「ここね」
無言でうなずいた運転手に短く指示を下してレイカは車を降りた。
ドアを閉めると黒塗りの高級車はすぐに走り去ってゆく。
中学生という身分には不釣り合いな、だがよく似合っている黒のパンツスーツを纏ったレイカは、夜闇に立ち並ぶ黒い岩山のような影を見上げた。
志摩家の別宅にきりえとみおみを集め、みおみにきりえの護衛を任せると言ったのは、御崎 芽衣の殺害をみおみに邪魔させない為だった。
レイカは父親が興した組織のうち社会の闇部を担当するセクションに魔法少女の力を利用して接触し、その機能の一部を自らのものとしていた。
元々は裏社会の情報力を駆使して魔女狩りに利用しているものだったが、今は御崎 芽衣ひとりを探し出す為に活用していた。
そして数日の調査の結果、候補のひとつとして挙がったこの都市区画整理の為に無人となった鉄筋コンクリート製の、いくつもの棟が建ち並ぶ古くさい団地にやって来た。
街灯は点いているが等間隔に立ち並ぶ巨大な壁のような団地の群の中にはもはや生活の灯りがないため、広大な路地を歩いているとまるで漆黒の巨大迷路にでも迷い込んだかのような錯覚を覚える。
築数十年と言われるこの建物の住人の退去が完了したのはついこの間のはずだが、古びた外観はもう既に廃墟の様相を呈していた。
「アタシさあ。見透かされんのって大ッ嫌いなんだよねえ」
突如、夜の静寂に響いた少女の高い声に、レイカは立ち止まった。
「あんたには言ってなかったっけ?」
「さあ。初耳ですわ」
傍らの棟の屋上に姿を現した水色のバレリーナを見上げ、レイカも瞬時に魔法少女に変身した。
「どうしてここが分かったのさ」
「目立ちますわよ?小さい女の子が平日の昼間に食料品店やコンビニをうろちょろするのって」
御崎 芽衣の不機嫌な様子にも構わず、レイカは冷淡に応えた。
きりえやみおみから聞いた御崎 芽衣のプロフィールを分析すると、狡猾な割に、享楽的で自分の欲望に忠実で、かつおおざっぱな性格のようである。
悪知恵は回るようだが、自身の魔法にかなりの驕りがあり、攻め手に回るとそれなりに厄介だが、こうして追われる側になるとたちまち捕捉できてしまう。
ここはもともと周辺の目撃情報から絞り込んだ隠れ家の候補地のうちのひとつだったが、御崎 芽衣の性格からして「追われている」と分かったら、こっそりとやり過ごすよりも追っ手を叩き潰してさっさと隠れ家を変えると判断するだろうことも分かっていた。事実、これだけ隠れ場所に事欠かない広大な場所にも関わらず、レイカが来ただけで芽衣はあっさりと姿を現した。
つまり。
殺す気である。
そしてそれは、そのつもりでここに来たレイカも同様に。
「……!」
「派手に死になよ!」
芽衣が展開した巨大なリングから大量のスクラップが撒き散らされ、それらをレイカが放った魔法球が丸く抉りながら貫いていった。
だが小さな穴を開けられたくらいでこれほどの巨大な質量は止められず、潰れた自動車や廃家電が路上に次々と激突した。
レイカは既にその範囲から駆け出している。ただし、棟と棟の間に入る愚は犯さない。高所は御崎 芽衣の戦法にとって優位の地である。迂闊に建物に挟まれる位置に入ると今のようにスクラップを撒き散らされて逃げ場がなくなる。
団地の棟の並びの横の道を駆けるレイカを、芽衣が屋上を跳び移りながら追走してきた。
「あはははは!どうしたのさ!せっかく来たのに逃げるだけなのかな?」
「あなたは高い所がお好きなようね」
「言ってなよ!」
芽衣が投げ放ったリングがレイカの進行方向の上空に飛翔し、またあの鉱山用超巨大ダンプトラックを吐き出してきた。
地面に激突した鉄塊に道を遮られたレイカは、だが止まらずに跳躍し、巨大ダンプトラックの腹の機構に足をかけて上に飛び上がった。
「まだ足らないってんなら、喰らいなよ!」
真横の棟の屋上に追いついた芽衣がさらに展開したリングから、今度は朽ちかけた電車を吐き出してきた。三両編成の長大な車体がまるで蛇のようにのたうって落ちてくる。
「……!」
軌道変更のできない跳躍中の空中にあって、レイカは防護の魔法陣を展開して真上から降ってきた列車を受け止めた。
空中を縦横に走ったテニスコートの白線のような防護柵を足掛かりに、バランスを崩して倒壊してゆく電車とは反対方向へと跳躍する。
