往見霧香救出から1ヶ月たったころ、手塩は単身で学園都市を出て東京まで出てきていた。仕事と全く関係ないと言えば嘘になるがどちらかと言えばプライベートの部類にあたるのだろう。かつての先輩との久々の再会だ。その場所が大衆向けの居酒屋というのは何ともセンスがない気がするが・・・
「相変わらず時間通りですね、白神先輩」
「お前が遅れてくるのも相変わらずだな、いい加減そのきっちり10分遅れてくる癖は治らないのか?」
「向こうではちゃんとしてますよ。そんなことよりもうちょっと洒落たところ考えられなかったんですか?ここらへんならもっといいとこあるでしょうに」
「いいだろ別に、ここは俺達の馴染みの場所なんだから・・・」
それはそうでしょうけど・・・と言葉を続けようとしたところ、もう1人の先輩がまだいないことに気付いた。
「そういえば・・・唐崎さんはどうしたんですか?白神先輩と違って乗りはいいですから来るとは思ってたんですけど・・・」
「あいつは・・・死んだよ。自殺ってことにはなっているが・・・」
こうやって言葉を濁している白神は、おおよその事情を知っていて、かつ他人には決してその全容を話さない。手塩は長年の付き合いからそれはわかっていたのであえて深く聞こうとはしなかった。
手塩は大学時代の同じゼミの唐崎、白神の後輩だ。白神達と同じく警察庁に入庁したが、学園都市への潜入捜査の最中、ある事件にのめり込みそのまま学園都市に残った。
「そう・・・ですか。お子さんもいたのに残念ですね」
「そうだな。・・・ああ、そうだ。この前の一件は助かった。アンチスキルをよこしてくれたおかげで無事こちらの重要参考人は保護出来た。見返りなんだが、今回の件で警察の方もかなり情報網を拡大出来たからな。その一部ぐらいなら譲渡出来る。肝心の実験の目的についてはわからなかったがな」
結局のところ、厚労省が行っていた実験の目的はわからずじまいだ。透野俊介に尋問しても、天使といいうキーワードに関わっているらしいが、本人もいまいち要領を得ておらず、この件については完全にお開きとなった。
「どうせ、そういう話のために呼び出したんだと思ってましたよ。でも先輩よく警察辞めずにすみましたね。私に助けを求めるなんて相当無茶してるときしかやらないでしょ、どう切り抜けたんですか?」
「別に、同じ仕事してる奴に全部責任なすりつけただけだ」
その相手が唐崎で、まして殺したとまでは言わないが。
「えげつないことするようになりましたね、まあ世の中そんなものかもしれないけど」
そのあとは軽い思い出話で少弾んだだけだった。3人であればもっと盛り上がっていたのだが、1人欠員がでるといつもよりも酒の進みが遅い。
あまり時間がたたない内に白神の方から席を立った。
「あれ、もう終わりですか先輩。てっきり独り身が寂しくて私を誘うのかと思ってましたけど」
「バカいうなよ、5歳以上サバ読んでアンチスキルに入った奴にどうこう言われたくはない」
「それって関係なくないですか?まあいいや、私はまだ飲んでいきますから」
追加注文する手塩を横目に、白神は金だけおいて夜の街へと消えていった。
ちょうど同じころに、ケイは駒場利徳の元へ訪れていた。
スキルアウトが溜まる第7学区のストレンジ、駒場にとってここは職場であり、娯楽施設であり、寝床でもある。各地を転々とすることが多いので中々馴染みにくいが。
「仕事でもないのにめずらしいじゃないか、ケイ」
「いきなり休暇だされて手持無沙汰なもんでな、酒はあるか?」
「全く何しにきたかと思えば酒をたかりに来たのか?まあいい、そこの冷蔵庫に何本か冷やしてあるはずだ。好きなのとってけ」
「サンキュー。電気も通ってて中々快適なとこ住んでんな相変わらず。そうだ、駒場は何飲む?」
「俺はいい」
「そう言わずに何か飲めよ、たかりに来てる俺だけ飲んでたら後ろめたいだろ」
こいつは後ろめたさなど感じることがあるのかとも思ったがあえて聞かず、駒場は日本酒をチョイスした。ケイは自分の分のビールと日本酒を手に取り、駒場の近くに座った。
「そういやお前未成年じゃないのか?スキルアウトの俺が言うのもなんだが」
「知ってるか?スペインでは酒は16歳からOKらしい」
「ここは日本だがな」
「そういやつまみはないのかよつまみは・・・おっ、あるじゃんいかさき。ずいぶんそろってるじゃん」
「いい加減腰を落ち着かせろ。飲みに来たんだったらそれこそつまみぐらい用意しておくぐらいの気は利かないのか?」
「結果的にあったんだからいいだろ別に、じゃあさっさと飲ましてもらうわ」
ケイの相変わらずのずうずうしさに呆れ気味だったが、久しぶりというのもあってか、駒場はそう悪い気はしなかった。
酒がしばらく進んだあと、ケイはほんの少し声のトーンを落とした。
