『もうっ、2Bさんったら、9Sさんがかわいそうですよ』
「あれは9Sが悪い。あそこまで驚くなんて思わなかった」
『もー。意地悪するのはやめたんじゃなかったんですか?』
「べ、別に意地悪なんてしてない……。なにかの間違い」
『まったく……。知ってるんですからね、わたし。2Bさんがこの前まで9Sさんのこと無視してたの』
「それは、その、……ごめんなさい」
『わたしに言うことじゃないですよ。もう』
だって、9Sがすごい寄ってくるんだ。だからちょっとこう、離れるように色々やってただけで、別に意地悪してたとかじゃなくて、その、ねえ。
『さて、それじゃあそろそろ定期連絡を終わりますね』
「えっ、もう?」
『もうって、いつもより長いくらいですよ。それでは残りも頑張ってくださいね。2Bさん』
「あっ、うん。それじゃあ、また」
「通信終了。推奨:任務の継続」
もっと話してたかったんだけどな……
仕方ないか、あくまで定期連絡だもんな。帰ったらゆっくりおしゃべりしよう。
「終わりましたか?2B」
「ごめん。待たせちゃった?」
「確かにちょっと待ちましたけど、別に謝ることじゃないですよ。定期連絡は担当オペレーターと直接情報交換する時間ですから、ちょっとぐらい長くても問題ありません」
「……そっか。ごめんなさい。ありがとう」
「だからいいですって、気にしないで下さい」
ほんと9Sはいいやつだな。今度なにかあげようかな。普段のお礼と、この前まで無視してたお詫びとして。6Oにも言われたし。
うん。いいな。そうしよう。
この任務が終わったら6Oと相談してなに贈るか決めないとな。
「さて、それでは改めて張り切っていきましょうか!」
「そうだね」
「もー、2Bったら。もうちょっと盛り上げていきましょうよ。折角の機会なんですし」
「……感情を出すことは禁止されている」
「……それ、2Bが言うんですか?」
「……確かに、それもそうだね」
「ほんとですよ。もう」
何回目だろう。この9Sと一緒の任務は。
当たり前みたいに一緒に行動してるけど、俺の本来の役目を考えるとおかしいことだ。何回も何回も同じ9Sと一緒にいるなんてことは。
まあでも、きっとそろそろ限界だ。9Sがそんなに我慢できるわけないんだから。今回は長かったからいつもより辛いだろうけど、でも大丈夫。ちゃんと俺は役目を果たせる。原作の流れを変えないようにしないといけないんだから。なんちゃって、俺なんかに変えられるわけないんだけどさ。
今日の分の調査は終了。残りはまた明日。
だからもう明日まではこの廃屋でお休み。なんかこういうの友達と旅行に来たみたいで楽しいよな。任務だけどさ。
「念のため、眠るのは交互にしよう。敵襲の可能性もあるし」
「ほんと、そういうとこは真面目ですよね2Bは。さっきまであんなにはしゃいでたのに」
「……うるさい。じゃあ9Sはずっと起きてて、私は寝る」
「ああっ、ごめん。ごめんなさい。ちょっとした冗談ですって、本気にしないでくださいってば」
「……わかってる。言ってみただけ」
「もー、2Bったら冗談わかりづらいんですから」
「元はと言えば、9Sが茶化すせいでしょ」
やっぱりいいな。こういうの。
ほんとすごいよな9Sは、話してたらどんどん楽しい気分になるんだから。
「ところで2B。一つ聞きたいことがあるんですけど」
「なに?答えられることならなんでも言って」
「なにをそんなに隠しているんですか?」
「えっ、……なんの、こと……?」
隠してるって、まさか
「本当はもう少し時間を置くつもりだったんですけど、今日の様子を見る限り、なるべく早い方がいいと思って」
「……なん、で」
「前からでしたけど、最近は特にそうですよね。今年になってから悪化してるみたいですし」
舐めてた。9Sのことは知ってるはずだったのに、隠し通せてると思い込んでいた。あの好奇心の塊のとも言うべき9Sが気づかないわけないのに。
「ずっと気になってはいたんです。2Bがそんなに頑張って隠してるものはなんなんだろうって。まあ、まったく分からなかったんですけどね」
「……」
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
なにも隠してなんていないって言う?9S相手に嘘をつく?
