貞操観念逆転ガールズ   作:不思議ちゃん

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そんなの聞いてない!

「服を買いに行きたい」

 

 普通のことを言ったと思っているのだが、ちっひーと奈緒から呆れた視線を向けられるのは何故だろう。

 

「服なら蒼さんが買ってくれてるだろう」

「悪くはないんだけど、もっと緩いのが欲しい」

「……緩いって、どれくらいですか?」

「んー……XLかXXLぐらい」

「兄さん、それはデカすぎない?」

 

 適正サイズの服も悪くはない。

 だけどもっとゆったりした服がいい。ということを伝えると流石の碧も苦笑いをしている。

 

「中学入ったあたりにも母さんに頼んでみたんだが、もう少し大きくなってからと言われた。ってことは今なら平気だろう」

「いや、無理だな」

「どうしてそう言い切れる」

「普通に考えれば分かることなんだが……まあ、翠だしな」

 

 むむむ。それじゃまるで俺に常識がないみたいではないか。

 

「どうせ引きこもってるんだし、別にいいと思わない?」

「一応、私たちも女なのだが?」

「襲われちゃう? おれと碧、食べられちゃう?」

「…………いや、そんな事はしないが」

「こっちみて答えろや」

 

 なんで少し顔を赤らめ、目を逸らすんですかね。

 ちっひーなんか、ダボダボの服着たい話をした時から鼻血垂らし始めたし。

 

 今までにも似たような会話をしてきた筈なのだが、耐性なくなってる?

 

「もしかして、第三次性徴が始まってるのかな?」

「ナニソレ?」

 

 人間の性徴って第二次までじゃないんですか?

 俺の知らない間に人類は新たなステージへと進んでいた……というわけではなく。

 

 話を聞いてみると、ホルモンがどうたら、フェロモンがこうたら。

 

 簡潔にぶっちゃけちゃえば、男を襲いたくなるらしい。

 本来ならもう少し先の話らしいが、俺と長く過ごしてきたから早く女が目覚めちゃったんだね。

 なんて笑みを浮かべながら答える碧さんや。

 あなた、今年から中学ですよね? 知識深すぎません? 学校の授業でそんな事やりましたっけ?

 

「母さんから詳しく教わって。兄さんはどうにもならないけど、僕はまだなんとかなるとか」

「俺、どうにもならないとか思われてるん」

 

 まあ、そう思われても仕方ないことばかりしてきた気がしないわけでもないが。

 

「ってことは、今後二人はずっとこんな感じ?」

「個人差あるけど、二十歳前後までらしいよ。落ち着いても波があるらしくて。……動物でいう発情期みたいな?」

「人も動物だからなぁ……。男が減って、あるべき形に戻ったということか」

 

 …………ふむ。

 

「あれれ、ちっひー。お顔が赤いけど熱があるのかな?」

「だ、大丈夫ですっ」

 

 イスから立ち上がり、声をかけながらちっひーに近づいていく。

 何かされると気づき、手を伸ばして近づけないようにしているが、あまり意味がない。

 

 伸ばされた手を掴み、デコとデコを合わせる。

 

「うむむ……本当に熱ない? 結構熱いけど」

「はわわ……」

 

 五秒ほどで離れたのだが、ちっひーは茹で蛸みたいになっており。

 せっかく治った鼻血がまた出ている。

 

「…………」

 

 なんか、絵面大変なことになっている。

 奈緒に手だけで追い払われ。ちっひーをこれ以上刺激しないために大人しく自分のイスに座り、お菓子に手を伸ばす。

 

 気がきく碧は冷凍庫から小さいアイスノンを持ってきて奈緒の近くに置いて離れる。

 女性の発情期は碧も範囲内なのか……。

 おねショタが普通に起こり得る世界だったのか……。

 

 そんなおふざけは置いといて。

 なかなか手際よくちっひーの介抱をしている。

 事前に母親から聞いているのだろう。

 

「……しばらくはここに来るの控える?」

「翠が大人しくしていれば大丈夫なんだがな」

 

 確かに、碧は母さんから聞かされているだけあって距離感を心得ている。

 だが、俺は今でさえたまに逆転を忘れるのだ。

 それを除いても二人は普通に気の許せる友達となっているから、だいぶ距離感が近い。

 意図せずやらかしそうだなぁ……。

 

 ってか、高校生活を無事に過ごせるかふと疑問が。

 ……さすがに学校内でやらかしたりしないよな。

 

「まあ、来る来ないは任せるよ。こっちはいつ来てもいいからさ」

「まあ、そう言うだろうなと思ってたが」

「それより、ちっひーが回復したらいつ買い物行くか話すぞ」

「…………ん? 今の流れでその話題持ってくるか?」

「逆になんでなくなったと思った」

 

 二人がどうなろうが、俺はダボダボの服を買いに行きたいんだ。

 きっと人が多くて危ない目に遭いそうな気がしないでもないけど、一度は体験しておかないと。

 

 病原菌から隔離して育つと体が弱くなるのだから、それと一緒だ。

 病原菌(じょせい)から遠ざけても避けられない日が来るのだから、そのために慣らしておかないと。

 

 決して、いい目が見られるからとか思ってないから。

 

 

 

 今更だが、母さんや家政婦さんたちがちょくちょく家から離れてるのは発情期が来てたからなんだと理解した。

 発情期の間隔は歳をとれば長くなっていくらしく、三人は半年に一回ぐらいの頻度だそうで。

 発情の期間も長くて一週間。

 

 第三次性徴は碧が言ってたとおり二十歳前後まで。それが終わっても月に一、二回。短くて一週間の期間だとか。

 

 といっても人それぞれらしく、一ヶ月発情期、一ヶ月間をあけ、また一ヶ月発情期。みたいな子もいるらしく。

 

 つまりは、年中女の人に狙われ続けてることだけ理解しとけばいいとか。

 大人しかった子に襲われたなんてよく聞くらしい。

 

 この世界がよく分からなくなってきたよ。

 思い出したかのように新しい設定ぶっこまなくても……。

 もっと普通の世界でよかったのに。




九石翠
今からでも夢オチで普通の世界にならないかと考える

千川ちひろ 日草奈緒
今後、色々と酷い目に合う気がしている

九石碧
女性に偏見はあまりないが、翠ほどでもない
煮込み料理にハマっている

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