艦娘艦隊鹿屋基地司令部庁舎
1階廊下の奥に書庫がある。閉じられた扉の前では二人の民兵風の男がにやけ面で中の様子に聞耳を立てている。
「隊長もお盛んだよな」
「おい! 隊長じゃねぇ‥頭! でも、イイ女じゃねぇか! 後でまわしてくんねぇかな? 」
室内では隊長‥もとい、頭と呼ばれた屈強な男が壁際に女を押さえつけている。女は両腕を頭の上で手首を交叉する状態で男の左手一本に掴まれ抑え込まれてしまっていて無防備に身体の前面を曝け出す形である。更に男の腰から下は女の下半身を密着により抑えて身動きが出来ない…女の顔には焦りの色が浮かびあがる。
女の名は重巡洋艦【足柄】この基地で最強戦力の艦娘だ。
本来、艦娘は艤装展開していない状態でも人間を遥かに凌ぐ戦闘力を発揮する。重巡洋艦級ならプロレスラー並の力があると推測され、戦艦ともなれば一部にはゴ●ラ並の猛者も存在すると噂される程で、そうなると最早人間が太刀打ち出来る相手ではない。ウ●ト●マンとまで言わずとも●面ラ●ダーくらいを呼ばねば…
それがどうしたことか、今彼女はただのか弱い女のように男に組敷かれ怯えすら窺えるのは?
理由があった。
つい先日のこと、この基地の提督が幹部共々更迭されてしまったのだ。それにより基地は一時的にだが閉鎖され、彼女ら艦娘は司令官不在の待機命令下にある。司令官を失い能力の半分も発揮できない足柄は普通の女性よりは遥かに強いとは言え、対峙している相手が悪い…
男は身の丈約185㎝の筋骨隆々の逞しい体躯と体捌きからは何かしらの武術経験が窺える… 武器の扱いも馴れていることから、もしかすると軍人?
「生意気を吐く割には可愛い唇じゃないか。…お仕置きをしないとな?」
男はそう言うと彼女の腰に右腕を回し込み引き寄せる。二人の身体が密着し、互いの体温を感じる…。足柄の心臓は鼓動を速めていく……
「あっ! や‥やめて!!」
男の左足が上がり、足柄の両脚を押し広げようと膝を滑り込ませてきた!咄嗟に堅く閉じられる両脚だったが、即座に男の手は左太腿を掴みあげていた!
両手を掴まれ上げられた姿勢で踏ん張りが利かない足柄は易々と男の膝の侵入を許してしまった!
膝が押し上げてスカートがずり上がる…脚の付根部分まで露になり下着が露出してゆく。
男の膝頭が薄い布地越しに股間に触れた…
「いっ‥嫌ぁぁぁーー!!」
「良い鳴き声だぁ! たまんねぇ~ぞぅっ! 」
男はそう吼えると足柄の唇を奪った! 獰猛な肉食獣が獲物の喉元に牙を立てる如く貪りつく!
「むぐぅ!! うぶグゥ~!!」
強引に唇を奪われた足柄は叫ぶことが出来ず口籠る!
全身をガッチリと抑え込まれて自由を奪われた上に唇をも奪われ口内を凌辱されようとしていることに彼女は狂乱し逃れようとするが微動だにしない。
絶望感からか悔し泣きに両瞼からは涙が零れ落ちる… 足柄は初めて男に唇を奪われたことに頭が真っ白になり戦意喪失して力が抜けて行く…
観念したと見た男は唇を貪りながらスカートの中へ手を滑り込ませていく…
最早此れまで…
《 バァーン 》
不意に後で扉が乱暴に開け放たれた!
「そこまでよっ!! 」
「チッ! 邪魔すんじゃねぇよ! 」
振り返り見た入り口扉の前には長い黒髪の女が睨み付けていた。海軍士官服に肩から銀糸モールを提げた副官の姿だが違和感を感じた男は足柄から手を離すとその場に彼女は力なく崩れへたり込む。
男は足柄に目もくれず新たなターゲットに向き構えた。
「これまた飛びっきりのイイ女じゃねーか! たまんね‥股間が疼くぜ! 」
「…サイテー! 」
男の口上を耳にして嫌悪感に下瞼をヒクヒクと痙攣するのが見える。下品な男を心底毛嫌いする様子に男は愉悦の表情を浮かべ嗤う。
「お前のような御高くとまった女をヒィヒィ鳴かすのが俺の趣味でね! 楽しませて貰うぜっ! 」
踏み込み一瞬にして間合いに入る男が手刀を繰りだした‥と見せ掛け足払いを仕掛けた!
