「ポッド、アップロードしてくれた?」
「肯定:既にヨルハ機体2Bの自我データ及び、記憶データのアップロードは完了している」
「そう……。ならいい。どっちにいる?」
「ブラックボックス反応を北西から感知」
「わかった。行こう」
ヨルハの裏切り者。A2の処分にやってきた。
A2がどんなやつか知ってるくせに、そんなことを言われて俺はやってきた。
唐突だが、ここらで一旦俺のスタンスを見返そうと思う。最近ちょっとぶれてきた感じもあるし。
基本的に原作改変は自分の意思でやらない。
なので、原作をできる限りなぞれるように努力する。改変したところで、悪化する未来しか想像できないから。
だけど原作以外のところでは、自分の好きなようにする。
原作をなぞるってことは、俺も死ぬってことだから。死にたくはないけど、どう考えても無理だし、ならせめて楽しく生きてから死にたい。
死にたくないなら、なんとか頑張って改変しろって?
色々考えてはみたけど結局のとこ、バンカーをいつでも墜とせるようなやつ相手に、気付かれないように暗躍するなんてことをこの俺ができるわけないから無理。諦めて死ぬ。
なので俺のスタンスは大きく分けると、
『原作守って楽しく生きる』
この2つになる。我ながら、わかりやすくていいな。
つまり、なにが言いたいかっていうと、―――A2は殺さない。
当たり前だけどメインキャラを殺すなんてしたら、原作改変どころか原作破壊になってしまうしな。
なので今回の任務で俺はA2を殺さず、なおかつ俺も生き残ることを目標としている。理想は俺にA2が負けると思って逃げてくれることだけど。問題は、A2がそこまで危機感を感じるぐらいに戦うことができるかってこと。
すっげえ難しいのはわかってるが、なんとかするしかない。
そして俺は常々疑問に思っていることがある。
それは、俺は死んだらどうなるんだろうか、というものだ。
正確には、この自我データやら記憶データやらが入ってる2Bの義体の機能が停止したら、データの巻き戻しで再起動した際に『俺』は巻き戻るのかどうかって話だ。
思いつく可能性は2つ。
1つは、消える。
次に2Bが起動した時には『俺』の意識はなく、真面目で誠実な2Bになっている可能性。
1つは、巻き戻る。
再起動しても任務に真面目で不真面目で、バカな『俺』の意識を宿したままの可能性。
俺はどっちがいいかというと…………どうなんだろうな。
消えるなら、それはそれで楽だろうし。巻き戻るとしても、どうせ数年後にはバンカーもなくなっていずれ巻き戻れずに死ぬんだし。結局のところ早いか遅いかの違いでしかないから、どっちでもいいのかな。
「対象の予測位置は?」
「周辺の破壊された機械生命体の位置から予測するに、北北西に7kmの地点にいると推測される」
「なんとか先回りしたい。できそう?」
殺すつもりはないけどそこそこ頑張って戦ったアピールはしないといけないし、念のため罠とか仕掛けたいから先回りしたいんだけど。
「了解:進行ルートを表示。マップにマーク」
さすが、ポッド。頼りになる。
さて、急ごうか。
「ヒット:ゴミ」
「……」
「……」
「……」
「ヒット:ゴミ」
「……」
「……」
「……」
「報告:新鮮」
「……よし」
よっしゃ。結構な大物だな。粘ったかいがあったな。
「……推奨:任務の達成」
ん? ああ、そうか。来たのか。
ってことは後ろ向いたら―――いるな。なんか口開いてポカーンとしてるけど。かわいい。
やっぱ二号モデルって美人だな。鏡見ていつも思うわ。
ポッドに今釣れた魚を撮影させてリリースしてっと。
「オマエは……」
「ヨルハ試作機アタッカー二号、通称A2で間違いない?」
わかってるけどね。一応言わないといけないし。
「私と同じ顔……二号、モデル……」
「そう。私はあなたのデータから新たに作られたヨルハ機体」
だからホクロの位置だって同じなんだぜ。
「A2、貴方には機密情報漏洩及び、機密情報管理不全による処刑命令が出ている。私は2E、二号E型。普段は2Bだけど、今はそう呼んで」
「……コードネームが二つ?」
「いつもはB型。バトラータイプってことにしてるけど。本来の型番はE型。エクスキューショナータイプ」
「処刑……タイプ。そんなものが……」
そう。ヨルハが正式稼働する際に新たに作られたアンドロイドタイプ。敵ではなく仲間を殺す処刑人。嫌だと叫んでも、痛いと喚いても、苦しいと泣いても、死にたくないと願っても、仲間を容赦なく殺すくそったれ。
