オフの日に自分の部屋でダラダラしていた塩見周子。
小早川紗枝はそんな彼女に一緒に買い物に出かけようと提案する。
最近いそがしく遊びに行けなかった周子はノリノリでそのデートの提案を受けるのだった。
アイドル二人が一日中色んな場所を歩き回って、最後にはホテルに入ってしまって!?
要するに二人がひたすらいちゃつきまくるSSです。砂糖を吐いてくれたら嬉しいです(?)

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命燃やして恋せよ京娘

「ん、ん~……」

 

口から言葉でもない音を出して塩見周子は目を覚ました。

決して朝は強くはない。まだ思考は散漫で身体はだるい。

身体はまだ温かい毛布に包まれている。熱がこもったベッドは実に気持ちのよいものだ。

 

カーテンからは朝の光が差し込み、外では小鳥がチュンチュンと鳴いている。

実に気持ちのよい朝だと人は言うかもしれない。

 

しかし万年低血圧の周子からすればどうでも良いことだった。

朝が苦手な彼女は朝は非常にテンションが低く元気もない。

朝ごはんを食べるまで基本的に頭はほぼ働いていないと言っても過言ではない。

 

―――いっそこのまま寝直そうかなぁ。というか今何時よ

 

呆けた頭でぼんやりとそんなことを考える周子。

とりあえず時間を確認するため上半身だけ身体をゆっくりと起こした。

布団から上半身が出てしまったがそこまで寒くはなかった。

 

 

どうやら暖房が効いているのか、何も着ていなくてもそこそこの暖かさである。

もちろん布団には劣るがそこまで不快というわけではなかった。

 

「………というか、なんで私素っ裸なのよ」

 

よく考えたら何故自分は何も着ていないのか。

いくら私生活が適当な塩見周子でも流石に寝る時にはシャツ一枚にパンツくらい着るものだ。

 

さては寝ぼけて脱いでしまったかのかもしれない。

と、夢現の時特有の思考で適当に結論付ける。

別に部屋で服着てなくても誰に怒られるわけではないから別段重要でもなかった。

 

寝ぼけ眼でも見えるように目をこする。

そして普段自分が時計を掛けてある壁の位置に目をやろうとすると。

 

「どこ………ここ………?」

 

周子の視界に入ってきたのは見知らぬ光景だった。

 

壁には牡丹や椿、桜と言った花模様がギッシリと描かれている。

天井には撮影で使ったような和風の傘を用いた間接照明。

ベッドの向かい側には壁掛けのテレビ。ベッドは床と非常に近く寝返りで落ちても心配そうだ。

 

更にソファーやテーブル、加えて旅館にありそうな座椅子もある。

いかにも和風、というコンセプトで作られたように感じられる部屋だった。

 

「ホテル………?」

相変わらずのぼーっとした声でそう呟く。

 

これが周子の自室なら客を呼んで金が取れると言うものだ。

間違いなくどこかのホテルだった。随分と芸術的な場所である。

 

しかしながらロケ先のホテルにしては随分奇妙だった。

確かにプロデューサーはそこそこ綺麗なホテルを用意するが

こんなラブホテルのような場所に自分のアイドルを泊まらせるだろうか………?

 

「ラブ………ホテル………?」

 

脳内を掠めていったその単語に引っかかる。

 

寝ぼけていた思考が加速し、徐々に明瞭になっていく。

何故こんな場所にいるのか、ここはどこなのか、何故ベッドで寝ているのか。

 

 

 

すぐにある一つの仮説に辿り着いた。

 

 

恐る恐るベッドの隣に目をやる。その可能性が正しいかどうか検証するために。

そしてそれは案の定正しかった。

 

 

 

周子が眠っていたダブルベッド。その隣には一人の少女が眠っている。

 

長く美しい黒い髪に端正な顔立ちはいかにも大和撫子らしい。

それでいてまだ幼さものこる可愛らしい寝顔。

身体の大部分は毛布で隠れているが、僅かに覗かせる鎖骨のラインと肩は十二分に艶めかしい。

 

そして彼女もまた周子と同様、生まれたままの姿で穏やかに眠っていたのである。

 

 

「や………やってもうた………」

 

思わず震え声が漏れる。

普段標準語寄りの周子が思わず方言で喋ってしまうくらい動揺してしまった。

 

昨日の夜のことを思い出し、急速に羞恥心と自責の念に駆られる。

正直信じられなかった。だがすっかり回復した彼女の思考はそれが真実だと如実に伝えていた。

 

 

 

 

自分が小早川紗枝とラブホテルに入り、そして一夜を共にしてしまったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子寮の自室。朝早くから塩見周子はベッドで漫画を読みながらダラダラしていた。

 

今日は珍しく一日オフである。

最近はやれライブだやれ撮影だと忙しかったので周子としては休みは大歓迎であった。

 

しかしいざ休みとなると特にやることもなかった。

仕方ないので以前同僚の神谷奈緒というアイドルから借りていたおすすめの漫画を読んで暇をつぶしていた。

アニメ好きの彼女がおすすめするだけあってなかなか面白かった。

 

「いや~こうやってのんびりするのって実にしゅーこちゃんらしくて良いよね~」

 

すっかり気の抜けた声で独り言を言う。

 

元々塩見周子は熱心に何かに取り組むタイプでは決してない。

無難に適当に、それをモットーに過ごしてきたのだ。

京都の実家ではしょっちゅう怒られていたが、それでも周子にはその生き方が似合っていた。

 

「ま、そんな私がそれなりに頑張ってるだからわからないものだよね~」

 

そんな彼女がアイドルなど全然合わないだろうと思っていた。

しかしプロデューサーがどうしてもとナンパしてくるから仕方なく付き合ってあげたらこの始末だ。

瞬く間に人気が出て、CDも出して番組にも出てライブやユニットでの活動でも多かった。

 

特につい先月、「美に入り彩を穿つ」という曲で京都へ凱旋ライブしたのだ。

アイドルとして故郷に帰り、全力でライブをした。

半ば追い出された形の両親とも話した。

 

古い和菓子屋なのに周子のポスターが張ってあって思わず笑ってしまったが。

どうやらあれでいてかなり応援しているらしい。

嬉しかったのでポスターにサインをサービスしておいた。

 

 

結局のところ、アイドルはすごく楽しい。

そして自分が情熱を持って取り組める最高の舞台だ。

そんなステージに招いてくれたプロデューサーと仲間たちには今も感謝しか無い。

 

 

「って、柄にもないこと考えるもんじゃないな~。引退するわけじゃあるまいし」

 

そう言って再び漫画に意識を傾けようとしたところ。

 

『いま こんちきちん こんちきちん 祭囃子がおこしやす』

 

という歌詞と軽快なメロディーが聞こえてきた。

普段着メロとしている『花簪 HANAKANZASHI』という曲だ。

塩見周子のお気に入りのナンバーだ。

 

「ん?電話?誰からだろ」

 

ポケットからスマートフォンを取り出す。

 

―――お仕事関連じゃありませんように~!

