「あ〜、えと。はい、テスト初め。」
試験監督が腕時計を見て、指定の時間になったのでテスト開始の合図を出した。その声に、皆一様に同じ行動をとる。
そう、ペンを持つのだ。
テストはいかにどれだけの問題を解くことができるのか。そこが重要になってくる。わからない問題は即座に「わからない」と判断し、次の問へ移るのも大事なのだ。
俺、十川 瑠初人(とがわ るうと)はこの高校にこの方法で見事合格した。
大丈夫。今までと同じことをやればいいだけだ。
同じことを......
ガサゴソ。
「?」
ふと、右斜め前の生徒が視界に入る。なんだろうか、妙な動きをしている。いや、見ない方がいいのだろう。カンニングと疑われてしまうかもしれないし。
だが、いったいなにを...?
テストに視線を向けつつ、視界にその生徒を捉える。
少し茶髪がかっていてふわりとしたセミロングくらいの髪。細い足に、整った顔立ちの女子生徒だ。
ガサゴソ。
「ん...なにを...?」
やっぱりおかしい。
俺はペンを置いて頬杖を付く。そう考えるふりをしながらその女生徒の行動を見つめる。
彼女の名前は「矢流出・りこた」
外国からの帰国子女と言うやつらしい。
あまり絡んだことは無いが、女生徒からの人気はもちろん高く、さらにその容姿と明るい性格に惹かれた男性は多いらしい。
そう、俗に言う(言わない)HS(ハイスペック)JKだ。
そんな子がテスト中に何をしているのだろうか。行動をひとつずつ分析していく。
まず、彼女は周りをキョロキョロと見回り、先生が見ていないことを確認する。
そして次に机の中にペンを持っていない方の手を突っ込んだ。
そしてその瞬間に輝く目。
「!?」
俺は見てしまったようだ。
帰国子女というやつの闇を。
そう、彼女はカンニングペーパーを机の中に隠し持っていたのだ。
恐らく外国にもこのような手で留学していたのだろう。
あぁ、俺がこれを試験監督に話したらどうなるか。
あいつは想像もつかないだろうなぁ?これでお前のバラ色だった高校生活も終わりだ。じゃあな人気者さん。
俺は静かに手を上げる。その時の俺の表情は生まれてから1度もしたことがないくらい爽やかだったと思う。
もちろん、ペンが落ちたわけでも消しゴムが落ちた訳でもない。
要件はもっと別にある。
何をするのかって?こんな状況だ。答えはただ一つ。
____密告だ。
試験監督である翠先生は手を挙げている俺に気づき、少しずつその足を進める。
近づく度に頬が緩み、今にも口に出しそうになる。
だがまだだ。まだ耐えろ瑠初人。
翠先生は尚も歩みを進める。この時間がとても長く感じられた。
そうだ、そのままこっちだ。今いいネタを提供してやる。そしてりこた。お前の楽しかった高校生活に終止符をうってや.....る?
カンニングペーパーを見つめているはずのりこたが、何故かその手を机から堂々と引き抜いて見せた。
一瞬は翠先生が近づいてきてまずいと思い手を抜いたんだと予想していた。
だが、違った。その手にはブツがしっかりと握られていたのだ。
そしてなんと何を思ったのかりこたはそれを口の中へ放り込んだ。紙を食べるなんて。なんて奴だ...
もぐもぐと噛み締め、飲み込んだ。しかも、してやったりと言った感じの満ち足りた表情。
「な...。」
嘘だろ、これはまずい。りこたが証拠を隠滅したとすれば俺の主張は無意味になる。それどころか俺がりこたのことを見ていたのがバレて大恥をかくorカンニング扱いにっ!
な、何とかして別の要件をっ。あ、そうだ。トイレだ!トイレと言えば何も問題はないじゃないか!実際行きたいんだし!嘘をついたことにもならない!
くそ!りこたの奇行には驚かされたが、なんとか俺もここを凌いでドローって感じか。
俺の机の横まで来た翠先生は「どうしたんですか?瑠初人くん」と言って俺を見つめた。
「あ、えとトイレに行っても...」
「そのテスト提出してからならいいですよ。」
「え...?」
今、なんて言ったんだ?嘘だろ?飛ばし飛ばしやったからまだ5問くらいしか解けてないぞ!?
「カンニングの恐れがあるので、提出してからにしてください。それとも、我慢できませんか?」
「あ〜えと。我慢できます。」
翠先生ってこんなに厳しかったっけか?テスト期間だからピリピリしてるのかも。
翠先生は「そうですか?頑張ってください。」と言ってそこから離れ、教卓へ。
「ん〜。」
なんとかドローにはなったものの、やはりまだ煮え切らない。まさかりこたが証拠隠滅のために紙を食べるとは...。なかなかやるな。
そう思い再びりこたの方を見る。
「えっ。」
すると、俺の視界に飛び込んできたのは再び手を机の中に突っ込んで目を輝かせているりこたの姿。
いったいどういう事なんだ?カンニングペーパーは飲み込んで証拠隠滅したはず。
複数所持していた?いや、なら最初の1枚をわざわざ食べて消し去る必要はなかったはず。
いったいあの机の中にはなにが......?
