「…提督。 ‥? ‥提督? 」
そう、私は提督だ。世界大戦で米英と激戦を繰り広げたりした歴史上の軍人のような提督ではない。アレな‥艦娘と呼ばれる一見小娘のような擬人化された軍艦の化身を指揮して化け物どもと戦うというファンタジーな方の提督さんである。
――ところで最初に間違いがある――
実のところ、私は提督であって提督ではない。ひょんなことから本来着任する予定の人物と入れ替わってしまったようなのだ。その人物とは私自身、いや‥こっちの世界の同一人物というべきか? 兎に角、見た目がというか…身体が同一で中身が違うのだ。
目が覚めたら入れ替わっていたようなのだ。
着任当日の朝、私は鎮守府正門前の道路に倒れていたそうだ。頭に大きなタンコブこさえて……。
状況から判断すれば真っ先に交通事故が疑われたのだが、現場道路上には遺留物もブレーキ痕も無く、本人の外傷も頭部打撲傷1ヶ所だけであった。事件性を考慮して捜査した憲兵隊の報告書では…
『…上記の捜査結果により判断すると、何かしらの身体的要因による自失行為の転倒と結論付けることが妥当である』
簡単に言えば『勝手にコケて頭打ったんじゃね? 』と言われたのだ。なんだか…凄く恥ずかしい。
「おーい! 提督! て・い・と・く!」
「ん? ‥おっ、すまない。考え事をしていた。…さて」
呼び出しておいて上の空で気付かないなんて恥ずかしいことだ。私は如何にもこれから伝える内容について思案していたかの如く気難しげに溜息を吐いて目の前の二人に向き合う。そこには私の様子を見てやや緊張した顔で当鎮守府の重巡洋艦である『摩耶』と『青葉』が立っている。
この二人には聯合艦隊司令部より特別任務が与えられた。これから上官である私が命令を下すべく執務室へ呼び出したのである。
「二人とも既に噂で知っていると思うが、近々に大規模な反攻作戦が発動される。それに先立ち重要任務をお前達に与える」
日本にとって大規模反攻作戦といえば沖縄奪還作戦である。今春に深海棲艦により奪われた沖縄本島周辺海域を奪還する目処がついたらしい。これまで敵航空戦力へ対向しうる航空戦力が無かった為に防戦一方であったのだが…最近になり着任した
「大規模反攻作戦…やはり沖縄へ? と、ということは空母機動部隊へ配属ですか? 」
やはり情報通の青葉は知っているようだ。しかし‥空母機動部隊などと随分と飛躍してるが、今回の任務はそのような華々しいモノではない。
「だから‥
俺は執務机の前にあるテーブルを指差した。そこには女性士官用軍服と切符が置いてある。更には二人の身分証まで用意してあるのだが、それは海軍少尉のものだ。
「軍服…と、海軍少尉? ど、どういうことだ? 提督‥お前まさかアタシに士官の真似事やれってか? 」
「あ、青葉も軍施設に潜入捜査とかですか? 」
「実のところ、私も本作戦の詳細は知らないのだ。現地にて部隊編成を行うまでは極秘と言ったところだ。軍服は外出時の仮の身分で、切符は現地までの片道分を用意した。向こうで他の艦娘と合流したら任務の説明があるはずだ…現地指揮官からな」
「それって、アタシらは他の提督の指揮下に入るって‥ことか? 」
「正しくは聯合艦隊に編入だが‥そうだ。私と離れるのは寂しいか? 」
「はっ‥? ば、ば、ばっきゃっろ! 清々するぜっ! 」
「あはは! お前って本当に可愛い奴だな‥あぁ、そうだ!? 向こうの提督は私のような民間上がりと違って海兵出の軍人だからな! なんでも親子続けてのエリートだそうだ。言葉使いには気をつけるように…特に摩耶? いいな? 」
「わーってるっての! 」
「ま、青葉が一緒だし‥な? 青葉? 」
「は、はい! 恐縮です」
