元・遠月学園番外席次は料理を作らない=最悪の料理人=   作:九十九夜

3 / 5
幕間にて


「はあ?イズルは男だろ?」

「やだー何言ってるんですか四宮先輩。いーくんは女の子ですよー。」

「いや、あれはどう見ても女の子だろう。」

「関守さんまで・・・」

「だからあの時滅茶苦茶根気強く諭そうとしてたんですねー先輩。てっきりロリコンだからかといたたたっ!?ごごごごめんなさいっ」

「四宮、鈍すぎ。」

「それにしてもっ『僕、大きくなったら小次郎兄さんと結婚したいですっ!!』って幼稚園児に言われたのに対して『あのな、そもそも結婚できるのは男と女の場合だから、わりーけどお前とは無理だ。』って必死に言い聞かせてる四宮先輩・・・何度思い返してもブフッ・・・あーおかしいだだだっごごごごめんなさいっ」

「嘘だ、ぜってー顔が多少整ってるだけの男だ!」

「いい加減現実をみまショウ?四宮さん。」


こんなことがあったりなかったり・・・。


MとIの初対面

「クソッ終わらねえ!!」

 

「おいそこどけよ!!」

 

「う、腕が・・・上がらない・・・。」

 

コツコツと靴を鳴らしながら牛肉ステーキ御膳を作っている生徒を見て回る出流。

と、嘆いている生徒に混じって何やら不穏な動きをしている生徒に声を掛けた。

 

「おい、そこの短髪。そう、毛先から0.5㎝だけ金髪に染めているお前だ。お前、今何をしようとした?」

 

「な、何も・・・」

 

「ふうん?私にはお前がたった今その子の作った料理を取ろうとしたように見えたけど?」

 

「な!?そんな言いがかり「言いがかりじゃ無い事実だ。」

 

なんなら此処でお前のそのもう片方の手に持ってるのと食べ比べ、して見ようか?と言うとさっきまで料理を取られ掛かっていた少女・・・田所恵が泣きそうになりながら出流を見る。

ああ、君は気にせず作ってていいからと前置きをして、もう一度注意していた生徒に視線を向ける。

 

「そんなっわかるわけないじゃ無いかっ!!「じゃあ、別にいいだろう。もし違っていたらお詫びにお前だけ時間の延長を許可しよう。」っ・・・勝手にしろ!!」

 

じゃ、遠慮なくと言って出流はサラダ、味噌汁、ステーキを少しずつ取り分けると口に放り込んだ。

幾度かの咀嚼。後、嚥下。

ゴトリと食器を置く。

いつの間にか周囲は彼女に注目していた。

 

「・・・まずサラダ。野菜の切り方が雑、お前最近包丁の手入れを怠っているな。所々刃が潰れてしまって切り口がグチャグチャだ。切れないのを無理に押し切ろうとしたせいか繊維も殆ど潰れてる。それを補おうとして水につける時間も長めにしたんだろうが、かえって旨味が殆どなくなってる。野菜使う意味が無い。

 

次に味噌汁。ワカメ長すぎ、豆腐バラつきありすぎ、カツオ上げるの遅すぎてエグ味が出てる。逆に昆布は給水時間が足りない。

 

最後にステーキ。火が通り過ぎてる、筋切りが足りて無い、ソースの塩味が強過ぎる。

 

全体的に適当すぎる。量を言い訳に質を落とすな。」

 

言われた生徒はギリリッと唇を噛み締めているがそんな事は知ったことでは無いと言わんばかりに件の皿から取り分けた方を口に運んだ。

 

「・・・野菜の切り方は申し分ない。むしろ大振りのものが最小限にしてあって食べやすい。ただ、ドレッシングの酸味が少し強い。

 

味噌汁。出汁は丁寧に取られてるし、具も大きさが揃っている・・・敢えて言うならワカメを入れるのが早過ぎだ。

 

・・・ステーキに関しては肉そのものはいいとして・・・ソースの酸味が薄すぎる。甘味が強い・・・このソースの味付けは故意に変えたものか?」

 

その料理を作ったであろう少女・・・田所恵は出流に怯えながらも「はいっ」と返事をする。

彼女の手は恐怖からかはたまたは純粋な緊張でかは定かではないが震えていた。

 