と、そう願いつつ画面を見る。

 

するとそこには、先程の着メロのアーティストの名前が書かれていた。

躊躇わず着信ボタンを押す。

 

「もしもし~紗枝ちゃん?」

 

「もしもし、周子はん。お元気どす?」

 

「もちろん、紗枝ちゃんこそ元気~?」

 

「それはもちろん絶好調どすえ」

 

電話の相手は小早川紗枝。周子と同じ京都出身のアイドルだ。

普段から和服を着ていて京美人というオーラを常に醸し出している少女。

そして「美に入り彩を穿つ」でも共にライブをした周子の大親友である。

 

「それで何か用?しゅーこちゃんの声でも聞きたくなった?」

 

「そうどすなぁ。確かにかいらしい周子はんの声を聞くとうちも安心するさかい」

 

「私も紗枝ちゃんの声聞くと安心するからお互い様だね~」

 

電話を通して二人で笑い合う。

 

こんな感じで同郷という事もあってか昔から二人は仲が良かった。

今では羽衣小町、というユニットで仕事でも度々同じ仕事に出たりするので

なおさら親しい仲になっている。

 

「それで、周子はん?今日は確かオフやろ?せっかくやし、一緒に買い物にでも行きまへんか?」

 

「おっ、良いね~。何か美味しいものでも食べたいな~。ラーメンとかどう?」

 

「もう、周子はん。京の人に東京のラーメン食べ行こうなんて度胸ありますなぁ」

 

京都というと伝統的な和のイメージが強いかもしれないが、実は京都ラーメンというのはかなり大人気だ。

それも淡白な味付けではなくこってりとした濃いめのスープが主流である。

東京では京都風の薄いラーメンというのが流行ったことがあるが

京都人からすればないないと笑ってしまうものである。

 

「いやいや、こっちのラーメンも美味しいって。こってり濃厚豚骨ラーメン食べたくない?」

 

「京のラーメンは醤油やけど………それも美味しそうどすなぁ」

 

「でしょ?よし決まりね~。紗枝ちゃんはどこか行きたい所あるの?」

 

「そうどすなぁ………うちは新しいお洋服を買いたいどすなぁ」

 

「おっ、紗枝ちゃんが洋服か~!周子ちゃんがばっちり見繕ってあげるよ」

 

「ふふっ、頼もしいどすなぁ。それじゃあよろしゅうお願いします」

 

小早川紗枝は普段から和服を着こなしている。

正直最初はキャラ付けの一貫なのかと思っていたが私生活でも着ていて驚いたものだ。

いくら京都人と言え今日日和服を着ている人などおばあちゃんくらいなものだ。

 

そんな彼女が自ら洋服を買いたいと言い出したのだ。

これは彼女に似合うものを是非とも選んであげたいものだ。

 

「それで、他に行きたいところはある?」

 

「ん~………特にはあらしまへん。うちは周子はんと一緒にいれるだけで楽しいさかい」

 

「奇遇だね~私もなんだ~」

 

また二人で笑いあった。

 

二人で一緒にいると楽しいし余計な気苦労もしなくて済む。

お互いがある程度干渉して、またある程度干渉しない絶妙な距離感。

それが羽衣小町の良いところだと周子は思っている。

 

「それにしても二人で一緒に出かけるとかまるでデートみたいだね」

 

「もう、周子はん?うちらかっぷるとちゃうんどすえ?」

 

「それもそうか、まぁ私達もう夫婦みたいなところあるじゃん?」

 

「それもそうどすなぁ。それなら、旦那はん、駅の前で集合でええどすか?」

 

「もう、紗枝はんがお嫁さんとか幸せものだな~。それじゃ今から準備するね~」

 

そう言って電話を切った。

 

「さて、それじゃ準備しますかね~」

 

開いていた漫画を閉じて着替えの服を探し出した。

彼女とのデートに無意識に心を弾ませながら。

 

 

 

 

某駅前。出勤ラッシュからは時間が経っているがそれでも東京は人が多い。

そんな人混みの中、小早川紗枝は駅前の像の前に立っていた。

待ち合わせ、主に友人やカップルとの間でよく使われる犬の像だ。

 

京都も人が多いと言えば多いのだが、やはり東京の方が多いような気がする。

今日は土曜日なので平日よりは少ないはずなのだが、それでも当たりは人で溢れかえっていた。

空も曇っていて少しばかり窮屈な印象を受ける。

 

これは日本の労働環境が悪いのか、あるいは休日に外で遊ぶ程度の余裕はあるということなのか。

もっとも一応アイドルである小早川紗枝には平日休日の違いなどあまり関係ないのだが。

 

などと暇を持て余し思案に耽っていた。

現在の時刻は十時五十分。

集合の時間までまだ十分ほどある。若干早く着いてしまった。

 

 

塩見周子は割と適当な性格をしているので

こういうプライベートでは良くて時間ギリギリ、大体数分くらい遅刻してくる。

仕事だと余裕を持ってきているのだが、どうも私事だとダラダラしてしまうらしい。

 

「まだかなぁ………周子はん………」

 

そんな独り言を呟き、手元のスマートフォンに目をやる。

何かを楽しみにしている時、時間が経つのは遅く感じられるものだ。

あと十分、と確認してからまだ数分しか経過していなかった。

 

ため息をついて電源を切る。

どこかに暇つぶしに行くほど時間があるわけではない。

このまま待ち続ける事を選択し再びどうでもいい思考に入ろうとしていたところ。

 

 

 

「ねぇそこの君。超可愛いね、芸能人?」

 

という声が聞こえてきた。

わざとらしく顔をそらす。

 

 

 

今日小早川紗枝は洋服を着ている。

彼女にしては珍しいロングスカートでおしとやかさを全面に出している。

もっとも彼女はあまり洋服を持っていないので意図しないものであったが

 

 

普段から和服を着ているため、今日も和服でと思ったのだが

流石に私事で和服を着ていると否が応でも目立ってしまう。

そういうときは目立たない洋服が適当であった。

 

というか和服というのはアイドル小早川紗枝のトレードマークみたいになっている。

つまり、洋服を着ている彼女に芸能人かどうか聞く、という事は本当にわかっておらずおべっかを使っているか

あるいは芸能人だとわかった上で聞いている、いわゆる確信犯(本来は誤用である)であるかのいずれかだ。

 

 

「良かったらそのへんでお茶しない?良いお店知ってるんだけど」

 

性懲りもなくナンパを続ける謎の人物。

声はフランクな調子で、それでいて嫌味な様子はない。

そして自然に距離を詰めてくる。ナンパの手口としては中々やり慣れている感じだ。

 

 

―――まぁ、ナンパ師としては及第点だろう。

 

 

「申し訳あらしまへんが、うち人を待ってんのどす」

 

そう言ってナンパ師の方へと顔を向ける。

そして手を伸ばし、その人物か着用していたサングラスをすっと取った。

彼女にナンパしてきた人物の顔が顕になる。

 

「塩見周子、という方なんどすけど、心当たりはあらしまへんか?」

 

ニッコリと微笑んで尋ねた。

演技は及第点だった、というメッセージを込めて。

 

「あちゃーバレてたか~」

 

そう言ってサングラスを取られた塩見周子はハハハと笑った。

 

「うちをナンパする人なんて周子はんくらいなもんやで?」

 

「いやいや!紗枝ちゃんは可愛いから誰に声掛けられるか心配でさ~!」

 

「もう、口がうまいどすなぁ」

 

「大丈夫、紗枝ちゃんが可愛いってのは本心だから」

 

「おおきに。せやけどそれを言うたら周子はんもかっこええどすよ?」

 

「そう?ありがと~。やっぱり彼氏っぽい格好にしないとね。なんてったって紗枝ちゃんとのデートだし」

 

