大弾正忠帝国海軍  士官学校編   作:弾正忠信長

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秀吉編

この物語は、太陽系から遥かに離れた星での物語である。

 

この星の生物には、体内に心力(じんりょく)と呼ばれる生命エネルギーが流れており、これは、傷の治癒や病気の回復を増進させ、また、生命力を大幅に上げるものでもある。

 

そのため、この星に住む人型生命体の寿命は、平均500年という、驚異的な寿命を誇っている。

 

 

今から話す物語は、人間界を束ねる、「大弾正忠帝国」と呼ばれる巨大な国に存在する、海軍の話である。

 

 

 

 

 

上り始めた朝日が、暗かった廊下を照らし出し、鳥達が心地よい前奏を奏で始めた頃、海軍士官学校のベッドで眠りについていた青年の目蓋は、ゆっくりと開き始め、厳しい訓練の始まりが、彼から眠気をさらい、奮い立たせる。

それから少しして。

 

「総員起床15分前」

 

朝の静寂に包まれた、ここ、大弾正忠帝国海軍士官学校。

その館内に、事前起床放送が流れ、訓練生達に目覚めの時間が迫っている事を告げた。

 

帝国海軍兵の起床は、ラッパによる総員起床が有名である。

兵学校時代から教え込まれ、この起床ラッパ前に起きるとフライングとなり、教官から鉄拳が飛んでくる。

 

 

「今日の目標、カッター(短艇)訓練で殴られないことにしよう。」

 

 

青年がそう思った刹那、

学校内に、起床ラッパが響き渡った。

 

ラッパと同時に、ベッドで就寝していた全ての訓練生達が、飛び跳ねるかのように起き上がり、各自、ベッドに掛けていた訓練服に袖を通す。

 

海軍士官学校の訓練は、全て、艦内勤務を想定して実施されている。

軍艦内は、艦種にもよるが、海兵1人に与えられるスペースは決まっていて、その限られた空間を有効活用しなければ、海兵として務まらない。

士官学校で、最も学ばなければならない教育と言えよう。

 

そのため、戦闘服や水筒など、全ての物品、装備品の配置位置を、訓練初日から叩き込まれる。

 

 

これは、迅速に戦闘準備を行うためでもあるが、あらゆる不足の事態を想定し、即座に対応するためのものでもある。

例えば、艦が敵の攻撃などを受け、停電状態となっても、平時と変わらぬ行動を可能にするための措置も含まれている。

よって、その訓練は、過酷の度を極める。

 

 

「起床!! 起床!! 起床!!」

 

 

訓練生たちの寝室へ、教官がドアを勢いよく開けて入って来、声を荒げる。

教官のそれは、寝起きの訓練生達には、いい目覚ましとなる。

中には、ラッパよりも、教官の声で目覚める訓練生も居るぐらいだ。

 

海軍では、寝間着から訓練服への着装時間も決まっており、2分厳守。

そのため、起床ラッパ前にあらかじめ15分前と促すのは、眠気を醒まし、速やかな着装を促すための配慮でもある。

 

この二分厳守を少しでも過ぎると、教官から鉄拳を頂戴するため、彼らは必死だ。

 

起床時間前に起きればいいと思われるだろうが、これも、立派な総員起床訓練である。

 

 

 

「秀吉の野郎は大丈夫か? アイツ着替えだけは遅いから、いつも俺たちの班が鬼柴田(教官)に殴られるんだよな。」

 

 

 

「海軍の連帯責任には正直、まいるね。」

 

 

前者は前田利家、後者は丹羽長秀。

海軍に配属される前の2人は、帝国軍本部、作戦司令長官の参謀を勤めており、階級は中佐。

 

参謀として、各持ち場の指揮を執っていた二人。

 

 

前田利家は、少し乱暴な一面もあるが、部下の面倒身がよく、後腐れのない性格の彼は、部下達からよく慕われていた。

 