《 ドガッ 》
「ぐっ!? な? 」
渾身の一撃が入った手応えに反して相手が微動だにしないことで男はバランスを崩し床に倒れる。が‥しかし、着地寸前に身を捻り回転受け身からスッと立ち上り女に向き合う。
「や‥やるじゃねぇか? つうことは‥表の二人は? 」
女が只者で無いことを感じ取った男は質問してみた。答えは予想がついたが…
「彼らなら廊下で寝てるわよ。さあ、後はあなただけよ! 」
「こちとらバケモンと喧嘩はしない主義でな! 帰らせてもらうぜ? 」
「そうはいかないわ! 勝手はハルナが許しません! 」
《 ガシャーン 》
《 コンッ コンッ ズバババァァーン 》
「キャッ!? 何!? 」
ハルナが踏み出した瞬間、窓ガラスを叩き割って何かが放り込まれた途端に眩しい閃光と大音響に室内は包まれた!
音が収まり室内を見渡すが…
既に男の姿は消えていた。
「くぅ、目がチカチカする。‥あなた大丈夫? 」
ハルナはまだ眩惑が治まりきらないことから瞼を細めて床に座り込む足柄に声をかける。
「怪我はありません…貴女こそ閃光音響弾をまともに食らったのに…!? ‥貴女は確か艦隊司令部の? 」
足柄は軍服姿のハルナに見覚えがある。先日の憲兵隊に同行してきた艦隊司令部の士官だ。戦闘服姿の男達の中で一人女性士官がいたこと、その容姿が並外れた美貌だったことから鮮明に記憶していた。
「はい、司令部の江田島大尉です。本日附でこの基地に配属になりました」
「え? まさか…貴女が新しい司令官? 」
「まさか‥ありえないわ」
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九州上空
阿蘇の外輪山を右手に南下中の双発輸送機の窓から感慨深げに下界の風景を見下ろす。深海棲艦からの攻撃を考慮して低高度飛行のために遊覧飛行と錯覚しそうになるほど見晴らしが良い。
「素晴らしい… こうしてると戦時中とは思えないな? 」
もうすぐ鹿児島というところで操縦席の機長が交信している様子がおかしい。
「瓜生大佐… そちらの鹿屋基地に襲撃があったそうです。飛行場は影響がないので、当機は予定通り鹿屋飛行場に着陸します…が、式典は中止だそうです」
機長がそちらのと呼ぶ通り、【海軍鹿屋基地】と【艦娘艦隊鹿屋基地】は別である。車で10分程の距離にある漁港傍に存在するのが我々艦娘艦娘の鹿屋基地になる。
「着任早々に深海棲艦から歓迎されるとは俺は人気者なのかね? 」
俺はヤレヤレといった顔で皮肉をもらすと機長が振り返り…
「相手は人間ですよ。闇業者が組織してる愚連隊らしい! 」
「グレン隊? なんだそりゃ? ‥ギレン親衛隊みたいな?」
「知らないんですか大佐? 愚連隊てのはヤクザ紛いの違法行為を働く輩の集団です。特にこの辺りの奴等は軍人崩れが多くて手に負えないんですよ」
聞き慣れない言葉に呑気に聞き返すと副操が呆れ顔で振り向き話し掛けてきた。副操の話によると沖縄が深海棲艦に奪われた頃から目立ちだし、闇物資の流通に深く関わっているそうだ。特に海軍主体の戦時中に出番の無い陸軍兵崩れの元軍人が中心になっている疑いがある。
「奴等の気持ちも解らんでもないですけど…。沖縄には孤立した軍関係者5万人と地元民50万人が自給自足を強いられていますが、頼みの海軍はこの体たらく… 」
「お喋りはそこまでだ! 着陸態勢に入るぞ! 」
半ば愚痴話になりかけたところを機長が諌めると、副操は首を竦める素振りをして操縦者に向かい直した。
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滑走路に降り立った前には小型トラックが待ち構えていた。本来ならば当鹿屋基地では着任式典が行われる予定だったのだが…
ちなみに艦娘艦隊司令官の着任式典は慣例により海軍基地で執り行う。そちらのほうが恰好がつくと云う理由が大きいこともあるようだ。
「お待ちしておりました瓜生大佐」
「状況は? 」
「海軍鹿屋基地警備中隊が鎮圧に出動致しましたが、既に立ち去った後でした。江田島大尉が残っていた賊と鉢合せして対峙しましたが取り逃がしたとのことです」
助手席に座ると車は即発進し、運転手に基地の現況を尋ねると意外な答えが返ってきた。ハルナが賊と対峙? 武装した男達とやり合ったというのか? まさか大砲打っ放してはいないだろうから…素手でか?