塩見周子はほぼ男装に近いような服装だった。

 

ベレー帽にパーカー、ジーンズと一見すると男性と見間違う程の外見だ。

それにサングラスを付けたら中々のイケメンに見える。

ナンパにころっと付いていってしまう女子もいるかもしれない。

 

「そのでぇとの初めからナンパするなんて、ほんま周子はんは色好みやなぁ。一体何人にそう言ってきたん?」

 

少し嫉妬した様子を見せてそう皮肉ってみせる。

 

「大丈夫、もちろん紗枝ちゃんが初めてだから。それにしては上手くいってたでしょ」

 

「まぁそこそこどすなぁ」

 

「手厳しいなぁ………あ、バッグ持とうか?」

 

「ふふ、重くないし結構どす。それにしても今日はどないしたんですか?」

 

「え、何が?」

 

「遅刻常習犯の周子はんが時間より早く来たから驚いてんのどす」

 

「そりゃもう、愛しの紗枝ちゃんに会えるとなったら急いで来ちゃうのも当たり前かな~」

 

「へぇ~?さすがは周子はん。前は三十分ほど遅刻してきた人は言うことがちゃいますわ」

 

「そ、その件は………ほんとすんません」

 

平謝りする周子。

 

全開待ち合わせした時は彼女は盛大に寝坊してなんと三十分も遅刻したのだ。

流石に紗枝も頭にきて、あえて笑顔で嫌味と皮肉を言いまくる

という京都スタイルでしばらく怒ったものだ。

 

そして周子も、彼女相手に自分が不利になったら即謝るのが正解、と学んだ次第であった。

 

 

もちろん今となっては笑い話だ。二人はそんな茶番を終えると互いに笑いあった。

 

「まぁ今回はちゃんと予定通り行けそうで良かったわぁ。今日一日よろしゅうお願いします」

 

「こちらこそよろしくね、紗枝ちゃん。それじゃあ早速行こっか。どこから行く?」

 

そう尋ねながらも周子は歩き始めた。

紗枝もそれに続いて横に並ぶ。そして手を伸ばし優しく握った。

 

「でぇと、なんやろ?」

 

びっくりする周子にいたずらっぽくそう微笑む。

 

「敵わないなぁ、紗枝はんには」

 

周子はやや困りつつ、それでも頬を緩ませてそう返事をした。

断るほどの理由もない。そうして二人は手をつなぎ合って街へと歩き出した。

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

男の声を皮切りに、何人かの男の声が連続した。

その声に迎えられ、二人はお昼時のラーメン屋に足を踏み入れた。

 

内装は決して汚くはないのだが、雰囲気的に到底女子二人が遊びに来るような店ではなかった。

ざっと見たところ、中はスーツ姿のサラリーマンや男子学生が所狭しと並んでいる。

どうやら自分たち以外に女性はいないらしい。

 

と言っても周子も紗枝もそういうところは肝が据わっているので

その程度で物怖じなどしないのだが。

 

「こりゃ順番待ちかな~」

 

周子が周りをきょろきょろと見渡しながらそう零す。

幸い順番待ちの人はいないようだが席は今空いていないようだ。

 

「ん?周子はん、ちょうど席を席を離れてん人がいてはるで」

 

「お、本当だ。ならすぐに座れそうだね~」

 

そんな事を話していると店員の男性がこちらに近寄ってきた。

 

「何人様ですか?」

 

「二人です」

 

見りゃわかるやろがい、と内心軽い突っ込みを入れながら周子は答えた。

 

「今空いた席を片付けてるんでしばらくお待ちいただけますか?」

 

「構いませんよ~」

 

そう答えると彼は慌ただしく業務に戻っていった。

 

やはりこの時間帯は忙しいのだろう。

店内はそこそこ広いのに店員は四人ほどしか見受けられない。

これは回すのも大変に違いない。

 

などと周子が考えているとすぐに席に呼ばれた。

こちらにお願いします、という指示に従い二人でテーブル席に腰掛ける

 

「それじゃ、早速メニュー見よっか」

 

さっそく二人ともテーブルに備え付けてあったメニュー表を手に取る。

 

「私はいつもの豚骨ラーメンかな~。紗枝ちゃんはどうする?」

 

「うちも周子はんとおんなじものでええどす」

 

「よっしゃ決まり~。すいませーん!」

 

大きな声で手を上げて店員を呼ぶ。

アイドルをやっている賜物かよく通る声だ。

喧騒の中でも店員はすぐに気づいて駆け寄ってきた。

 

「豚骨ラーメン二つお願いします~」

 

その後店員は律儀に注文を繰り返し再び厨房に戻っていった。

 

「周子はんはこの店どれくらい来たことあるん?」

 

「そりゃもう常連よ。ここの豚骨ラーメン美味しくてさ~。結構一人で来ることも多くてさ」

 

「一人で一人でこないなとこに来るなんて度胸ありますなぁ」

 

「そう?慣れたら全然大したことないって。もうここの店員の人たちとも仲良くなるくらい来てるから」

 

「そうなんどすか?せやけど店員はんは知ら無さそうにしてましたで?」

 

「あ~。紗枝ちゃん、あそこ見てみて」

 

周子はカウンター席付近の壁の当たりを指差して見るように促す。

少し遠かったが紗枝も目を凝らしてみてみると、そこには何枚かサイン色紙が飾られていた。

その中には塩見周子、と見慣れたサインが書かれたものも展示されていた。

 

「前お忍びで言ったら店員さんにバレちゃってさ~。そりゃもう大騒ぎだったよ」

 

 

 

 

 

塩見周子、と言ったらテレビでおなじみの大人気アイドルである。

シンデレラガール総選挙、というファンが投票する人気ランキングがあるのだが

以前一位になったこともある程のアイドルで知名度もかなり大きい。

 

そんな彼女が気に入っていたのがこのラーメン屋だった。

ちょうど総選挙で優勝した後くらいから何度も足を運んでいたのである。

 

毎回一応軽く変装していた為バレていなかったのだが

その時偶然来ていた客の中に周子の熱心なファンがいてバレてしまった。

 

 

 

当然店内も騒然としてしまって店員や客からのサイン下さいだの写真撮ってくださいだので

ラーメンどころではなくなってしまった。

 

そこで一通りファンサービスを済ませた後、店にサイン色紙を置いて

 

これからもこの店に来てラーメンを食べたいから、今後私が来たときは知らないふりをしてほしい。

 

とお願いをした次第であったのだ。

 

 

それからも何度か来ているが要望通り知らないふりを続けてくれている。

特に声をかけられることもないし、前より変装もちゃんとしているからバレることもなくなった。

 

ちなみに周子がラーメンを頼むとチャーシューとか卵とかおまけしてくれている。

ちょっとしたことだが、アイドルやってて良かった~と周子が幸せになれる瞬間である。

 

 

 

 

「と、言う訳だったんだよ~………って紗枝ちゃん聞いてる?」

 

というあらましを紗枝に説明しているのを紗枝は笑顔で聞いていた。

 

「もちろん聞いてたで?周子はんがとっても嬉しそうに話してるのをかいらしいと思いながら」

 

「もう、からかっちゃって~」

 

 

そんな話をしていると間もなく店員が再びやってきた。手にはお盆にラーメンの器を二つ乗せている。

 

「お待たせしました~豚骨ラーメン二つですね。いつもみたいにトッピングおまけしてます」

 