槍術が得意で、その腕前は、全国大会で優勝するほどだ。

その実力から、槍又左の異名をもつ。

 

一方の丹羽長秀は、非常にマイペースな性格ではあるが、与えられた仕事はなんでも、そつなくこなし、また、自分の主張するべきことは、物怖じすることなく主張する。

 

そんな立ち振る舞いの丹羽は、

上官達からよく、米五郎左(米のように地味だが、無くてはならない存在)とも呼ばれていた。

 

 

そんな2人の能力と人柄は、艦隊勤務において必要と判断され、帝国軍作戦司令長官が海軍へ推薦。

2人は見事、難関試験に合格、現在に至る。

 

 

 

海軍は、全て、帝国軍兵士の中から選りすぐられた、男女問わずの優秀な兵達で組織されている。

また、帝国軍人時代の階級は関係ないが、求められる能力を鑑みたら、自然と高級将校が多くなる。

 

 

弾正忠帝国の軍隊は、織田軍(官吏)、帝国軍(高級官吏)と、大きく2つに組み分けされていて、織田軍は主に、警察的な組織であり、国民の警護、犯罪の取り締まり、災害発生時の救助活動などが多くの役目。

 

 

帝国軍は、簡単に言えば、精鋭部隊だ。

他国との開戦時に、最前線で戦い、国を守る役目を果たす者達であり、その重責は計りしれない。

 

織田軍の兵士達は、所属部隊の最高司令官の推薦を受けた者のみが、帝国軍選抜試験の受験資格を得られ、見事合格すれば、高級官吏(現在でいう国家公務員)として活躍できる。

 

その待遇(特に給与など)は、織田軍とは比較にならぬものであり、全ての織田軍兵の憧れだ。

そのため、帝国軍人になるためならば、努力を惜しまぬ兵士がほとんどだ。

 

 

 

「おい! 秀吉!! 早く着替えろよ!! また教官に殴られるじゃねぇか!」

 

 

 

前田と丹羽は、一分と掛からずに、着装を終えていた。

それに対し、秀吉はまだ靴下を履いている段階だった。

残り時間的に鉄拳制裁である。

 

 

 

 

「も、申し訳ねぇ、前田と丹羽のだんなぁ。ほんとにすまねぇ。」

 

 

 

もはや、毎朝の恒例になりつつある、秀吉の班のモーニング鉄拳。

本日も、鬼教官と名高い柴田勝家によって、鉄拳制裁が執り行われた。

 

 

 

「おい!! 貴様ぁ!! いい加減にせんかぁ!! なぜ着装もまともにできんのだぁ!! おい!! 前田ぁぁ!!!!」

 

 

「はい! 第一班!! 整列!!!」

 

 

 

鬼柴田は、前田を呼びつけた。

その前田は、教官の一声で鉄拳制裁を察知、自分の班員をベッド前に整列させる。

整列した秀吉は、既に着装を終えてはいたが、規則の二分以内を十秒程過ぎてしまっていた。

 

鬼柴田の拳が、秀吉達の顔面を捉える。

 

 

「これで七回目だぞ? 貴様らがここに配属になってから皆勤賞ではないか。

これで最後にしろ、いいな?」

 

 

鬼柴田の、凄みのある圧力は、5人を気圧し恐怖させる。

彼らは、七度目の覚悟を決めた。

 

教官達は規則ゆえ、粗相をした訓練生達を殴っているが、本当は誰一人、殴りたくないのだ。

 

しかし、一つの軍艦で、全員が生死を共にする海軍。

1人のミスが、全員の死に直結する事になる。

それを防ぐためには、こうした鉄拳制裁で、身体に染み込ませるしかないのだ。

 

 

「第一班!! 歯をくいしばれぇ!!」

 

 

 

鬼柴田が、整列した班員達を順番に殴り飛ばして行った。

 

 

 

