とある能力の代償   作:きんぴら大根

19 / 22
17話 遊び

「お父さん?」

 

霧香は眼の前が真っ白になり、血を流す父をただ見ていることしか出来なかった。体も硬直して動くことが出来ず、ただ茫然としている霧香に、ケイは大声で叫んだ。

 

「さっさと走れ!透野、早くこいつを連れてけ!俺に殺されたいのか!」

 

「おいおい無視すんじゃねえよ」

 

木原が霧香達に銃口を向けようとすると、ケイは拳銃を撃ちながら一気に前に詰める。

 

「は、面白れえじゃねえか、クソガキィ!!」

 

向かってくるケイに対して、木原は部下の死体を盾にして、その死体ごとケイにタックルを仕掛けた。

ケイの体格では当然受けきることが出来ない。突き飛ばされた瞬間、ケイはわざと後ろに跳び、体への衝撃を緩和させるとともに、死体の下敷きにならないよう回避する。

それでも体勢は崩れて後ろに倒れ込んでしまう。このときケイが木原の姿を一瞬見逃してしまったことは失態であった。

そのわずかな隙を突いて、木原は恐るべき身体能力でケイの方へ足を加速させ、目の前に迫る。今にも拳を振り下ろさんとする木原。もう拳銃を向ける時間もない。

だがケイは手で防ぐこともせず、銃口も動かさずに拳銃の引き金を引いた。狙いは木原に撃つことではない。『薬莢』だ。

薬莢は非常に高温な状態で排出される。それが顔、ましてや目に当たるとなるとその苦痛を無視することは出来ない。当然木原はそれを顔面に受け、刺青の入ったその顔が苦痛に歪む。

銃口を向け、今度こそ木原の頭を打ち抜こうとした。距離はわずか数センチ、木原も痛みで表情が歪んだままだ、やれる!

 

これが・・・『木原数多』でなければそのまま殺されていただろう。ケイは決して手は抜かなかった。自らの生存のため、合理性だけを徹底的に極めた戦い方。そのためならどんな汚い手段でも躊躇しない、研ぎ澄まされた『悪意』。

だが木原は違った。その真逆とも言ってよい。木原にとっては『悪意』を満たすための戦いなのだ。相手の思考を読み、それを逆手にいかに嬲り殺して楽しめるか。戦いとは木原数多にとって、その脳の欲求を満たすプロセスでしかない。

手段としての悪意と欲求としての悪意。どちらが上かどうかなど語るべくもなかった。

木原は既に自分の小指を引き金とトリガーガードの間に指を入れていた。引き金が動かなくなった直後に、ケイに容赦ないパウンドが浴びせられる。

脳震盪を起こす前に、何とか自分の後頭部に手を入れるケイだがもう戦いと呼べる状況ではなかった。うずくまるケイにボディ、顔面に容赦なく拳が振り下ろされた。木原はただ無茶苦茶に殴っているように見えたが、ケイが決して反撃できないよう綿密に痛みつけていった。

 

木原の顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいた。ああ、そうか。最初からこいつにとって遊びでしかなかったんだ。薬莢を当てたこと自体計算通り、でなければあのタイミングで指を入れるなんて芸当が出来る訳がない。経験、体格差、センス、どれをとっても劣っている。ケイは決して慢心するタイプではない。能力者抜きにしても、自分がどうしたって敵わない相手が数多くいることはわかっていたし、それを受け入れていた。全ては生存の為、自分の限界を知り、感情を捨てあらゆる手段を行使しろ。

それが白神に教えられたこと全てだ。だがそれを持っても、いやその行使すら許されず、ただ弄ばれることは生まれて初めてのことだった。

 

(ちくしょう・・・)

 

ケイはそう心の中でつぶやき、小さく笑った。もう逃げたのかな往見霧香は、どうでもいっか。まあでもやっぱこんなもんか俺は。けっこうツイてる方だと思ってたのにな。あんな酷いとこから生き残ってさ。結局死ぬんだったらもっと好き放題やっとくんだった。でもやりたいことなんてあったか?無かっただろそんなもん。こんなときに何考えてんだ俺は。

殴られ続けて痛みが感じなくなり、思考が渦巻くケイに、木原はケイの髪の毛を掴んで自分の顔を近づけた。

 

