「はい。それではこれで定期連絡を終了しますね。残りの期間も頑張って下さいね。2Bさん」
『了解。お土産期待してて』
「わかりました。楽しみにしてますね!」
通信を閉じる。
2Bさんは今人類軍の海上輸送船の護衛任務を行っている。この海域での戦闘はここ3年間確認されていないけど油断は禁物。海上での戦闘は普段と勝手が違うから特に気を付ける必要がある。アンドロイドが海に落下した場合は救助できる可能性はほとんどないから。ヨルハ機体に限らず、大半のアンドロイドは水中での活動は想定されていないからだ。
もし沈んでしまったら自我データの巻き戻しが行われ、今なら8日前の2Bさんが起動することになるだろう。
2Bさんなら機械生命体に遅れをとることなんてまずないだろうし、普段はちょっとあれですけど、任務中は意外と真面目ですしね。多分大丈夫だと思いますけど。
ただ、問題は――――
「…………今日は2Bさん。安定してるみたいでよかった」
最近の2Bさんは少し不安定だ。
普段は大丈夫だけど、ふとした瞬間何もない所で立ち止まってボーッとしていたり、急に笑いだしたり、敵を執拗に痛め付けるような行動をする。以前までの2Bさんではしなかったことを時折するようになってしまいました。
そういう時の2Bさんは観測しているメンタル値の変動が激しく、声を掛けても聞こえないことがよくあります。
いつもなら確実に作戦を遂行するために撤退して仕切り直したりする場面でも、敵陣に飛び込んで行って自身が機能停止一歩手前といった状態になることが増えてきています。
「さて、次の任務先の情報収集しなきゃ。いつも情報ないと不安そうな顔しちゃうし。そういうときの2Bさんちょっとかわいくて好きだけど」
2Bさんは、変わった人だ。
一番最初、2Bさんが稼働したての頃はいつも心配していた。任務中になぜか釣りしてるし、動物を追って行って作戦エリアから出そうになるし、何時間も日向ぼっこしてるし、気づいたらまた釣りしてるし。この人はちゃんと任務をこなせるんだろうかっていつも心配していた。
それでも、やるべきことはしっかりやってくれて、合同任務とかの他の人がいる時は自重してそういう部分は見せないようにしていたから周りには変に思われてないけど。
多分、そういった2Bさんを知っているのはわたしと司令官ぐらい。あともう一人いると言えばいるけど、今は知らないだろうから実質2人だけだ。
この前、休憩中に27Oとの会話で2Bさんの話になった時に、真面目とか頼りになるとか言われてる最中に司令官が通りがかってすごい複雑そうな顔して通り過ぎて行ったのが記憶に残ってる。気持ちはわかりますけどね。わたしも顔がちょっと引き攣ってたと思いますし。
「うーん……。次の任務が終わったら一旦バンカー帰ってきてもらって、データオーバーホールとか受けて貰ってちょっとでもゆっくりしてもらいましょうか」
2Bさんは、強い人だ。
稼働から確か5ヶ月ぐらいの頃、周りからは同じB型4人分の力があるって言われてて当時話題になっていた大型機械生命体を1人で倒しにいくことになってしまったことがある。
大勢の人がやられてしまったのに1人でなんて無理だって、司令官には抗議したんですけど……。
新型機であるヨルハの性能を周知するチャンスだ、とか。
達成できれば他のアンドロイドの士気向上も狙える、とか。
2Bの能力を考えれば問題ない、とか。
色々言われてしまって、結局2Bさんを一人で送り出すことになってしまいました。まあ、あっさり帰ってきたんですけどね。さすがにボロボロでしたけど。
そんなことがよくあって、一時期は他のB型は2Bさんを超えることが目標だったって、隣の席の19Oが言ってました。確かに2Bさんは強いですけど目標としていいのかどうか。たまたま近くにいた司令官はなんとも言えない顔をしてました。気持ちはよくわかります。
