少年は甘やかされたい 作:クヤ
その日レクサスは、帰ってくるのがいつも通り遅い保護者達を放って、夜の散歩としゃれ込んでいた。
レクサスは自他ともに認めるぐーたらである。
しかし、ごろごろするのと同じぐらい散歩も好きだった。
いつものように徘徊していると、何やら騒がしい一角に差し掛かる。
はて一体なんだろうかと、ついでに、時間帯を考えると近所迷惑だろうと思った。
もっともここは完全までいかない物の、防音に優れる宿舎の近くの無駄に広い裏庭の一角なので、多少騒がしくしていてもそもそも気が付くような人間がまれであるのだが。
そこにいたのは、つい最近ティアナさんと紹介されたまだまだツインテールが似合うお年頃の女の子だった。
どうやら訓練をしているらしい。
家で覗き見たなのはさんの訓練メニューから考えるに、現在は自主訓練の時間のようだ。
割とぎりぎりまで追い込む訓練メニューだった気がしていたのだが、こうして元気に訓練している所を見るに、まだ追い込みが足りなかったらしい。
今度なのはさんにそう言っておこう。
レクサスは決意した。
良く観察してみると、どうにも疲労感が漂う訓練風景だった。
実戦経験に乏しいレクサスにはそれが適切かどうかは分からなかったが、とりあえず知識的に考えて非効率だなと思った。
今しているのは射撃の命中精度上昇のための訓練のようだったが、常識的に考えて疲れている時を基準にした精度に意味はないのではなかろうかと思う。
変な癖が付いたら治すのが大変そうだ。
そもそも魔力弾なんてホーミングさせろよと考えてしまうのであった。
デバイスの人工知能に命じればいたって普通に補正してくれると思うのだ。
六課のデバイスは割と金がかかっている方だということを小耳にはさんでいたので、よけいにそう思う。
直射の方が余計な動作を挟まない分速いのは分かるのだが、これはいつか誤射る。
確定的に明らかなのでそのことを言おうかと思った。
が、顔を見て思ったのは、
(ああ、これは絶対にやめない人の顔)
自堕落を主張する彼からしてみると、これほどの効率の悪さには眉をひそめざるを得ない。
自堕落とは効率の追求にあるのだ。
ここまで非効率だと文句の一つも出てくるが、正論でいくらものを言っても聞き入れないことは、人生経験の浅い彼でもわかった。
このままだと怪我でもしそうだと思ったので、そこで見学をすることにした。
レクサスは、デバイスという名の無駄に天才的な頭脳と金にあかせて作り上げた便利グッツに命じる。
するとソファーが現れた。
お出かけ用携帯ソファーである。
しつこい泥汚れすらもはたけば落ちる、しまえば消滅のどこで使ってもきれいな素晴らしいソファー。
ティアナの訓練を肴に、ジュースとおかしで武装した。
完璧だった。
「あんた何してんのよ」
訓練を終えたティアナは、そこでようやくこの場に似つかわしくない高級そうなソファーでくつろぐお子様を発見した。
「お気になさらず。しかし、かまってくれるなら遠慮はいらない」
さあ、どうぞと両手を広げてかまえの体勢。
このお子様自重しない。
「いやほんとに何やってんのよ」
文句を言いながらレクサスを抱き上げるティアナ。
疲労困憊もいい所であるというのに、この対応。
面倒見の良さがそれだけでうかがえる。
しかし、足に来ていたのかそのままソファーに腰を下ろした。
「なにこのソファー……」
ティアナは思った。やばい。なにがやばいのかさっぱりわからないが、なんかやばい。
座り心地が良すぎる。
「人を堕落させるソファー」
納得した。疲労した体から力が抜けていき、そのままそこで眠ってしまいたい衝動に駆られるほどに。
「こんな遅い時間まで出歩いてるんじゃないわよ」
「こんな遅い時間まで訓練なんかしてるんじゃないわよ」
「うぐ、私はいいのよ大人だし」
「己はいいのだ保護者に理解がある」
「理解?」
ちょっといい負かされそうになったティアナ。
こんな時間まで訓練しているのはあまりよろしいことではない。
頭では分かっているのだ。
しかし、保護者に理解っていいんですかフェイトさん!