「(うう、痛ぇぇ!! 畜生がぁ!! 次こそは二分を切ってやるぅぅ!!)」

 

 

 

秀吉は自分に言い聞かせた。

自分のミスで、何の落ち度もない仲間達が殴られてしまうのだから、当然である。

 

鉄拳制裁が下される時は、決まって、連携が必要とされる訓練でのミスだ。

罰直を受けた者は、次第にその事に気付き、二度と、同じ失敗をしなくなる。

 

こうした鉄拳制裁を通し、海軍兵達には、「ナニクソ魂」が、自然と培われていく。

それが、艦を動かす上で最も重要な、各配置間の連携に、大きく繋がって行く。

 

 

 

 

「あの班はダントツで優秀なのに、もったいないよなぁ。」

 

「ああ、まったくだな。」

 

 

 

 

他の班員も、前田達エリート班の鉄拳制裁を不思議そうに眺めていた。

 

 

秀吉達が海軍士官学校へ配属され、本日で一週間。

 

ついこの間まで、帝国軍の指揮官だった彼らは、多くの部下を抱え、部下に対しあらゆる指導を行って来た。

無論、教育という名の、「鉄拳教育」も実施してきた。

 

しかし、今の彼等は、クリクリ坊主頭の海軍訓練生。

彼等は、指導する側からされる側へと変わっていった。

 

 

海軍士官になるには、当然、士官学校の教育を経なければならない。

 

その士官学校配属試験は、前田や丹羽のように、帝国軍本部所属の少佐クラス以上でなければ、選抜試験をパスするのは、非常に困難だ。

無論、帝軍時代の階級や年齢は、合格に一切の影響を与えない。

海軍選抜試験は、実力が全ての、公平な試験が執り行われる。

 

 

 

モーニング鉄拳を頂戴した、前田利家を班長とする5人は、朝食をとるため食堂へ向かっていった。

 

その道中で

 

 

 

「痛ててぇ 秀吉、おめぇはなんで着替えが遅ぇんだ? 毎朝こう殴られちゃあ、たまんねぇぞ。」

 

 

 

 

前田は頬を押さえながら悪態をつく。

 

 

 

 

「なにか、事情でもあるのかい?」

 

 

 

 

同じく、頬を押さえながら丹羽が続いた。

 

 

 

 

「へ、へい! すみやせん、前田のだんなぁ 丹羽のだんなぁ。

おいらはどうも、着替えが苦手なんでさぁ。」

 

 

 

秀吉は、鉄拳制裁に加え、

 

「鬼柴田怒りのゲンコツ」

 

も頂戴していた。

 

 

 

 

「そんなことはもうわかってんだよ!

 

 そのために何か対策を考えなきゃならんだろうが!

お前は着替えの何が苦手なんだ?」

 

 

 

 

前田は、秀吉の着装の遅さに呆れつつも、二分厳守の壁を克服させようと試みていた。

 

そうこうしているうちに、長い廊下を抜けた秀吉達は、建物の中央棟にある大食堂に到着。

 

食事は既に配膳されており、あとは、教官長の挨拶を待つのみ。

 

帝国海軍の食事は、贅沢を極めている。

朝は納豆に、生卵か目玉焼き、

汁物に香の物と、好みで肉皿か、焼き魚がでる。

 

朝は簡素なものだが、

 

昼は洋食のフルコース。

 

夜はお膳付きと、かなり豪華なものだ。

 

食材は、帝国の各産地から厳選された、最高級品を使用。

調理には、実際の軍艦内においても、兵士が調理をする事はなく、各艦に専属のコックがいる。

 

 

この贅沢な食事も、帝国海軍の魅力の1つだ。

 

訓練中などのミスで、罰直が与えられる事があるが、それは鉄拳教育や課題の追加、校庭を走らされたりすることなどに限られ、食事抜きなどに関する罰直は、ストレスの溜まりやすい艦内勤務での士気を保つ上でも、士官学校教育期間中でも、禁止とされている。

