついさっき通った搬入口への通路にもいやがるな・・・)

 

「ここにもトラップを仕掛ける。みんな離れてろ」

 

ケイの指示で廊下の曲がり角に皆待機し、敵を待ち伏せしていた。ケイが仕掛けたのは赤外線と超音波によるセンサで起爆する爆弾だ。元々人感センサとして業務用に開発されたものを改良したものだ。

 

扉の向こうで銃声が聞こえる。ロックを無理やり壊したのだろう。そして足音が聞こえてくる間もなくケイの仕掛けたトラップが爆発し、爆弾付近の通路には大量の血液と肉片が飛散した。比較的離れたところにいた猟犬部隊の隊員も重傷を負い、歩くことすらままならない状態だ。

 

「よし、行くぞ」

 

廊下に飛び散った惨状に目をくれることもなく、ケイは瀕死の敵を打ち殺しながら前進する。霧香は、自分の父親も死んだ人間など全く眼中にないといった様子で、辺りを確認しているところを見て少し恐怖した。虫も殺せないような父がいったいどこで変わってしまったのだろう。それに顔色も悪く、さっき見せた表情と一変して目つきが鋭くなっている。

 

そんな霧香の思考はすぐに中断された。突如銃声が鳴り響き、陵が霧香に覆いかぶさって血を流していたのだ。一瞬のことで頭が全く追いつかない。

 

「おいおい連れねえじゃねえか、無視すんなよ。なあ平崎圭太君よお?」

 

死体が重なった場所から銃口が覗いていた。死体をどけたその男は白衣を身に着け、顔に入った刺青に似つかわしい凶悪な風貌を持っていた。学園都市のマッドサイエンティスト集団、木原一族の1人、木原数多だ。木原は爆発の寸前、部下を盾にして爆風を免れていた。

 

「感動の再会じゃねえか、なあ坊主?」

 

そうケイに木原が問いかける。

 

学園都市の本質を知る2人が今、鏡合わせのように向き合っていた。

 

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