そう言って机の上に二人分の器を運んだ。

豚骨の香りが鼻孔をくすぐり食欲をそそる。

 

「おっ、おおきに~」

 

「あとすいません周子さん………そちらの方ひょっとして………」

 

声を細めて店員がこっそりと聞いてくる。

そちらの方、とは向かい側に向かっている紗枝のことだ。

 

「はじめまして、小早川紗枝と申します。いつもうちの周子はんがお世話になってます」

 

店員の意図を察したのか紗枝も自ら名乗った。

 

「や、やっぱり紗枝さんだ!自分羽衣小町の大ファンなんです!」

 

「って、私が店に来てからハマったんやろがーい」

 

「はい。でも周子さんと一緒に歌ってる紗枝さんも大好きで!」

 

その青年は嬉しそうにそう言った。思わず周子もツッコミを入れてしまう。

少し声が大きくなってしまったが周囲もかなり騒がしいので

幸い周りには聞こえなかったようだ。

 

「ふふっ、そう言うてもらえると嬉しおす。あとでうちもサイン書きまひょか?」

 

「は、はいっ!それでは失礼します!」

 

店員は目を輝かせて首肯した。

そしてまだ仕事中なのを思い出したのか急いでどこかへ言ってしまった。

 

「さて、それじゃ麺が伸びる前に食べちゃおうか」

 

「そうどすなぁ。それにしてもこのラーメン………すごいどすなぁ」

 

若干紗枝は瞠目していた。

 

「でしょ?でも病み付きになるだなーこれが!」

 

周子はその間にも近くの割り箸を取って食べる準備を始めている。

 

二人の眼前には注文した通り豚骨ラーメンが置かれていた。

しかしただの豚骨ラーメンではない。

 

チャーシュー麺では無いはずなのにチャーシューが大量に乗っている。

ネギやメンマも大量にあって正直麺がよく見えない。

 

とりわけすごいのは大量の脂だ。

これでもかと乗せられた白い粉は見ているだけでもたれてしまいそうだ。

しかし昼時で空腹である二人にとってはとても魅力的な品であるのは言うまでもない。

 

とりあえず二人でいただきます、と唱えてから麺を口に含む。

 

案の定背脂全開の豚骨の香りが染み渡る。

太めの麺とスープがよく絡み合っているためしっかりと味を感じられる。

ずずずっと一気に啜る。鼻に抜けるにんにくの香りが食欲をより煽った。

 

「美味しいどすなぁ」

 

思わず紗枝もそう感想をこぼした。

さすが周子がハマるだけはある。

京都のこってりとした醤油ラーメンとはまた別のベクトルの美味しさであった。

 

「やっぱ美味いわー!この感じサイコー!!!」

 

目の前には袖をまくってガツガツとラーメンを夢中で食べている塩見周子がいる。

 

具材を口に放り込んだりスープを蓮華で音を立てて飲んでいる。

しかもかなり音を立てているのでお世辞にも品があるとはいえなかった。

これがシンデレラガールと言って一体誰が信じるだろうか。

 

「周子はん?流石にお行儀悪いどすえ?」

 

「大丈夫大丈夫、こういうのは無礼講だって」

 

流石にアイドルとしてその見た目はどうなのかと注意したものの特に聞く気もない。

もっとも紗枝とてそこまで気にする方ではないのでこれ以上つもりはなかったのだが。

 

 

 

 

そうやってしばらく二人で談笑しながら美味しく頂いていたのだが

紗枝には一つ問題が発生していた。

 

「これ………流石にしんどおす・・・」

 

食べるのが苦しくなってきたのである。

 

決して量は問題ではなかった。

紗枝とて別に少食というわけではない。

ラーメン一杯くらいだったらギリギリ入るくらいの胃の容量はある。

 

問題はやはり大量の背脂だ。

普段こういったラーメンは食べ慣れていないのでもたれてしまった。

普通の豚骨ラーメンと言われたので多少侮っていたが想像以上の脂の量だった。

 

「大丈夫?紗枝ちゃん?」

 

そう言いながらも周子はえげつない量の脂質を誇るラーメンを食べ続けている。

器の中身を見るとスープもほぼ無くなっていてほぼ食べ終わっているような状態だった。

彼女も十分細い体をしているのに一体何処に食べ物が入っているのか、紗枝は不思議に思った。

 

「良かったら食べてあげようか?」

 

「まだ食べられるんどすか?」

 

「よゆーよゆー!これくらい慣れたもんよ」

 

「そうどすか。ならお願いします」

 

そう言って紗枝は器に箸と蓮華を乗せたまま彼女の元へとすべらせる。

周子はちゃんとどかして自分の箸で食べるだろう、と思ったのだが

彼女はそのまま紗枝の箸と蓮華で食べ始めた。

 

「いや~紗枝ちゃん、このくらいでへばっちゃうとかまだまだだね~」

 

笑いながらそういう彼女に、流石の紗枝も少しムッとした。

 

「それより周子はん、どないどすか?うちとの間接キスは」

 

そこで蓮華でスープを啜る彼女に笑ってそう言い放ってみた。

彼女にとって全くの不意打ちだったようでゴホゴホと咳をしている。

 

「周子はんも、十分可愛いどすえ?」

 

「さ、紗枝ちゃん~!」

 

少々顔を赤くしながらそう返す周子。

 

意趣返しには成功した。

と内心ほくそ笑む紗枝であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ・・・こらちょい迷うてまいそうどすなぁ」

 

「あれ?紗枝ちゃんここ来るの初めてだっけ?」

 

「そうどすなぁ。こんな広いしょっぴんぐもーる来たのは初めてやさかい」

 

二人はラーメン屋で食事を済ませた後、都内有数の巨大ショッピングモールに来ていた。

 

休日の昼間とだけあって人の数は想像を絶する量であった。

家族連れやカップル、友人同士など様々な人が行き交っている。

これだけ人が密集していれば紗枝たちがアイドルとバレるリスクも少なそうだ。

 

店も所狭しと並んでおり、フロアでは何かイベントのようなものも行われている。

横だけでなく縦にも広く、首を上に曲げれば痛くなるほどの高さを誇る迷宮だった。

少し気を抜けば地理感がない紗枝など迷子は必至である。

 

「で、紗枝ちゃんが行きたい洋服屋さんは何処だったっけ?」

 

「えっと、確か五階どす」

 

事前に紗枝が調べてきた情報によると

目的のセレクトショップはこの施設の五階にあるらしい。

 

おしゃれな雰囲気で人気の店らしいので行ってみたいと思ったのだが

まさかこんな蟻の巣のような場所にあるとは思っていなかった。

周子と来てよかった、と内心ほっとするのだった。

 

「私は何回か来たことあるし、一緒に探してみよっか」

 

「おおきに、ほな行きまひょか」

 

そう言って紗枝は周子の隣に立って歩き始めた。

すると間もなく周子が手を伸ばし、そして紗枝の手をしっかりと握った。

突然だったので多少面食らって周子の顔を見る。

 

「ほら、迷子になっちゃうでしょ?だからちゃんと握っててね」

 

そう周子は朗らかに笑った。

まるで本当に彼氏みたいだ、と紗枝は思わず頬を綻ばせてしまった。

 

 

やはり周子と一緒に来てよかった。

 

だってただの買い物で、これだけ幸せな気持ちでいられるのだから。

 

 

