魔法少女みおみ☆マギカ 平穏の魔法   作:鉄槻緋色/竜胆藍

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第2話 わたしには やる事がありますから

 みおみの朝は早い。

 

 ざっ。

 左右に開け放たれたカーテンの向こうから、穏やかな陽光が差し込み室内を明るく照らし出した。

 かごにまとめられた衣類を洗濯機に放り込み、ぴっぴとスイッチを操作して稼働させると台所に向かう。

「~♪」

 軽く鼻歌など交えながら覗き込んだ冷蔵庫の中身を吟味し、昨夜のおかずの残りと冷凍室から数点の冷凍食品を取り出すと、順番に電子レンジに入れては加熱させてゆく。

 その間に代わるがわる調理台の前に戻っては、トースターにパンを放り込み、コーヒーメーカーをセットし、炊飯器を開けてご飯をかき出してはおにぎりにして皿に並べてゆく。

「おう。はええな」

「おはようございます♪」

 みおみが忙しく動き回る台所に、兄がシャツのボタンを留めながら入ってきた。

 歳が離れた兄は大学生である。纏う衣服は制服などではない。

「これもレンジに入れちまっていいのか?」

「はい! お願いします!」

 順番待ちしていた冷凍食品の皿を指して問うた兄にみおみは快活に応えた。

 ひとつ手間が減ったみおみは火にかけたフライパンに油をひいて卵を割りいれた。

「おにぎり、ラップでくるんじまうぞ」

「はい! お願いします!」

 父の仕事は、夜の帰りが遅く、出勤が他と比べてやや遅めだ。

 不規則な生活の兄はともかく、みおみと直接顔を合わせることができるのは非常に稀だ。

 だから、できたての食事は用意してあげられないが、みおみは父の為にいつでも食べられるよう弁当とは別におにぎりを用意しているのだ。

 三つ並べられた大小の弁当箱に、次々と準備された食材が詰め込まれてゆく。

 コーヒーメーカーから自分のカップにコーヒーを注いだ兄が、隣に来て完成した弁当箱から布に包んで結んでゆく。

「ありがとうございます!」

「おう」

 ぶっきらぼうに応えた兄は、椅子に戻って朝食を開始した。

 朝の支度を終えたみおみも向かいに腰掛けてトーストを取り上げる。

 しばし、食器の立てる音に包まれて。

「そう言えばお兄さん。最近、佳乃さん、みえませんね」

「おまえヤなこと訊くなよ。 つまりはどういうことか分かるだろ?」

「残念ですねえ」

 遠回しに「別れた」と告げた兄の意図をみおみはあっさりと読み取り、顔をしかめた兄の対面で心底残念そうに眉根をよせる。

「まあ、長くはもたないって思ってたよ。 なんか、こう、……違うし」

「はあ」

 兄はこれまでたびたび彼女を家に連れてきていた。

 来客のもてなしまで気にしなくていいと兄に念を押されていたし、二人はさっさと兄の部屋に入っていってしまうので、みおみは兄の彼女の顔をあまり覚えていなかった。

 まあ男女のこととはそういうものだろうと、みおみも特に気にせず自室で自分のことをしていたのだが。

 いずれにせよ、当人同士の問題である。

 朝食が終わったみおみは椅子から立ち上がった。

「お兄さん、今日は早いんですか?」

 兄が早起きするのは毎日のことではない。

 ある程度曜日のパターンが決まっていて、今日はその日ではなかったはずだ。

「いんや。たまたま早く目ぇが覚めただけだ」

 なんということのない、普通の会話。

 いつも通りにいつも通りであることの幸せを噛みしめつつみおみは鞄を取り上げ玄関に向かった。

「それじゃ、行ってきますー」

「おう」

 兄のぶっきらぼうな返事を受け、みおみは家を発った。

 

 