「いや、別にお前自体はどうだっていいんだよ俺は。最高に出来が悪い欠陥品の一つでしかなかったし、お前がいた施設自体に未練があったわけじゃねえ。まあ俺の遊び場をぶっ壊してくれたんだ。殺してやろうと思うくらいにはムカついたんだが、少しだけ興味が湧いてな。なあクソガキ、どうやってあの施設を潰したんだ?答えてくれよ」

 

何故こんなことを聞いてくるのかわからなかった。もはや答える気力はなく、何も喋らずにいたが、木原はそれを許さない。だらりと力を失ったケイの指を、木原はもう片方の手でへし折った。

 

「があっ!」

 

「なあ聞こえてんだろ、いい子にしてないとママに怒られるぜ。ああ悪い悪い、お前ママに捨てたんだっけ?ヒャッハハ!!こりゃ傑作だなオイ!」

 

木原の侮辱にも何の反応も示さず、ケイは口を開いた。

 

「別に・・・ただ研究者に取り入って、教えてもらっただけだよ、必要なこと・・・」

 

「ああ、そうか。それでケツでも差し出したのかよ、その研究者ってのも相当な変態だよなあオイ!まあいいや、で具体的にどうやって壊したんだよ?」

 

いちいちこんなこと聞いてくるなんでずいぶんと酔狂な奴だ。だがまた痛い目を見るのはなるべく避けたかったのでケイは続けた。

 

「施設に、ある、配電設備を、放火しただけだ・・・そんなこと、聞いてどうすんだよ?」

 

途切れ途切れでケイは何とか言葉をつなぐ。木原はそれを聞いて何か感づいたような表情をした。

 

「ああそうか、俺もほったらかしでろくに管理してなかったしな、でもいるにはいたんだぜ、それなりに遊べるオモチャがな、だがそれをてめえがぶっ壊してくれたってわけだ」

 

「いったい何言って・・・」

 

「てめえのせいだよボケ!頭に電極入れて薬はいってるところにいきなり電気止まったら低能力者だろうが十分暴走するだろうが!てめえは自分の仲間犠牲にして今ここにいるんだよ!」

 

ケイの眉が少し動いた。

 

「電気が止まったくらいで施設が機能停止するとでも思ったのか?マジで知らなかったのかよ、まあ義務教育もうけてないガキだから仕方ねえか。でどうだよ、せっかく仲間犠牲にして生き延びてもここで犬死する気分は?」

 

 

 

 

 

一緒に脱出しよう・・・施設での友達とそういつも言っていた。

ケイと同様、能力の発現の見込みのない子供達。モルモットとしての扱いは最悪で、施設にいる子供達の中でもヒエラルキーは一番下だった。実験自体ほとんど強制に近いものであったが、あえてアメを使って実験に協力的な子供を優遇することで、より子供達をコントロールしやすいよう研究者たちはヒエラルキーを作った。

もはや研究者にすら見捨てられた者たち、それがケイとその仲間だった。当然待遇は一番悪い。そしてヒエラルキーの高い子供達のグループにもよくいじめられていた。いくら待遇がいいといったって所詮はモルモット、いつ使い潰されるかわからない恐怖は大きなストレスを生む。倫理的な教育だってロクに受けたこともない。そうした要因で暴行、いじめは横行し、研究者達も黙認していた。暴行の末死んだものも複数おり、ケイ自身も暴行を受けて、何度も命の危険を感じた。

このままじゃ殺される。そう思って仲間と一緒に脱出する計画を立てた。

 

計画自体は成功した。だがその被害はケイ達の想像を遥かに超えていた。

火事と電気系統のトラブル、それによる能力者の暴走、施設は機能不全を起こし、半壊状態にまでなった。この状況を作り出し、脱出を試みたケイ自身も施設に閉じ込められ、命が危うくなった。白神に助けれるのが少し遅かったら死んでいただろう。後で白神に生存者もほとんど確認できないことを聞いた。

 

 

 

 

 

木原の言う仲間は実験で死んだ奴らのことなのか、それとも本当の俺の仲間なのか。もう今更どうでもいい・・・ケイは既に身体的、精神的に消耗しきっていた。

 

全てを諦めて死を受け入れたそのとき、血に伏している1人の父親、往見陵のまだ生気が宿った瞳をケイは目の端にとらえた。

 




完結に近づいて参りました。後数話程度で収めようと思います。
出来れば我慢して読んで頂けたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。