 

 

 

二人は問題なく件のセレクトショップに辿り着いた。

店に入るやいなやなにかお探しですかと尋ねられたのだが

自分で選びたいと断って二人で服を見回っていた。

 

 

「紗枝ちゃんこれとかどう?結構可愛いと思うよ?」

 

「これは………ちょい露出度高うあらしまへんか?」

 

「そうかな?仕事だったら普通に着るでしょ?」

 

「そらそうどすけど、プライベートで着るのには慣れてまへん」

 

二人は店内のマネキンの衣装を見ていた。

 

上半身には両肩からデコルテまでを出した大胆なトップスが着せられている。

黒い布地でマネキンでもわかるくらい大胆な服装だった。

どうやら最近の流行らしい。

 

ありえないのだろうが

こんなものを着て服がずり落ちたりはしないのだろうかと紗枝は疑問だった。

 

そして下半身はミニスカートだ。

かなり短めでマネキンだと太もものかなり上の方まで見えている。

これも普段人前でこういう服を着ない紗枝にとってはかなり挑戦的な服装である。

 

 

上下共にかなり攻めている服装である。

撮影ならいざしらず、街を出歩く時にこんなに肌を見せるのにはかなり勇気が必要そうだ。

 

「そうかな?普段から紗枝ちゃん肌隠し過ぎだから、これくらいチャレンジしても良いと思うけどな~」

 

「そうどすか………」

 

しかしそう言われると悩んでしまう。

断りづらい、とかではもちろんない。

確かに彼女の言うことにも、チャレンジするのも大事だというのに一理あると思ったからだ。

 

「周子はんは、うちがこないなのを着るのを見とおすか?」

 

少し恥ずかしく思いながらもそう聞いてみる。

見たいと言ってくれたら着るのもやぶさかではない、と思いながら。

 

「そりゃもちろん見たい見たい。紗枝ちゃんの可愛い姿、見たくないわけ無いでしょ?」

 

「もう………周子はんったら」

 

あまりにまっすぐに言われたのでますます恥ずかしく、また少し嬉しくなってしまった。

もし周子が男だったら恐らく相当なたらしであったことだろう。

 

「周子はんがそう言うなら着てみます」

 

そう紗枝は決心して、マネキンの近くに畳んでおいてあった同じ服を手に取った。

そして最寄りの試着室へと二人で歩いて行く。

 

 

 

「はい、それじゃいってらっしゃ~い」

 

その言葉に送られて紗枝は試着室のカーテンを閉めた。

いざ畳んでいた服を広げてみてみると、やっぱり少し緊張してしまう。

 

でもここで引く訳にはいかない。

女は度胸、と心の内で唱えて着ていた紗枝は上着を脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「周子はん?」

 

「ん?どうしたの?」

 

紗枝が試着室に入ってからしばらく経って紗枝はカーテンから顔だけだした。

少し自信なさげな表情だ。

 

「着替え終わったんどすけど………」

 

「おっ、それじゃ早速見せてよ~」

 

どうやらやはり恥ずかしいようだ。でも彼女は少しずつカーテンを開いた。

そして先程の服を着た紗枝の姿が顕になった。

 

「や、やっぱり恥ずかしいどす………」

 

そう言って落ち着きが無さそうに頬を赤らめてもじもじしている。

普段和服や清楚な服を着ている彼女の大胆な装い。

特に彼女の綺麗な肩や健康的な脚が露出されているのが恐ろしく魅力的だった。

 

周子も撮影用の衣装や練習着などでミニスカートくらいは見たことがあったが

それらとはわけが違うものがあった。

 

確かに可愛い。ただそれに加えてどことなく艶めかしさもある。

もうこの姿だけで雑誌の表紙を飾れるレベルだと思う。

それくらい魅力的だと周子は確信していた。

 

「ちょっとやばすぎやろ………」

 

「周子はん?」

 

よく聞こえなかったのか不安そうな表情で尋ねる紗枝。

周子は正直半ば見とれてしまってよく頭が回っていなかった。

 

「いや、ごめん。ちょっと正直可愛すぎて」

 

「か、かわいい?ほんまに?」

 

周子は思わず感嘆の念をこぼしてしまった。

これだけ可愛らしい姿を自分だけが独占していることに優越感すら感じてしまう。

 

そして紗枝はそれを聞いてまた赤くなっていた。

 

「しゅ、周子はんがそういうんやったらこれでよろしおす!」

 

そう言って急いでカーテンを閉めた。

どうやら面と向かって言われたものだから恥ずかしくなってしまったらしい。

 

 

そういうところも可愛いんだよなぁ………

と塩見周子は内心思うのだった。自分も大概惚気だと自覚しながら。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~買った買った」

 

八つ時をちょうど回った頃二人はセレクトショップを出た。

二人の手にはそれぞれおしゃれな紙袋が握られている。

 

「もう、周子はんももっと可愛い服買えばよかったのに」

 

「そういうの趣味じゃないからなぁ」

 

「ほな、今度来たらうちが選んだるね」

 

「うっ、お手柔らかに………」

 

あはは、と苦笑いしながらそう返答する周子。

 

 

 

 

 

 

結局紗枝はおすすめされた服を購入した。

 

その後予定にはなかったがせっかくなので周子も服を選ぶことになったのだ。

紗枝は可愛い服が良いと主張したものの

周子は自分でボーイッシュな服装を選んでさっさと買ってしまった。

 

一応買った服一式は試着室で紗枝も見たのだがこれまた格好良かったのだ。

 

青色のキャップに質素なパーカー、それとジーンズという一見普通のラフな衣装。

それでも周子が着れば素材が良いからか恐ろしく見栄えする。

女の子らしい服を着せようと思っていたのだが、あまりに似合っていたので何も言えなかったのである。

 

 

もう、ほんま周子はんはかっこええなぁ………

 

などと自分でも惚気けていると感じながら。

 

 

 

 

「さて、この後どうしよっか?」

 

「う~ん、まだ大分時間がありますさかい」

 

「そうだね。まだおやつの時間だしなんかないかな~」

 

そう言いながら二人でショッピングモール内をぶらついていた。

相変わらず人の波は絶えることはない。

といっても二人はもう自然に手を握り合っているので迷子になる心配はあまりなかったが。

 

 

 

 

 

「お、紗枝ちゃん。あれ、どう?」

 

「ここは………映画館どすか?」

 

適当に話しながら上のフロアに来ると、そこは映画館の階層だった。

暗めの照明、そこらに貼ってあるポスター

そしてポップコーンの匂いから間違いあるまい。

 

「まぁ暇つぶしにはええどすなぁ」

 

「よし、じゃあ見に行こっか」

 

「何か見たい映画があるんどすか?」

 

「特に無いよ。でも予定もなしに映画見るのって結構楽しいんだ~」

 

「そうなんどすか」

 

などと話しながらフロアのチケット売り場へと歩いていった。

タッチパネル式の無人のものが五機ほど並んでいる。

二人は並んで映画一覧のタブを開いた。

 

「う~ん、どれにしよっかな~」

 

「周子はん?この恋愛映画、ひょっとして周子はんが出演しとるやつちゃいます?」

 

「あっほんとだ!もう放映されてたんだ~」

 

「せっかくやしこれ見ます?」

 

「いや、もう完成したやつ見たことあるから別のが良いかな~」

 

言葉を交わしながらあれこれと物色する二人。

 

