とある能力の代償   作:きんぴら大根

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18話 往見陵

銃弾は往見陵の背中に直撃し、腹部まで貫いた。

 

 

ほんの一瞬、銃口が死体の隙間から覗いているのを感知した。と同時に自分の娘が頭を貫かれているイメージがフラッシュバックのように浮かんだ。後は何も考えなかった。気づくと娘の前に飛び出していた。このわずかな間で気づけたのは陵にとって奇跡だった。

 

「お父さん?」

 

血に伏した父親に対し、茫然と立ち尽くす霧香。沈黙が一瞬この空間を支配したがケイがそれをすぐに破った。

透野俊介に連れられて去った霧香を見送った陵。少し安堵した直後に激しい痛みが陵に襲い掛かった。

 

(くそっ、痛くて動けない・・・そうだ、ケイはどうしてる・・・)

 

このとき陵は銃で腹部をひどく損傷しながらも、ケイがうまくやっているとかなり期待していた。レベル5相手にあれだけ立ち回れたのだ。相手が誰だか知らないがいつものようにうまくやっているに違いないと。だがその期待は陵が恐る恐る顔を上げたときに崩れ去った。

 

圧倒的だった。まるでケイが赤子のようだった。一方的に殴られ、抵抗もままならずただなすがままにされる姿は、陵にとって信じ難いものだった。

 

(体もうまく動かない、何か、何か手はないのか・・・クソッ、こんなときに俺は!)

 

自分の無力さをここにきて痛切に感じる陵。木原は自分のことなど眼中になく、ケイを痛みつけることに夢中になっている。懐にしまった拳銃を掴むも、痛みがひどく狙いを定めるどころか引き金を引けるかも怪しい。そのとき・・・

 

(ケイ?俺に気付いたのか?でもどうするんだ、何か手は・・・)

 

木原数多に髪を掴まれ、ケイの体は力なくぐったりとしていた。だが目だけは生きていた。目を合わせたとき、顎がわずかに上下に動いた。そう、ほんのわずかだが確かに頷いたのだ。お互い何をやるかもわからない、タイミングなど計る術もない。それでもケイは信じたのだ。往見陵に最後の一手も。

 

 

 

(確か、アイテムのときもアンタに助けられたよな・・・)

 

そうケイは思い出した。偶然とはいえ、あのとき陵のスタングレネードが自分を救ったことを。今陵がふたつ持っていたうちのひとつを覗かせている。

きっと、木原が悪意そのものであれば、ケイの計算は一切通用しない。だが木原の眼中に少しも入っていない往見陵という不確定要素があれば、その悪意を崩すことが出来るかもしれない。そうだ、やれることをやるだけだ、いつも通りに。

 

「あーあ、何かもう飽きちまったわ。もう少し楽しめると思ってたんだけどな。所詮出来損ないは出来損ないってこった」

 

最初から持っていたのだろうか、それとも部下の死体から取ったのか、懐から拳銃を取り出す。すると、今度はケイが自ら口を開いた。

 

「そんなもんあるんなら・・・最初から使っとけよ、バカじゃねえの?」

 

「はっ、てめえみたいな雑魚にはな、こんなオモチャ必要ねえんだよ。まあクソガキの脳ミソが理解するには難しすぎるがな」

 

「ああ、そっか・・・やっぱりバカだよお前」

 

 

 

 

 

 

 

「ケイ!!」

 

陵が拳銃を投げる。木原は当然ケイに渡らぬよう、ケイを壁に乱暴に投げつけ、陵が投げつけた拳銃を払おうとした。そのとき、眩いばかりの閃光と爆音が木原に直撃した。

拳銃はスタングレネードを悟らせないためのフェイク。ケイにそれを密かにみせることで陵は自分の意図を暗示したのだ。

 

(があっ!クソが、小賢しい真似すんじゃねえ!!)

 

ケイはスタングレネードには対応出来たものの、木原からの執拗な殴打と、先程投げつけられたダメージで満身創痍だ。それでも虚を突かれた木原よりは反応が速かった。陵が投げて床に落ちた拳銃を、全身滑り込こませて何とか片手で掴む。そしてあお向けになったまま、上体を起こし、両手でしっかりと構えた。

 

「死ねよバカ野郎」

 

弾倉の弾が切れるまで、ケイはただ撃ち続けた。

 

 

 

 

硝煙の臭いがケイの鼻をつく。木原は全身に銃弾を受け、そのまま後ろに倒れ込んだ。満身創痍の身で頭部を狙う余裕などなかったため、なるべく銃弾が当たるよう胴体に出来るだけ撃ち込んだ。木原はかろうじて息をしていた。だが全身の出血や痙攣、空気が漏れ出たかのような呼吸音からもう動くことは出来ないだろう。

 

ケイは片足を引きずりながらも陵のところへ近づく。ケイの顔は殴られてひどくはれていたが、出血と痛みで青ざめている陵の方がはるかに危うい状態であった。

念のため木原から少し遠ざかって、廊下の曲がり角にさしかかったところで応急処置をとる。ケイが傷ついた手で何とか出血を止めようとするも、一向に止まる気配がない。

 

「ケイ、もういい。それより・・・君に頼みがあるんだ・・・」

 

「うるせえな、ちょっと黙ってろ」

 

「霧香に、会ったら・・・すまなかったと、伝えてくれないか?気付くのが、遅くなったって・・・」

 

「自分で伝えろよ、そんなもん。勝手に仕事増やすんじゃねえよ」

 

「ははっ、手厳しいな・・・」

 

力なく笑う陵の顔に、もはや生気は残っていなかった。

 

「私は・・・間違った、ことを・・・したんだろうな」

 

「さあな、知らねえよ。俺にとっちゃそんなもん日常茶飯事だ」

 

「だが、それでも・・・この、結果だけは、間違っちゃいない・・・私は、霧香の、父親であれた・・・」

 

「だったら最後までそうしてろ、いいからもう喋んな」

 

「霧香のこと・・・頼んで、いいか?」

 

「わかったから喋んなっつってんだろ!!」

 

ケイは必死に陵の傷口を押えるも、陵の意識は遠のいていく。薄らいでいく意識の中、陵はマンションのリビングで、食卓を囲む妻と娘を思い浮かべた。

 

妻の葉月が何やら苦言を娘に言う。部屋でも散らかっていたのか。霧香は顔をしかめながら箸を進め、陵はそれを困ったような顔を浮かべて笑っていた。

 

 

 

 

「おい・・・」

 

返事はない。穏やかな顔で目を閉じているだけだ。

 

「ふざけんじゃねえよ・・・」

 

脈はない。息もしていない。

 

「あんた親だろうが!自分の娘ぐらいちゃんと面倒見ろっつってんだよ!!そんなクソ面倒くさいもん俺に押し付けてんじゃねえ、聞いてんのかオイ!!」

 

胸倉をつかんで叫ぶも虚しく、ケイの言葉を聞き入れた者は誰もいなかった。

 

「アホくせえ・・・」

 

誰に向けるでもなく、ケイが放ったその言葉は血塗られた廊下に吸い込まれた。




次回かその次で最後になります。最後まで自分なりに手を抜かずやっていこうと思います。更新はそこまで遅くならないと思うので、あと少しになりますがよろしくお願いします。
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