それとも、本当のことを言う?
どうしよう。どうすればいい。どう答えたらいい。
「……」
「……最初は僕のことだと思ったんです」
僕の、こと?
「僕と2Bとの過去に気づいた僕が、復讐するとか考えているのかもと思っていたんです」
「えっ」
「今までにそういった僕がいたから、そうなるんじゃないかと警戒してるのかなって」
「やっぱり、気づいて」
気づいてたのか。この9Sも、今までの9Sみたいに気づいてたのか。
でも、一体いつから
「それにしては2Bの態度がおかしかったんです。これまで何度も一緒の任務を請けてきましたけど。2B、僕のこと全然警戒してないんだもの」
「……そんなの」
するわけない。9Sはそうしてもいいんだ。そうする権利が9Sにはあるんだから。
「今日もそう。簡単に背中は預けるし、簡単に無防備になるスリープモードに入るよう提案してくるし。だから、僕のことではないんじゃないかって」
「……」
「それと、これは推測じゃなくて、ただの想像ですけど」
「……」
「隠してるというか、正確には逃げているんじゃないかって」
なにを、いって
「まあ、想像ですけどあながち間違ってないんじゃないかって、最近の2Bを見てそう思っただけなんですけどね」
「……」
「最近。すごくオペレーター6Oの話をすることが多くなりましたよね2Bは。去年の2Bはなにかに怯えてるみたいでしたけど、年を越す少し前からそうじゃなくなりましたよね。そして6Oとよく一緒にいるようになった」
「……」
「バンカーで2Bを見かけるときはほとんど一緒。任務に出てる時も6Oの話ばっかり。……まるでそれ以外のことを考えないようにしてるみたいに」
「……」
「疑問に思った理由はそんな感じです。ああ、それと、僕と2Bの関係に気づいたことは司令官にも直接伝えています。もう2度と司令部に向けてハッキングを試みないと約束させられましたけど。なので今後僕についての処分命令は出ないと思いますよ。よっぽどのことを僕がしない限りは、ですけどね」
変わった。
変えないって、変えられないって思っていた世界があっさりと。
どうしよう。どうしたらいい。いや、もうどうにもできない。なんで変わったんだ。どうして変えられたんだ。このままじゃ、この世界はどんなエンディングを迎えるんだ。
わからない。わからない。わかるわけがない。
俺がはっきりと覚えてるのは、ゲームが始まるのは11945年。全部が終わるのが9月。だから内容的に原作が始まるのは多分3月とか4月。そんな大雑把な時期と、ゲームの大まかな流れ。
あと数か月。その時間は何も考えずに6Oと楽しく過ごせるはずだったのに。俺のせいで流れが変わるとしても、それが表に現れるのは俺が死んだあとだって思ってたのに。
流れが変わった。終わりが変わる。
俺のせいで被害が広がる。俺のせいで苦しむ人が増えていく。
やめろよ。こんな、こんな風に、俺のせいで世界が変わるなんてことを、俺が頑張れば救えたかもしれないなんてことを、今さら、俺に見せつけないでくれよ。
「つまり僕が何を言いたいかというとですね。2Bが苦しんでることを解消してあげたいんです」
「……う」
「あんなに強い2Bが逃げようとしてるものなんて想像がつかないですけど、微力ながら2Bの力になりたいと思って」
「……がう」
「最初は変な人だと思ってましたけど、今まで何度も助けてもらいましたし、僕も同じヨルハの仲間として助けになりたいと思」
「……違う」
「……えっと、2B?」
「違う」
「その、違うっていったいなにが」
違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。
「逃げてない。逃げてなんかない。私はそれを受け入れている」
