俺は半ば反射で、『有名なのはそっちだよ』と言いそうになっていた。
この世界でどうなのか知らないし、そもそもモデルでさえやっているのか微妙なところだ。
左目に泣きぼくろ。髪はストレートに伸ばされ、片目にカラーコンタクトをいれている。
──高垣楓
入学して最初にした自己紹介でそんなまさかなと、必死に目を逸らし続けていたが。
中学三年間ずっと。
そしておそらく今後もそうなるのだとしたら。
さすがに目を逸らし続けるのは……ねぇ?
あまり絡まないようにしていたのも、すでにあるイメージが俺と関わったことで壊れることを恐れてだった。
まあ、第三次性徴期を聞いた時点で、どうなろうがキャラ崩壊するんだと理解したが。
いいなと思ったのは大人な感じの話し方ではないところか。笑い方はすでにそっくりだが、キチンと年相応で話しやすい。
「そういえば、楓は何か部活やる?」
「私は特に考えてないかな。翠くんは?」
「んー……なんか面白いことやろうかなと。……ちっひーと奈緒も呼んでバンドでも組む?」
「それは面白そうだね」
バンド、三人でもいいかなと思っていたけど、どうせなら楓も巻き込むか。
今も微妙なところだが、言質とれたし。
「それほど数多くないのに一番面倒な三年生のまとめ終わった……」
「お疲れ様。甘いもの食べる?」
「あんがと……」
高校に上がってから持ち込んでもいいものが増えている。
お菓子やマンガなど、授業中に出さなければ休み時間などで好きにしていいと。
楓から差し出されたチョコを一つ頂く。
「んー……」
「もう一つ食べる?」
「あんがと」
「何を悩んでるの?」
「講義やる曜日、固定にするかどうか迷ってて」
固定にした場合、祝日などで休みになったらその週は終わり。
固定にしなくても移動した曜日に用事がある人が多い場合、まとめてやる意味がなくなる。
「学校が休みの日は事前に分かってるから、事前に伝えておけばいいんじゃない?」
「まあ、それが一番だよな」
分かっていたのだが、長く先のことまで考えるのは面倒。というより好きじゃない。
「翠、こっちのまとめも終わったぞ」
「あんがと。……ねえ、二人とも」
「どうかしましたか?」
「講義するの俺一人だから、二人はまだ多少時間あるよね?」
「……まあ、多少は」
「なら、奈緒がドラム。ちっひーがベースの練習しておくれ」
これまでの経験からか、二人は俺が変なことを言うのだろうと身構えていた。
だが予想の斜め下でもいったのか、何をやって欲しいのか伝えると二人は呆けている。
「ちなみに楓は歌担当な」
「「「…………えっ?」」」
皆の驚いた声が響いた。
九石翠
現実逃避も少し諦めた
千川ちひろ 日草奈緒
今度は何やらされるのか不安に
でも結局はやる
高垣楓=とある少女
中学時代、あんなことやこんなことを妄想
ナニかが激しかったり、捗ったり
残念ながら、理解したことは外れた(この場合は喜ぶべき)