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軍服に着替えた二人は僅な手荷物ひとつを持ち、初めての新幹線車内に居た。舞鶴からは在来線に揺られ京都駅からの新幹線に乗換えは青葉がしっかりと事前準備していたことで事なきを得ていた。
「駅弁って初めて食べるけど美味いもんだなぁ! 鎮守府の飯と大違いだぜ! 」
「でしょでしょ? 京都駅でのおすすめ『
今回の任務の重要性からか二人には高額な出張手当とグリーン席の乗車券が用意された。普段手にすることの無いお金と外の世界の珍しさにすっかり旅行気分に浸ってしまう青葉と摩耶であった。
「行き先が鹿児島なんだよな? アタシはてっきり佐世保か呉の鎮守府だと思ったんだけどな? 」
「鹿児島というより鹿屋ですね。確かあそこは小規模の警備基地なんですよね…? 最近になって司令官が代わったんですが、この提督がうちの司令が言っていた海軍兵学校出身のバリバリの軍人らしいです。う~匂いますねぇ…エリート軍人が配属されるような場所でない…何かしらの特別任務に就いているのではないですかね? 」
「…艦娘の提督にしては珍しい本物の軍人ってことだな? なら、特別任務ってのも納得だな。まぁ、珍しいことならうちの司令だってかなり変り者に違いないけどなぁ? 」
「確かに‥司令は時々意味不明な単語を口走りますからねぇ…… 隠語というより、流行語のような…? 」
「流行語? …ナウい! ‥みたいな? 」
「それそれ! でも、提督が使う言葉はちょっと違うみたいで…意味を解説してもらうと納得するけど……その、巷で誰も使ってない言葉なんですよ! たとえばキモい!‥って意味わかります? 」
「
「ブー! 全然ハズレです! キモいは気持ち悪いの短縮形だそうです。最近は艦娘の一部で真似してる娘もいますけど、出処不明の言葉なんですよ。言ってる本人すらわからないっていうんですから謎です」
「冗談に決まってんだろ! ‥言われてみたら単純じゃん。別に変な言葉でもないんじゃね? そう言われりゃ、あたしもたまに使うな? 」
「摩耶さん…バラエティ番組とか見てます? 」
「おぅ、いつも銀ドコは欠かさず観てるぜ! 」
「銀ちゃんですか? それじゃダメですよ! 『オレたち猛禽賊』観なきゃ! 」
銀ドコとはコメディアンの重鎮【荻本銀一】が主宰するバラエティーの看板番組名である。重鎮と呼ばれるだけに既に本人ならびに視聴者の年齢層も高め傾向にあり、内容もほのぼのとしたものである。対して青葉が言った『オレたち猛禽賊』は新進気鋭の若手漫才師が集まり週末のゴールデンタイムを沸かせる話題のエンターテイメント番組名である。
「流行りのセリフやアクションはやっぱタカちゃんマンですよ! ところが、うちの司令が使う言葉って‥どれにも当てはまらないんですよ? …全く謎です」
タカちゃんマンとは若手漫才師の雄『西野鷹司』の番組内のコーナードラマで、自称(正義の味方)タカちゃんマンが萬屋イワシ扮するブラックゴブリンとコント対決を繰り広げる人気キャラクターである。この番組中で使われた新ネタは翌日には学校や職場で話題となるのだ。
「あれかぁ、アタシは苦手だな…若手漫才師の奴らの言葉使いが気に入らないんだ。お爺さんお婆さんをジジイ!ババア! なんて言っちゃ駄目だろ! 」
「摩耶さん… 実はすごーく良い人なんですね? 青葉‥見直しました! 」
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真っ暗闇に立っている? ‥いや、寝ている? これは夢‥にしては何も無い暗い‥トンネル? …あ、正面に明るい光を感じた! 無意識に前進しようとした‥刹那、誰かが手首を掴み上げ振り回す! 突然現れた手の感触に驚き叫んで必死にその手を振りほどこうとした。
「うわぁぁっ!! 」
「キャアァッ!」
あ‥れ?