 

食事に関する罰直があるとすれば、食事を残すことだ。

海の上で闘う海軍では、食料は生命線そのもの。

その、大変貴重な食料を残すことなど、言語道断。

そのため、食事を残した者には、個別で、一際キツい鉄拳制裁が待っている。

 

 

 

「教官長!! 入室!!」

 

 

 

 

1人の教官の号令で、朝の挨拶で賑やかだった食堂は静まり返った。

訓練生達は、背筋を伸ばして座り、教官長の言葉を待つ。

 

 

 

「皆、おはよう。 よく眠れたかな? 今日も良き訓練が出来るように精を付けてくれ。

  いただきます。」

 

 

 

教官長のシンプルな挨拶がおわり、号令をかけた。

 

いただきます!!!!

 

食堂全体に訓練生達の声が響いた。

これから一時間、食事や談笑を楽しむ。

 

 

 

「海軍に配属になって本当によかったぜ!。

こんなに美味い飯が朝から食えるんだからよぉ!! 」

 

 

前田達は、5人掛けテーブル中央にある炊飯器から、炊き立ての米を山盛りにして、胃袋を満たしていく。

米は、各班毎に番号の振られた炊飯器があり、それがその班の米だ。 

 

なかなかの量があり、残すのは許されないが、それは心配に及ぶ事ではない。

 

 

「うむ。しかし、本当に美味い。

米が一粒一粒立っている上に、濃厚な米の香りが口の中に広がっていく。

それを、脂の乗った焼き魚をおかずに食す。こんな贅沢な食事が訓練生のうちから出るとは、さすが、弾正忠家(帝国を統べる王族)が、総力を上げて設立した、海軍だ。」

 

 

 

帝軍時代、中佐だった前田と丹羽は、高級将校の肩書きに恥じない、贅沢な食事をしてきた。

しかし、その2人でもこの驚き様。

海軍の食事が、いかに贅沢かが窺える。

 

 

軍人にとっての楽しみは、休日を除いては、大抵食べる事、寝ることである。

海軍は、贅沢な食事に加え、艦内生活においても格別に条件がよい。

 

帝国海軍全ての軍艦は、冷暖房完備、乗組員全員にベッド支給という待遇だ。

 

陸上で、泥の上にテントを敷いて寝る帝軍と、空調設備の整った快適な部屋に、フカフカのベッドで生活をする海軍の生活環境とでは、その差は雲泥の差だ。

 

この待遇の良さが、閉鎖的な艦隊勤務に従事する兵士達の士気を上げ、また、帝軍の海軍配属希望者を出すのに、一役かっている。

 

海軍訓練学校での食事時間は、キッカリ一時間。

帝軍や、織田軍での訓練学校は、20分と、かなり短い。

これは、陸上戦闘において、突然の奇襲を想定した上の、短かさだ。

 

 

 

「うおぉ! こりゃあ美味いですぜぇ! 今日の焼き魚も脂の乗りが最高だぁ!!」

 

 

 

秀吉は、頬と頭部の腫れや痛みを忘れ、炊きたての米と、焼き魚をかき込む。

その表情は実に、幸福そうだ。

 

海軍は、食事の時間を大切にしており、この一時間を必ず、食堂で過ごさなければならない。

無論、その時間は談笑を許され、各々コミュニケーションを取る事が可能だ。

朝食は、訓練生全員が同じ時間にとるため、

この時間を使い、気になる異性の訓練生に近づくのも、課題や、実技の相談をするのもありだ。

 

 

 

「ねね殿は、どこにいやすかのぉ。」

 

 

 

秀吉は、朝食を即座に食べ終え、女性グループの席へ向かっていった。

目的は、気になる女だ。

 

 

「あら? 秀吉さんよ!! ねぇ! こっちに来てくださいよ~!! 」

 

 

 