 石畳で整備された小川を挟む大通りを、一様の制服に身を包んだ学生たちが歩いてゆく。

 大勢の学生が一方を目指して歩くここは久那織中学校にほど近い通学路。

 その中の、肩ほどの長さの髪の少女の後ろ姿にみおみは駆け寄った。

「きーりーえーちゃーん!」

「……!? 」

 満面の笑顔で近寄ってくるみおみに対し、きりえは苦虫を一掴みほど噛み潰したかのような曰く味のある顔で振り返った。嘔吐く動作までして。

「おはようございます!」

「……朝から話しかけないでくれる?」

 素っ気なく返してきりえはさっさと前を向いてしまう。

 みおみは、きりえの隣を歩くものにも覗き込むようにして告げた。

「キュゥべえさんも、おはようございます!」

『やあ。おはようみおみ』

「……!? 」

 底抜けに明るく返事したキュゥべえの横で、やおらきりえは振り向いてみおみの頭を鞄で殴り倒した。

 フルスイングしたきりえの足下で、みおみが勢い良く顔面から地面に貼り付いた。

 そのみおみの元にきりえがしゃがみ込んだ。

「……あんたねえ!? キュゥべえは、あたしらにしか見えてないの! こんなところで朗らかに挨拶したって、周りからはあんた、何もないところにしゃべりかけてる重症患者にしか見えないのよ!? 」

「ええ~!? 」

 鼻を押さえて起きあがったみおみの耳元できりえがこそこそとまくし立てた。

『でもさ、きりえ。 今のはむしろ、君の暴力行為のほうが人目を引いているみたいだよ?』

「……え……?」

 はた、と我に返ったきりえが周囲を見回すと、こちらを見ては隣の者と何事か話して通過してゆく学生の姿がちらほら見受けられた。

『ほらね』

 きりえの隣で、キュゥべえはしれっと呟いた。

「…………!? 」

 きりえは慌てて立ち上がると、みおみを置いてさっさと歩き出した。

「じょ、冗談じゃないわよ!? 私まで由貴さんみたいな「不思議さま」と同列視なんてされたくないわよ!? 」

「え~ん。待ってよお~」

 鼻を押さえたままのみおみがとことこと後をついてくる。

「うっさい! 近寄んな! あっち行け!」

「え~ん」

 そのまま速歩きによる追走劇が校門を過ぎても繰り広げられた。

 

 

 誰が、いつ付けたあだ名か。

 直接の呼びかけには用いられないが、彼女を知る生徒たちは皆、みおみを指す時は「不思議さま」と呼び親しんでいる。

 その一種独特の思考形態は既にただの「不思議ちゃん」の域を超えており、超越した存在に対してはきちんと敬称を付けるべきだとの意見から「ちゃん」ではなく、「さん」をも越えて「不思議さま」と呼ばれるようになった。ということを本人は知らない。

 前に立つ者の心の垣根を自然と取り除く、とても穏やかで屈託のない癒しすら感じさせる天真爛漫さはありとあらゆる人を惹き寄せた。

 道端にたむろしていた危険視されている少年集団と邂逅した際に、なぜか談笑した挙げ句笑って手を振り合ってわかれたという逸話もある。

 あらゆる学科をはじめ、たいていのことをそつなくこなしてしまう為、教師をはじめ多くの人間に一目置かれる存在となっている。

 

 

「……そんなこいつが、さらに魔法少女になんてなってみなさいよ! 私の立つ瀬がなくなるじゃない!? 」

 昼休みの屋上で仁王立ちしたきりえが吼えた。

「キュゥべえさんて、ほんとに他のひとには見えないんですねえ」

『ボクが、それと選んだ人間でない限りね』

「そ こ! 無視してんじゃない!」

 フェンスのそばでしゃがんで向かい合っていたみおみとキュゥべえに振り返り指先を突きつけ怒鳴りつける。

「とにかく! ダメったら絶対にダメ。 分かった!? 」

『みおみには、なにか叶えて欲しい願い事はないのかい?』

「はあ。」

 さらに無視されて硬直したきりえの前で、みおみはあごに指先を当てて虚空を見上げた。

「……特に、これと言って、そういうのって、ないんですよねえ……」

 言いながら、みおみの上体がゆっくりと横に傾いてゆく。どうやら悩んでいるポーズらしい。

「ほら見なさいよ!? こんな脳内にいっぱい花咲かせてるような女にはそんな「悩み」なんてものはこれっぽっちもありゃしないのよ!」

『「悩み」じゃなくて、「願い事」だよ。きりえ』

 きりえは、それ以上採り合わずにキュゥべえを抱えあげると屋上入り口に向かってずかずかと歩き出した。

「とにかく、私は魔女と戦わなくちゃいけないんだから、あんたは私に近付いてこないで! いい!? 」

「う~ん。 そうは言われましても……」

 やがて辿り着いた教室で。

「お隣の席なのは致し方ないですよねえ」

「うるさいっ! せめて話しかけんな!」

 真横から言われ、きりえは極力目を合わせないようにして、食いしばった歯の隙間から押し殺した声音で呻いた。

 