巨大な構造物が崩壊する轟音を聞きながら、レイカは団地のベランダの柵に着地し、そこから階段のように次々と上階のベランダへと跳ねていった。
「フトコロに入れば勝ちって!? 」
「お黙りなさい!」
ようやく同じフィールドに至り、至近距離に迫った芽衣のリングの殴打をレイカのラケットが打ち払った。
「耳障りだわ。あなたの声」
「あんたの高飛車なツラもムカつくよ!」
棟の屋上で二人の魔法少女がそれぞれの武器をぶつけ会う。
その中でリングを両手で掴み、瞬時に二つに分裂させた一方のリングを芽衣はくるりと背中に回した。
芽衣の背後には、戦闘開始時に放たれたオレンジの魔法球が迫っていたのだ。
「読んでたよこのバカ女!」
「それは結構なことね」
芽衣のリングは内側を亜空間に繋げることができる。
そこに魔法球を取り込んでかわすつもりだった芽衣の顔は、腕を肩の付け根から抉り飛ばされて驚愕に染まった。
「……っ!? 」
「バカはあなただったようね!」
レイカの魔法球は「空間を掘削している」のである。そこに別空間の入り口があったとして、魔法球は術者であるレイカが存在する位相に従い空間を掘削するのだ。
亜空間の入り口ごと腕を抉られた芽衣は僅かな混乱に体勢を崩した。
間髪入れずに打ち返された魔法球は、だがそれでもぎりぎり身を捩った芽衣の鼻と左目を丸く抉って通過していった。
「!? 」
まさかこの至近距離でかわされると思わなかったレイカは一瞬だけ目を剥いた。確実に仕留める為に、的の小さい「脳」を狙ったが故のリスクではあったが。
だがその一瞬の隙に、片腕と顔半分を失った芽衣は血を撒きながら屋上のへりから横っ飛びに飛び出して落下していった。
その残った顔には、嘲笑が浮かんでいた。
「そんな!? 」
慌てて地上を覗き込んだレイカが見たものは、落下中に変身を解除し、瞬時に再変身して欠損した身体を元に戻し地上に着地した、五体満足となった芽衣の姿だった。
「あはははっ! バカはやっぱあんただったね!」
復元された顔の嘲笑に歯噛みするも、レイカの脳裏には、御崎 芽衣との二回の戦闘の中で気付いたある推論が成り立っていた。
「……そう。魔法少女は、痛覚を完全に遮断することもできるのね」
「知らなかった? やっぱ知らなかった? あはははは!」
すぐ戻ってきた魔法球を地上に打ち込むも、芽衣は即座にリングから巨大トレーラーを吐き出して、それに飛び乗って隣の棟の屋上へと飛び上がった。
地下を抉って旋回し、屋上まで飛び上がってきた魔法球を、今度は身を翻して躱した芽衣は、分裂させたリングを投げ放ちながら哄笑を続ける。
「あはははは! せっかくだから、もうひとつ教えてあげる!」
「お黙り!」
リングをかわしながら魔法球を打ち返すが、遠距離の撃ち合いになっては互いに容易く躱されてしまい、状況は膠着してしまう。
「いいから聞きなって! 例えばここにソウルジェムがあるじゃん?」
扇ぐようにひと振りしたリングの中から放り出した卵形の宝玉を宙でキャッチした芽衣が、魔法球を躱しながらそれを突き出した。
「……!? 」
レイカは目を剥いた。
それは当然、芽衣のものでもレイカのものでもない。
それどころか、レイカの知るどの魔法少女のパーソナルカラーとも異なる色をしている。
少なくともレイカの知り合いではないが、つまり芽衣は、誰か他の魔法少女からそれを奪い取ったことになる。
「……あ、あなた、それ……」
「ははっ! そんでさあ、グリーフシードもこんなにあったりしてさあ?」
背後から戻ってきた魔法球を踊るように躱しながら、芽衣は三個のグリーフシードをキャンディのように気安く指先に挟んで出して見せた。
「そんで、これは世間話なんだけどさあ? 穢れの転嫁って、それを行使する魔法少女の意志で操作できるじゃん? ってことはさあ、穢れを転移させる方向って自由にできるってことだよね?」
「まさか!? 」
レイカがなにをする暇もなく、芽衣がソウルジェムとグリーフシードを接触させた。
「例えば、こんなふうにさあ!」
たちまちグリーフシード三つ分の澱みがソウルジェムに流れ込み、どす黒く染まった卵形の宝玉にひびが入った。
「さあて! そう言えば魔女ってどこから来るんだろーね! 今からそれを教えてあげる!」
上空に投げ放たれた黒く染まったソウルジェムだったものが微細に砕け散ると、爆発的な圧力が放射され、世界が塗り変えられていった。