秀吉を見かけた女性訓練生達が声を掛けてきた。

 

上記でも書いたが、秀吉達のグループである前田班は、成績優秀・運動抜群・容姿端麗と、女性の人気をかっさらうには、充分なカリスマ性を持っており、海軍配属一週間足らずで、この人気ぶりだ。

 

丹羽や前田は、190歳を超える立派な大人だが、秀吉はまだ130歳と、成人(この星の人間の成人は120歳)を迎えたばかりだ。

 

その若さと実力から、秀吉は同期女性のみならず、先輩の女性達からも、人気があった。

 

 

 

「ああ、おはようでさぁ! 今日も訓練を頑張りやしょうでさぁ!」

 

 

 

 

秀吉は、集まって来た女性達に挨拶を交わし、目当ての人を探す。

 

 

すると、

 

 

 

「あ! ねね殿!! おはようでさぁ! 今日も元気そうでありやすなぁ!!」

 

 

 

秀吉は目当ての訓練生を見つけると、一目散に駆けていった。

 

 

 

「あ! 秀吉さん!! おはようございます。今日のカッター訓練は負けませんよ?」

 

 

ニッコリと秀吉に微笑んだ彼女の名は、

木下ねね。

 

今回の、海軍配属訓練生の中で最も若く、120歳を迎えたばかりの新成人だ。

男子最年少の秀吉より、さらに10歳若い。

彼女は、織田信長に選ばれた、「元帥の弟子達」の1人だ。無論、秀吉もそうである。

 

 

 

織田信長が海軍を設立させたのは、20年の天界留学から戻った直後の、今から100年前。

当時の信長は、35歳(中等学生)だった。

 

「元帥の弟子達」は、正式名称を、「特別年少兵」とされている。

 

この者達は、信長が、学生の頃に出会ってきた優秀な人材の事を指す。

 

彼の、「鶴の一声」で選ばれた特別年少兵達は、今回の士官学校配属者300人の中で10人程いる。

当然、「元帥の弟子達」の試験は平等に行われる。

不合格ならば、それで終わりだ。

 

 

 

ここで、秀吉と、帝国海軍創設の過去話にお付き合い願いたい。

 

秀吉は、帝国海軍創設者である、織田信長直々の推薦で、海軍士官学校へ配属が決まった「元帥の弟子」だ。

 

帝国の、片田舎の大学に通っていた秀吉。

在学中、授業の為に出向いた海軍省、海軍士官学校を見学。

この見学が、彼の人生を劇的に変えたのだった。

 

戦艦の甲板上で、真っ白な第二種軍装に身を包んだ海軍将校達が、横一列に並び、直立不動の姿勢で秀吉達を出迎えた。

 

これは登舷礼と呼ばれ、戦地に赴く海軍の戦士達が、故郷に別れを告げるためのものであり、また、これは、客人や司令官を艦に迎える時や、弾正忠様(帝国の王)に出撃の覚悟をお伝えするものでもある。

登舷礼は、まさに、最大の敬意を払う儀式そのものだ。

 

その、壮観な光景を目の当たりにした若き日の秀吉は、その日を境に、海兵になることで頭がいっぱいになっていた。

 

帝国国民として、何不自由なく過ごしてきた秀吉。

これといった目標や夢も無く、ただ自堕落に生きてきた少年の目に、海軍将校達はあまりに輝いて見えたのだ。

 

目標と夢が同時にできた秀吉は、それまでやる気を出してこなかった勉学に励み、また、多くの情報を仕入れ、学食での食事から、海軍ご用達の食堂をつきとめ、そこで昼食をとるようになった。

 

秀吉は、集めた情報を駆使し、訓練生達に接触。

持ち前の明るさと人懐っこい性格は、海軍訓練生達との打ち解けを難しくするものではなかった。

 

 

 

「お! ひでちゃんか! こっち来いよぉ!!」

 

 

 