艦娘がどれ程の身体能力なのかは知らないが、戦艦というだけに見た目からは想像つかない剛力なのだろう… 金剛型だけに。
「それで被害状況は? 」
「死者はゼロで、軽傷者が10名程みたいです。備蓄物資は全て奪われました」
死者無しとは…基地の管理小隊は戦闘部隊で無いとはいえ素人ではない。武装した賊が襲撃したにしては人的被害が軽微だ? 死人が出てないに越したことはないのだが…
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基地の正門を通り抜け、本館前に停めた車を降りた。綺麗なものだ…襲撃があったと思えない。
「お待ちしておりました瓜生司令! 」
黒いダブルスーツタイプの第一種軍装を身に纏い敬礼して出迎えたのは江田島ハルナ大尉だ。何故か婦人用は海自のタイプに酷似していて階級を示す肩章が違う位だな? 男性用は帝国海軍時代から不変の詰襟タイプなのは俺的に頂けないところである。詰襟は下顎に触れる感触が苦手なのだ…
今更だが、彼女は艦娘『金剛型高速戦艦三番艦 榛名』だ。そして、横には重巡洋艦足柄の姿もある。
「貴方が新しい司令官!? 艦隊司令部の瓜生中佐…」
先日の憲兵隊による捜査隊一行に同行してきた艦隊司令部の青年士官の姿に驚く足柄であった。
「着任当日に手荒い歓迎が有ったようだが、艦娘の皆は無事か?」
移動の車中で大概の状況は聞いたが、やはりこれから部下になる艦娘達が心配である。
「はい! 全員怪我もなく無事であります」
「全員無事でなによりだ。式典は無くなったが、着任の挨拶くらいはさせてほしい」
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艦娘達との顔合わせ前に副官と挨拶がてら軽く打ち合わせを行うべく執務室に入る。室内では既に一足先に黒い詰襟の第一種軍装に銀糸飾緒を提げた副官が待っていた。
「お待ちしておりました瓜生司令官殿! まさか貴様が艦娘部隊の提督とは驚いたよ」
前の更迭騒動で司令官以下基地幹部が入れ替わり、副官を拝命した彼も新任である。副官は…海軍佐世保鎮守府主計大尉から転属した同期の桜である袴田少佐だ。
「宜しく頼む」
「袴田さん、お久しぶりです」
「お久しぶりという程でもないが、ハルナちゃんが海軍士官だったのは驚いたぜ! おっ!その指輪‥ 」
目敏い袴田はハルナの指に光る指輪をちゃっかり見つけた。違うな…ハルナが大袈裟に手振りしてたではないか! 俺達が婚約中という嘘は事情がありそのまま継続している。お陰で出費が嵩んだ…
「うほん! その話はまたの機会にして、このあと艦娘達と顔合わせをするのだが… 」
「前任者の尻拭いは覚悟しとけよ…。俺も三日前に辞令を受けて詳しくは知らんが、基地ぐるみの犯罪の皺寄せを艦娘達が被っていたんだからな」
袴田が佐世保で主計大尉だった時から不審な帳簿を調べていたそうだが、主計科という部署は戦闘詳報の管理も行うことから更に不審な点があるそうだ。これは艦娘部隊が実働部隊の他は海軍により運営されているため、九州地方の艦娘部隊の事務仕事は海軍佐世保鎮守府に集約されている為なのだ。
「この基地が開設され2年経過しているが、沈んだ艦娘がゼロなんだよ。だが‥不審なのはそこではなく、建造された艦娘もゼロなのだ。いや、建造に一度も成功しなかったのかもな? 」
「それは俺も最初に目がいった部分だ。艦娘建造システムが確立されてから各提督が日夜建造に励んでいると聞くが、全く成功しない無能者なのか…または敢えて建造を行わなかったかだな? 」
「もうひとつ、この基地は佐世保と呉の両鎮守府担当海域の中間に位置するのだが、これまで極端に敵の侵入が少ない。本来は九州南部を通るシーレーン防衛が任務だというのに、本海域の前後では活発に動き回る深海棲艦がわざわざ避けてるのかね? 」
記録からは基地周辺海域での会敵頻度が著しく低いことと、敵艦隊規模も小さいことが当基地の被害が軽微で済んでいる要因であろう。深海棲艦からは戦略的価値無しとみられていたと考えるのが妥当なのか?