「あ、紗枝ちゃんこれどう?」

 

「これは………ホラー映画とちゃいます?」

 

「これCMで見て面白そうだったんだよね~。女の幽霊が追いかけてくるやつ!」

 

「お、オバケどすか」

 

「あれ?もしかして紗枝ちゃん怖い?」

 

「そんなんあらしまへん!」

 

上から軽くからかう調子でそう尋ねる周子。

紗枝はちょっと怒った調子で頬を膨らませた。

 

「よし、それじゃこれにしよっか」

 

と周子はぱぱぱっと二人分のチケットを選択。

代金をいれると即座にチケットが排出された。

 

「時間はいつからかな~。おっあと十分後じゃん!」

 

チケット売り場の上の電光掲示板でタイムスケジュールを確認した。

どうやら次の上映は十分後、それなら今すぐ行っても問題無さそうだ。

 

「よし、それじゃあ行こっか。もし怖かったら抱きついてくれてもいいよ?」

 

「あほにしいひんでくれる?これくらいなんてことあらしまへん」

 

周子の目には強がりにしか見えない態度でそう反発した。

顔も声もそうだったのだが

握っている手の力が強くなっていたのが何よりの証拠のように感じた周子であった。

 

 

そして二人は劇場内におもむろに入っていった。

やはり紗枝の足取りは、すこしだけ重いのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、周子はんなんて知りまへん!」

 

「ね~紗枝ちゃん?ごめんって、そんなに怒んないでよ~」

 

「ほんまにそう思てます?」

 

「思ってる思ってる」

 

「頭撫ぜられながら言われても説得力あらしまへん!」

 

二人はショッピングモールを出て街頭を歩いていた。

頬を膨らませている紗枝を隣で周子が頭をなでながら謝っている、という構図だった。

と言っても周子の表情はニヤけていて、謝罪の意思は全く見えなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

ホラー映画を二人で鑑賞した二人であったが、それはもう大変であった。

 

結局強がっていた紗枝は幽霊や妖怪が出るたびに戦々恐々。

ビクビクするわ目を背けてしまうわ声を上げたりするわで終始怯えていたのだ。

 

それと対象的に周子はポップコーンを口に放り込みながら平然と見ていた。

時には登場するオバケに対して

 

「あ~これ多分裏でキャストさん頑張ってるんだろうな~」

 

などと撮影される側の立場で感想をこぼしたりしていた。

ある意味ホラー映画の感想としては無粋極まりないものである。

隣でそんなこと言われたら、下手すれば映画を見る側としては醒めてしまうかもしれない。

 

しかし紗枝はそんな発言耳に入らないくらい取り乱していた。

 

特に映画後半。

愛する人が死んでしまって、それが蘇ったら化物になっていた。

という展開だった。

 

周子は相変わらずで良い演出だな~くらいに思っていた。

 

ところがそのシーンでついに耐えられなくなったのか

紗枝は周子の腕にぎゅっとしがみついて動かなくなってしまった。

ぷるぷると小動物のように小刻みに震えて若干泣いているようにも見えた。

 

周子も腕を振り払ったりせず黙って腕を貸していた。

というかそのあたりからホラー映画の内容よりも

紗枝の可愛さに内心悶絶する、という事態になっていた周子であった。

 

 

映画が終わった後、しばらく紗枝は動けなかった。

もう終わったよ、と笑っていった後に紗枝が

 

「周子はん・・・怖かった」

 

と上目使いで言ってくる紗枝に対して

 

「紗枝はんちょい可愛すぎちゃう?」

 

と返事をしてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

その発言がきっかけですっかり紗枝は怒ってしまったのであった。

 

 

 

「まぁまぁ紗枝ちゃん。そろそろ機嫌直そ?」

 

と言いながら相変わらず頭を撫でる周子。

 

相変わらず誠意も何もない謝り方だった。

しかし頭を撫でられるという行為で、何故か気持ちが和らいでしまう紗枝だった。

 

「………しゃあないなぁ、周子はんは」

 

若干ため息混じりでそういう声を出した。

すると一応気にしてはいたのか、周子が忽ち笑顔になった。

 

「ほっ、良かったぁ~。このまま紗枝はんが怒りっぱなしだったらどうしようかと思った!」

 

「もう、そこまで子供じゃあらしまへん」

 

ずっと怒っているのも流石に大人げない気がする。

彼女とて紗枝を楽しませようとしてあの映画をセレクトしたのだろう。

それなら結果はどうあれあまり怒るのもよろしくないと思った。

 

 

 

「まぁでも、怒ってる紗枝はんも可愛かったけどね」

 

「周子はん?」

 

「あれ、やっぱり怒ってらっしゃる………?」

 

「別に、全然、これっぽっちも?」

 

相変わらず懲りない女だ。

と若干苛つきながらも笑顔でそう返答する紗枝であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ帰ろっか~」

 

「気がつけばもう七時どすなぁ」

 

「楽しい時間ってあっという間だよね~」

 

「せやなぁ。今日はえらい楽しかったどすえ」

 

あの後二人は通りのカフェや本屋、ゲームセンターなどで時間を潰していた。

無計画に適当にぶらつくというのも存外楽しく、気がつけばあたりはすっかり暗くなっていた。

 

 

 

「それじゃそろそろ帰らないとね。あ、そうだ!私駅までの近道知ってるんだけど一緒に行かない?」

 

「近道どすか?別に構いまへんよ」

 

「よし、それじゃあ行こう!」

 

そう言って周子は紗枝の手を軽く引っ張って比較的狭い路地に入った。

大通りから離れているので人の数はあまり多くはない。

 

紗枝はこのあたりの土地勘はあまりない。

従って周子に任せるのが一番だと思って黙って付いていった。

 

「ん………雨?」

 

「あ、ほんとだ。ちょっと降ってきてるね」

 

そんな中二人で歩いているとパラパラと雨が降り出した。

少しずつ地面が濡れ、周囲には傘を差し始めている人もいる。

 

「ってうわ!?めっちゃ降ってきた!?」

 

と言っていると間もなく土砂降りに移行してしまった。

雨の音が鳴り響き、瞬く間に地面は湿っていく。

二人の髪や服も加速度的に濡れていった。

 

「紗枝ちゃん、とりあえず雨宿り!」

 

考えている暇はなかった。

周子は手を握ったまま近くの雨宿りできる場所へ走る。

そして二人は近くの建物の入口に止まった。

 

「ふぅ………紗枝ちゃん大丈夫?」

 

「ちょい濡れてもうたけど大丈夫どす」

 

そう言いながら二人共持ってきたハンカチで一応身体を拭く。

と言っても大分濡れてしまったので焼け石に水という感じは否めなかったが。

 

「さて………これからどうしようかな………」

 

周子は雨音にかき消されてしまうくらいの声でそうぼやいた。

 

雨はかなり激しく、とても止む気配はない。

このまま濡れていると自分は良くても紗枝が風邪を引いてしまう恐れもある。

プロデューサーか、あるいはタクシーでも呼んで帰るか………。

 

「というかこの建物何だろ?」

 

そう言えば咄嗟に屋根がある場所に入ったのでここが何なのか把握してなかった。

 

とりあえず周りを見渡してみる。

 

目の前には階段がある。どうやらこの階段からビルの内部に入るようだ。

そして壁には大きなプレートが掲げてある。

 

 

そのプレートにはご休憩、ご宿泊、と刻まれてあった。

 

