少年は甘やかされたい   作:クヤ

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少年は甘やかされたい

一人の少年がいた。

端的に言って彼は天才だったのだろう。

そして幸運でもあった。

生まれから考えれば、今現在彼はとても恵まれていたのだから。

 

「ふぇいと、全力で甘やかすといいよ」

「エリオやキャロもレクサスみたいに素直に甘えてくれたらいいのに」

 

膝枕をされながらそんなことをのたまった少年は、とても満足そうだった。

そして幸せそうだった。

自立しないと堕落させる系お姉さんが、全力で甘やかしてくれるのだからそれも当然かもしれなかった。

 

少年、レクサスには理解できないことであったが、彼より年上のフェイトにより後見されている少年少女は、すでに働きに出ている。

正確には訓練学校在学と、自然保護を業務としている部隊に所属という埋められない溝はあったが。

それもあとわずかのことで、保護者と同じ部隊で働くことになっているとか。

 

しかし、何故彼らはそんなに生き急ぐのか。

保護者が働かないでゆっくり学校でも行けばいいよと言ってくれているのに、わざわざ働きに出るとは。

フェイトの親友の出身世界あたりではまだ義務教育という強制就学期間であるらしいというのに。

こちらはまだ一桁歳であるので全力で保護してもらっているが。

とはいっても仕事が忙しく家にはあまり帰ってこない。

 

そういう彼もあまり人のことは言えなかったりするのだ。

お小遣いをせびって、宝くじを当て、それを元手に投資を行って数年で一体いくらになっていたのだったか。

そもそも、彼に働く理由はないのであった。

既に一生分稼いでいたのだから。

しかし保護者の勧めで学校には通っていた。

フェイトが保護しているという点で察していただけると思うが、彼もまた特殊事情を備えたお子様であった。

プロジェクトFによって、偶発的に僕の考えた最強のオリ主とでもいうべきスペックを持って誕生し、様々な記憶を詰め込まれて、いつ脱走しようかなーとのんきに考えていたところをエリオとともに保護された経歴を持つ。

 

そんなハイスペックではあったものの、致命的な欠陥が存在した。

彼には勤労意欲という物が存在しないことだ。

やるきが欠片もなかったので、普通普通、私普通、と研究者たちを謀りながら生きてこれてしまった時点でおかしかった。

その後の健康診断や魔力テストも全力で偽装していたりする。

特に意味はないが、なんとなく目立たない方が楽に生きられるということを生まれながらにして知っていた。

なので彼の真のスペックを把握しているものは彼自身も含めて誰もいなかったりする。

 

「ふぇいとー。結婚して―」

「このおませさん」

 

ほっぺをつんつんされながら、今日の平和をかみしめるのである。

 

 

 

 

 

「こんにちはなのはさん」

「はい、こんにちは」

「このたびは、フェイトがご迷惑をおかけしまして……」

「ははは、相変わらず子供らしくないぞぅこのっこのっ」

「うをーやめるのだ。ほっぺは引っ張るものでない」

「やだ、もちもち」

 

このたび、エリオやキャロなんかも含めてフェイト一家すべてが機動六課の寮に入ることになって、ミッドチルダにずっといるのに一人暮らしなんてさせられないと、なぜかレクサスも引き取られていたのであった。

しかもなぜか、なのは、フェイトと同室である。

 

「己は一人部屋でよかった」

「一桁の子供でしょー」

「しかし、普通に悠々自適な一人暮らしを満喫できる程度の一桁児である」

「それは確かに」

 

それには、なのはも同意するしかなかった。

むしろフェイトより生活力があるのではないかと疑っていたりする。

家に帰った後のフェイトのスーツはパリッとしているし、ワインをこぼしたワイシャツもちょちょっと綺麗にしてくれるらしかった。

 

「最初はリンディさんところに預ける予定だったのにね」

「子供は嫌いではない、しかし、独り暮らしの方が気楽」

「フェイトちゃんちだからねー。一人暮らしじゃないんだぞ。というか君も子供だ」

「是、是、是、しかしあまり帰ってこない。己は気楽、フェイトは家の管理が要らない。うぃんうぃんな関係」

「そうなんだよね。忙しいからなー」

「しかし、この寮にはハウスキーパーがいると聞いている。アイデンティティの危機」

「子供は本当はそんなことしなくていいんだよ」

「しかし、完全にやることがないのも堕落の一歩」

「子供は学ぶことが仕事です」

「一理ある。何かテーマを決めて研究に取り組もうと考える」

「子供らしくなーい」

「己を子供らしくしたければ全力で甘やかすといい。全力で甘やかされてみせる」

「ふっふっふ。よーし、甘やかしちゃうぞそれー」

「わー、もっとかまえー」

 