そうしている間に時間となり、艦娘達が待つ校庭‥ではなく本館前に向かう。既に整列して待つ艦娘達の姿…まるで中学校の朝礼でも始まるかのようである。
「瓜生司令官に敬礼! 」
一糸乱れず…とはいかないな。元々問題があったところに今朝の襲撃事件である。艦娘は見た目に近い精神年齢らしいから動揺が見てとれるが、そこは軍務に就く立場から甘い話をするわけにも行くまい。
「当基地は九州南部海域の海上交通路の安全確保が任務である。諸君の働きに期待する! 」
襲撃事件の後始末に忙しい最中の着任である。挨拶は手短に済ませ壇上から降り執務室へ足早に戻るのだった。…と言うより、艦娘達の死んだ魚みたいな眼差しに悪寒を感じながらその場から退散したと言うべきか。
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「あー緊張した! 壇上に立って訓示たれるなんて柄じゃないぜ」
澱んだ無数の瞳に見つめられるのはメンタルに響く、崩壊学級の担任というのはこういう気分なんだろうか?
足柄と由良を除けば全員が駆逐艦ばかりのために、自分がまるで中学校に赴任した新米教師と錯覚しそうな光景であった。
「着任早々ですが今朝の襲撃事件に関しての報告書です」
執務室へ戻り黒革の執務椅子に掛け一息吐こうとした目の前に1枚の報告書が差し出される。何時の間に作成したのか今朝の襲撃事件の概要が記されている。艦娘としては未知数だが、秘書‥否、副官として優秀なのかもしれない。
「ふむ、襲撃は3台のトラックで人数は10~15人程度か。軍事施設を急襲し、短時間で警備兵を無力化して物資を強奪するとは…かなり手馴れた連中だな? 」
重要なのは襲撃した集団の規模ではなく、手際の良さにある。基地内の配置から警備態勢も事前に把握していたと考えられる。さらには訓練を受けた警備兵を殺害せずに無力化する急襲作戦を行う能力は特殊部隊‥敵基地急襲に特化しているのは陸軍の可能性が高い。海軍と空軍にも特殊部隊は存在するが、海軍は敵艦への強襲や上陸作戦支援、空軍は空爆作戦の誘導や情報収集が主体で拠点制圧向きではないのだ。陸軍か警察の特殊部隊の可能性‥否、この世界での日本警察にはSAT(特殊急襲部隊)やSIT(特殊犯捜査係)レベルの部隊は存在しないことから、やはり陸軍の線が濃厚だな。
「陸軍崩れか…もしくは陸軍そのものが? 」
深海棲艦が現れて、人類の存亡を懸けた闘いは海軍‥否、艦娘に委ねられている。既存の陸海空軍は出番が無く、艦娘部隊を運用している海軍だけが稼動しているという状態にある。海洋国家である日本においても兵員数では圧倒的に多数を占める陸軍にしてみれば面白い筈が無い…
「…賊の捜査は憲兵隊本部の仕事だ。こちらの仕事に取り掛からねばな…袴田、建造ドックは使えるのか? 」
余談ではあるが、海軍では憲兵隊ではなく『特警隊』だったが戦後に空軍が創設された際に統合参謀本部が設置され三軍統一呼称化により『憲兵隊』になった経緯がある。
賊のことは気掛かりではあるが、今優先すべきは艦隊司令部からの第一級要件である『新規艦娘建造』…正規空母をとの強い要望だ。艦娘建造は建造妖精が行うのだが、指揮をする軍艦妖精と呼ばれる上位の存在が必要。そして、その軍艦妖精にオーダーを出すのが『提督』と呼ばれる人物なのだ。
「確認したところ使用可能‥ではある」
「なんか引っ掛かる言い方だな? 」
袴田の顔が少々歪んだように見える… ま、実際に見ればわかることだ。
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「……成る程」
建造ドックに来て袴田の顔色の意味を理解した。
『ドック』と呼ばれているが、その姿形は…ただのバスタブにしか見えない。小ぢんまりした室内にバスタブのみが鎮座してる…しかも、長らく使われていなかったようでボウフラでも湧いていそうな濁った水が満たされていた。
「見ての通りだ。最近に建造が行われた形跡は無く、建造資材も帳簿上だけ計上して全て横流しだったようだ」
臨時の基地司令であるが、俺に課せられたのは連合艦隊の主軸となる艦娘の調達である。即ち、戦艦や空母といった強力な艦娘の建造に期待がかかる。三人もの妖精を連れてるのだからだそうだ。
「早速だが‥やりますか。建造はどうやるんだ? 」
三人の妖精達はその言葉に反応するとバスタブ‥否、建造ドックに向い怪しげなダンス?を舞い始めた。
「…儀式? まさにオカルトだな? 」
建造を目にするのは初めてたが、事前に聞いていたのと様子が違うな? 資材を投入したら建造妖精が作業するだけのとっても簡単な業務との話…の筈?
