とある能力の代償   作:きんぴら大根

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19話 顛末

ケイが壁に寄り添いながら何とか歩いていると、白神が差し向けたアンチスキルの部隊と出くわした。

 

(遅すぎるんだよ)

 

そうケイは心の中で悪態をついた。

 

「こちら生存者2名確認、うち1名意識不明の重体、もう1名も重傷を負っている。至急救急車の手配を」

 

(たぶん意識不明の重体は木原だろうな。あれだけ撃ち込んだのにまだ息があるだと?防弾チョッキでも着込んでたのかよ化け物め)

 

ケイ自身も担架に運び込まれ、病院で検査、手術を受けた。体中のいたるところで複雑骨折があり、複数のインプラントを埋め込まなければならないらしい。

ケイの手術が終わり、病室で目が覚めると白神がベットの脇にある椅子に座っていた。

 

「お目覚めか、ケイ」

 

「よう、結局アンタろくに役に立たなかったな」

 

さすがに今回ばかりはケイの悪態に堪えたのか、かなり渋い顔をしてその毒舌を無視した。

 

「まずは往見霧香についてだが、無事我々が身柄を確保した。ひとまず任務は成功だ。御苦労だった」

 

「こんな様になってまで成功したいとも思ってなかったけどな、何度投げ出そうと思ったか」

 

「いや、最後までやり遂げてくれると思ってたよ」

 

「それはどうも、全然嬉しくないけど」

 

白神は話を続ける。

 

「往見霧香と厚労省の・・・透野俊介といったか、今はアンチスキルに保護され、現在警察の監視下にある学園都市の病院にいる。つまりここだ」

 

身に覚えのある場所だと思ったがそういうことか。ここは昔ケイが保護された病院と一緒だ。

 

「しばらくは休暇だ。報酬もはずむから、せいぜい羽を伸ばしておけ」

 

「あんたは?」

 

「往見霧香に今回のいきさつを説明しなきゃならん。新しい協力者となってくれるかは、どうかわからんが」

 

「俺も行く」

 

あちこち包帯だらけでよろけながらも何とか立ち上がる。白神は少し面食らったような顔で理由を尋ねた。

 

「どうしたんだ、休んでおけばいいだろうに」

 

「父親の伝言だよ、早く言っとかないと忘れそうだしな」

 

そう言って立ち上がるケイを、白神は何か解せないといった表情を浮かべた。

 

「ま、別にいいが」

 

 

 

 

往見霧香は病院で精密検査を受け、病室には個室があてがわれた。何せ今回の任務における最重要参考人であり、目的そのものなのだ。当然警備は厳重に施されていた。そのわりに部屋が開放的な造りになっているのは、長い期間監禁され、父親までなくした1人の少女に対する配慮もあったかもしれない。

 

「そう・・・ですか」

 

白神からことの顛末を聞いて、霧香はそう返事する他になかった。父親が自分のために学園都市に乗り込み、慣れない拳銃片手に命懸けで自分を取り戻そうとしていたこと、犯罪行為まで手を染めて救い出そうとしたことを。そしてその末に自分を庇って命を落としたことを。

 

「そして今後のことなんだが」

 

「何で・・・」

 

往見霧香が白神に掴みかかった。

 

「どうして私だったんですか!!あんたたちさえ、余計なことしなかったら・・・私たちみんな幸せに暮らせてたのよ!!」

 

肩を震わせ泣きながら、白神に掴みかかった手がしだいに力を失い、ひざと一緒に地面に落ちた。白神はただ黙って霧香の泣き声を聞いていた。寄り添うわけでもなく、突き放すわけでもなく。

 

「ああ、そうだな。全くもってその通りだ」

 

白神はそう静かに答えた。もうそれ以上かけられる言葉などなかった。

それ以上全く言葉を発さず、病室を去った。ただ黙って聞いていたケイを残して。

 

しばらくして霧香が落ち着いたと判断したのか、ケイが霧香のベットに腰を掛けた。

 

「この怪我だからな。立ってるのも辛いから勘弁してくれよ」

 

返事はない。ただ黙って俯いているだけだ。

 

「アンタの父親に、伝言を預かったんだ。気づくのが遅くなって、すまなかったって・・・言ってた」

 

ちゃんと耳に届いたのだろうか。俯いたまま何も答えない。

 

「あと、俺はあいつの父親としての顔は知らないけどさ」

 

ケイは続ける。

 

「必死だった。慣れない拳銃毎日掃除して、人質をとってまで助け出そうとした。最後まで諦めなかった。とにかく必死だった」

 

それだけ言い終えた後、松葉づえをついてベットから腰を上げた。ケイが出ていくまで、霧香はただ顔を伏したままであった。

 

 

 

 

 

白神は今霞が関に戻ったところだ。透野俊介の身柄を確保し、さらに厚労省主導のもとでの往見霧香の監禁を行ったという情報を元に厚労省に揺さぶりをかけた。厚労省側もこれが世間に知れ渡ればただでは済まない。さらにいえばこのプロジェクトは政府高官までも関わっている。下手したら自分達が消されるという恐れもあったのだろう。そこで往見霧香が関わったとするプロジェクトの全容を警察は聞き出したが、それは予想を遥かに超えるものだった。

 