「ああそうそう、この前頼んでいた捜査なんだが、あれは解決した。もう調査の方は続けなくていい。これからうちの権益は大分広がるだろうから、駒場とっても動きやすくはなるんじゃないの?まあ、そのおかげで俺はひどい目にあったが」
「これからどうするんだ?」
「まだしばらくは休暇だから、ゆっくり休んで、後はいつもどおり仕事だよ」
「・・・なあ、ケイ」
「何だよ、駒場」
「お前が良かったら、こっちに来ないか?俺達の中でもお前を慕ってる奴もいるし、やりにくいことはないだろうが・・・」
飲みかけのビールの缶を眺めながら、ケイは駒場の申し出に返答を出した。
「警察の仕事無くなったらな、今はいい。それに俺浜面に嫌われてるし」
ああ、そうだったかと軽く返した。ケイは人に好かれるタイプでは決してない。口下手なわけじゃない。人脈も広いことからきっとコミュニケーションがとれない訳じゃないんだろう。
ある程度深く付き合っていたらわかる。こいつにとって善や悪といった基準はまるで価値がない。以前こう言っていた、そんなものは俺が生きる上で必要のないものだと。だから仕事上での手段は選ばないし、どんなに親しい奴でも裏切るようなことがあれば容赦しない。だから浜面のような比較的感情豊かなタイプとは徹底的に合わない。
だがケイは誰かを裏切ったりするようなことはしない。それはあくまでケイにとっては合理的な判断なのだろうが、駒場にとってはそれがケイが嫌いになれないひとつの理由だ。ある意味ケイ程生きるということに真っ直ぐな人間はいないだろう。良い悪いは別にして。
「そういや、一緒にいたあのおっさんはどうしたんだ?」
「俺からは駒場も十分おっさんに見える」
「ぶん殴っていいか?」
冗談だよと軽く笑って返すケイの笑いは、どことなくもの寂しげに聞こえた。
「・・・死んだよ、背中に銃弾喰らってな。世間では事故死扱いになると思うけど」
「そうか・・・そういやお前堅気の人間とここまで一緒に仕事したの初めてじゃないのか?相当苦労しただろうな」
「そりゃな、でもそれなりにうまくやれてたよ。嫌いな奴じゃなかった」
ケイの口から嫌いな奴じゃないといった言葉が出たのは駒場にとって驚きだった。そもそもある特定の人物の好き嫌いを評することすら珍しいのだ。せいぜいうるさいだの、うっとおしいだのその程度しか言わなかったケイが。
「少しお前らしくないな、そういうこと言うのは」
「色々あったんだよ、ちょっとな」
(俺の両親とは大違いだったな・・・)
ケイは今ふと頭に浮かぶことがある。もし自分の父親が往見陵だったら、自分は今と全く違う生き方をしていただろうかと。
「何か湿っぽくなったな、じゃあこれもらっていくわ」
余ったビールを2缶片手に持って腰を上げた。そのまま立ち去ろうとするケイを駒場は呼び止めた。
「何だ、何か用事でもあるのか?」
「ゲームまだ中途半端なとこで止まってる」
「そんなことか。そのままじゃあアンチスキルに職質されるんじゃないのか?この紙袋に入れてけ」
手渡された袋の中には、さっきまで食べてたいかさきの残りが入っていた。
「これは?」
「中途半端に余ったってどうにもならん、お前が処分しろ」
駒場のそっけない気遣いに、ケイはほんの少し顔をほころばせた。
「おう、じゃあまたな」
時は経つ。その流れは変わらない。学園都市でも、その外側でも、とある家族の家の中でも。
往見霧香が救出されてから半年がたつ。あれからも彼女はかつての自分の家に帰っていない。
能力のレベルは4に上がっていた。半年以上も能力を時間いっぱい使っていたのだ。私自身もあの寝たきりになった子供も糧にしていたのか。何て皮肉なのだろう。
施設から助けられた後、私は何度も自分の関わった実験のことについて警察から聞き、資料をくまなく読んだ。そこにはあの子供達が犠牲になる理由も、私の父の死に足り得る理由も、そんなものは何も無かった。協力者として警察と共に行動するうち、学園都市ではそんな実験が日常茶飯事で行われていることをまざまざと見せつけられた。
私の父を殺したのは、この街、腐った役人、私の能力、そして愚かなこの私自身だ。
今もまたこの街はあのときと同じように、大勢の人間を貪っている。だから・・・
いつかこの街の底を掴んでやる。全て利用して、掴んでひっくり返して、この腐った箱庭にぶちまけて晒してやる。奴らが貪ってきた全ての代償を払わせてやる。そして最後にはきっと・・・
「この学園都市を・・・壊してみせる」
これで一応終わりです。今までどうもありがとうございました。
感想、批判、批評、駄目出し、何でもかまいません、是非感想を頂けたらと思います。
初投稿で無茶な部分も多々あったと思いますが、最後まで読んでくれた方々、本当にありがとうございました!