 

 空に舞い上がった黄色いボールがやがて頂点で動きを止め、重力に従って落ちてくる。

「……はッ!」

 うなりを上げて振り下ろされたラケットに殴打されたボールは鋭く飛翔し、横っ飛びに伸ばしたきりえのラケットの先を抜けてコートに突き刺さった。

 ずざー、とコートに身を投げ出し、苦悶の表情のきりえが悔しさに唇を噛んだ。

「……きりえさん」

 真上から、冷徹な声が容赦なく降り注ぐ。

「あなた、わたくしを舐めてらっしゃるの?」

「……志摩先輩……」

 転倒の衝撃を堪えながら起きあがったきりえが、相手の名を呟いた。

「最近、突然腕が落ちて、調子でも悪いのかと心配していたのはわたくしの勘違いでしたのね。 どういうことかしら。もう馬鹿馬鹿しくなってしまったとでも?」

 冷たい眼差しに耐えきれず、きりえは再び唇を噛んでうつむいてしまう。

 

 志摩(しま) レイカ。久那織中学校三年生にしてテニス部の部長であり、全国トップクラスの腕を持つ久那織中テニス部のエースである。

 志摩家と言えば、きりえの家である綾名家と共に知られた大規模の資産家である。

 いずれ高校の全国大会で優勝する頃には、それはさぞかし立派なドリルのようになるだろうとも揶揄される可憐なくるくるカールヘアを左右に垂らし、厳しい面持ちでテニスラケットを構えるユニフォーム姿はまさしく「お嬢様」の鑑である。

 家のことはさて置いても、きりえでは色々と及ばない存在。

「他の誰ならともかく、あなたが一から練習し直す姿など、わたくしは見たくありません。 一度、お帰りになって、御自身の有様をお考えなさい。それでもなおわたくしの前に立つ気があるのなら、わたくしはいつまでも待っています」

 やる気がないのなら、情熱を注ぐべきがほかにあるのなら、今の立場を考え直すべきではないのか。

 それは、志摩 レイカが一度ライバルと見定めた相手に対する最大限の気遣いの言葉である。

(……でも、私には、重い……!? )

 きりえはその熱視線を直視することができず、肩を落としてうつむいてしまった。

「あ!? 」

 その時、隣のコートでラリーの練習をしていた部員から素っ頓狂な声があがった。

 見れば打ち返しを失敗したのか、ボールが外れた方角へと飛んでいってしまったのだ。

 しかも別の部員がコートに入ろうとフェンスの出入り口を開けたところにボールが飛来し、タイミング悪くその出入り口の隙間を通過してしまったのだ。

 強く打ち過ぎてしまったのだろう。真っ直ぐに飛翔するボールは校舎の渡り廊下まで飛び、さらに悪いことに、そこへ女子生徒が通りかかったのだ。

「危ない!」

 志摩 レイカが鋭く叫んだ。

 鍛え上げた身体から発する通りの良い発声のおかげか、渡り廊下を歩く女子生徒がこちらを振り向き、己に迫るボールに気付いたようだった。

 でも遅い。誰もが激突することを想像していた。

 ところがその少女は、ととっとステップを踏んで足の位置を変えると、抱きかかえていたクリップボードを両手で構えて、あろうことかテニスボールを打ち返してしまったのだ。

 打ち返された打球は真っ直ぐに飛翔し、フェンスの入り口を通過して失速、コートに落下し何度かバウンドして転がっていった。

 この一連の応酬に、テニス部の一同が呆然としていた。

 志摩 レイカでさえも。

 だが誰よりも早く立ち直った志摩 レイカは意識を復帰させるとやおらすたすたと歩き出し、フェンスをくぐり出て、渡り廊下に立って笑顔でこちらに小さく手を振っている女子生徒へと真っ直ぐに近寄っていった。