とても平和な光景が、そこには広がっていた。

 

「レクサスって擦れてるようで、甘えたがりだよね」

「というより人のぬくもりが好き。あと綺麗な女の人も好き」

「真顔で言われるとちょっと恥ずかしいぞ」

「事実だから仕方がない。だからなのはさんも好き」

「あはは、照れるね」

「ぎゅーーっとしてくれる」

「なんのーもっとぎゅーっとしてやるー」

 

ぬくぬくである。

ぽわぽわである。

しあわせぱわー。

しかし柱の陰にフェイトさん。

 

「あっフェイトちゃん。顔が怖いよ?」

「是、こわい」

「二人だけ楽しそうでずるい!」

「にゃはは、ずるいと言われましても」

「フェイトも混ざる?」

「混ざる!」

「混ざるんだ」

 

 

 

「ほんでまあ、知っとる子もいるやろうけど、この子が今フェイトちゃんが保護者しとるレクサスや。六課の中うろちょろしててもほっといてやり」

「どうも、レクサスという。小生意気だが悪気はないので許してやってほしい」

「自分で言うなや!」

「自己紹介とは自分を伝えるものだと聞いている。今の一言できっと私がどういう人間かは伝わったと思う」

「正論や確かに伝わったと思う。納得いかんけどな」

「このコントのようなやり取りを見て、不安になったものもいると思う。しかしこの人は仕事はできるタイプなので見逃してやってほしい」

「フォローありがとなって、なんであんたにフォローされなきゃならんねん!」

「そういうキャラだから?」

「どんなキャラやねん!」

「そういうツッコミキャラ?たまにぼけて滑るところまで仕様?」

「誰がすべっとんねん!はっ思わずつっこんでもうた……」

「どんまい?」

「くぅ!」

 

はやてとの漫才は楽しい。とてもテンポがいい。

レクサスは満足げだった。

 

「ははは、レクサスは相変わらずだね」

「ほんとにね」

「あんたたち知り合いなの?」

「僕たちの保護者もフェイトさんですから」

「ああ、なるほど」

 

漫才が一段ついて、集まった人が解散すると見覚えがあるのが近くにやってきていた。

 

「エリオ、キャロ、お久」

「うん。久しぶりー」

「成長期なのに二人の背が変わっていない件」

「そんなにすぐ伸びないよ。レクサスだってそうだろ?」

「私はじりじり伸びるというか、まだまだだから」

「こっちだってそうだよ」

 

「知り合いなら紹介してよ」

「ああ、はい。こっちはさっき紹介されたようにレクサスです。で、こっちは同じ新人のスバルさんとティアナさん」

「どうもです」

「ナマイキそうねー」

「ナマイキですが。甘やかされたい年頃なのでガンガン甘やかすがいい」

「おおう、なんか新しい……」

「あはは、本当に相変わらずだ……」

 

 

 

 

「今日からちょっとうちで預かることにしたから、学校から帰ってきたら相手してあげてね。ヴィヴィオっていうんだ」

「ほう」

「ほー?」

 

目の前にいたのは、好奇心に煌めくオッドアイ眩しい幼女であった。

 

「ほうほうほう。考えてみれば己より年下というのは初めての経験。よかろう己がかわいがってくれる」

「おのれー?」

 

考えてみれば、レクサスの周囲には年上しか存在していなかった。

甘やかせーと全力なことに不満はなかった。

しかし、いざ自分より下の人間ができればどうか、甘やかしたい衝動に駆られるのであった。

 

レクサスは有言実行だった。

なのはママの仕事を全て奪ってやろうと言わんばかりに、有言実行だった。

フェイトママ?知らない子ですね。

学校を休んで、おはようからお休みまで完全にかわいがっていた。

保護者は難色を示しつつも、特殊な事情を抱えたヴィヴィオの相手をずっとしてくれることは助かっていた。

保護者達は多忙であったのだ。

なので少女ももちろん超懐いた。

 

「おにいちゃんーむふー」

「この湧き上がる衝動、これが萌」

 