「そういえばこの前、セラピーっていうのをすると心が落ち着くとかなんとか19Oが言ってたような?ちょっと調べてみましょうか」
2Bさんは、泣き虫な人です。
2Bさんの本来の任務。2Eとしての5回目の任務の後、データの整理をしてたらいきなり救援要請が飛んできたんです。もう慌てましたよ。救援要請なんて初めて受けましたから。
なにかと思ったらポッド042からの信号なんです。2Bさんと一緒に自室にいるはずの。内容は自室に来てくれってだけで、不思議に思いながら向かったんですけど、そうしたら……。
2Bさん、泣いてたんです。枕に顔を押し付けてずっと謝りながらひたすらに泣いてたんです。
ごめんなさい。ごめんなさいって、ずっと。
気付いたら抱き締めて頭を撫でてました。少しでも気分が軽くなるようにと。せめて一緒にその苦しさを背負えるようにって。泣いている原因はすぐにわかりました。任務を受けるときいつも苦しそうな顔で、終わった後もなにかを我慢してるような顔でいましたから。
きっと、これまでも泣いてたんでしょう。そして毎回泣いていてポッドが困り果てた結果わたしに助けを呼んだみたいです。原因が原因ですから、他の部隊員に助けは求められないですし。
それからは毎回、任務が終わったら2Bさんが落ち着けるまで抱き締めています。回を重ねるごとに立ち直るまでの時間が延びていって心配だったんですけど。
「……うん。今はちょっと疲れてるだけだから、時間があれば元に戻ってくれる、はずです」
2Bさんの不調は徐々に周りに知られていった。
もともとヨルハでの筆頭戦力みたいに見られていたし、最近は無茶な戦いばっかりしていたから戦績も急激に上がっていっていて。この前の大規模作戦でもとても頼りにされていたんですけど……。
大規模作戦の途中で笑いながら単騎で敵基地への突入を慣行。その結果は大勝利に終わりました。ですけど周りからは作戦を無視し、味方を危険に晒したことに対しての非難の声もありましたが、結果を出したことによりそういった言葉も消えました。
それ以降直接はなにも言われませんが、あの作戦に関わってた人達が2Bさんを不気味なものを見る目で見ていることは知っています。そしてそのことを気にした人たちが理由を聞き、またぶしつけな視線を向けてきているのも。
2Bさんもそれに気づいているからか、最近は極力バンカーに帰ってこようとはしません。
『実は論理ウィルスに感染してしまっているから、帰ってこないんだ』
『機械生命体との接触を図るために外での活動を増やしてる』
最近はそんなひどい噂が流れています。何度も何度も否定しているんですが、あまり効果は無くて……。
ついには今度の定期報告会で、今の自我データを破棄して再インストールをするべき。なんて意見が提出されるという話も聞きました。
そんなことはさせません。させてたまるもんですかっ。
2Bさんは変わっていて、強くて、泣き虫ですが。とてもやさしい人です。
いつもバンカーにいるわたしに、お礼だなんて言ってキレイなお花の画像を撮ってきてくれたり。お花を持ち込めないかって司令官に直談判したり。わたしのくだらない話やちょっとした愚痴を静かに聞いてくれたり。
そんな、そんなやさしい2Bさんを消させたりなんてさせません。
「確か、戦闘用アンドロイドの能力は記憶データの量に比例するって論文があったはずだから、そこから反論して、反対の空気に持ち込んでいければ」
わたしはオペレーター6O。ヨルハ機体2Bの情報支援担当。
2Bさんが戦って、わたしがそれを支援する。
戦うことはできないですけど、2Bさんを守るのはわたしの役目です。
だから絶対に――――
「2Bさんを1人になんてさせません。絶対に」
だからもうちょっとだけ、頑張って下さい。
「よーし。やるぞー!おー!」
6Oかわいい。かわいくない?
表現できてるかは自信ないですけど。