ティアナは混乱している。
訓練のし過ぎで頭が回っていなかった。
なお、よく遅くになるまで仕事をしているワーカーホリックたちは、レクサスによって人権をはく奪されている。
なので最近はそこまで残業はしてこない。
やるなら家でやりなさい。
この言葉は重かった。
なお、家に帰るとなんだかんだで勝手に仕事を手伝いながら、構わせられるので仕事は程々に進んで終っている。
よけいなスキンシップが挟まれるのに、一人でやるより早いあたり保護者の威厳はなかった。
そして無駄に信頼が厚いので、遅くなりますと連絡してあれば、しなくちゃいけないことがあるんだろうと、とても理解があるのであった。
「やば、本当に眠りそう」
「寝ればいいのではない?」
「寝るなら部屋で寝るわよ」
「送っていくよ彼女」
「ぷっなによそれ、むしろあんたが送られる方でしょ。年齢的に」
子供体温あったかいー。ティアナはもうだめだった。
軽口を聞きながら、瞼が重くなっていって、気が付けばレクサスを抱きしめたまま眠り込んでいた。
「ふむ、寝た」
やはり疲れがたまっていたと見える。
では送っていこうか。
「飛べソファーよ」
寝ている人がいるので声は抑えめ。
ふわふわと浮かび上がったソファーに乗って、宿舎へと向かっていくのであった。
翌日
「は!?」
目が覚めると、お子様を抱きしめて眠っていたことに気が付くティアナ。
昨日はいったい何があったというのか。
思い返せば話している途中から記憶がない。
「本当に送られてしまった……」
「騒、がしい、己は、まだ、寝るぅ」
「子供かっ、子供だったわ」
話していて子供と話している感が抜けていたせいか、自分でもよく分からないことを言ってしまった。
「あっティアおはよー」
「お、おはよう」
なんだか気まずかった。
いや子供だし。
「昨日はびっくりしたよ。ティアったらソファーに乗ってくるんだもん」
「はっソファー?」
「そうそう、ソファーって飛ぶんだね」
「いや普通は飛ばないわよ」
あはは、だよねー。相棒は軽かった。
ティアナは真顔だった。
「それで、レクサスが送ってきたのはいいけど、ティアったらレクサス離さないんだもん」
レクサスもさすがに困ってたよー。
あっはっは。相棒はやっぱり軽い。
「だからそのまま泊まっていきなよっていっちゃった」
眠そうだったし仕方ないよねー。
いや仕方なくないから。
別にお子様と一緒に眠ったからなんだというのか、しかし、何故だか無性に恥ずかしかった。
「でも昨日はすごかった。腕を外そうとすると巧みに避けるんだもん」
いや知らないから。
「ねえねえ、レクサスの抱き心地ってどうだった?」
私興味あります。
そんな気持ちが透けて見える表情だった。
「まあ、あったかかったわ」
「子供って体温高いらしいしね。今度は私にもかしてー」
「いや私のじゃないし。そういうのはフェイトさんに聞きなさいよ」
自分は何を言ってるんだろうか。
というかフェイトさんに聞くものであってるわよね?
落ち着いた風に振舞っているものの地味に混乱は続いていた。
「あっティアナおはよう」
「おはようございますフェイトさん」
廊下でばったりと遭遇。
「レクサスの抱き心地良かったでしょう?」
「なっなんで」
「昨日はティアナと寝るから帰れないって連絡が来てたから、写真もあるよ!」
ニコニコと悪意が欠片もないフェイトさん。
しかし人通りがある廊下、うわさがきっと広がっていくんだろうな。
ティアナはあきらめた。
私はショタコンではない。
「キャロやエリオはすぐに一人で寝たがってね。レクサスみたいに甘えてくれるといいんだけどなあ」
「いつも寝るときそんな感じなんですか?」
「そうだよ。レクサスは一人寝よりも人に抱き付いて寝る方が好きみたい」
贅沢な話だ(フェイトの胸元を見ながら)
「それにレクサスを抱きながら寝るとね。疲れが取れるんだ」
「えっ」
言われてみれば、昨日の訓練から考えて体が軽すぎることに思い至る。
そういえば、寝覚めもよかった。
当の本人は悪そうであったが。
「あっ嘘だと思ってるでしょ」
「いえ、そんなことは……」
むしろ効果を実感していますとは言えなかった。
自分は目の前の人ほど人恋しそうだっただろうか。
「これにはね根拠があってね」
「はい?」
いやいや、精神的なものでしょ?
「前にそう言ったら、レクサスがいろんな機器を用意してね。科学的に検証してみようって」
普通はしません。
「結果がね。レクサスが無意識にしているもろもろの効果で、ばっちり疲れとかが取れて体調が良くなるっていうんだよ」
「えー」
なんだそれは。と言うかもろもろって何ですかそこ多分一番重要なことじゃないですか。
あれにはレクサスもびっくりしてたよねー。
平和か!
本人としては、そんな効果はありませんと言うのを確認したかったのではないだろうか。
一番の理由は気になったからとかな気もするけど。
「フェイトさん」
「ん、どうしたの?」
「これからもレクサス借ります」
そんな便利な効果があるなら使わない手はなかった。
もろもろのところが気になるけれど。
「だ、だめだよ。甘えてくれるレクサスは貴重なんだから!」
そういう過保護オーラを出さなければ、もう少しエリオやキャロも甘えてくれるのではないか、ティアナはそんなことを思った。
「抱いて寝ると疲れが取れるんですね。いいことを聞きました」
「だめだよお」
なんだか涙目だったが、快適な目覚めは私が頂きます。
「ああ、ティアナもあれを知っちゃったか」
「なのはさんも?」
「うん。どんなに疲れていても疲労が抜けるし、普通は治らない不調なんかも改善する効果があるんだよね」
あれはやばい。
なのはさんはそう語ります。
「だから、毎日はダメだよ?」
「は、はい……」
肩を掴まれて言われたその一言には、本気がこもっていました。
答える言葉が震えていたような気がするのは気のせいです。はい。
時々ならいいんですね。
「あと、できるだけ内緒にしておいてね」
「なんでですか?」
「ティアナが寝る日が減っちゃうよ?」
「わかりました」
続いてしまった。
短編のくせに続きが投稿できるなんて、そんなの詐欺だ!
あと、完全なノリで書いてるので、時系列とか、原作設定度とか適当です。
これは、ヴィヴィオ来る前の話。たぶん。