「理由は?」

 

「え、と。じ、実は。さっき食器を下げた人たちが美味しかったけどステーキを食べた時に顎に痛みが走ったって言われた方がいて・・・。もしかしたら今回のソースの酸味が強すぎてなったんじゃないかと思って。その・・・。」

 

「・・・ワインの量を減らして野菜とバターの量を増やしたわけか。」

 

「・・・はい。」

 

他の食事は作り終えてしまったのか、恵が自身のコックコートをぎゅっと握って出流を見る。

その震える様子に出流はかつてを重ね、目を細める。

純粋に彼女を激励したいような、手を引いてあげたいような衝動にかられた。

 

―――もしかしたらあの人も出会ったばっかりだった自分がこう見えていたのだろうか。

 

・・・もっとも、出流自身の中にはそれより劣るもののちょっとした不快感も同時に沸き起こってしまうのは仕方のないことだろう。

 

「ふうん・・・まあ、及第点ってとこか。・・・ただ、こういった予約されているメニューは客の要望が入っていることが多いから、今度からあまり手は加えないように。」

 

「は、はい!!きゃっ!?」

 

「ちょっと待てよ!!」

 

ほっとした様子の恵を乱暴に押しのけて、出流の方にさっきに男子生徒が詰め寄ってきた。

 

「それは俺が作ったものだ!!なのにそいつが評価されるなんておかしいだろ!!」

 

正規の講師でもないくせに!!文句ばっかつけやがって!!と唾を飛ばしながらわめきたてる。

 

「汚い、調理場で唾を飛ばすな。」

 

それでも動じず平坦な声のまま、一歩生徒が足を踏み出した瞬間出流は足払いを掛けた。

転倒する生徒。周囲は本格的に静まり返る。

 

「ああ、ごめんなさいね。この子、足がもつれてしまったみたいで・・・調理に戻ってくれていいですよ。私はこの子を医務室に連れていきますから。」

 

周囲を安心させるようにこりと笑って見せると周囲の生徒たちも講師も持ち場に戻っていった。

が、田所恵だけは至近距離だったがためにその真相を知っているので青い顔をしている。

 

「あ、あのっ。」

 

「あなたも戻ってくれていいですよ。もし何かあったら講師に出流から言われてと言ってくれれば大体は何とかなりますから」

 

言って片手の人差し指をそれとなく唇に当てて、小さく手を振ってから倒れた生徒を引き摺っていった。

 

 

――――――――――

 

 

 

「放せ!放せよっ」

 

やっとの思いで出流の手を振りほどいた生徒は出流に殴りかかるも、その手を軽くいなされてよろける。

 

「・・・その元気があるなら医務室は不要だな。とっとと荷物をまとめてバスに乗れ。」

 

「な、なんで・・・!」

 

その怯えた声に出流が男子生徒の方をちらりと見遣る。

初めて目が合った生徒は凍り付いた。

さっきの笑顔や無表情とは全く違う、否。

無表情なはずなのに、まるで首元に刃物が突き付けられているかのような感覚が彼を支配していた。

 

「あ、あ・・・」

 

なんで(・・・)だと。そんなこともわからないのか?・・・まあいい。気分がいいから特別に教えてやる。まずは料理の取り換え・・・これ自体は残念ながら現場でもよくあることだ。だが、道徳的価値観以前にお前の調理台と彼女の調理台との間隔差は五台分、更に受け渡し口に行くには三台分足されることになる。なに、簡単な計算問題だ。・・・なら、移動中の料理はどれぐらい温度が下がる?お前の料理は火が通り過ぎていると言ったがそれ自体はおそらくお前なりに客を考えた結果だろう。だがそこにできて間もない彼女の料理が加わったら?お前は客に差をつけて料理を出すのか?違うだろう?