抱きしめて抱きしめ返されて、テレビを一緒に見て、ゲームを一緒にやって、お風呂に一緒に入って、保護者二名まで込みで一緒に眠った。

二人は間違いなく家族だった。

お兄ちゃんは全力だった。ちょっと保護者の頬が引きつってしまうぐらいに全力だった。

 

しかしそんな日も、突然邪魔者が現れる。

 

「おにいちゃん……こわいよぅ」

「大丈夫。己が守る」

 

やるきがなかった少年に、やる気を注いだ少女。

そしてわかりやすい敵。

 

「その子供を渡してもらおうか」

「断る。己の妹である。貴様らごときが触れてよい存在ではない」

「ふざけたガキだ。お前らを守ってくれる奴らはもういないんだよ」

「是、是、是。そして否。己は守ってもらう必要などない」

 

なぜならば。

 

「今己は初めてやる気という物を出した。このまま帰るなら見逃そう」

「冗談!」

「ならば失せるがいい」

 

少年から魔力が溢れだす。

 

「な、なんていう魔力だ。てめえなんだ!?」

「己が何者か?ヴィヴィオの兄である」

 

放たれるは虹色の砲撃。

かつて聖王家の証と呼ばれたその魔力光は、魔改造ミックスのクローン体にも受け継がれていたのであった。

 

「滅びよ!」

 

砲撃の一撃では終わらない。雷が炎が氷が侵入者たちに襲い掛かる。

 

「たまには景気よく行こう」

 

少年には、記憶はあれど経験なんてものはない。

何せ自堕落に生きてきたのだ。

いかに才能があれど、戦闘者たちに初めてで勝てるはずもない。

だから戦いになるというのなら、圧倒的魔力による蹂躙しかありえなかった。

 

「ふざけんな!?」

「こんなのありっすか!?」

 

故に勝利するというのなら、圧勝。

やるきを出した少年に敵う者はこの場にはいなかった。

 

「むう、少し疲れたな。やはり定期的に魔力も放出しなければ体に悪いのかもしれぬ」

 

終わってみればわずかに数分。

それだけですべては薙ぎ払われていた。

それをなした少年が思うのは己の健康についてだった。

 

「どうだヴィヴィオ。兄は強かろう?」

「うん!」

 

 

 

 

「二人とも無事!?」

「ママー!」

「ああ、なのはさん。己は疲れたぞ。警備にはもっと気を使ってほしい」

「えー。というかこのありさまはいったい……」

 

六課が襲われていると聞き、慌てて駆け付けたなのはの目の前には、崩壊した六課と。

ヴィヴィオを抱え込んで、いい天気だなーと空を眺める少年の姿があった。

ほのぼのしている二人の裏で、積まれている戦闘機人や、仲間たち。

激しい戦いがあったことを物語っているのに、いったい何が起こったというのか、なのはには分からなかった。

 

「なに、己とて甘えるばかりではないということ。しかし、頑張りたくないので普段はもっと甘やかしてほしい」

「あまやかせー!」

「そうだそうだー」

 

「えー」

 

なんだかわからないが、二人は無事だった。

それでいいじゃないか。

取り敢えず、無事な二人をなのはは抱きしめた。

 

「はーよかった……」

 

 

 

 

 

 

「それで結局、六課襲撃犯はレクサスがどうにかしたということでええんか?」

「うう、ごめんなさい」

「すみません主」

「ああいや、責めてるわけやなくて!」

 

どういったもんかなーとはやては思った。

攻撃力はあまりなくとも、自分の信頼する守護騎士たちが敗れた相手が、一桁の子供に蹂躙されたという現実が、どうにもうまく飲み干せないでいた。

 

「つまり、実力を隠していたレクサスが本気出したらあのざまやったということか」

 

いや助かったんやけど。

クロノも言っていた。現実はこんなはずじゃなかったことばかりだと。

ほんまやなー。

 

「で、保護者達としてはどない思う?」

「レクサスもそんなにすごいんなら、教えてくれたらよかったのにね!」

「にゃはは。下手うった側だからノーコメントで」

 

一人はうちの子すごいとハイテンション。

一人は、自分たちのミスを、実力不足を子供に補わせたことが引っ掛かっている模様。

 

「じゃあ、本人。なんで実力かくしてたん?」

 

これだ今一番の疑問点は。

 