なんで寝てるの? 自宅ではないことも瞬時に理解したが、何故寝ていたのかが解らないのはどうして? 言い様の無い違和感があるのだ。そして‥目覚めたら枕元に黄色い悲鳴?
「誰? あんたら…? 」
そうそう、左右に‥正面にもいるから三人だ。中学生位の少女達…正確に言えば美少女達である。なんというか、アニメのキャラクターを真似するあれだ…えと、コスプレ! そうコスプレだ! 目の前に立ってるのはかなーり気合いの入った美少女コスプレイヤー達である。身に纏う衣装は職人技の出来映えだし、髪はまるで地毛のように艶やかなカラーだ。勿論、瞳にはカラコン装着という徹底ぶりである。
三人三様に違いがあるが、全てハイクオリティな美少女キャラを演じている。正面に尻餅をついてM字開脚でパンツ丸見えのメガネっ娘…
横を見ると枕元に二頭身の小人??
此処は何処??
「提督さんは今朝、正門の前に倒れていたんです」
(テイトクサン? ‥邸宅さん? 私のことですか? 人違いでしょ? 変わった名前…)
「倒れて…!? 事故!? 」
事故…だったような? 思い出せない…
「事故に遭ったんじゃないかって! 頭に大きなタンコブ作って倒れてたんですよ! 」
「ヘルメットが無ければ即死だった!……? 」
私は何を言って……ヘルメット?
「提督さんはヘルメットじゃなくて軍帽被ってましたよ? 」
「グンボウ? 」
「はい。軍服姿で手提げ鞄一つ持って倒れてました」
―どういうこと?―
この時、私は頭を強打したことにより一時的な記憶障害を起こしたものとして処置された。
・
・
・
◆
国道27号線
照りつける日射し
焼けたアスファルト
内股を焼くエンジンの熱
スーパークアドロLツインの鼓動を響かせ走る
地方の街並みを抜け、正面に赤煉瓦の建物が…
さらに後方には強い夏の日射しを受け白く輝く建造物が目に飛び込んできた。一瞬、巨大なビルと思ったが違う。そうか、此処は舞鶴…自衛隊の戦艦か!
視界に映る景色に関して自分なりに納得したところで愕然とする。前方の緩い左カーブから対向車が! しかも正面に! 別段不思議ではない。‥脇見した私がセンターラインを越えていたのだから!
間に合わない!
咄嗟にステップを蹴っていた。
無人で観光バスへ疾走するバイク
道路へ投げ出され背中を強打しながらも止まらない身体
バスと激突してミラーやカウルが吹っ飛ぶ愛車が見える。ごめん、私もすぐに逝く… そう思ったような気がした。…そうそう、人は今際の際にそれまでの人生を垣間見る? 走馬灯だったけ? …それにしては見覚えの無い二頭身キャラが翔んでる。いやいや! それより!
「パニガーレ!! 」
まだローンが!! 返済始まってないのに…!?
そんなスローモーション的な数瞬の後…眼前に車体が迫り、全身を強烈な衝撃が襲い…ブツッと音がしたかは定かでないが、シャットダウン宜しく真っ暗闇に堕ちた。
「…ふぅ。またあの夢…」
着任してからずっと見続けてきた夢。最初は事故の瞬間だけだったのが、回を重ねる毎に遡り…
私は前世であろう世界を夢の中で退行していった。いつしか鮮明に前世を知るようになったことで気づいた。
私の前世はこの世とは似て非なる日本だったことに。そして前世と呼ぶには一つの違和感…
「どうして前世の方が未来的なのだろう? 」
風景ではなく、夢の中で見た戦艦と感じた戦闘艦の艦橋構造物は海軍に身を置く今なら解るが、重巡洋艦級に違いないだろう。だが、その姿は現在配備されているものより先進的に見えた。さらには愛車のメーターが衝撃的である! 機能的で視認性に優れたフルカラーデジタルメーターが搭載されている!
「…針の無いメーターだった。パニガーレって? 」
それからは次第に戻る記憶と現実世界との違いに戸惑いながら、それでも責務を果たすべく邁進した。
ちなみに『パニガーレ』はラテン系の感じだったが、調べたらイタリアの地名だった。多分イタリア製バイクなのだな?