「……な……あ……!? 」
そこに現れたものに、吹き荒れる圧力に耐えながらレイカは完全に言葉を失っていた。
夜も九時を回ったと言うのに、辺りが黄昏色に塗り潰された。
結界に取り込まれた足場が、等間隔に並ぶ団地の棟の屋上ではなく、地平まで見渡せそうな広大無辺の平らな大地に変わった。
遠く彼方を、陸橋のような黒い柵が次々と延びて結界を一周してゆく。
どかどかっ、とどこからともなく飛来した巨大な洋風の外灯が地面に突き立った。それも、いくつもの外灯が次々と降り注いでは地面に突き刺さってゆく。
やがてその外灯のうちの一本の足下から黒い線が地面に沿って長く長く伸びた。
光源が判然としないのに地面に広がるそれを、レイカは「影」だと直感した。
これなるは「影法師」の魔女。その性質は「憂鬱」。
誰のものとも知れないソウルジェムから、魔女が、生まれた。
「……う……そ……」
レイカは、黄昏の世界の中で呆然としていた。
「あはははははは! 知らなかった? ねえ、知らなかった? ソウルジェムが穢れきったらどうなるか、考えたこともないって顔だよね!あははははははは!」
両手を広げた芽衣の哄笑が再び弾けた。
いや、レイカも考えたことはあった。ただ、試すことができなかっただけ。魔女退治で忙しく、ソウルジェムを放っておく暇がなかったから。
ソウルジェムが穢れきったら、単に魔法が行使できなくなるだけだと思い込んでいたのだ。
「さあ!せっかくだから、もっぺん訊くよ! あんたの正義がなんだって?あはははは!」
「くっ!? 」
地面が水平になった為、疾く駆けて迫ってきた芽衣のリングの殴打を辛うじてラケットで打ち払った。
だが、動揺したレイカの動きは明らかに精彩を欠いていた。
「ほらほらどうしたのかな? さっきの威勢はどうしたのさ!」
リングによる連撃の最中に淀みなく分裂させたリングを次々と放り上げ、上空に舞い上がった直径を拡張させたリングから、タイヤのない自動車やら錆びたブルドーザーやらが次々と落下してきて、レイカに躱されては地面に激突して鈍い轟音を立てた。
「…………!? 」
芽衣のスクラップによる質量攻撃は予備動作が明確で、躱すこと自体は難しくない。
だが深い衝撃を受けた今のレイカでは、同時に襲いかかってくる芽衣を捌くことも困難になってきた。
それどころか、ここは魔女の結界。
異物の存在に気付いた魔女が、こちらに向かってその影の身体を伸ばしてきた。
地を這う影は、足下に影がない「外灯」の使い魔の根本に取り付くと、最初の外灯の根本から身体を離してまた別の「外灯」の使い魔の根本に取り付く。
それを高速で繰り返して「影法師」の魔女は迅速に迫ってきた。
魔女の足場にならない「外灯」の使い魔は、その長大な身体を曲げて伸ばしては跳躍し、この広い結界内をのんびりと跳ね回っている。
それどころか、今レイカの近くには遮蔽物になりそうな巨大な瓦礫が落ちている。
とうとう逆さまの錆びたブルドーザーの足下にたどり着いた「影法師」の魔女は、影の身体を扇状に広げると無数の黒い針を無差別に爆発的な勢いで伸ばしてきた。
「……ッ!? 」
咄嗟に前にかざしたラケットで幾本かの針を防ぎ、幾本かの針はネットに触れて消し飛んだが、肩と片足を貫かれて苦悶に身を捩った。
「あははっ! ゾクゾクする顔しちゃって、バカじゃないの!」
そこに芽衣が駆け込んできた。
自分の横に大きく拡張させたリングを転がしながら、亜空間に繋げたそれを盾にしながら魔女の横を駆け抜ける。
魔女が無差別に伸ばした影の針のうち、芽衣を狙ったものは全てリングの中の亜空間に飲み込まれて、リングの向こうの芽衣には届かない。
「痛いのなんて、全部消しちゃえばいいじゃん!」
迫る芽衣のリングの殴打を辛うじて弾き返したレイカは、「魔法少女は痛覚を完全に遮断できる」ことを思い出し、それを実行した。
瞬時に、貫かれた箇所から煩わしい激痛が消失した。
(……確かに、これなら……!? )
目つきを鋭くしたレイカが体勢を取り戻して大きく後退してゆく。
それを追うように「外灯」の使い魔が次々とレイカの跡に降り立ち並んでゆく。
芽衣は使い魔の頭の上に飛び乗って追跡し、使い魔の根本を魔女がジグザグに渡って追いかける。
まるで二対一のようだが、魔女は魔法少女二人ともを狙っている。
「いつまでも調子に乗ってないで!」
