「んで、こうなる」
「なるほど」
天気予報は当たっていたらしく、周子ちゃんと紗枝ちゃんを出迎えて宿題を見てあげている。
紗枝ちゃんは大人しく言うことを聞いてくれるいい子なのでちっひーと奈緒が見ているのだが、周子ちゃんは俺に座ってようやく勉強をしてくれる。
宿題の進み具合もほとんど終わっている紗枝ちゃんに対し、ほぼ真っ白な周子ちゃん。
はて、どうやってやる気を出させるか。
「周子ちゃんは勉強嫌い?」
「そりゃ、面倒だもん」
「きちんとやることやらない子とは結婚できないかなぁ」
「うぇっ!? やるやる! しっかりやる!」
やる気は出してくれても、これまでサボっていたツケが出てくるため。解き方の説明を一つ一つ教えていく。
まあ、動機はあれだが頑張ろうとする子は嫌いじゃない。
「午後になったらゲームでもして遊ぼうかなって考えてるから、午前は頑張ろうね」
「「うん!」」
いつまでやるのか、終わった後のご褒美の二つを伝えると、二人は元気に返事をして解き進めていく。
まだ小学三年生と一年生だから、量も俺らからしたらそれほどでもない。
二人からしたら有るだけ憂鬱だとは思うが、それだと中学高校になるとキツイのではないか。
「あ、そこはここのところをよく読んで」
「むー?」
でも、俺らはここの地元じゃないからずっと教えることなんてできないし。
普通に連絡先を交換して、分からないところや習っている範囲を分かりやすくまとめた紙を写真で送ればいいだけか。
理解ができて問題が解けるようになって楽しいのか、一問解けるごとに浮かべる笑みが可愛い。
周子ちゃんが手土産で持ってきてくれた八ッ橋を美味しく頂きながら、この旅行が終わった後の春休みをどう過ごすか考える。
カラオケとかゲーセンにも興味はあるが、それよりも服を買いに行きたい。
服はずっと母さんが買ってきてくれているのだが、もっとダボダボしたゆるい服が好きなのだ。
うん、まずは買い物だな。
「ここはさっきと同じ感じだよ」
「ほんとだ!」
それにしても、二人はとても素直でいい子だなぁ……。
ちっひーも初めてあった時は大体こんな感じだったが、今となっては見る影もない。
それを考えるとこの子たちも大きくなっちゃうんだよなぁ……。
「ここ、計算間違いしてるからもう一回、考えてごらん」
「むむむ……」
ボーッとしていたらそろそろいい時間だ。
旅館の人たちも優しく、お金の追加は母さんの友達がサービスだと言って二人分の昼食を用意してくれた。
「それじゃ、切り上げてご飯食べようか」
「ご飯!」
「翠はずっとお菓子を食べていたが平気なのか?」
「お腹ペコペコ」
「そうか」
立ち上がったら周子ちゃんが手を握ってきた。それに続いて紗枝ちゃんもキュッと人差し指を握ってきたのにキュンとくる。
「ちっひーと奈緒も悪いね。せっかくの旅行なのに」
「どうせこの雨だ。外に出るより楽しいよ」
「翠くんに付き合わされる中ではまだ楽な方ですから」
俺は二人からどう思われているのか少し気になるところだが、触れたら負けな気がする。
そんなことよりお昼はなーにかな。
確か和食だったか蕎麦だったか。
「ほい、上がり」
「おにーさん、強すぎない?」
昼食は蕎麦だった。
食べた後に少し食休みを入れ、今はトランプのババ抜きをしながらお話をしているところだ。
「ふふふ、おにーさんはこの目で全てを見通せるのさ!」
「翠にーさん、凄い」
「少しは手加減をしましょうよ」
負けず嫌いらしいちっひーと奈緒からジト目を向けられるが、そんなもの気にしない。
一応、メインはお話だから周子ちゃんと紗枝ちゃんはそれほど気にしていないようだし。
トランプはすぐに飽きたので、なぜか旅館で売っていた500ピースのジグゾーパズルを買い。今は全員で頑張っていた。
と言ってもメインを周子ちゃんと紗枝ちゃんにし、俺らはあまり早く進めない程度に揃え。キーになりそうなパズルは手に持って迷ってるフリをする。
それに気づいたどちらかと当てはまりそうな場所を探すやり方をしていたら完成するのに四時間ほどかかってしまった。
陽も傾き始めた頃合いなので丁度いい時間だろうが、せっかく完成させたこのパズルは崩して片付けないと布団が敷けなくなる。
……まあ、それは二人が帰ってからでいいだろう。
周子ちゃんと紗枝ちゃんに旅館で買ったお菓子をお土産に渡し、出入り口までで悪いが見送る。
「周子ちゃん、これからもしっかり勉強するんだよ?」
「うん! おにーさんのお嫁さんになるからね!」
「……あ、あの、うちも…………」
恥ずかしそうにしながらもキュッと手を握って思いを伝える姿は天使だと思う。
「紗枝ちゃんは今もしっかりしてるから、そのまま大きくなってね」
「うん!」
「二人とも成長したらきっと美人さんになるから」
周子ちゃんや紗枝ちゃんはきっと、他に好きな人ができるだろうが、嫌われない限りは今後も会った時に楽しく遊べたらいいなと思う。
「こういう一日も贅沢だと思わん?」
夕食を食べている時、二人に問いかけてみた。
遠回しだが、出会った頃より意識が変わったかの確認も込めて。
「ああ、とても楽しかったよ」
「そうですね。ずっと勉強してきたので、もっと早く知ってたら良かったと思います」
「勉強は裏切らないよ。それに過ぎた時は戻せない。……なら、これからどんどん知っていけばいいさ」
長い付き合いになりそうだし、これからも二人を連れ回して楽しむか。
「これからもよろしくな」
「今更だろ」
「はい、今更です」
「……ふふっ。今後が楽しみだ」
「……おい、何を考えている」
「常識の範囲でお願いしますよ? もう手遅れな気がしますけど」
俺の一言になにやら深読みして反応している二人だが、それを聞き流してどんな高校生活を送ろうか思いを馳せる。
それらの前に取り敢えずはダボダボの服が優先事項だが。