「カミノオンマエニタテマツル‥」
「アマテラスオオミカミ‥」
「カナエタマエ‥」
奴らの呟きが聞こえてくる… 神とか言ってるし
怪しげな舞いと祝詞を一心不乱にバスタブに捧げる妖怪…不気味だ。
するとバスタブに満たされた水面が淡く光を放ち出し、薄く靄がかかり始めた! 次第にそれは人型を形成してゆく………
「なにか起こってるみたいだな? 」
横にいる袴田には何も見えず聞こえずのようだ。
神々しいまでの女性体が一糸まとわない姿を具現化させているのは俺だけのご褒美みたいだな…
などど鼻の下を伸ばしぎみに見ていると着物が具現化して裸体を包んでゆく… チッ、残念!
靄が晴れ現れたのは…
十二単みたいな着物姿の美少女だ。だが、着物タイプの装束といえば金剛型、扶桑型、伊勢型の戦艦が浮かぶが全く趣が違うな? なにより、戦装束には見えないその姿は公家の姫様と表現したほうが良いかもしれない。
「お前も艦娘なのか? 」
「ブ‼ ブレイモノ‼ 」
「コチラニオワスオカタヲ‥」
「ダレトココロエル‼ 」
俺の問い掛けに反応したのは妖精達だが、テレビの時代劇クライマックスシーンみたいな台詞回しだ…
「なんだよ?
副将軍ってか? 」
「コトバニキヲツケロ‼ 」
「妾はこの子達を束ねる精霊。名はミツと申す… そこの三名はスケ、カク、ハチである」
妖精に名前があったことを初めて知った。何処かで聞いた名前ばかりであるが…
「スケにカク…で、お前がハチかい! 」
「ムギュ‥ナンデワカッタ⁉ 」
三人目の名を聞いた途端にいつもボケをかます奴を握ったら案の定だ…
「ホホホ、これは真名ではない。お主の知識を拝借して付けた俗名のようなものじゃ。瓜生美晴‥お主をこの世界に呼んだのは妾じゃ! 」
建造ドックから現れたのは艦娘ではなく、妖精達の親玉…大精霊だという。呼び寄せた張本人が五年も経過して漸く登場したことを知り目眩がする…
「お前が俺を…ふざけるな… 」
これまで妖精達が俺を連れてきたと思っていた。まさか親玉のような上位の存在が…
「お主の怒りはもっともじゃ… 妾とて万能ではない故にまわりくどいことをしてゴメンね? 」
「‥へ? 」
大精霊は小さく舌を出してテヘッとして上目使いに俺を見る…… ナンダスカ?
「…おかしいな? 美少女がこうしたら赦される決めポーズって情報であるのだが… こほん、ま‥赦してたもれ! 事情を説明しようではないか! 」
斯くして…
今更登場した軍艦大精霊から事情説明がされることになった。わざわざ並行世界から呼び寄せた理由が漸く判明するのだ。
話の内容によってはブチキレるかもしれないから、落ち着くべく懐から取り出した煙草に火を…
「艦内では禁煙です! 」
空かさずハルナの手により煙草が奪い取られた。昭和風情漂うこの世界でも何故か受動喫煙対策が進んでいて、公共施設だけに留まらず軍施設に於いてもほぼ全面禁煙である。全くもって世知辛い世の中だ…
ちなみに、ここ艦内では無いがな…