休日中の訓練生達が集う、馴染みの食堂に秀吉は現れ、呼び掛けられた。

 

 

 

「へい! 兄貴ぃ!! ここの飯が美味くて今日もきてしまいましたぜ!。」

 

 

 

秀吉は、訓練生達によく可愛いがられ、瞬く間に仲を深めていった。

 

訓練生の休日には、共に、旅行や呑み会に参加するほどまでにだ。

 

秀吉は、こうした機会を通じ、訓練生達から、訓練カリキュラム、生活環境などを聞き出し、全て、ノートにまとめていた。

 

 

そんな穏やかな日常の中、秀吉にある一人の男との出会いが訪れる。

 

 

 

「そういえば明日は、元帥様が俺達の士官学校に視察に訪れる予定だったな?」

 

 

 

 

ある訓練生が話題を出してきた。

 

 

 

 

「ああ、明日の午前10時に、視察に参られる予定だ。」

 

「それにしても、本当若い元帥様だよなあ。まだ90代だろ? さすが、弾正忠家の跡取りだ。」

 

「海軍の創設から何から何まで、全部元帥様が手掛けたしなぁ。俺らより100才以上若いのに、大したもんだよ、本当に。」

 

 

 

 

秀吉は、訓練生のこの話題が気になり、2人のとこに駆けつけた。

 

 

 

「兄貴ぃ! 今の話していた人は誰ですかい? 元帥様と聞こえやしたが、信長様のことですかい?。」

 

「お! さすが秀吉だな。」

 

「その通り! 我らが海軍の生みの親だ。

まあ、お前なら海軍創設話なんてのは朝飯前だろ?」

 

 

 

訓練生が笑みを浮かべながら、秀吉に問いかける。

 

「もちろんでさぁ! 信長様は、海軍設立前から、帝国で最も大きな造船工廠、九鬼造船の工廠長、九鬼嘉隆(くきよしたか)工廠長へ戦艦建造を命令。

必要な資材や、労働力を全面的に支援し、数多くの軍艦が建造されやした。

 

帝国海軍設立後、九鬼造船工廠は、九鬼海軍工廠と名を改め、その規模をさらに拡大、今や世界一の海軍工廠でさぁ!」

 

 

 

設立からまだ歴史の浅い、大弾正忠帝国海軍では、元帥は創設者の信長を意味する。

 

秀吉が、海軍士官学校配属になる、120年前の、弾正歴2750年。

帝国を代表する、3人の若者が、先の大戦で戦いを繰り広げた天界へ、和平締結の意味合いもこめ、留学へ旅立った。

 

彼等3人は、天界で初めて戦争を経験し、帝国が、いかに平和ボケしているのかを知った。

 

なかでも衝撃だったのは、海上で戦う、天界海軍の存在だった。

天界では、未だに国土をめぐる戦争が頻発していた。

 

その天界で、指揮官としてあらゆる戦闘を経験していく中、留学生の3人は、海上戦闘を経験。

 

天界海軍は、巨大な帆船が幾つも存在し、その帆船へ、無数の大砲と戦士達が乗り込み、天界の領海を狙って攻めてくる海洋獣達と、幾度も戦闘を繰り広げていた。

 

巨大帆船で、敵の本拠地(巣窟)に乗り込み、大砲射撃を加え、一網打尽。

 

この斬新な戦闘方法に、最も影響を受けた一人が、留学10年目の、当時25才(地球人の感覚では小学生に値する年齢)だった帝王の息子、織田信長である。

 

信長は、 20年(この星の人間にとっての20年は、我々地球人からすると2年の感覚)

の天界留学の中で、海軍の重要性を認識。

 

留学当時の帝国は、漁業船や、鉱油(エネルギー鉱石から採油できる燃料)を輸出するための、巨大なタンカーなどは何百隻とあったが、大砲などを積んだ船は、戦争の無い平和な時代も相まってか、広大な帝国の領土を守るには、あまりにも不十分な数しかなかなく、しかも、それらを纏める組織もなかった。

