にーあおーとまた
転生という概念がある。それは人生が終わったのにも関わらず、また新たに人生が始まることを指す。
まあ、そういった考えがあるというだけで実際にそれがありえるかどうかなんてのは、当然だけど誰も知りはしない。死んでみなければそれを確かめることができないからだ。
だというのに、今の俺の状況はなんなのだろう。
「―――そっちはどんな感じですか?」
目が覚めたと思ったら、知らない場所にいて。
知らない人が来たと思ったら、わけのわからない話をされて。
「いい感じですか? それとも悪い感じですか?」
なにも理解できない筈なのに、気づいたら頭の中に答えが浮かび、その答えを口にしていた。
「やっぱり結構釣れてます?」
その場所の名前。
その場所の意味。
目の前の人の立場。
自分が生まれた理由。
自分の立場。
そして―――自分がやるべきこと。
「あの、もしもーし?」
本来の俺の思考ではありえない速度で問いが生まれ、頭の奥から答えが返ってくる。
「もしもーし? 聞こえてますかー?」
そしてようやく理解した。
俺は死んだのだと、交通事故に遭い命を落としたのだと。
「2B! 大丈夫ですか!? 返事してください!」
『2B』
そのたった2文字の単語が今の俺の名前。
「………9S。うるさい」
NieR:Automataというゲームがある。そのゲームの主人公の一人は白髪で黒い衣装を身に纏ったかわいい女の子のアンドロイド兵士で、名前を『2B』という。
つまり、今の俺のだ。
自身が2Bだと自覚した瞬間「あっ、終わった」と思った。ゲームでは最終的にハッピーエンドで終わったが、それはあくまでも『2B』だったからで、俺のようななんちゃって2Bではなかったからだ。
「2Bがなにも返事してくれないからちょっと心配したんですよ。もう……」
ゲームではエンディングが全部で26種類存在するが、アジを食べたり、散歩に行ったりしたら発生するネタエンディングが大半で、基本的にはその内の5つのエンディングが正しいエンディングと言えるものだ。だが、もし仮にそんなネタエンディングをこの世界で迎えてしまえば最悪地球が滅びることになる。
つまり何が言いたいかというと、俺のせいで世界が滅亡する可能性があるということだ。
「魚が逃げるから、静かにして」
だから考えた。どうすればいいのかを。
だから考えた。何を成せばいいのかを。
そして答えは出た。
「本当に2Bは、釣りをしてる時は真剣ですね」
うん。無理だ。諦めるか。
まあ結論を言うとそういうことになった。そもそもただの一般人にすぎなかった俺が、最新鋭のアンドロイドの肉体と頭脳を手に入れたところで、所詮は俺に過ぎない以上どうにもできないのは目に見えている。さすがにいきなり全部を捨てて好き勝手に行動する気は無いし、多少は頑張るつもりではあるけど……。
まあ、あまり結果は変わらないだろう。
「9S。その言い方だとまるで私が任務時に真剣ではないみたいに聞こえるけど」
さっきは世界が滅亡するとか言ったが、正確には付近の部隊が壊滅するとか、村が滅びるとかの簡単な描写しかなかったし、世界が滅びるまでは言い過ぎかなってちょっと自分でも思ったし、多分大丈夫だろう。
「そうは言ってませんけど。なんというか2Bは任務の時もすごい真面目に取り組んでますけど、釣りをしてる時はそれ以上に集中しているというか、なんというか……」
なので今はゲーム本編開始まで約3年ある時間を有効に使おうと思って、任務をこなしつつ、自分のやりたいことをちょこちょことやって過ごしてた。
「……9S」
一応B型、戦闘モデルという名目なので、基本的な任務は確認された敵の単騎撃破とか、敵基地の単騎撃破とか、防衛線構築のための単騎での敵中枢ユニットの撃破とか……。
いくら最新鋭のアンドロイドだからって無茶させすぎな気がするんだけど、任務だからやるしかないし。
「いやいや、別に2Bを侮辱してるとか、非難してるとかではないんですよ! ただそういう風に感じることがたまにあるというだけで、決して2Bを悪く言いたいわけではなくてですね!」
そんな物騒な任務の合間に近場で釣りをしたり、オペレーターにプレゼントする花の画像データを撮ったり、なんてことをして過ごしてきた。
「―――機械生命体はいつでも倒せるけど、魚は今しか釣れない」
まあ、今回は珍しく2機での合同任務で、内容も放棄された敵基地周辺の調査なんて簡単な任務だったので、結構好き勝手にやってる。
「……は?」
一緒に行動してるアンドロイドの名前は9S。俺のような戦闘モデルとは違い、調査や偵察といったものを得意とするスキャナータイプだ。これまでも何度か合同で任務を受けたことがあり気心も知れているので、とてもやりやすい相手でもある。
「魚は機械生命体と違って同じ個体は存在しないし、同じ名称でも大きさや動きも違ったりしている。だから相手に失礼のないように集中して全力で釣り揚げようと気を張る必要がある。つまり私は普段以上に真面目に対応しなければいけない。そういうこと。わかった? 9S」
知的好奇心が旺盛で、気になることがあったら周りも気にせずにずっと調べて回ったりする。そのおかげか合同任務の時なんかは、9Sと一緒だと、気づいたらいつの間にか9Sが勝手に調査を終わらせていて、自分ではなにもせずに任務が終わるなんてこともあるぐらいには知りたがりで優秀だ。
「……よくわかりました。2Bって結構バカなんですね」
だからこそ思う。残念だと。
「……今までわからなかったの? 9S」
周りをよく見てるし、他人の機微に敏感だし、気が利くし、こっちが言う前に行動を先読みして動いてくれるし、こうやって任務中に遊んでいても任務に支障がないと判断したらなにも言わず一緒に遊んだりしてくれるし、任務上、単独での行動が多いからか合同任務の時は犬みたいに懐いてくるし。
本人には失礼かもしれないが、ちょっとかわいいやつだ。
「ええ。今さらわかりましたよ。まったく……。それじゃあ僕はそろそろB地点の偵察に行ってきますね。僕は釣りにはそこまで真剣になれませんし。なにも無いとは思いますけど、敵や未発見の機械生命体の痕跡などを発見したら連絡を入れますね」
だからこそ思う。いやだな、と。
「了解。問題ないと思うけど気をつけて」
今回の君は気付いているんだろうか。それとも気付いていないんだろうか。9Sは隠し事をするのが得意だからいつもわからないけど、できたら気付いていてほしい。
「まったく、そう言うならついて来てくださいよ……。あまり夢中になりすぎないで2BもA地点での調査お願いしますね? ―――それじゃあ、C地点で1時間後に合流しましょう。ではあとで、2B」
合流地点に行ったらそこにいないでほしい。
合流地点に行ったらそこにいてほしい。
「うん。またあとで、9S」
逃げてほしい。生きてほしい。
戦ってほしい。勝ってほしい。
「―――推奨:司令部からの極秘任務の達成」
そんな身勝手で浅ましい俺を。
いつの日か。
「…………了解」
―――――殺してほしい。
お目汚し失礼しました。