「あなた。二年生?」

「あ。 はい」

 問われた女子生徒は臆することなく朗らかに応えた。

「部活は?」

「いえ。 特にやってません。」

「テニスの経験はあるのかしら。」

「いいえ? まったく。 これっぽっちもやったことないです」

「じゃあ、」

 志摩 レイカはやおら女子生徒からクリップボードを取り上げると、隣に来た部の後輩に押しつけて少女の両手を掴み上げた。

「あなた。テニス、やってみませんこと? とても凄い素質。今から始めてもきっと楽しめると思うわ!」

 志摩 レイカは見ていた。 咄嗟だとしてもステップの位置は的確で、かつクリップボードなどという脆弱なものでボールを打ち返した技量は、正規の訓練を受ければ相当な腕前に成長するだろう。

「あなた。お名前は?」

「はい。 由貴 みおみです」

 女子生徒──由貴 みおみはにっこりと応えた。

「そう。 わたくしは志摩 レイカ。 テニス部の部長ですの。 いかがかしら。わたくしと一緒に、テニスをやってみませんこと?」

「ええと、その、」

 由貴 みおみは掴まれている両手をやんわりと引き抜くと、ひょこ、と頭を下げた。

「ごめんなさい。 わたし、家で家事のことやらないといけないので、部活動している時間がなくて、それで入ってないんです。 ですからその、すみません。 失礼します」

 申し訳なさそうに、だがはっきりと辞意の旨を告げた由貴 みおみは、後輩部員からクリップボードを受け取ると、すたすたと通り過ぎていってしまった。

 しばし、渡り廊下に不自然な冷気が舞い降りた。

 最後の姿勢で固まったままの志摩 レイカが纏う気配の変化に気付いた後輩部員が、怯えながらわずかに後退した。

「……ふふふ…… 由貴 みおみさん。 わたくしは諦めませんよ。 わたくしの渇きを癒せるのはもう、あなたしかいない……」

 

(……由貴さん……あんたってやつは……!? )

 残されたコートでその様子を見ていたきりえは、さらなる嫉妬と怒りに打ち震えていた。

 

 

「でやああああああ!」

 妖精のような緑衣姿に変身したきりえのフルーレが使い魔のキャベツ頭を貫いた。

『rhんう゛ぃrぁえうんぁぇlxcなsmrjflfgっふthgdzだkm!!』

「ナニ言ってっか分かんないのよ!」

 落書きじみた立体感を感じさせない胴体で、首に載ったリアルなジャガイモに貼り付く乱杭歯をはみ出した唇が放つ意味不明な罵声に言い返し、きりえのフルーレが次々と様々な野菜を頭に持つ使い魔どもを刺し貫いてゆく。

 まるでリノリウムのタイルで覆い尽くされたグランドキャニオンとも言える無機質で起伏の激しい荒野のあちこちに、一定数の使い魔が群を点在させている。 その群同士は互いに近付こうとはしない。

 そんな賑やかなのにどこか荒涼感を抱かせる広大な結界の中心部に、高々とそびえ立つ歪(いびつ)な塔があった。

 その頂上には、首の代わりに黒い闇を載せた、フレキシブルパイプを寄り合わせて作ったような身体を持つ異形がうずくまっていた。

 

 

 これなるは「おしゃべり」の魔女。その性質は「寂寥」。

 

 