そうだ。逃げてなんかない。もう怖くない。怖がる必要なんてないんだから。
「もう一人じゃないんだ。傍にいてくれるんだ。受け入れてくれたんだ」
6Oは言ったんだ。ずっと傍にいてくれるって。一人にしないって。
だから、だから
「逃げてなんてない!怖くなんかない!私は問題ない!」
「……」
「私はもう笑える!最期の時でもちゃんと笑える!6Oがいるんだ!もう一人じゃないんだ!」
「……」
「ちゃんと終わりを迎えられるんだ!そうできるようになったんだ!」
「……2B」
「私には変えられないって!救うことなんてできやしないって!ちゃんと受け入れられたんだ!」
やめろ。やめろ。やめろ。
頼む。もうやめてくれ。
「だからそんなこと言わないで、今さら希望を持たせようとしないで!もう諦めたんだ!ちゃんと諦められたんだから!」
だから、もう。
「お願いだから、ほうっておいて……」
お願いだから、優しくしないで
「……」
「……」
言ってしまった。確かなことは言ってないけど、明らかに不自然な発言だった。
もうどうすればいいかわからない。ただ俺は残りの時間を目一杯生きて、楽しく生きて、そして、笑って死のうとおもっていただけなのに。
もう、わからない。わからないよ。
「……」
「……僕は」
「……」
「……僕は、2Bが好きだ」
「……いきなり、なにを」
「優しい君が好きだ。頑張る君が好きだ。誰かを思いやれる君が好きだ。僕の話を興味深そうに聞いてくれる君が好きだ。6Oのために花を探して回る君が好きだ。仲間を庇って敵と戦う君が好きだ。本当に大好きなんだ。
さっきも言ったけど、最初は変な人だと思った。その次も興味深い人であって、調査対象として興味を持っただけだった。だけどこの数か月君と何度も会う度に、気持ちが変わっていった。
2Bはなにか好きなものはあるのか。好きなことはあるのか。どんなことをしたら喜んでくれるのか。どうしたら笑ってくれるのか。そんな思いがずっと頭の片隅にあって、日が経つごとにどんどん大きくなっていくんだ。
だから、だから僕は2Bを助けたい。2Bが好きだから。君が恐れているものから、君が苦しんでいるものから。解放してあげたいんだ。
お願いだ2B。僕に君を助けさせて。君が少しでも僕のことを思ってくれているのなら、僕を仲間だと認めてくれているのなら、僕が君を助けることを許してほしい。君の涙を拭うことを、許してほしい」
「……そんな、こと」
「……2B」
「わた、しは……」
「君が本当に望んでいることを、教えてほしい」
そんなの、そんなの
「……たい」
決まってる
「……きたい」
『俺』が目を覚ました時からずっと思ってた。
「生きたい。生きていたい。もっとここにみんなといたい」
「うん」
2Bなら、Eエンドに辿り着けるけど、『俺』ではきっと辿り着けない。
「死にたくない。諦めたくなんてない。本当は私だって」
「うん」
なら、流れを変えてみようと思っても、どうすればいいのか、わからない。
「でも、なにも思いつかなくて、なにも、できはしなくて」
「今は僕がいる。僕が一緒に考える」
良くなるかもしれない。悪くなるかもしれない。俺のせいで、苦しむ人が増えるかもしれない。
「でも、でもっ」
「それじゃあ、ダメかな」
そう考えるとなにもできなかった。いずれ必ず来る最期に怯えるしかなかった。たった一人で震えてるしかなかった。だけど6Oが一緒にいてくれるからって、ずっと縋っていた。もう一人じゃないんだって。恐怖から目を背けていた。
「……」
「お願い。2B言って」
でも、こんな自分勝手な俺を、許されるなら、許してくれるなら
「…………たすけてナインズ」
「うん。絶対に助けるよ」