半年も経つ頃には益々記憶は鮮明に甦り、私は前世で同姓同名だけでなく、ほぼ同一の人生を歩んでいたことを知り愕然となる。
――どういうことなの――
違いは大学卒業して入社した企業が違っていた。私は荒井忠商事だが前世は伊○忠商事…微妙な名称違いなのだが不思議と後者の方が良さげに感じるのは?
私はバイクはおろか自動車免許すら取得してないが、前世の私は大型自動二輪免許を取得してイタリア製スポーツバイクを乗り回していた。そのバイクに乗って事故を起こしたことを切っ掛けに……うーん、わからない。
○月×日 またあの夢だ。録画された映像を巻き戻したように事故に至るまでの前世が繰り返された。
◆
入社してから毎月コツコツ貯金して、この夏のボーナスを頭金に購入した憧れの真紅のイタリア娘…私の宝物。
夏期休暇を取り、あの娘を駆って日本海沿岸を巡っていた。若狭湾へ差し掛かり景色を右手にチラチラ見ながら廃れた街中を抜けた時……
目の前に現れた巨大な戦艦の艦橋構造物に目を奪われた私は目前の緩い左カーブを失念して中央分離帯を対向車線へ直進していた! 交差点? 信号機があり、右手に正門のような場所が見えて…咄嗟にそちらへバイクを倒し旋回しようとした。間に合わなかった……私は対向車線の大型バスに衝突して生涯を閉じた。
と…最後は電源オフみたいな感じで真っ暗で終わるのだから死んだのだろうと推測される。
目を覚ましたらこの世界に居た。いや、事故のせいで前世の記憶が甦ったのか? 兎に角私は前世?の記憶主体で思考している状態に自ら不安を感じていた。
頭を打ったために記憶に障害が起きているものと思った。それはまず、全く知らない世界なのに私の身分はちゃんと存在していたのだから。しかし、前世では普通の民間企業に勤務する会社員である私は海軍大佐だという。海軍? 日本は自衛隊じゃないの? そんな私の疑問は些細な事とその後知る。この日本は前世とは異なる歴史を過ごしたらしい。第二次世界大戦で敗戦を経験しなかった日本は陸海空軍を持ち、アメリカの核の傘の下で経済成長を遂げ戦後復興した『経済大国日本』とは全く異なる国だった。
よくよく調べると、私は前世と同じく民間企業に勤務する会社員だった。ところが、国家総動員法に基づく『適正調査』により海軍へ徴用されたのだ。その適正というのがなんともファンタジー溢れる…妖精さんとの相性があるというものだから驚いた。事実、今も私の肩の上には可愛らしい二頭身の妖精がちょこんと腰掛けている…見覚えある姿だ…夢の中で事故の時に目の前に翔んでた奴だ。
この世界では近年になり『深海棲艦』なる怪物が出現し、人類は滅亡を掛けて奴等と戦いを繰り広げているそうだ。さらにはその対抗手段は通常の軍というか兵器は役に立たず、人の姿をした少女『艦娘』が唯一の存在なのだ。そして彼女達は嘗ての軍艦が生まれ変わった姿であり、その指揮を執る『提督』を必要としている。
あれから二年‥必死で軍人としてのスキルを磨いてきた。少将となり一端の提督となった私は舞鶴鎮守府長官の右腕とも呼ばれる程に成長した。そんな私には独り胸の内に秘めた前世の記憶との齟齬…
着任してからずっと離れない想い…
―私は何者なのだ―
不意に内線が鳴り響いて我に還る……!!
