少年は甘やかされたい 作:クヤ
|д・) ⊃とんっ
|彡サッ!
「ぐぬぬ、なんで私じゃダメなのぉ?」
「さあ?」
ここしばらくのスバルの様子を見ていて、不思議に思いつつも、内心「どうでもいいわよ」という気持ちが態度に表れていた。
ことの発端は、件のレクサスである。
大抵の年上女性には、だっこやハグを強請るというのに、なぜかスバルだけ露骨にねだられない。
そして、レクサスだっこ効果はひそかに広がっていた。
だっこすると、疲れが取れた気がするという、現在は都市伝説レベルではあるものの、その効果のほどを実感しているティアナからすると、これ以上知る人は増えなくていい。そう思ってしまうのも仕方のないことなのだ。
そして、まあ、そんな健康レクサスだっこが微妙にブームになってきているのだ。
本人はあれで的確に人を選び、邪魔にならず、構ってもいいかなと言う時を見計らっているので、だっこを強請られていやがる女性は出ていないと聞いている。
おのれ策士め。
私の順番を減らすんじゃないわよ。
短時間では大した効果は出ないと聞いているものの、本人が能動的に何かしている可能性はある。
むしろ高い。
何せ無意識にヒーリング効果があるのだ。
なぜ、何故能動的にできないと思うのか。
話がそれたが、スバルもそのブームに乗っかろうとしたわけである。
どちらかといえば、だっこしてみたいという単純な衝動の結果だったように思えるけれど。
結果はまあ、現在机の上で項垂れていることから分かるように失敗だったのであるが。
「ほんとなんでかしらね?」
「ティアだけずるぅーい」
「知らないわよ。それに別に私だけじゃないでしょ」
「そうなんだよねーはぁ……」
良く一緒に寝ているせいか、他の人よりは頻度が高い気がするものの、レクサスは結構な広範囲で可愛がられている。
つまりあっちこっちで、いろいろ強請っている。
しかし、これがスバルになると。
満面の笑みでだっこしてあげるよと、近づいて行った彼女をすさまじい動きで避けて、自分の背後に回り込むとは、ティアナも思いもしなかった。
よくよく考えてみると不思議な話であった。
その時は驚きと、「なんでぇ~」と、愕然としたスバルの様子に爆笑していたので、特にその理由を問うことはできなかったのだが。
その後もたびたびそういうことがあった、でも、一度タイミングを逃すとうっかりが続いて現在に至るまで、結局その謎は解き明かされていないのであった。
だっこに関わる攻防が、地味に愉快であったので、もう少し続けてほしいと思っていたこともあったかもしれない。
しかし、相棒がこのまま機能しなくなっても困るので、そろそろ潮時だろう。
「今度聞いておいてあげるわよ」
「お願いします……」
「それで、あんたなんでスバルだけ露骨に避けるのよ」
休憩時間にうろちょろしているのを発見したので、ジュース片手に膝の上に乗せて、問いただしてみたわけである。
(というか、めちゃくちゃ自然に膝の上に乗せたわね。私大丈夫かしら?)
と、そんな自分の行動にちょっと戦慄していたりもした。
「う~?」
(無駄に顔が整ってるわね。まつ毛なげー)
首をひねって、ティアナを見上げながら、疑問符を頭に浮かべている様子を見るに、自分でもよく分かっていないのかもしれなかった。
こりゃ、お手上げね。
ティアナがそう思って諦めたところで、続く言葉が紡がれた。
「己も不思議である。しかし、近くにいると、むずむずする」
「むずむず?」
「うぬ」
詳しく聞くと、どうにも何かの違いを感じていて、落ち着かなくなるので高速で直前に避けているらしかった。
猫的に言うと、毛を逆なでされたような違和感なのだという。
何故猫で例えるのか。
直前な辺りは一応可愛い女の子だから我慢しているらしい。
なので、こちらに目的がないときは一定範囲を保っているのだとか。
最近はその違和感が他の人にも発揮されるのか色々と試しているけれど、特にそういったことはないらしい。
(スバルの所為か!?)
