元・遠月学園番外席次は料理を作らない=最悪の料理人= 作:九十九夜
・・・たとえすごい能力持ってたからって必ずしも幸せになれるわけじゃ無くね?
運とか、結構大切じゃね?
そんな夢も何もぶち壊しにするようなことを考えて書きました。
ごめんなさい。
「こんにちは。相席いいかな?」
声のした方を見るとスラッとした妙齢の女が立っていた。
今生・・・というかもう前世にあたるのだろうか?の記憶はもう磨耗しているものの、なんだか奇妙な懐かしさが漂ってくる。
此処は信じられない事に来世への待合室的なところだそうで、つまりなんだ。的確な表現という物が見つからない。
どうぞ、と短く返事をすると女は失礼と返してまず手に持っていたトレーをそのままテーブルに置いて椅子に座った。
自分の方に出されたそれはデミグラスソースのかかったハンバーグの上にオムレツが鎮座し、その隣にはパラパラのケチャップライス。
おお振りのエビフライにグラタン、カボチャと生クリームのサラダ。チョコレートムースの上には国旗を模した旗が付いている。
・・・お子様ランチ?
「あれ?嫌だった?」
嫌って・・・大人にお子様ランチってどうよ。まあ、嫌いじゃねーけど。と少しむくれると女は困ったように頬を掻いて笑う。
「大丈夫。大人のお子様ランチです。オススメですよ?」
どうぞと有無を言わさない雰囲気に押されて一口。
ポロリと涙が出た。
忘れていたけれど、忘れてはいけないもののような、懐かしい何か。
・・・何だったっけか。
そんな、いい歳こいて涙を流しながら料理を掻き込む俺をニコニコと笑いながら見ていた女が口を開く。
「そういえば君。此処にいるって事は願い事はまだなんだよね?」
お姉さん気になるなあ・・・と言う女にまだ決めてない!と投げやりに返事をした。
事実まだ決めていない。というか転生自体自分にとっては眉唾物だ。正直めっちゃ不安である。
「ああそう?なら良かった!いい?願い事は慎重に考えなきゃ駄目よ?じゃないと大変な事になるから」
私みたいにね?と女が苦笑した。いやあの、脅しかけるのとかやめてほしいんだけど。
「あ、ごめんなさい。私ったらつい」
心なししょぼくれる女の姿を見ていられなくなった俺はで?と続きを促して女の話を聞いてやる事にした。
え?とびっくりしたような女に一応理由くらいは例として聞いておくと返すと女は花の咲くような笑みで話し始めた。
□ ◼️ □
ハローハロー紳士淑女の皆さん。
突然ながら皆さんに質問だ。
よく二次創作とかでありがちなものの中で転生という物がある。
そう、転生特典だの選ばれた〜みたいな特殊設定の付いてくるアレだ。
・・・皆さんはその後主人公が必ず幸せになれるとお思いだろうか?
私的経験からいくと答えは完全とはいえないがNO。
だってそうだろう?戦争がほぼほぼ無い世界に戦闘系の能力を引っさげていっても何の役にも立たないし、美人になっても基本的に美人ばっかりの世界ではその中の一人として埋もれていくだけだ。金持ちになった所でそれを維持していく手腕がなければすぐに底をつく。幸せになりたい!なんて願った日には周りを不幸にして自分だけなんかまだマシみたいな境遇になって逆恨みされかねない。
ザッと挙げただけでもこれぐらいの悲惨さを秘めている。
え?幸せになれた奴もいる?なんでそんな後ろ向きな考えしかできないんだ?前を見ろ?
ああ、うん。そう。じゃあその人たちは運が良かったんだろうね。
・・・本当に。どうして私はあの時あんなにも安易に願い事を決めてしまったのだろう。
・・・今更何をどうしたって意味はないのだが、心の中は嘆きでいっぱいだ。
ごめんなさい。
銃声や爆撃、人の叫びに怯えない暮らしがしたかっただけなんです。
ごめんなさい。
自分と同じような子と一緒に幸せを分かち合いたかっただけなんです。
ごめんなさい。
誰かに愛して欲しかったのです。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ーーーーーー
目が覚めた。
「・・・。」
寝返りを打とうとすると携帯がバイブレーションを刻む。
誰だろうか、嫌な予感しかしない。
恐る恐る画面を見ると見たことのない番号が表示された。
・・・良かった一応件のストーカー野郎ではないらしい。
「もしもし。」
『もしもし。元気にしているか?出流。』
「!?堂島さん?何故私の携帯を・・・」
『いや何。乾にお前に用があると言って教えてもらっただけだ。そう警戒するな。』
「そう・・・ですか。」
乾先輩・・・あなたか。
くそ・・・今度変えた時は除外対象だな。
『そうカッカするな。アイツもお前の事を心配して俺に頼んだんだ。』
「はあ・・・」
心配とかしなくていい。好きにさせてくれ。
今度もしかしたら立ち寄ったりとかくらいならする・・・かも、だから。
『で、実は頼みがあるんだが。』
「お断りします。」
堂島さんが持ってくるとしたら9割くらいが料理関係の話である。
こちとらその業界から退いた身だ。巻き込まんでほしい。
『実は今度の宿泊研修の講師をだな・・・』
「いや人の話聞けよ。」
『なに、安心しろ。お前の他にも水原やドナートも来る。それに調理しろってわけじゃない、審査員だ。』
うわー絶賛会いたくない人たちじゃないか。
まあ、四宮小次郎や乾日向子が参加しないだけまだマシといったところだろうか。
いや、行かないけどな?
「・・・。」
『あ、後な・・・もしこの話を受けてくれるのなら・・・遠月リゾート年間パスを特別に手配しよう。あの男に追われているのならあって困ることは無いだろう?』
・・・確かに遠月ならあの男もそうそう手出しはできまい。だが、どちらにしろ私にとっては居心地が悪いことに変わりはないのだ。もちろん。
「いいでしょう。その話、乗りましょう。」
やっぱり身の安全は大切だよね。うん。
・・・役目が終わったらギリギリまで引きこもろう。
『期待しているぞ。癒しの御手』
懐かしの称号を、よくもまあ覚えていたものだ。
いい加減忘れてほしい。
「―――ハッ。何言ってるんですか。堂島さん。私は処刑人ですよ。それもとびっきり質の悪い死の商人みたいなやつです。・・・では、離宮の方で?」
『ッ—――ああ、そうだ。日取りは』
「ではな。」
電話を切った男―――遠月リゾート総料理長兼取締役会役員である堂島銀はふと窓から外の景観に目をやった。
「傷は深い、か。―――だがお前もそろそろ進むべきだ。出流。」