『fxcっghgjほtfhtdんらxふぁjcいxう゛ぃおvぼcfhrzん!!』

「ッツッ!? 」

 別の「十把一絡げ」の使い魔の群が、ばらばらな野菜頭の口で一斉に喚き立てた。

 その途端、きりえの耳と身体全体に鋭い痛みが走った。物理的な痛みを伴う破壊音波か。

 たまらずきりえは遠くに投げ放ったボタンと位置を入れ替えて距離を取りフルーレを構えるが、騒音は結界の各所で展開されており、きりえの集中力を著しく削いでいる。

「……うるさいってのよ!」

 フルーレの切っ先を伸長させて使い魔どもを次々と貫いてゆく。

 だがそうして群ひとつを一掃しても、また別の使い魔の群がぞろぞろと移動してくるのだ。

 起伏の激しい地形も相まって、きりえの空間転移の魔法でもなかなか魔女まで接近できない。

「きりえちゃん、大変そうですねえ」

 またも結界に巻き込まれていたみおみが、きりえが張った魔法の防護柵の内側で呟いた。

 片手には野菜や肉が詰め込まれたビニール袋を提げている。

『確かに、きりえの魔法と能力では少し相性の悪い相手かもしれないね』

 隣でキュゥべえが首肯した。

『でも、もしここに魔法少女がもう一人いたら、きりえもぐっと楽になると思うよ』

「でもでも、わたしには、やる事がありますから」

『……』

 だから魔法少女になってよという台詞を先んじられ、キュゥべえは黙り込んだ。

『ダレがピンチよ!? あんた達の脳はフシ穴!? 』

 みおみの脳裏にきりえの絶叫がダイレクトに飛び込んできた。

 キュゥべえを介して行われると言う、魔法少女とその資格者同士専用のテレパシーである。

『まったく!? こちとら魔女探しにあちこち奔走してたってのに、なんであんたはナチュラルに巻き込まれんのよ!? 』

「さあ」

 みおみとしても、偶然通りかかったと言うよりほかない。

『とにかくぱっぱと片付けてやるから、あんたは黙って待ってなさい! いい!? 絶対にあんたは魔法少女になんないでよ!』

「はい。よろしくお願いします。 う~ん。お肉痛みそう」

『やかましいわ』

 ビニール袋を見下ろしたみおみの生活感漂う日常的な呟きにきりえのツッコミが突き刺さった。

 だが状況は依然膠着していた。大量の使い魔に阻まれて、きりえの進攻が思うように進まないのだ。

「ええい!? どいつもこいつも邪魔よっ!? 」

 

 まるで琥珀で形成された芸術品のような美しいバトンが持ち上げられる。

 そのバトンは下端のグリップから先が楕円形の円環となっており、輪の中には何もない。

 だが水平にかざされた円環の内壁から突如、鋭い音を立てて幾本ものオレンジの光条が縦横に放たれて網状に輪をふさぐ。

 そして振り上げられたバトンの円環の光線の網の中から、オレンジに輝く光球が生まれて舞い上がった。

 宙に舞い上がったオレンジ色の光球はやがて頂点で動きを止め、重力に従うように落ちてくる。

「……はッ!」

 うなりを上げて振り下ろされたバトン──ラケットに殴打されたボールは鋭く飛翔し、うるさく喚いていた使い魔の群をいくつも貫いて飛翔していった。

 たちまち無数の破裂音を轟かせて大量の使い魔が消滅してしまった。

 

「!? 」

 突然の横槍に、着地したきりえがオレンジの光球が飛来した方を振り向いた。

「無様ですわね。きりえさん」

「……レイカさん……」

 悔しげに呟かれた名前には、みおみにも聞き覚えがあった。その顔にも。

 ただし、姿はまるで見慣れぬものであったが。

 リノリウムの床が盛り上がったような丘の上にいたのは、オレンジを基調としたテニス用ユニフォームのような短衣に身を包み、やはりオレンジ色の宝石のような輝きを放つラケットを提げ、オレンジ色の巨大なサンバイザーを被った久那織中学校三年生の志摩 レイカであった。

『なぜ、由貴 みおみさんがこんなところにいるのかしら?』

「はあ。たまたま通りかかりまして」

 肉声の会話が通じる距離ではない為、脳裏に響いてきた問いにみおみは口と同時にテレパシーで応えた。

「!? 」

 ところが遠くの志摩 レイカはぎょっとしてみおみの方を振り向いた。どうやらみおみに通じているとは思っておらず、きりえに問いかけたつもりだったらしい。

『レイカさん! 由貴さんは魔法少女じゃありません!』

『……ふうん。キュゥべえに見初められたということ。 ……さすがね』

 辺りの使い魔の群を貫いて一周してきたらしきオレンジの光球を、志摩 レイカはそちらをろくに見ずにかざしたラケットで受け止めた。 光球は、そのままネットに吸い込まれて消えてしまった。

『結構。 きりえさん!さっさと片付けますわよ! わたくしが道を拓きます。あなたは魔女へ!』

『わかりました!』

 降り立ったオレンジ色の衣装と並び立った緑衣の魔法少女が、使い魔の群と、その向こうの魔女めがけて疾く駆け出していった。

 

 




◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆

「だからわたしは、いつ明日がなくなっても大丈夫なように、毎日を大事にして生きてるんです。」

第3話 それを強制できますか?

◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆
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