スバルに対するあてつけのように、それ以前まで選択肢に上っていなかったような人にもだっこを強請る様子が確認されていた。
以前は、だっこ対象者は結構偏っていたのだ。
つまり最近のとりあえずだっこな、みたいな風潮はスバルが原因であったのだ。
よけいなことしやがって。
「スバルの特殊性ねーあっ」
特に気にするような事柄でもないからと、すっかり忘れていたが、スバルはとても特殊な人間であった。
戦闘機人というサイボーグの一種である。
これが原因かもしれない。
半ば確信にも似た思いが生まれたが、自分が勝手に言うわけにもいかないし、どうしたものか。
「ぶっちゃけ、無理?」
「慣れれば大丈夫と思う」
ダメもとで聞いてみれば思ったよりも、希望はありそうだった。
ならば話は簡単だ慣れさそう。
ティアナや関係各所からのお願いにより、微妙にやる気なさそうに、仕方ないなと言った様子で案件は可決された。
本人は別に困ってなかったし、仕方なかったかもしれない。
「ティアーこれどうにかならないの?」
「うるさいわね。あんたのためにやってるんじゃない」
「そうだけどぉ」
会話だけではわかるまい。
とりあえず、スバルを動けないように椅子に縛り付け、レクサスを投入することで、危険じゃないものであることを、教えているのだ。
ここまでしても、何故かまだ警戒マックスなので、身じろぎするたびに結構遠くまで離れていくのだが。
少しずつ近づいては離れてと、野生動物の観察でもしているかのようなありさまだった。
これは一日では無理だ。
「うう、先が長そうだよ……」
「あんたが何とかしてほしいって言ったんだから頑張んなさい」
「うん……」
それにしてもその宇宙人を見たような反応はどうなのかレクサス。
基本的に女の子には無条件で融通を利かせるくせに、スバルだけここまで拒否反応が強いとは。
つついては離れていくその様子に、呆れとも感嘆ともつかない何とも言えないため息をつきながら、これがしばらく続くのね。
と、憂鬱になるティアナだった。
それからもスバルの奮闘は続いた。
スバル縛り椅子、略してスバリスをくり返すことによって、近づくことに慣れさせ。
何とか近くにいても、じんわりと離れていくことがなくなり。
「はい、あーん」
「あーむ。もぐもぐ」
「じゅるり」
「あーん」
「あ、お返し?やったー」
「意地汚いわよあんた」
「だってー」
「スバルさん食べるの好きだから」
「おいしいは正義。かわいいも正義」
「あんたはあんたで何言ってんのよ」
「この世の真理」
「おいしいのは正義だよ!うん!」
「こっちものらないの!」
フェイトさんを涙目にさせつつ、餌付けを繰り返させ。
「私の仕事―!」
仕事じゃありません。
※レクサスはきちんと自分が食事を食べることができる量を考えて餌付けされています。
際限なく与えそうな人はいますが、きちんとお断りしています。
なので、あーんができる人間はかなり限定的です。
ようやく接触ができるところまで持っていった。
「長かった……」
「私の方が面倒だったわ……」
最終的に面倒になって、スバルにレクサスを縛り付けてやるところが実に面倒くさかった。
全身接触すると鳥肌が立っていたので、これを慣れさせるには荒療治が必要だと判断したのは、きっと間違っていなかった。
「イン、レクサス!」
「それを言うならオンよ」
「あの、レクサス大丈夫?冷や汗すごいけど」
「うに、体が離れたがっている。ふしぎ」
「ほんとなんでなんだろうね?」
「まあ、これだけくっついてればそのうち慣れるでしょ」
「うう、早く慣れてね?私だけ警戒されてるのツライ……」
「スバルさんだけなんだよね。早く慣れるといいね」
「むしろエリオの方が女に慣れるべき。フェイトにもっと甘えるべき」
「それは関係ないだろ!?」
「むしろお子様のくせになぜそこまでスキンシップを避けるのか。今しかできない。あんなに目をキラキラさせて、さあ、甘えてと主張しているというのに」
「いやいやいや!?」
「なるほど。自分はイケメンに育つから大人になってからでも十分間に合うと。何という傲慢」
「エリオ君?」
「そんなわけないから!そんなこと思ってないよ!」
「それはいいからあちらでちょっと目をキラキラしている方に甘えてくるといい。キャロも一緒に」
「私も!?」
「「いやいやいや!?」」
「まったくそれでも子供なのか」
「いや、あんたはあんたで子供らしくないから」
驚愕の表情のレクサス。心底驚いたといった様子にティアナは。
「いや、なに?そのそんなばかなみたいな顔は。まさか自分が普通とでも思っていたの?」
「己は間違いなく、一流の子供」
「子供に一流とかないから。そんなこと言っている時点で子供らしくないから」
「ばかな。これほど子供とは何たるかを学び、的確に人に甘えるすべを磨いてきた己が……」
「いや、甘え方とか子供って磨いたり学ぶもんじゃないから」
「しかし、適切な甘え方をしないと、少し無理してもどこまでも甘やかしてくる保護者」
「それが原因か」
この場にいる者たちの心の中で、一人を除いて意見が一致した。
思わず真顔になってしまうほどに。
脳裏には全力で過保護する保護者の姿がよぎっていた。
「己は甘えたい。すごく甘えて生きたい。むしろお世話されるだけの生き物でいたい。しかし、周囲にはそれを許さないものも多い。ちなみにフェイトは仕事の邪魔にならない範囲ならどんなに甘えたことを言っても逆に喜ぶ」
「なんてダメ人間。さすがにフェイトさんでも……」
否定できなかった。
「さすがにすべてに甘えて過ごすのは、己もどうかと思う。そもそも己は環境に甘えたいのではなくて人に甘えたい。それとて、メリハリはとても大事。甘えるとき、まじめなとき、離れているときとが存在してこそ真に甘えることに充足感を得られる。だからほどほどに頑張って、ついでに褒められながら甘えるのがいいのである。その点フェイトは割と理想的。家にあまりいないしちょっと抜けてるから真面目にならざるを得ず、離れている期間が一緒に住んでいる割に長め。さらには普段忙しい分、空いた時間は全力でかわいがろうとしてくる」
「そんなこと考えていたの!?」
驚愕の新事実であった。
一人ほど感極まっていた。そこは喜ぶところなのだろうか?