「己は普通ではない。そして普通ではないことがばれることは面倒くさい。己の本能はそう思っている」

「本能……」

「うむ」

「そうかー本能ならしゃあないな。ってなんやその理由!もうちょっとマシな言い訳持ってこいや!」

 

レクサスは困った。理由なんてそれ以上でもそれ以下でもないのだから。

実力を発揮しなければ困る状況なんて、ついさっきまでなかったのだから。

 

「えっまじで!?そんな理由なん?冗談やなくて?」

「うむ!」

「うむって、そんな元気よくうむって……まじかー」

 

しかし保護者組は納得していた。

うわー、レクサスっぽい理由だーっと。

 

「今回は妹を狙われた故にちょっと全力を出してみた。ついでに現在すかりえってぃが潜伏しているのはここ」

 

そしてこの爆弾発言である。

突如として告げられたその発言に示された、空間投影型ディスプレイには地図が表示されていた。

 

「いやいや、そんなばかな。えっまじで?」

「少し面倒だった」

「いやいやいや!少し面倒で世界的指名手配犯の居所特定とかありえへんからな!?」

「とても面倒だった。早く捕まえてヴィヴィオの安全を確保してほしいと思う」

 

ついでに管理局内の一部区画を機能停止させてみたことは言わなくてもいいだろうか。

無駄にバックアップ機能が充実していて、実に面倒だった。

管理局機能に一切関係ないから、わざわざ隔離区画に行くようなのもいないだろうし。

 

「あたし等の今迄の仕事ってなんだったんだろうな」

「言うな」

 

守護騎士武力組はどこか遠くを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「あっはっは。それでは私の計画を阻止したのはその子供だったということか!何という喜劇!」

「そうだよ。うちの子はすごいんだから!」

「フェイトちゃんそうじゃないから」

 

六課全員で、捕縛に動き全力全開で戦いが行われた結果スカリエッティは御用されたのであった。

そして現在、関係者たちによる事件の摺り合わせ中。

 

「ちなみに、最高評議会の脳髄たちを始末したのは、君たちではないのかね?」

「はっ?」

「やはり知らないか。私の目的の一つだったのだが、気が付いたら彼らの生命維持ポッドが停止していたようでね」

 

スカリエッティにより語られる管理局の闇と、その真の黒幕。

それらがいつの間にか始末されていたこと。

全てを聞いてはやては言った。

 

「ちょっとレクサス連れてきいや!!!」

 

大体あいつの所為。すでにはやての中で確立したルールであった。

そして連れてこられた容疑者。

 

「何か用?」

「あんた最高評議会って知っとる?」

「管理局で不当に電力を供給されていた生命維持ポッドの中身?」

「やっぱり知っとったかー。そ、れ、で、それらをどうしちゃったのかなー?」

「供給ラインを物理的にズタズタにして、ついでにショートさせてみた」

「犯罪やろ!」

「大丈夫。証拠を残すようなへまはしない」

「そういういみやないんやけどなー」

「はやて、落ち着いて!レクサスのほっぺはそんなに伸びないから!!!」

 

引き伸ばすはやてと、止めるフェイト。

さりげなく脱出しているレクサス。

 

「ということは、そちらの少年が下手人か。資料は見ていたがね。それほどおかしなことは書いていなかったはずなのだが」

「それはそう。生まれた時から周りに合わせてた」

「なんと。そうか、あのクローンの作り方でよく人間ができたと思っていたのだが」

「あいつらばかだった」

「それには同意しよう。研究に勘を持ち出すような科学者は、科学者ではない」

「なぜあんなに、物があったのか今でも不思議」

「私のところからも流れていたようだが、確かに不思議な話だ」

 

意外と話が弾む狂気のマッドと、天災系少年(無害)。

 

組み合わせてはいけない。

 

この場のだれが思ったのかは知らない。

ただ、おそらくみんながそう思っていた。

 

「レクサスー久しぶりに膝枕してあげようか」

「してー、ごろなあ」

 

「なんとまあ。この私を負かしたものとは思えない姿だ」

「私らもそんなとんでもないと思ってなかったんやけどな」

「私はやればできる子だと思ってたよ!」

「そういうのいいから」

 

 




誰かこんな感じの書いてくんないかな。
フェイトさんに甘やかされて生きたい系主人公。
うっかりこの作品ではチートにしてしまったけど、
チートがない方が面白い気がするのよね。

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