冬休み最終日。
志希が帰る日だ。
迎えにくるのは夕方らしいので、それまでに仕上がった曲を撮ることにした。
「ドラえもん」から『Yume日和』にした。
盛り上がる曲ではないが、心に響く名曲だと俺は思っている。
撮影が終わり、いつもと同じように載せたのだが。
もう七曲も載せてるのか。
「同じところからまた来てるぞ」
「他のところからも二つ、出演依頼が」
「こっちは作曲依頼ですね」
目をそらすため感慨にふけていた俺を邪魔するかのように、ちっひーたちがメールの確認をして読み上げていく。
「全部断りのメール出しといて」
「いいの?」
「別にやってもいいけど、面倒なの全部押し付けるよ?」
「よし、断ろうぜ☆」
勿体無いなと言っていた心だが、綺麗な手のひら返しだ。
「志希はテレビで歌ってる姿も見てみたいけど」
「んー、そのうちな。たぶん、もう一人入る気がするから」
「そうなんですか?」
「なんとなく、そんな気がするだけ」
なんとなくだと言っているのに、ちっひーたちは信じておらず。
すでに誰か決めていると思っているようだ。
「あ、あの! 菜々とユニット組みませんか!?」
冬休みが明けた初日。
下駄箱に手紙が入っていた。
話したい内容があるから屋上に来てくれと言うので、出入り口までちっひーたちについて来てもらい。
屋上につくなり、自己紹介もなく告白された。
告白……じゃないか。
「俺、九石翠」
「あっ! すみません! 私は安部菜々っていいます!」
うん、知ってる。
手紙に名前書いてあったし。
そうでなくても知ってるし。
すでに、安部菜々として完成していた。
この頃から顔が変わっていないとは、魔女なのではないだろうか?
胸も立派なものをお持ちで。
胸も立派なものをお持ちで。
大切なことだ。
巨乳派ではないけど、安部菜々はいい形をしていると思う。
安部菜々というか、ウサミンというか。
なんか、くるんだよ。
今すぐ押し倒したいくらい。
「それで、なんでまたユニットを組みたいと?」
日傘の持ち手を弄りながら、尋ねる。
まあ、ユニットじゃなくてバンドに組み込むのは決定なんだが。
今決めた。
このもやもやは、近い年齢にウサミンがいることを表していたんだ。
きっとそう。
「菜々はアイドルになりたいんです」
「なら、オーディションとか受けたら?」
「うぅっ……面接で落ちました……」
だから俺と組んで売れようと。
……たぶん、俺だけ売れてサヨナラだと思うけど。
それにしても、まだウサミンキャラじゃないのかな?
ここでは隠してるとか?
でも、普段からキャラだったよな。
「んー、ユニット組むのは無理かな」
「そうですよね……」
「ねえ、暇ならこれから俺の家に来れる?」
「ふぇっ!? そっ、そそそそそれって!」
何を想像してるのか丸わかりなほど顔を真っ赤にさせてるが、残念。
「バンドやってるんだけど、もしよかったら入らない?」