 

周子は絶句した。

ご休憩のあるホテル、で何を意味するのかわからないほど周子も無知ではない。

とは言えまさか、女友達と二人でラブホの入口前に立つことになるとは思っていなかった。

 

「周子はん、どないしたん?そないに固まって」

 

どうしよう、と周子が硬直しているのを不思議に思ったのか紗枝がそう声をかけてきた。

その後周子の視線の先に紗枝も目をやった。

 

 

直後紗枝も同様に硬直した。

耳まで真っ赤にして俯いてしまっている。

紗枝とて十五歳の少女、決して世間知らずというわけではないのだ。

 

 

二人の間に沈黙が広がった。

周子は目線をあちらこちらにやって、紗枝は相変わらず地面とにらめっこしている。

激しい雨音だけが世界に響き渡っていた。

 

 

「こ、困っちゃったね~。まさかホテルの前に来ちゃうなんて」

 

何か話さないと気まずい、と沈黙に耐えられず周子がそう切り出す。

だが紗枝は相変わらず何も返答することはない。

恐らくパニックで何も言えなくなっているのだろう。

 

「で、でも、紗枝はんみたいな美少女とだったらこういう場所全然大丈夫だけどな~!」

 

若干声が上擦ってしまったが、相変わらず冗談交じりで明るく振る舞う。

こうやってセクハラ混じりのジョークを言っておけば

何言うてんのどすか!みたいな突っ込みが飛んでくると踏んだのだが。

 

紗枝の反応は予想外だった。

 

彼女はゆっくりと紗枝の服の袖をつまんだ。

どうかしたのかと周子が紗枝の方を見る。

紗枝は相変わらず下を向いたままだった。

 

しばらくその時間が続いた後、紗枝はゆっくりと口を開きこう言った。

 

 

 

 

「うちも、周子はんとやったら………入っても、ええよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内された部屋は二人が思い描いていたホテルの部屋とは一線を画していた。

 

辺り一面に赤い花模様が散りばめられとても綺麗だ。

傘を用いた間接照明や畳、旅館にあるような座椅子も設置されている。

恐らく和風をコンセプトに作られた部屋なのだろう。

 

部屋に入ると照明は橙色の明かりのみであった。

薄い光で照らされた室内はどことなく遊郭を想起させた。

 

 

「と、とりあえず濡れちゃってるし、シャワーでも浴びてきたら?」

 

周子は部屋に入って荷物を置くと紗枝にそう提案した。

アイドルは身体が資本だ。万が一これで紗枝が風邪を引いてしまうと仕事にも響く。

そういう意味合いで周子は言ったのだが。

 

「………はい」

 

と頬を赤らめて頷いた。

そして背を向けてシャワールームへと入っていった。

 

 

 

 

 

発言した後に周子は自分の迂闊さを呪った。

 

ホテルに二人で入って、その、行為をする前にシャワーに入るというのはよくある流れだろう。

つまり周子の発言は、そういう意味として捉えられてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ど、どどないしよう」

 

部屋に一人残された周子はベッドに何故か正座して独り言を漏らした。

もちろん全身濡れていたので部屋のバスタオルである程度体を拭いた後だ。

シャワーに入るのは面倒だし、紗枝が入っている間濡れているままなのも嫌だった。

 

 

このまま紗枝とそういう行為をしてしまって良いのだろうか?

という疑問が周子の脳内を駆け巡る。

 

 

私たちは女の子同士で加えてお互いに未成年、紗枝なんてまだ十五歳だ。

 

しかし自分は紗枝ちゃんとそういうことをするのは決して嫌ではない。

そういう目で見たことはないにしても、自分は紗枝の事はかなり気に入っている。

もし彼女が了承しているなら自分も乗って良いのでは………?

 

しかし彼女が嫌だと思う可能性はある。

やむを得ずホテルに入っただけで、彼女はそれを恥ずかしがっているだけ。

周子の考え過ぎで、彼女の意図は雨宿りに文字通り休憩するだけ、というところにあるのかもしれない。

 

 

などと脳内で様々な思案を巡らせる周子。

処女のくせに童貞臭い。

と普段の彼女なら自虐突っ込みしそうなものだがそんな思考すら働かない。

 

「あーもう!落ち着け私!」

 

手持ち無沙汰になり、手に持っていたバスタオルで頭をわしゃわしゃと雑に吹き上げる。

もう十分水分は取れていたのであまり意味はない。

だが混沌としている思考を落ち着かせるのに多少は役に立った。

 

 

「やっぱり紗枝ちゃんがどうしたいか、ちゃんと聞かないとね」

 

自分に言い聞かせるように一人呟いた。

彼女の意思がわからない以上、ちゃんと聞くしかあるまい。

 

確かにちゃんと聞くのは勇気が必要だ。

だが相手がどうしたいかわからないまま自分勝手に振る舞って嫌われたり

相手を傷つけてしまうよりはずっとマシである。

 

 

 

そう結論づけ周子は覚悟を決めた。

そしてそれを見計らったかのようにシャワールームの扉が開いた。

 

開かれようとした周子の口は、紗枝の姿を見て固まってしまった。

 

「周子はん………」

 

部屋に入ってきた彼女は頬を染め、恥じらいながらもそう呟いた。

 

「こないな格好、えらい恥ずかしおすけど………」

 

そう言いながらゆっくりとベッドへ近づいてくる彼女。

周子はその光景に完全に硬直してしまった。

 

 

 

流石に想定外だったのだ。

紗枝がバスタオルを巻いただけの姿で部屋に入ってくるなど。

 

 

 

昼に買った服など問題にならないくらいのセクシーさ。

胸から太ももの当たりを覆っているだけで、他の部分は全て見えている。

十五歳とは思えない肢体、それに布一枚で隠されているという事実が周子の脳と理性を揺さぶる。

 

 

おもむろに彼女は周子の前へと辿り着いた。

そしてベッドに座っている周子の隣に腰掛ける。

 

「せやけど………周子はんにはうちの全部、見てほしおすさかい」

 

意識してかどうかわからないが、囁くような甘い声でそう紡ぐ紗枝。

周子を見る彼女の瞳は、艶めかしさと恥ずかしさを混ぜた惚けたものだった。

 

そしてゆっくりと、彼女は胸元で留めていたバスタオルを剥がしていく。

少しずつ、彼女の肌面積が増える。徐々に顕になる胸元は美しいの一言に尽きた。

その動作はまるで花びらを開き虫たちを迎え入れんとする美しい花のようだった。

 

ついに紗枝の身体が生まれたままの姿になった。

 

まだ成長途中の胸のてっぺんには綺麗な蕾があり可愛らしい。

腹部は絹織物を彷彿とさせる滑らかな肌だ。

脚はほっそりとしていて非常に健康的な魅力を放っている。

 

正直暴力的なまでに魅力的だった。

今すぐにでも彼女を押し倒したい欲求に駆られるほどだ。

 

だが僅かばかりの理性がそれを留めている。

ちゃんと彼女の意思を聞かなくては、と思い留まり口を開こうとする。

だが周子の思いに反して、紗枝に見惚れてしまった頭は全く働いてくれない。

 

紗枝は胸や股のあたりを手で隠している。

だが間もなく彼女はそこから手をすっと離して、周子の手を握ってきた。

 

「そやさかい、うちの初めてもろうてくれまへんか?」

 