「まさか学園都市外で能力を開花させるつもりだったとは・・・」

 

そう、往見霧香の能力を開花し、さらには彼女そのものを利用して計画の促進をはかっていたのだ。投薬、外科的処置を全く行わずに能力を開花させる「能力自己啓発装置(AIMアンプ)」。往見霧香はその被験者であり、成功例として最も貴重なサンプルだと記されていた。

 

これはメンタルケアの検査と称して、厚労省管轄で全国の学校で行われた大規模な実験。能力を発現できる確率はおよそ2万人に1人、それも能力開発に適性のある被験者は、学園都市内の子供達より少し高い割合にとどまっていたとのことだ。この実験を学園都市外で実施することには理由があった。この実験ではなるべく幅広い年齢層の被験者が必要になる。近年、学園都市内の教育機関に入る生徒の低年齢化が著しい。そのため中学生以上で、且つ能力開発を受けていない被験者を確保するのに限界が来ていた。そこでメンタルケアと称し、日本という国家を堂々と実験場にしたということだ。

 

ここまで厚労省が学園都市に協力していたというのも驚きだが、白神にとって極めて不可解なことがあった。

 

(能力者の管理に異常なまでに固執する学園都市が、外部で複数の能力者を生み出すだと?これは一体なんの冗談だ?)

 

そう、学園都市で能力開発を受けた学生が死亡した場合、能力開発における情報を秘匿するため、死体は焼却され、遺族の元には遺骨しか残らない。学園都市外に行く際にもICチップを体内に埋め込まなければならない程の厳重さだ。

そうした疑問が白神の頭に渦巻いている中、同僚の唐崎が部屋に入ってきた。

 

「いやしかし今回は冷や冷やしたぞ。ここまでして失敗なんてことになってみろ。俺達は二度と学園都市に手も足も出せなくなってたかもしれないんだ。さすがに無茶が過ぎたんじゃないのか?」

 

「ああ、そうだな。だがそれ相応の価値はあった。厚労省だけでなく学園都市にも弱みを握れたからな。今回の騒動で警察の人間を送り込むことができるようになった。非常勤のアンチスキルとして堂々とな。元々治安に対して改善を要求する声が強かったからな。我々の権益をさらに拡大できる」

 

「まあしかし、ここまでデカい山があったとはな。俺には予想もつかなかったよ」

 

普段通り変わらぬ調子で会話する2人。だがここで2人がいる部屋の空気が一変する。

 

「いや、お前は知ってたんじゃないか?」

 

ふと、唐崎の顔から表情が失われた。

 

「おかしいとは思っていたんだ。往見陵のリークがどこから漏れたのか、どう考えても外部からとは思えない。柳瀬の奴とも考えたが、完璧に近いタイミングでリークすることなど、あの無能な上司に出来るはずはない。消去法でいってお前しか考えられないんだよ」

 

唐崎の表情は変わらない。

 

「それにだ、木原が暴走したときだけやけに情報が速かった。学園都市との暗部とのパイプを持つケイよりもな。今回の木原の暴走は学園都市にとっても想定外だった。厚労省との関係がこの一件で崩れるのはまずいと判断したんだろう。お前、学園都市側とどこまで通じている?」

 

しばらくの間、警察庁のビルの一室で沈黙が支配した。しばらくしてようやく唐崎が重い口を開いた。

 

「なあ、白神。お前はこの組織、いやこの国家に未来はあると思うか?」

 

「一体なんの話だ?」

 

「現政府はほとんど学園都市の意向に逆らえない。今までだってそうだ。だから学園都市とは円滑に関係を築くことが絶対必要だった。それぐらいお前にはわかるだろうが」

 

「・・・で?」

 

「いい加減ついていけないんだよお前には!どこまで危ない橋渡れば済むんだ!俺がせっかく築きあげてきたパイプも危うく全部台無しになるとこだったんだ!お前がここまでやれているのも俺のおかげなんだぞ!なあ、何でそこまで拘る?」

 

「国益の為だ」

 

白神から出た言葉は、唐崎にとって失笑に値するものでしかなかった。

 

「ああ、そうか。学生時代真面目なだけが取り柄のお前らしいな。だがお前はもう降りてもらうぞ。上の命令無視でここまでやったんだから当然だろ」

 

後ろめたさもあったのだろうか。唐崎は会話にひと段落ついた後、たばこを吹かして釈明のような言葉を付け加えた。

 

「俺には家族がいるんだ。お前みたいにはなれない、最後までこの組織と心中するつもりはないからな」

 

「いや、よく頑張ったと思うよ。今までごくろうさま」

 

そう言った白神の右手には、拳銃が握られていた。そして唐崎のこめかみに銃口が突きつけられる。

 

「お前・・・正気か?」

 

「クソ真面目なだけじゃないんだぜ」

 

そう言った直後、間髪いれずに引き金を引いた。

 

「また手塩と3人で飲みたかったが、残念だよ本当に・・・」

 

指紋をふき取り、唐崎の手に収めた後、白神は携帯を手に取った。

 

「もしもし、大変なことになった。唐崎の奴を問い詰めたらあいつ拳銃で・・・とにかくこっちに来てくれ、騒ぎが大きくならないうちに・・・」

 




次回で最終話です。
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