時計の時刻を見て失態に気づいた。本日は来客の予定が入っていたのだ…しかも海軍省の特別監察官だ。
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長官室に遅れて入ると室内には既に当舞鶴鎮守府長官の有森中将と提督井上少将の二人に向い合わせに若い男女の士官が座って居た。二人は私に気づくと立上がり敬礼し監察官の瓜生中佐と秘書官の江田島大尉と名乗った。
女性は秘書官か…随分と綺麗な女性だ。それと……驚いたことに彼は妖精を三人連れている。複数の妖精を連れた提督を初めて見た。…ん、提督なのか? ならば彼女は秘書官ならぬ秘書艦? 詮索は止すか…
「当舞鶴鎮守府艦隊司令の藤堂です」
現在、舞鶴鎮守府の艦隊編成は第一・第二艦隊を私、第三艦隊を井上提督が指揮している。港湾規模からいえば充足率は50%位だ…艦娘の数が足りていない。
本省から監察官がやってきたからには…と、身構えていたら肩透かしを食らった。なんのことはない…聞けば瓜生中佐は数年前に訓練中の事故で長期入院して復帰間もないのだそうだ。監察官の肩書きはリハビリ目的を兼ねた鎮守府見学で、一通りの拠点を巡回した後に提督として着任する候補なのだった。
「瓜生中佐、今夜は泊まりですね? 一杯如何ですか? 」
二人は今夜当地で宿泊と知り、自然と私は飲みに誘っていた。
「藤堂さんも記憶を!? 」
酔いが進んで軽口になった私が事故で記憶を失ったことで再教育処分を食らった自虐ネタに言及したとき瓜生中佐が妙に強く反応を示した。…も?
「その言いようからすると…貴方も記憶を? 」
返した私の言葉に少し考える様子で口を開いた彼は語った。
「私は訓練中の事故で海上に転落して九死に一生を得ました…が、それに関わったのがこの妖精達なんです。話せば長くなりますが、当時はまだ深海棲艦や艦娘の存在は知られておらず。こいつらとのやり取りを見られた私は精神異常のレッテルを貼られ措置入院させられちまいました」
それから暫く聞いた話からすると彼は我々の先達が艦娘とそれを指揮する提督を捜し集め苦心の末に戦力化する遥か以前から危機を伝えようとしたそうだ。
彼の父は当時の戦隊司令官であった瓜生少将。勿論、彼は父に事の重大さを訴えたそうだが…直後に出撃した艦隊は全滅し、瓜生少将も戦死された。訴えが軍上層部へ届いていたかは不明のままである。
「それは…お気の毒に…。そ、それはそうと記憶のほうはもう?」
「あ、記憶…あぁそうですね…」
彼が言いかけた時、足下に置いてあるショルダーホンが騒がしく呼鈴を鳴らした!
「うぁ! すみません! …マナーモード無いんだよなぁ」
そう言って受話器を取ろうとした彼の腕を私は掴んでいた!!
「今‥なんて言った? 」
聞き逃してはいない‥
「‥すみません? ‥かな? 」
突然凄まれた彼は目が真ん丸になっている。
「その後で! マナーモードって言ったわよね!? 」
通信事業は専門外だったが、ショルダーフォン時代にマナーモードが無いくらい知っている。そもそも、この携帯電話が普及していない世界にマナーモードなどという言葉が存在する筈ない!
