更新遅くて申し訳ないのですが、これが限界なのでお許しください。
それではどうぞ!
キリトとは未だに昔のように四六時中一緒にいるということはないが、前ほどは距離もなく時々一緒にダンジョン攻略に繰り出す程度には仲は回復していた。
それでも、アスナさんへの遠慮なのか、それとも私自身が自分に負い目があるのか、確かなことは分からないが以前のようにキリトに接するのは私にとってとても難しい事のように思えた。これに関してはもう少し時間がかかる、それが私の見解だ。
(………それにしても久しぶりの1人だけど…これは中々心細い…)
久しぶりに1人でダンジョン攻略に来たのはいいのだが、よくよく考えてみれば自分1人でダンジョン攻略に来ること自体が殆どなく誰かと一緒に潜ることが多かったため話し相手が誰もいないということがここまで心細いものだとは思わず、改めてソロを自称して頻繁にボッチでダンジョン攻略をしているキリトの凄さを身に染みて感じる。
(…それにしても、本当に誰にも会わない……)
普段なら喜ばしいことなのだが、1人で心細いことに加えてこのダンジョンの雰囲気がなんとも恐怖心をそそってくる。そのため、ホラー系が苦手な私としては現状はかなり酷な状況である。
(…………仕方ない…………さっさと進もう…)
今更うじうじした所で引き返す訳にもいかないため、前に進む他はない。
私は出来る限り周りの雰囲気を気にしないように前へと進んだ。
◇◇◇
パリッンという機械音とともに、リザードマンはその姿をポリゴン片へと変えた。
(……そろそろ中間地点ぐらいかな?)
入口付近でうじうじしていた私だったが、いざ進んでみれば中は大したことはなく至って普通のダンジョンと変わらなかったためかなり順調にここまで進んできた。
元々、このダンジョンにポップするエネミーのレベルは攻略組トップを誇る私のレベルからすれば警戒するほど高くもないため楽に進めるのが当然と言えた。
ちなみに、キリトとはレベルはギリギリ勝っていると言ったところなので油断は出来ない。
「「「うわぁぁぁぁぁ」」」
「っ!?」
私の居る場所からかなり先から聞こえた悲鳴。
明らかにプレイヤーのものだ。
私は考えるよりも先に足が動き出していた。
全力で飛ばして少し走ると目の前から血盟騎士団の制服を着た青年が走ってきた。
「……君は…ノーチラス君!?」
「えっ…あ、サラさん」
その走ってきた青年はよくフィリアの無茶ぶりに付き合わされている血盟騎士団員で、私もよく知る人物だった。
「……なんで、君がこんな所にいるの?」
彼の剣の腕は確かに血盟騎士団でも高い部類に入る。だが、彼には致命的な欠陥がある。
そのため、滅多に前線には出てこない。
「そ、それは……」
「ううん…やっぱりそんなことはいいや。それより、さっきの悲鳴の原因知ってる?」
「こ、この先で僕たちのパーティーが大量のモンスターに襲われてて……」
彼はそこで口篭ってしまう。
その理由は彼の口から聞かなくても、私には分かってしまった。いや、彼を知る人物ならば分かってしかるべきことなのだろう。なぜなら、それこそが彼が前線に出てこない最大の理由なのだから。
「……襲われてるのはあなた以外のパーティーメンバーでいいの?」
「は、はい。多分……」
「……わかった。ほら、行くよ!!」
「………えっ?」
私は呆気に取られているノーチラス君の手を握ると、先程よりも速くダンジョン内を駆けた。
◇◇◇
大量のモンスターが1箇所にポップしてるというだけあって、道中は全くと言っていいほどモンスターとは出会わなかった。
「……あそこね」
遠目で見ても分かるほどの大量の影。
あの中にプレイヤーがいるとするならば、生きて帰れるのなんてどっかの真っ黒くろすけぐらいなものなのかもしれない。
モンスターの影へと近づくと、ノーチラス君の言う通りその中には5つのカーソルがあった。
だがそのうちの一つだけ、異様な程にHPが減っておりレッドゾーンに突入しようとしていた。
「…不味い……」
私は旗を出現させ、地面へと突き立てる。
「………我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)」
この時ほどこのスキルに感謝することはなかった。