そして二つ目、私への暴言・・・というより調理場で騒ぎ立てたこと。別に私に盾突いたからってわけじゃない。お前が騒ぎ立てた調理場には受け渡し口があったよなあ?詰まる所お前は客の前で誰かを貶したってことだ。そんな雰囲気の悪い店に金を払ってまで来る客がいると思うか?・・・お前は店を潰す気か?・・・わかったらとっとと帰れ。」

 

かくして、宿泊研修一日目が終了した。

 

 

 

―――――――

 

 

 

【素晴らしい!十傑入りも確実だろう!!】

 

【え?足りない所?そんなものはないよ!大丈夫。君は天才だからね!】

 

【頼む、もう一度作ってくれ!!】

 

【天才はお気楽でいいわよね。出来が違うっていうの?】

 

「・・・天才、ね。」

 

温泉に浸かりながらぽつりと呟いた。

いい加減のぼせてしまうかもしれないのでザバリと湯船から上がる。

鏡に映る出流の身体は長身の割りにほとんど肉がついていなく、白というより青白い肢体には病的な美しさがあった。

その今にも倒れそうな印象を受ける身体を気にするでもなく出流はボディーソープを泡立てて擦り付けていく。

と、がたたっという音の後に扉が乱暴に開けられた。

そこにいたのは荒く呼吸を繰り返す退学を言い渡した生徒が立っていた。

手には包丁が握られている。

 

「・・・なに?それ。」

 

「ヒュー お、俺は ヒュー こんなとこで終わったり ヒュー しない ヒューた、退学を取り消せっおおお俺は本気だぞ!!」

 

「いや、だから何?それ、脅しのつもりで自前の包丁持ってきたのか?」

 

うおおおおっという声とともに男子生徒が突っ込んでくる。

それを料理人としても人としてもどうなんだと思いつつ冷めた態度で出流が避けた。

濡れた床で滑りかけたところを湯船に突き落とす。

学生服で靴もそのまま、正に着の身着のままといった格好の男子生徒は重さによって浮くことが出来ず、突然だったこともありパニックに陥ってしまった。有体にいえば溺れている。

取り敢えず上がってくるかもしれないと思った出流は近くの桶に備え付けのシャンプーとコンディショナーを入れて水と混ぜ合わせると湯船の方に視線を向ける。

そこには丁度パニックから回復し這いあがってくる男子生徒の姿があった。

そこに丁度いいと言わんばかりに先程作った桶の中身を盛大に男子生徒の頭目掛けてぶちまける。

 

「ぎゃあああああああ!?」

 

大きな叫び声とともに床に転げのた打ち回る生徒。

そんな生徒を逃げるわけでも、手を貸してやるでもなくただじっと近くの椅子に座って見ていた出流は複数人の足音が近づいてくることに気が付いた。

 

「おい、なにがあっ!?」

「コレはラッキースケベ?それともエマージェンシー?どっちだいイズル?」

 

「ん?ああ、一応エマージェンシーでお願いします。梧桐田シェフ。誰でもいいんで警備か堂島さんあたり呼んでください。」

 

ラジャと言って携帯を取り出す梧桐田シェフに、何故か震えながら上着を掛けてくれる四宮シェフ。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「・・・本当に女だったんだな。お前。」

 

「はあ、まあ。」

 

視線が合わないので何とも言えないがやっぱりというかこの人。どうやら私を忘れていたのではなく私が女だという事を知らなかったがために結びつかなかったらしい。

・・・あの時のメンバーであんただけだよ。気付いてなかったの。

 

 

「イズル。堂島さんがイズルに代わってくれって」

 

「はい。出流です。」

 

『取り敢えず元気そうで何より。で、除籍者の処罰の件だが・・・。』

 

何か希望はあるか?という心配そうな堂島にあーと面倒そうな声を上げて出流が対応する。

 

「警察は・・・学校の体裁があるでしょうから・・・いいや。こっちで引き取ります。」

 

私の元調理棟のスタッフを三人ほど手配してください。というと相手方の声が少し低くなる。

 

『・・・それは、《病棟》に連れていくからか。』

 

「ええ、まあ。駄目ですか?」

 

いくらかの沈黙の後。ため息が聞こえた。

 

『いいや。被害者はお前だ。気が済むようにするといい。』

 

「はい。ありがとうございます。」

 

では、と言って携帯を梧桐田に渡した出流は再度足元に転がった男子生徒を見た。

 

―――さて、この子はどれ位保つのかな?

 

ひたすらのた打ち回って退学だけはと言い続ける男子生徒に向けられる目には失望と、わずかな哀れみが混ざっていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。