立ち止まったレイカが叫び、影の針を伸ばしてきた地面の魔女にラケットを振り下ろして魔法球を叩き込んだ。
『ーーーーーッ!? 』
地面ごと身体を貫かれ、「影法師」の魔女がその輪郭を揺らめかせて身悶えした。
その隙に外灯の使い魔の身体を蹴って飛び上がり、跳んできた芽衣を迎え討つ。
「ほら!」
嘲笑する芽衣が扇ぐように振ったリングの中から裸の人間を放り出してきた。
胸にナイフを突き立てられた少年の死体を、レイカは眉一つ動かさずにラケットを振るって消し飛ばし、外灯の使い魔の頭の上に降り立った。
「相変わらず、下劣なことをするのね」
地中で旋回して再び魔女の身体を貫いて飛び上がってきた魔法球を、正面の芽衣めがけて打ち放つ。
「こちとら、生きてりゃ勝ちなもんでさあ!」
同時に無数の瓦礫をばら撒いた芽衣は、片足のつま先を丸く抉られながらも瓦礫を足場に跳躍した。
すぐに戻ってきた魔法球は躱されたが、レイカはそれを上空にいる芽衣へと打ち返す。
血を撒きながら芽衣は、空中でリングから吐き出した巨大なスクラップを蹴って軌道を変えながら魔法球を躱した。
「あははっ! あんた、足下がお留守なんじゃないの!? 」
芽衣の言うことなど信じられたものではない。
だがレイカは下も見ずに「外灯」の使い魔の頭を蹴って別の使い魔の上めがけて跳躍した。
一瞬、視界の端で下方を確認するが、思った通り地を這うしかない「影法師」の魔女は未だ地面でまごついていた。
「どっちにしろ跳ぶと思ったよ!」
落下を続けながら芽衣が投げ放ったリングが鋭く飛翔し、レイカが着地しようとした「外灯」の使い魔を真っ二つに斬り倒した。
「チッ!? 」
仕方なくレイカは使い魔の消えた地表へと着地した。
即座に「影法師」の魔女が地面を滑るように迫り無数の影の針を全方位に伸ばしてくる。
それは落下中の芽衣にも向かったが、芽衣はリングの亜空間を盾にしてやり過ごした。
レイカは後退しながらラケットを振り、針を片っ端から消し飛ばしてゆく。
レイカの周囲にいくつもの「外灯」の使い魔が着地し、さらにスクラップのトラックが地面に激突した。
「ええいちょこまかと!」
戻ってきた魔法球を地面の魔女に打ち込んだ。
三度身体を貫かれて魔女が身悶えする。
既に周囲を使い魔や瓦礫で囲まれている。遮蔽物が多い。
芽衣を捕捉しようと振り向いたレイカは、後方にいた芽衣に気付きラケットを振るった。
「……!? 」
ところが、突然あまりにもラケットが軽くなったことに気付き、レイカは振り切った己の右腕を見下ろした。
「……!」
そこには、肘から先には右手もラケットもなかった。
「……あ……」
後方から投げつけられたリングがいつの間にかレイカのラケットを持つ手を切り離していたのだ。
痛覚を完全に遮断していた為、その衝撃に気付けなかった。
「あはははっ! ほおらバカを見た!」
残忍な嘲笑を浮かべ、芽衣は振りかぶったリングをレイカではなく、その足下に振り下ろした。
地面に落ちたレイカの右手首、そこに巻かれたリストバンドに張り付くオレンジ色のソウルジェムを芽衣のリングの亜空間が飲み込んだ。
「あっ!? 」
その途端、レイカの意識が途絶えた。
レイカの知らないソウルジェムの特性。「魔法少女の本体であるソウルジェムが肉体を操作できる限界距離百メートル」を、亜空間に取り込むことで一気に引き離された「レイカの身体」は、魂の制御を失って瞳から光を失い、完全に脱力してその場に倒れこんだ。
オレンジを基調としたテニスウェアのような魔法少女の衣装が、まるで電源を切られたモニターのように瞬いて消え、元の黒のパンツスーツ姿に戻った。
「あはははっ! ばっかみたい!じゃあね!」
素早く身を翻すと、無数の影の針に串刺しにされるレイカの死体を置き去りにして芽衣は迅速に結界の外へと走り去っていった。
「……こりゃあ、あのバカの仕業か?」
魔女の結界に降り立った佐倉 杏子は、結界内の惨状を見渡して呻いた。
広大無辺の黄昏の空間のあちこちに、巨大な瓦礫やらスクラップやらが散乱している。
そして跳ね回るいくつもの外灯に囲まれて、影型の魔女が影に引きずり込むようにして人間を貪り食っていた。
少なくとも、その犠牲者は御崎 芽衣ではなさそうだ。影からはみ出た下半身の体格がまるで違う。
御崎 芽衣は、どこかに隠れているのか、それとも……?
