捜査を開始してから約一か月半たった。9月を少し過ぎたころだ。
学園都市外との刑事との接触も今のところ問題はない。ケイとの共同生活も、陵は思ったよりも滞りなく送ることが出来た。ケイが家事を面倒くさがったり、事務処理を嫌がるのは相変わらずだが、何とかやっていっている。陵はケイのそういうところを見て、この子にも年相応な部分はあるんだなと少し可笑しくも思った。息子がいたらこんな感じなんだろうか。確か霧香が小さいころ、兄弟がほしいとか言ってたものだ。そんなことをときどき不意に考えたりすることもあった。
2人は今スキルアウトとの取引が終わり、ファミレスで昼食を食べている最中だ。近くのテーブルにいた4人ぐらいの女子中学生のグループが騒がしく、ケイは少し顔をしかめている。
「ったく、食事ぐらい静かにしろよ」
「まあそんなに苛つかなくてもいいだろ。あのぐらいの年頃の子はみんなそうさ」
「あんたの娘もあんな感じなのか?」
「まあ、元気な子だったし。私はあれぐらいでちょうどいいと思っているよ。妻は君みたいに顔をしかめたかもしれないけどね」
「ああ、その娘さんの捜査のことなんだが」
ケイが急に話を仕事の方へ持ってきた。
「正直言って進展が無さすぎる。少し他の手を打った方がいいかもしれない。あんたもそう思ってただろ」
「確かにそうだが、何をやるんだ?」
「とりあえず今日の仕事終わってから話すよ」
食事を終えて2人は第15学区へと移動した。ケイによると、この学区はマスコミ関係の施設が多く、よく情報工作するときにここへ来るらしい。今回の取引相手の協力者もメディア関係の人間だ。陵も外回りの仕事も慣れてきたため、大人の社会人相手の取引は陵がすることも多くなった。向こうも心情的に大人の方がやりやすいらしい。
アパートに帰って書類を整理した後、ケイは陵に話を切り出した。
「さっきメディア関係の奴とあったろ。こっちから情報を流して相手が食らいつくのを待つ」
「こっちの情報というのは・・・」
「あんたの娘の件だよ。学園都市の数多くある失踪事件のひとつとしてな。本名はださないがあんたの娘の頭文字をとって記事に載せる。媒体は週刊誌だが大手だ。まあ、その前に他の連中を使ってネットで噂を流してもいいかもな」
「それで相手はどう動くと?」
「必ず何らかの動きがあるだろうな。俺たちの協力者にまで手が伸びるかもしれない。場合によってはあんたにまでくるかも。そいつをこっちが特定して素性を探る。リスクはあるがここまでしないと進展は望めない」
「でも下手したら協力者に危険が・・・」
その言葉にケイはため息を吐いて、すこし語気を強めた。
「今更だろ、そんなことは。俺たちがやってることが綺麗事じゃないことぐらいわかってるだろ、あんたは大人なんだから」
「ああ、すまない。わかってはいるんだが・・・」
「とにかく準備ができ次第実行する。それでいいな?」
「ああ」
次の日、スキルアウトたちにネットや人づてに噂を流すよう駒場と取り合った。他の学区のスキルアウトとも協力を取り付けてくれたようだ。そして昨日あったメディア関係の協力者とも話を取り付けることが出来た。陵の匿名のインタビューも含めて記事にする予定だ。
「これじゃあもろあんたが餌って感じだな、俺が言うのもなんだが」
「いいさ、これぐらいのことは覚悟してる」
今までは平穏にやれてきたが、これからはそうは行かないだろう。今までも呑気に過ごしすぎたのかもしれない。これ以上霧香を待たせるわけにはいかない、1人の父親として。陵はズボンの右ポケットに入っている拳銃を固く握りしめた。
情報を発信してから2日後、さっそく動きがあった。週刊誌のスポンサーである学園都市の医療機器メーカーが圧力をかけてきた。学園都市のイメージを何の証拠もなく傷つける記事に抗議するという文言でだ。
「はは、すごいなビンゴだ。この会社少し前まで厚生省の役人との癒着が騒がれてたところだ」
「誰が圧力をかける指示をしたのかはわかってるのか?」
「慌てるなよ。今人脈を感づかれないぎりぎりのところまで使っている。そう時間はかからないだろうよ」
ケイの言う通り、圧力をかけたところを割り出すにはそう時間はかからなかった。圧力をかけたのは医療機器メーカーのお得意先の研究機関、パーソナルリアリティに関する研究を行ってるところだ。
「ちょっと待ってくれ、これは・・・」
霧香が学園都市にくるきっかけとなった中学校でのメンタルケア、厚生省と提携してそれを実施していた学園都市の研究機関そのものであった。