暇な時を見つけて執筆はしてるんですけど、あまり時間が取れず申し訳ないです。
ちなみに、ロニエを主人公にした作品を書き始めたので宜しければそちらもご覧下さい。
それではどうぞ
ユニークスキルがバレて以降、情報屋から逃げる日々。
そんな毎日も1週間もすればある程度はその数自体も減り、漸く私は自由に街を散策することが出来るようになった。
普段は街の散策などまずしないのだが、今日に限ってはキリトから攻略とレベルリングの禁止命令が出てしまったため泣く泣く街の散策をすることにした。
(………それにしても、改めて見るとここも活気づいてるなぁ)
少し前から、最前線から少し下のここ65層は高レベルのプレイヤーやそのプレイヤーからアイテムを買い取る商人でかなりの賑わいを見せていた。
元々、47層のフラワーガーデンと並んでかなり観光の名所になり得る要素を持っていたこの階層なのだが65層であるということで出現するモンスターのレベルも高く、低階層のプレイヤーからすれば訪れるには勇気がいる階層なのかもしれない。
そんなことで観光客というのは少なかったのだが、どこぞの鼠の情報屋が広めたグルメ情報のおかげで、モンスターの危険もなく楽しめる階層ということで今では沢山のカップルや観光客でごった返しているのが現状。
「やぁ、サラさん。こんな所で珍しいじゃないか」
「…ディアベルさんこそ、こんな所にいていいんですか?」
第1層で助けて以来時々交流自体はしていたディアベルさんだがまさかこんな所にいるとは思わなかった。理由は、ただ単に攻略組がこんな階層にいるとは思わなかったから。
第1層攻略後、ディアベルさんはそのまま攻略組として何層かは行動していた。特にギルドを作るわけでもなく、私やキリトのようなソロプレイヤーたちの中心として大いに活躍してくれていたのだが、彼は50層を超えたあたりで一時攻略組を抜けた。
理由は攻略組の人数の減少。
これだけ聞けば、逆に抜けるのはおかしいのだがディアベルさんは中層プレイヤーの育成のために一時的に攻略組を抜けたに過ぎなかった。ディアベルさんのお陰か、中層プレイヤーの中から攻略組へと参加する人も多少増え、今でも最前線に挑むプレイヤーは200人弱はいる。
最前線プレイヤーがある程度増えた辺りで、ディアベルさん本人も攻略組へと復帰。レベルなどに多少の心配はあったものの、今では攻略組の中でも上位プレイヤーに戻っている。
「たまたま買い物に来ていたらね、かの聖女様がお1人で歩いてるとあれば声を掛けない紳士はいないよ。」
「………遺言はいいですか?」
最近は言われ慣れたこともあってか、あまり気にすることはなくなってきたこの呼び名。それでも、知り合いやある程度の仲の人に呼ばれるのは恥ずかしくて好きではない。
「いやいや、冗談さ冗談。ただ最近、キリトくんとあまり上手くいっていないようだったからね。俺のチャンスかなと思ってさ」
「冗談言ってると悲鳴あげますよ?」
「あながち冗談でもないんだけど……。まぁ折角会ったんだし、お茶でもしていかないかい?」
「そうですね……暇なのでお供しますよ」
私の了承を得たディアベルさんは行きつけだというカフェのような場所へと私を案内した。
◇◇◇
「………アインクラッドにこんな場所が………。」
ディアベルさんが私に案内したお店は、ガイドブックには載っていない隠れ家的なお店だった。アインクラッドの中にあるお店とは思えないほど、内装に凝っていて尚且つ現実でもそうそうないオシャレな店内の雰囲気は、私にとってかなりの衝撃だった。
「驚いたかい?俺も初めて入った時は驚いたさ、だけどまだ驚くには早いよ」
「……………?」
ディアベルさんの言葉を理解出来なかった私は別に悪くないとは思う。
アインクラッドでの飲食は基本的に現実以下。それが常識であり、だからこそ私はわざわざ自分で調味料を作っているわけなのだ。
席に付き、ディアベルさんに勧められるがままに紅茶を頼み待つこと数分。
私たちの前に出されたのは現実と遜色ない香りと色味をした紅茶だった。
(………色味と香りは完璧…。ただ味となると…………。)
以前、ある店で紅茶を頼んで飲んだ時のことが思い出される。香りこそこのお店のものには負けるが、色味はかなりの再現度で心が踊ったのを今でも覚えている。
ただその紅茶の再現度はそこまでだった。心躍るまま1口飲んだ私の興奮は一気に底辺まで落ちていった。《味のない紅茶》それがその紅茶に付けられる最高の評価。
そのトラウマが少し頭が過ぎったが、香りがあるという時点でこの紅茶が全くの無味であるという可能性は限りなく低い。
私は決心をして紅茶を一口口に含んだ。
「……美味しい…」
「だろ?俺も驚いたさ、こんなものがアインクラッドに存在するんだ。ってね。」
ディアベルさんのその感想はとても共感出来るものだった。確かに現実の紅茶と比べたら若干見劣りする部分はあるのかもしれないが私にとっては"至高の一杯"そう評せるものだった。
「気に入ってもらえたようで何よりだよ。それで、キリトくんとは何があったのかな?」
人が幸せいっぱいになっている所で現実をぶつけてくる辺り、この人の性格の悪さというものが滲み出ている。
「………それ今聞きますか。キリトとは、ある意味何も無いですよ。」
私の言葉にディアベルさんは意味が分からない。そういった顔でこちらを見ている。
「何もない。だから、距離を作ってるってことです」
私が少し言い直したところでディアベルさんは納得したようで、深く息を吸い込んだ。
「なるほど……。どうりでか」
「…何がですか?」
「いや、幼馴染み特有の悩みってことだろ?それなのに、相手はアインクラッドトップの人気を誇るんだ。それは彼も気が気じゃないだろうね。」
ディアベルさんの言っていることはいまいち私には理解出来なかった。
幼馴染み。ということが私とキリトの関係をある意味難しくしているのは大体わかってはいるのだがそれでなぜキリトが気が気でなくなるのか。それは分からなかった。
「多分、もう既に君の中でも答えは出ていると思うよ。ただあと一歩踏み出すか現状維持に留めるかは君本人の問題だからね、俺にはどうしようもないことだ。」
ここは俺が払っておくよ。と最後に言うとディアベルさんはそのまま席を立ちお店を出ていった。
(…………もう答えは出てる。か……)
ディアベルさんに言われて改めて気づいた自分の気持ちを、さらけ出していいのか私にはまだよく分からなかった。