「…言ったけ? 」
目が泳ぎ、明らかに動揺している。
「言ったわ! このタイプの電話にマナーモードどころか着メロも無い! あなた何者なの…? 」
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あの時の瓜生君…怯えてたな。
後で聞いたら私の顔が般若の面見たいになっていたそうだ。深海棲艦で云うところの鬼級だとまで言い及んだ。
女性に対して鬼呼ばわりはセクハラだと膨れたら、あんたは上官なんだからパワハラじゃないか!‥と即座に言い返された。
――この日、私は自分が何者か知った――
――――――――――――――――――――――
同時刻 聯合艦隊司令部
「駆逐艦【磯風】の建造に成功せり…と。ふぅむ…」
ここ最近送られてくる報告書には毎度驚かされる。日本各地に点在する拠点では日夜戦力増強に弛み無い努力が注がれているのだが、必ずしも結果には結び付かないのだ。いや寧ろ…残念な結果に終わる事の方が殆んどだ。
艦娘の建造システムが立上がり3年目に入るが、現在までに建造に成功した提督は僅か5人だけだ。提督は妖精とある程度コミュニケーションが可能であることで共同作業の建造を行うのだが……
殆んどの提督は『妖精が見える』程度でしかないようだ。
横須賀鎮守府長官を兼務する聯合艦隊司令長官の私以外では佐世保・呉・舞鶴の各鎮守府長官の3人…そして舞鶴の提督である藤堂提督がこれまでの建造実績を持つ面々だった。大湊警備府長官の棚橋中将は残念ながら実績ゼロだ…
「着任して1ヶ月で何隻目だ? いったい彼は… 」
ある程度予想はしていたが、桁外れの成功率に驚きを通り越して彼が何か特別な人物ではないのかと訝しげに勘繰るように狼狽えてしまう自分が情けない。
「これで嘗ての17駆逐隊が揃った訳だ。陽炎型がこれ程続けざまに建造出来るとは…」
第17駆逐隊とは浜風・浦風・谷風、そして今回建造に成功した磯風が加わり編成された艦隊だ。
これまでに初春型・朝潮型・白露型の建造成功事例は多数あったものの、陽炎型は陽炎と不知火の2艦のみであった。世間一般では大火力の戦艦や重武装の重巡洋艦といった艦に目が向きがちになるようではあるが、実のところ汎用艦である駆逐艦は海軍にとって最も重要な艦種と言って過言でないのだ。水雷戦隊は基よりあらゆる艦隊編成に駆逐艦は欠かせない存在なのだ。これ程までに駆逐艦の艦娘を建造してくれるのはとても有り難いことだ…
私は受話器を取り鹿屋基地へ電話を掛けた。
・・・
・・・・
「この調子で宜しく頼む! …出来れば空母も頼む」
『!? ‥誠意努力致します』
《 ガチャン 》
早速誉めてやらねばと電話したのだが、最後につい本音を溢してしまった……
瓜生君には嫌味に聞こえただろうか…
空母か…
本土沿岸を守る分には陸上基地からの防空隊で対処出来る。しかし、奪われた海域を奪還するため制空権の確保には大量の艦載機を運用可能な空母が必要不可欠なのだ。幸いにして瓜生君が建造してくれた隼鷹と瑞鳳は軽空母とは言え能力的に正規空母に迫る性能を持つ。現有戦力と合わせて辛うじて作戦遂行可能なレベルになったことで本作戦の裁可が下りた。
願わくば、赤城・加賀・蒼龍・飛龍の4隻が揃った空母機動部隊を…いや、せめて2隻でもいい!
一部の戦艦が発見された経緯から、もしかすると空母もと淡い期待を抱いたが……
榛名・日向・伊勢の3名の発見に関する共通点が私の悪い予感となって未だに不安を拭えない。彼女達3名は何れも内地で最期を迎えた軍艦。それに対して空母4隻は全て中部太平洋…ミッドウェイ周辺海域での最期だ。
もしかすると正規空母は内地では手に入れることが叶わないのかもしれない……
「失礼致します! 長官‥よろしかったでしょうか? 」
「ん、あぁ‥構わんよ。何かな? 」
私が難しい顔で考え込む姿を見て躊躇した様子で秘書官が遠慮がちに声を掛けてきていた。
「本日0800舞鶴鎮守府より青葉・摩耶の両名が鹿屋基地へ向いました。ご指示書通りに海軍少尉の姓名記載の身分証と国立大学生証を発行致しましたが、現地合流の1名についての指示がありませんでしたが? よろしかったので? 」
「現地合流‥!? そうだったね。私としたことが失念していたよ…任務で必要なのは学生証の方だ。至急彼女の身分証を発行してくれたまえ! 」
「はっ! 了解しました! ‥それで姓名はいかが致しますか? 」
「…困った。彼女の名前で連想する姓名がちょっと浮かばないな? 君はどうかな? 」
「えっ! わ、私も‥摩耶さんと青葉さんなら簡単ですけど……無理です」
「ううむ…現地指揮官の瓜生君に決めてもらうか? うん、そうしよう! 」
彼女の名前は…ちと悩むだろうな。