「……まあ、見つけ次第ぶちのめすだけだけどよ。」
言って、獰猛な笑みを浮かべた杏子は長槍を構えて魔女へと駆け出していった。
◆◆
「教えてくれませんか? 芽衣ちゃんが、魔法少女になった訳を」
空に浮かぶ絵画型の魔女が見下ろす、燃え盛る炎に巻かれた志摩家の敷地だった結界の中で。
石畳敷きの広場でみおみと芽衣が向かい合っていた。
純白の花嫁を、水色のバレリーナを、巻き上がる炎がそれぞれ朱色に照らしている。
気圧されていた芽衣は、鼻を鳴らすと分裂させたリングを振りかぶった。
「……ぅるさいよあんた!」
投げ放たれたリングは直径を拡張させながらみおみの真上に至ると内側の亜空間を展開し、中から巨大な鉄の円筒を車輪に持つロードローラーを吐き出してきた。
「みおみっ!? 」
きりえは思わず悲鳴をあげた。
後ろからでは顔も目線も見えないが、その瞬間みおみの頭は微動だにせず、芽衣が投げたリングを見上げようともしなかったのだ。
圧倒的な重量の鉄塊が直下のみおみを圧し潰そうと落下してくるのに、みおみは先ほどの問いかけの応えを待つ姿勢のまま芽衣を見つめて立っている。
間抜けな敵をもう殺したつもりで嘲笑っていた芽衣は、直後にその笑みを引き攣らせた。
「!? 」
ロードローラーが、空中でやんわりと静止したのだ。
みおみはそれを見上げてすらいない。視線も芽衣から僅かたりと逸らさない。
なのになぜか落下をやめてしまったロードローラーは、みおみの真上で不自然に停止していた。
「……な、に?」
「芽衣ちゃん。教えてくれませんか?」
絶句する芽衣の様子にも構わずみおみは同じ問いを繰り返した。
瞳は真摯に芽衣をひたと見つめている。
だが芽衣は、それを余裕の挑発だと判断し怒りに顔を歪ませた。
「……舐めんじゃないよッ!」
絶叫しながら駆け出した芽衣は、振りかぶったリングを大きく拡張させて上から振り下ろした。
十メートルにも及ぼうかという巨大なリングの内側は既に漆黒の亜空間に繋がれており、空中で静止していたロードローラーを飲み込んで消滅させるとそのままみおみを囲んで地面に叩きつけられた。
その場にみおみを残して。
「…………は?」
芽衣には意味がさっぱり分からなかった。
亜空間接続が、ロードローラーのあった位置を通過した途端に解除されたのだ。
それどころか、地面に叩きつけていたみおみを囲む芽衣のリングまでもが、水色の飛沫を瞬かせて弾けるように消滅してしまった。
「…………」
呆然と、無手になった自分の両手を見下ろす。
自分は魔法を解除するようなことはなにもしていないのに。
なんだ?これはなんだ?
初めて遭遇する現象に芽衣の手が震えた。
「っ!? っあああああああああ!」
魔女を超える怪現象に、感じた恐怖を自ら否定するかのように吼えた芽衣はどこからともなく再びリングを取り出すとそれを振りかぶって殴りかかっていった。
そこで初めてみおみが身動きした。
くるりと翻した手のひらに現れたのは、円形の白い化粧用コンパクトに見えた。ぱかりと開かれた蓋の裏に鏡がついていたからだ。
芽衣には、よもやそれが魔法少女・みおみの固有の武器だとは思いも寄らない。
「え?」
そのミラーを向けられたまま突撃する芽衣は、突き出したリングを微細に砕かれ、なぜか自身の意図に寄らず変身を解除させられ、トレーナーにデニムパンツの姿に戻った身体が力を失って地面に倒れ込んでも何をされたのか一切理解できなかった。
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「アタシはナニもかもぶっ壊すつもりで帰ってきたんだ!」
第12話 アタシが魔法少女になったワケ
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