それが俺。
「A2。義体の機能を停止して機体制御を渡しなさい。さもなくば、貴方を破壊することになる」
マジくそ。ほんとくそ。何様だよバカ野郎。
焚きつけるためとはいえ、本当に殺したくなるぐらい自分に腹が立つ。
「フッ……フフフッ。そうか。司令部はそう決めたのか。自分たちの犯した罪を隠蔽するために、わざわざ私と同じ顔のヨルハを作って殺しに来させた? フッ……フフフフッ」
「……A2」
「そうか……。オマエたちが私を殺そうとするのなら。オマエたちが真実を隠すと言うのなら」
そうだな。俺が君を殺さないと思っていても、ここに来た時点で俺は君の敵だ。
「いいだろう。私も容赦はしない」
当然だ。君にはそうする権利がある。君にはそうする自由がある。
「機械生命体も、バンカーも、司令部も、月面の人類会議も―――」
怖くて、辛くて、死ぬかもしれないけど、俺が2Bだっていうなら、やらなくちゃいけない。
「―――全て殺してやる」
さあ、正念場だ。
あれから何時間経ったんだろう。
今の地球は昼の場所は昼、夜の場所は夜って固定されちゃったから、何時間経っても昼夜が一切変わらないからちゃんと時計とか見ないとわかんないんだよな。不便だよなー。
なんて現実逃避してる場合じゃないんだけどさ。
右腕は肘から先が斬り飛ばされて、左腕は肩から折られた。下半身は腰から下の感覚が無い、センサーが逝かれたのかもしれない。なんてったって胸に思いっきり剣突き刺されてるし。
やっぱ甘かったんだろう。ポッドに俺は強いみたいなこと言われてたから調子に乗ってたんだろうな。単純だしな俺。
っていうかA2強すぎだろ。落とし穴は足が沈む前に通過するし、落石はあっさり躱すし、森の中だってのに大剣を当たり前のように振り回すし。俺だったら木にぶつけると思ったから格闘装備で行ったのに。
なによりBモードがやばい。ポッドの射撃すら振り切る速度出せるってヤバいだろ。鍔迫り合いに持ち込もうとしたら1秒も持たないしさ。相当消耗するからだろうけど最後の十分くらいしか使われなかったし。というか使われるまでは拮抗してたのに使われた瞬間圧倒されるんだからもうどうしろって感じ。それまでの数時間はなんだったんだよ。アニメとかだったら最初から使えって視聴者に言われるやつだぞ。
途中からというか、むしろ最初から手加減なんてできるレベルじゃなかった。頑張ったけど、小さい傷を作るぐらいしか攻撃できなかったな。ポッドはああいうけど、やっぱ俺はそんな強くないってのがよく分かった。
まあ分かったとこで、それを活かせるのかどうかわからないけど。もう死ぬし。
「……え、…とぅ……」
「……」
「ポ、ドは……3きあ、る…から。ぜんぶ…こわ……ない、と」
「……オマエは」
「ご、めんね」
これから大変だろうしな。最期にアドバイスぐらいはしとかねえと。
ああ、チクショウ。なんでこうなってんだよチクショウ。
確かに消えたいって思ったよ。早く死にたいって思ってたよ。それなのに、
痛いよ。
苦しいよ。
嫌だよ。
死にたくないよ。
なんでこんな気持ちになるんだ。望んでいたはずなのに、願っていたはずなのに。
なんでこんなに生きていたいんだ。
こんな苦しいのに、笑えるわけがない。
こんなに辛いのに、笑えるわけがない。
同じ状況になったってのにわからない。本当にわからない。
なんで、なんで、こんなにつらいのに、苦しいのに。
なんでお前は、最期に、あんな風に笑ってられたんだよ。
理解できない。全くもって理解できない。
わからねえよ。
俺には、わからねえよ。
「ナイ……ン、ズ」
はて……? ここは―――
「―――……私の部屋?」
「肯定」
俺はA2の処分命令を受けたんじゃなかったっけか? なんで気づいたら部屋にいるんだ?
「……ポッド?」
「ヨルハ機体2Bは、360秒前に新規義体に自我データのインストールが完了した」
「つまり私は」
A2と戦って死んだのか。そして『俺』ごと巻き戻ったわけだ。
結果は、可能性の二つ目だったと。
つまり俺はあと3年は生きないといけないってことか。長いような短いような。
「A2は殺せたの?」
「否定:A2のブラックボックス反応はいまだ健在」
「そう…」
なら、大丈夫だな。原作は守れたと思ってよさそうだ。
なんか一安心したら、おなか空いてきたな。胃袋ないけど。
「6Oで和んでこよう」
とりあえず、次の任務まではのんびりするかな。