「故に、一生働かなくていい程度に全力で金銭を稼ぎ」
「えっ」
「動かなくても筋力量が落ちないよう、動かないでできる効率的なトレーニング法を開発」
「えっ」
何かが間違っている。
「甘やかされるに足る能力を得るべく、炊事、洗濯、掃除と各種技能を磨いた」
「えっ」
「己が甘えていても、別に誰も困らない環境を構築するために頑張っている」
「……」
つまりはこう言いたい。どうせ結婚できないだろうフェイトの家に主夫的な生き物としての居場所を構築しています。
程々っていったいなんだろう。
予想外に計画的な甘え方だった。
「いやどうしてそうなった」
「リンディさん応援してくれた」
「リンディさーん!?」
「だれ?」
「フェイトさんのお母さんです……」
「どうせあの子結婚できなさそうだから、レクサスくんにもらって上げてほしいわーって」
「フェイトちゃん!それもいいかなーじゃないよ!?しっかりして!いくつ離れていると思ってるの!?」
「あらーうちのなのはももらってくれていいのよって、桃子さんが」
「お母さーん!?」
傍観していた別の人に暴投が飛んでいった。
「男の子なんて、ユーノ君とクロノ君ぐらいしか連れてきたことがないし、恭也はモテモテだったから、そんな心配したことがないのに。他の子と来たら……」
「うう……どうして私に飛び火しているの」
何故かなのはにダメージを与えた。
「トイレに行きたい」
「ああ、うん」
「ちょっと待ちなさいスバル」
「なに?」
「どこにいくつもり?」
「トイレに」
「なんであんたごと行くのよ。降ろしていかせなさいよ。おかしいでしょ!」
「そう?」
「なんで疑問形なのよ。あんたが行く意味ないでしょう」
「確かに……」
「確かにじゃないわよ。いったい何を考えているんだか……」
「己は別に困らない」
「そこは困っときなさいよ。さすがにトイレはどうかと思うわよ」
「己、子供」
「子供だからって……どうなの?おかしいのかしらこれ?」
大分レクサスに毒されている二人であった。
それから、スキンシップが減ったフェイトさんからすごい目で見られて、だいぶストレスがたまったり。
あと、なのはさんも微妙に手持無沙汰感が出ていたり。
というか結構な割合でそんな感じだった。
こいつどこまで六課を侵食しているんだと思ったティアナは間違っていない。
そもそも、宿舎は分かるが、職場に入ってきていても誰も不思議に思わないあたり、まずいのではなかろうか。
そんな奮闘の甲斐あって、どうにか鳥肌も立たなくなり、レクサスも慣れた。
あとで分かったことだが、すでに無意識にしているもろもろが、自分とは違う構造の人間に、どういった作用をするのか分からないことに本能的な忌避感を抱いて、強いストレスを感じていたらしい。
戦闘機人だということが暴露され、今までの不思議ないろいろに納得がいったレクサスによって語られた話である。
慣れたというのも、無意識にしているもろもろが、スバルに適応できたということだった。
そこまでいってもなんか違うなは感じるらしいが、内臓が真逆についてる猫ぐらいの違和感に収まったらしい。
例えがよく分からなかったが、レクサスの感知能力の高さが露呈した事件であった。
「ついに念願のレクサスを手に入れた!」
「殺してでも奪い取る」
「フェイトさんステイ!ステイ!」
物騒な発言に驚いたけれど、地球にいる友達にスバルが言ったようなセリフを言われたら、そう返すことがマナーだと教わっていたらしい。
どこの常識ですか!?
ティアナが地球という、隊長たちの故郷に少し畏怖を抱いたのは仕方のないことだった。
みんな好き過ぎーうれしいけどまじでファッてなる。
伸び方がオカシイ
フェイトさんに甘える話を考えているんだけどしっくりこないの。
このままではあらすじ詐欺になってしまう可能性が……。
出だしで甘えているから詐欺にはならなかった!
あと大前提として、その場のノリで設定追加しているので多分そのうち矛盾します。
生暖かい目で見守ってやるとよろしいです。
直すのは……めんどい。
感想返しは、良い返しが思いつかなかったときとか、ちょっと放置してたら返しにくくなったとか、
普通に面倒くさくなったりするのでご了承ください。
書いてもらったのは全部目を通しているよ!