【我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)】。簡単に言えば超広範囲のサポートスキル。私から半径20メートル以内のプレイヤーの体力を全回復し状態異常も回復。さらに、防御力up・全状態異常への耐性upのバフを5分間付随する。
「………聖女の盾」
このスキルは簡単に言えば身代わり。
指定したプレイヤーが受けるダメージを全て私へのダメージとするというもの。
今回私が指定したのは、もちろん私の後ろにいるノーチラス君。
「………凄い…」
ノーチラス君から見れば、先程まで半分を切っていた全員のHPが急に全回復したのだから驚くのも仕方がないような気もするが、私が君をわざわざ連れてきた意味を考えて欲しいものである。
「……ノーチラス君、早く!!私はこの状態だと動けないの」
「………えっ。無理ですよ…サラさんも、知ってるでしょ」
「………………知ってる。でも、それは貴方が死ぬ可能性があるからでしょ?大丈夫、貴方へは絶対にダメージは通らないから」
「……………。」
私の言葉にノーチラス君はただ下を向いて俯いてしまう。先程、全回復させたとは言えあれだけのモンスターに囲まれているため徐々にだが彼らのHPは確実に減り続けている。
「………早く!!!!私の事なら心配いらないよ?攻略組、トッププレイヤーの実力を信じて!」
私の言葉が届いたかはわからない。
それでも、ノーチラス君は動いた。今までの彼を払拭するかのように。
「………やれば出来るんだね」
大量のモンスターの中へと突っ込んで行った彼の背中は、私にどこかキリトを連想させた。
キリトほど頼り甲斐は無いかもしれないが、それでも仲間のために恐怖心を捨てて突っ込んでいく姿はキリトの背中とそっくりだった。
「…………さて、私も援護しようかな」
幾らノーチラス君が戦えるようになったからと言って、あの量を裁くのは一苦労である。
先程ノーチラス君を動かすために少し嘘をついた。別に【聖女の盾】を使っていても私は自由に動ける。
「……紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)」
超広範囲殲滅スキル。
私のHPの半分と引替えにして腰に下げている剣から放つ一撃。
既存のソードスキルとは比べ物にならないほどの威力だが、自身のHPの半分を代償に放つと考えれば納得も出来る。
私の一撃によって、プレイヤーに集っていたモンスターは全てポリゴン片へと姿を変え中心に居たプレイヤーも無事なようだった。
「………サラさん……動けるじゃないですか!!」
背後からのソードスキルに驚いて未だに膝が笑っているノーチラス君は私に半泣きしながら抗議してきた。
「……いやぁ……………それよりもいいの?彼女、待ってるみたいだけど」
上手く誤魔化すことが出来ないと踏んだ私は、先程からノーチラス君のことを見ている唯一の女性プレイヤーの方を指をさす。
ノーチラス君も彼女に心当たりがあるようで、少し顔を赤らめると私から顔を背けるようにしてそっちの方へと歩いていった。
(…………さてさて、私は帰りますかね)
このままダンジョン攻略を進める気にもならず、私は帰ろうと体の向きを変え歩き出した。
「「「「聖女様、ありがとうございました!!このご恩は一生忘れません!!」」」」
気付かれぬうちに逃げたかったがそれは叶わず、自分よりも明らかに年上の方に思いっきり頭を下げられる。
感謝されるというのは嫌な気持ちにはならないのだが、年上の人に"聖女様"と呼ばれるのはあまり気分がいいものでもない。
私は恥ずかしさを隠すため、返事の代わりに左手を振り直ぐにその場から立ち去った。
◇◇◇
無事にマイホームに戻った私だったが、誤算と言うべきことが2つあった。
1つ目はキリトに1人でダンジョンに潜ったことを説教されてしまったがキリトにだけは言われたくないと思った、私は間違っていないだろう。
そして、もう1つ私にとって誤算だったこと。
それは口止めをするのを忘れてしまったということ。
『聖女様は本当に聖女だった!!!2人目のユニークスキル保持者は聖女様!!』
と銘打った新聞が翌日発行されてしまったがためにキリト含め周りの人や全く知らない情報屋に追い回される羽目になったのは言うまでもないだろう。