か細い声で話した紗枝。

 

その一言で、完全に理性が崩壊した。

 

気がつけば周子は彼女に思い切り近づいていた。

そして腕を回して抱きしめ、勢い良くキスをした。

 

 

紗枝は若干驚いたようだったが、すぐに周子に身を任せた。

彼女も腕を周子の背中にぴったりとくっつける。

そして口から感じる粘膜の感覚に酔いしれた。

 

二人共、未知の感覚に夢中になってしまう。

まるで時間が静止したかのように唇を押し当て合う。

ただ触れ合っているだけなのに恐ろしく気持ちいい。

 

そして全身を通して相手の温度が感じられる。

誰かと抱き合うのがこんなにも幸福だなんて知らなかった。

こんな快楽を知ってしまうと癖になってしまいそうだ。

 

やがて二人は唇を離した。お互いに心臓が早鐘を打っている。

 

周子の目には赤く染まり恍惚とした表情を浮かべる紗枝の顔が映っていた。

周子はその顔を見て思わずむらっとしてしまった。

 

一度たかが外れると理性というものは機能しなくなる。

周子はそのまま紗枝をベッドへと押し倒した。

仰向けで息が荒くなっている紗枝の上に、周子は四つん這いの形になった。

 

「ごめん紗枝はん、もう我慢できない」

 

周子は襲いかかる前にそんな言葉を投げかけた。

 

「今更ダメって言っても聞かないからね」

 

周子も完全に誘われるがままに興奮してしまっている。

いつもの冗談混じりでも余裕そうな感じでもなく本気の声だった。

今から本気で紗枝を貪るという意思表示。

 

「………優しゅう、しとぉくれやす」

 

紗枝はそれにゆっくりと頷いた。

その姿もまるで誘っているかのように周子には感じられた。

 

再び欲望のままに彼女に口づけを交わす。

今度は紗枝も驚かず、ベッドの上で再び抱き合った。

 

 

 

そして長いふたりだけの夜が始まった。

熱が混じり合う感覚に、確かに幸福を感じながら。

 

 

 

 

 

 

その後二人はそれはもう情熱的に絡み合った。

 

口づけは最初は初心だったが、徐々に舌を入れ唾液を混ぜお互いにべとべとになった。

胸も互いのを揉んだり撫でたり、乳首を摘まれて声を漏らしたりもした。

 

更に周子が紗枝の秘部を舌で舐めると可愛らしい反応で興奮してしまったし

お互いの手で女性器を弄り合ったりして、気が飛びそうなほどの快楽を享受した。

 

何度も抱き合って、貪りあって、絶頂を迎えた。

お互いに、もう戻れないという背徳感と、単純に好きという愛情を確かめあって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばい、めっちゃ恥ずかしいわ………」

 

周子は柄にもなく顔を真っ赤にしていた。

誰に見られるわけでもないのに両手で顔を隠しながら。

 

一旦思考がはっきりすると、昨晩の行為が次々と思い出された。

 

自分が服を着ていないのも、行為がエスカレートする内に思わず盛り上がってしまったからだ。

昨日は誘われるがままに理性を手放してやってしまったが

冷静になると恥ずかしさでおかしくなりそうだった。

 

「ん………周子はん?」

 

周子が身を起こしたからか、紗枝も目を覚ましたようだ。

最初は彼女の寝ぼけていたが、すぐに自分が一糸まとわぬ姿だと気づき毛布を手繰り寄せた。

 

「あ、えっと。おはよう、紗枝ちゃん」

 

何と言ったら良いかわからなかったので、とりあえず笑って挨拶をした。

周子も服を着ていないのを見て、紗枝は寝転がって毛布で顔まで隠してしまった。

周子同様、昨日のことを思い出しているのだろう。

 

お互いに何も言えずに静寂が広がっていた。

 

 

 

謝るべきだろうか、と周子は考えた。

だが即座に内心否定する。自分が伝えるべき言葉は謝罪ではない。

 

ベッドの上で座っていた周子は紗枝と隣り合うように寝転がった。

そして背中を向ける彼女に、ゆっくりと抱きついた。

 

「周子はん………?」

 

「あ、あのさ。紗枝ちゃん」

 

緊張して言葉に詰まってしまう。

だが彼女には是非自分の思いを伝えたかった。

そうしないと、昨日身体を預けてくれた彼女の好意に応えられないから。

 

 

 

「私、紗枝はんのこと、愛してる」

 

 

 

愛してる、という台詞くらいドラマなんかの撮影で言った経験くらいいくらでもあった。

でもその時の言葉は自分でも驚くくらいぎこちなくて、不器用だった。

 

いざ口に出すと、周子も途端に恥ずかしくなってしまった。

よくよく考えてみれば、今二人は裸で抱き合っているのだ。

夜ならいざしらず、朝から相手の身体が見える状態で抱き合うのはかなり恥ずかしいような気がする。

 

そうこう考えていると、抱いている紗枝からくすくすと笑い声が聞こえてきた。

なぜ笑われているのかわからず周子が面を喰らっていると、紗枝が身体の向きを変えてこちらを向いてきた。

 

「もう、周子はん。そんなんとっくに知ってますで。

昨日の夜、あないに熱う愛してんって言うとったちゃうどすか」

 

そう言うと彼女は周子に微笑みかけた。

 

そう言えばそうだった、と周子はまたも動揺してしまった。

昨日ベッドの上で二人で抱擁を交わしている間、数え切れないほど愛の告白をしたのだった。

もちろん本心だ。だが今更とは言え思い出すと死ぬほど恥ずかしい。

 

「それにしても周子はん、アイドルなのに愛してんの一言で動揺しすぎちゃうどすか?」

 

「や、やっぱり?」

 

おかしかったかな、と周子は少し落ち込んでしまった。

だが紗枝はその後人差し指を周子の唇にそっと触れさせた。

 

「やけど、想いはしっかり伝わったで」

 

そう言うと唇から手を離し、紗枝は肌を密着させてきた。

そして顔を近づけ、触れ合うようなキスをした。

 

今度はすぐに唇を離し、そして和らげな笑みを浮かべてこう言った。

 

 

 

「うちも周子はんの事、ぎょうさん愛してます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。
ミハイルです。閲覧ありがとうございました。

この度は羽衣小町、さえしゅうを描かせて頂きました。
私は元からこの二人が大好きで
『美に入り彩を穿つ』のコミュでもさえしゅう尊いとなった次第です。

そのコミュを見て、俺も二人がいちゃついてるのが書きたい!!!と思ったのが描いたきっかけです。楽しんで頂けましたでしょうか。

本来はR-18で描く予定だったのですが、無理にエロパートを入れなくても良いんじゃないか?と思い一応R-15として投稿致しました。危ない所ある?大目に見てやってください。

今後の予定は、今月中に楓さん、来月にアナスタシアと一ノ瀬志希のSSを投稿しようかなと予定しております。
今まで百合しか投稿してませんが、楓さんは少しだけシリアスになる予定です、是非ご期待ください。

またいつも閲覧、評価、お気に入り登録などありがとうございます。本当に励みになってます。
もし良かったら感想や指摘等も頂けますとより一層やる気に繋がるので是非よろしくお願いします。

それではこのへんで失礼致します。それではまた、ダズヴィダーニャ!!!


P.S.
私事ですが無事大学入試に合格しました。ようやく勉強から開放されて嬉しいです。

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