見たい。あの中を見たいっ。
「ん...もうちょっと...」
もう少し顔をずらせば見えそうだ。
もう少し、もうちょっと。
「見えそう...」
「瑠初人くん。」
「えっ。あっ!」
視線を声の方向へ向けると、そこには怒りの表情を露わにした翠先生の姿。先程から怪しいと思って俺のことをロックオンしていたのだろう。
それに加えて、俺の先程の視線。終わった。
視界の端でりこたがこちらを見て驚いているのが見えた。
「瑠初人くん。あなた今りこたちゃんの答案見てましたよね?カンニングと見なしてあなたの点数は零点とします。異論は認めません。」
「えええええええええっ!!!」
※
結局、今回のテストは零点とされたうえに。反省文を用紙5枚明日までに提出。出来なければ1週間の自宅謹慎。
なんでこんな目に...
皆が明日のテスト勉強をするために家へ帰り、空っぽになった教室の自席に座り反省文を書くこと2時間。ついに反省文は5枚目に突入した。
というところでペンを進める手が止まる。
これ以上何をどう反省しろというのだ。カンニングなんてしてないし、まぁ行為は周りから見ればそれに当たるのかもしれないが。
「はぁ...」
ペンを置き、机に突っ伏して溜息をつき、少し顔を上げる。すると教卓側のドアからこちらを見ている人影が見えた。
「?」
「え、えへへ」
なんと、そこに居たのは俺が反省文を各原因となったりこただった。
りこたは俺が気づいたとわかった途端に顔をひょこっと出してはにかんだ。
「今すぐ殴りたい。」
「えええ!なんか心の声が漏れてる気がするんだけど!!」
「何?なんか用事でも?」
冷たく俺が問いかけると彼女はこちらまでへんてこな足取りで歩いてきた。フラフラしすぎだろ。
「えっと、カンニング...」
「してねぇわっ!!」
「だ、だよね!なんかごめん!でもだとしたら何見てたのかなぁって!」
俺が怒鳴ったせいで驚き声を荒らげるりこた。話したことなかったが、こんな感じの子なのか。
てかなんか光った?いや、気のせいか。気にしないでおこう。
なんというか、この子バカっぽい。
帰国子女ってもっと自身に満ち溢れてて、上から目線で「バカじゃないの?」とかって感じで、弐号機って呼ばれる赤い汎用人形決戦兵器に...おっといかんいかん。
「何って。」
そうだ、俺はこいつの机の中を見ようとしていたのだった。
まさか、よっぽどまずいものをいじっていて、ソレを俺に見られたのではないかと確認しに来たのか?
確認してどうするつもりなのだろうか。
そういえば先程から手が後ろで組まれているな。
さっき何か光った気がしたし、何か持って...
「ねぇ、なんで答えないの?」
後ろにあるものを見ようと顔をずらそうとしていたが、その問いかけの声の冷たさに驚き顔に視線を向けると、先程とは明らかに顔が違った。馬鹿っぽさが抜け、黒い光の宿った目がしっかりと俺のことを捉えていた。
「ひっ...」
驚いて思わず変な声が漏れる。
こいつ、なんかやばい。女子特有の裏表ってやつか?!
「ねぇ。瑠初人くん?答えて?ねぇ、じゃないと...」
俺の脳は急速に回転を始めた。
この言動。表情。行動。そして表に出そうとしない両手。そこで光る何か。
テスト中に俺が当人にとってまずいものを見ていると思っているりこた。
それがどんなものなのかはわからないが、自分にとってまずいものを見られたならその人をどうする?そうだ。それしかない。
____消すのだ。
「お、お前...まさかっ」
「あははっ。やっぱり見ちゃったんだね。それじゃあ...仕方ないよねぇ?」
途端、りこたはさらに1歩前へ。
俺は席を立ち1歩下がる。椅子は俺が立ち上がった拍子に横へ倒れた。
「瑠初人くんっ!」
この動き、このままでは後ろに隠していた包丁、ナイフ。その類のものを持ったままの手が前へ、恐らく俺へ向けられる。
まずい。このままの状況では俺は殺され
「これ。」
「へ?」
彼女の手が前へ出た。この手にはキラリと光るものが握られていた。
「これって...」
「テスト中にどうしても我慢出来なくて...食べちゃったんだ/////」
その手に握られているものには見覚えがあった。
それは俺の家の近くに売られている「板饅頭」だ。
板のように、いや。この場合紙のような見た目と言った方がいいか。
とにかく、そんな見た目の饅頭だ。意外と人気があり、地元の隠れた名産品と言われている。
ちょっと待て。ってことは今までのことを整理すると...
テスト中りこたはお腹を空かせて机の中に隠していた板饅頭を食べていた。
それを俺はカンニングペーパーと勘違いし、告発しようとするが失敗。中にあるものも見ることが出来ず翠先生に見つかり罰を受ける。
りこたはおやつを隠し持っていたことをバレているのではないかと思い、俺に確認をしに来た。
俺が包丁、ナイフの類の光る刀身だと思っていたものは板饅頭を包んでいる銀の袋。
全て理解出来た。ならば俺がするべきことはただ一つだろう。
「とりあえず。りこた。」
「何?」
俺は1歩前へ進みりこたの手首を乱暴に掴む。
「ええっ!なになに!?」
俺はニッコリと微笑み一言
「職員室行こっか☆」
最初の登場人物はりこたでした!
次は誰になるでしょうか!