 

信長は、天界の海上戦闘を経て、敵がいつ攻めてくるかもわからぬ緊張状態の恐怖を体験し、

帝国においても、同様の事態が起こることを危惧した信長は、海軍創設を強く決意した。

 

 

荒れ狂う海上で戦う海軍無くして、国民の永遠の平和は築けないと、この時気付かされたのだ。

人間界にも、いつ、戦争が起きるかわからない。

 

事実、非同盟国の中には、帝国の肥沃な土地、資源豊富な領土を狙っていることは、なにも珍しい事ではない。

 

他国が、弾正忠帝国に戦争を仕掛けない理由として、帝国軍の存在がある。

その絶対的な軍事力が、強力な抑止力となっているのは、間違いないだろう。

 

陸上戦闘において、古くから世界最強の名を欲しいままにしてきた大弾正忠帝国軍。

 

しかし、海軍力がほぼ無に等しいこの帝国。

 

天界海軍が発揮した恐るべき艦砲射撃は、堅牢な甲殻を誇る海洋獣達を容易く粉微塵にしてしまった。

 

信長の脳裏に過ったのは、

他国が海軍力を充実させ、帝国に対し攻撃を仕掛けて来た場合、陸上でしか戦闘ができない帝国軍は、一方的に艦砲射撃をうけるだろう。

そうなれば、この海洋獣達の無惨な姿が、帝国軍兵士の姿となり、その惨状は、火を見るより明らか。

 

天界留学から戻った信長は、直ちに海軍構想案を、父、織田信秀へ申し出た。

天界での経験を語る息子の言葉はあまりに重く、信秀は即座に、重臣及び、親官(弾正忠家の親族)を召集させ、最高権力会議をひらいた。

 

各地方を治めている代表たちを前に、信長は微塵も臆する事なく、海軍設立の重要性を説いた。

 

 

 

元々、帝国の造船技術はかなりのもので、船体の設計にはさほど苦労はしなかった。

今まで戦艦を建造してこなかったのは、帝国軍の存在による慢心と、数百年前の天界戦争がありはしたが、戦ったのは帝国軍陸上部隊。

 

今やその戦争も終結し、天界とはかけがえのない同盟国となった。

こうして、再び平和な時代が百年以上続いたため、戦争への懸念や、危機感が欠如していたことは、否めない。

 

 

最高権力会議を終え、無事、

 

弾正歴2770年 「大弾正忠帝国海軍」が設立。

 

こうして信長は、創設者として、ゼロから海軍を創り出す。

 

設立当時の信長は、まだ35歳。

 

まだまだ未成年の学生であったため、成人するまでの間は、普通の学生生活を送りながら、学校帰りに海軍へ赴き、天界で得た経験を基に、海軍の訓練方法などを研究、実践する日々を続け、現在の帝国海軍の礎を築いてきた。

 

 

戦艦に関しては、海軍設立前から、研究、建造に取り掛からせていたので、それに関しては滞りはなかった。

 

天界海軍は、木製の巨大な帆船であったが、信長は、鉄でできた自動推進巨大タンカーや、貨物船を建造可能な造船技術を見込み、海軍設立前から、当時、最も高度な造船技術を誇っていた九鬼造船工廠へ戦艦の建造を命じた。

 

その結果、堅牢な鋼鉄に覆われ、巨大な大砲を備えた、頑強な戦艦の開発に成功。

 

天界海軍の大砲とは遥かに違い、帝国海軍の軍艦の主砲は、周囲を鋼鉄で守り固められ、艦体と主砲塔は、自ら放った主砲弾にも耐えられるよう、頑強に設計された。

 

その後、あらゆる実験や研究を行い、その艦体と、主砲の口径、艦数を増やしていった。

以上が、帝国海軍創設の由来である。

 

士官学校編2 に続きます

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