友達が一人いるのといないのとでは時間の流れが全然違う。
気づけば二学期、三学期と終わり、春休みになっていた。
休み明けから中学二年生である。
二学期の中間期末、三学期末テストの順位は俺、千川、日草さんの三人は特に変わることがなかった。
四位以下の順位はちょくちょく変わっていたのだが、一番変わったことといえば五十位以内に俺のクラスメイトがほぼ全員入って来たことだろうか。
入れなくても一学年に三百人いるなか、最低順位が六十四位と優秀な人たちばかりである。
学園の行事である体育祭、学園祭、修学旅行なんかは俺と縁がなかった。
ものすごく過保護な気がしなくもないのだが、母さんだと納得している自分もいる。
だから修学旅行なんかを楽しく話す千川が羨ましいからと、逆エビ固めをしたのは致し方ないことなのだ。
お土産を持って来てくれたとしても、仕方ないことは仕方ない。
この一件があってさらに気安くなれたのだからいいじゃないか。
この春休みも早くに宿題を終わらせた俺と千川は碧の作ったお菓子を食べてノンビリと過ごしていた。
一年分を振り返るぐらいには暇を持て余すほどに。
「本当、碧くんのお菓子は美味しいですね」
「まだ沢山あるので、遠慮せずに食べてください」
「ええ、ありがとう」
もうすぐ碧も五年生になるのか。
千川が家に来るようになり、しばらく経ってからは碧も一緒に宿題をしている。さらには時間があるからと千川が先の勉強まで教えているため、何故だか知らんが中一レベルの学力になっていた。
「何もやる気が起きねぇ……」
「いつもと変わらないじゃない」
「でも、兄さんはやる時にやりますから」
「そうなのよね。ほんと不思議」
「ずっとやる気の千川のがおかしいと思う」
ここ一年、俺と過ごして多少は張り詰めてたのが柔らかくなったと思うが、それでも気づけば頑張りすぎている。
もっと俺がふざけるべきなのだろうが、縛りが多すぎるんだよな。
高校生になったらもう少しはまともになるか。
「九石くんがだらけ過ぎなのよ」
「……兄さんとちひろさん、まだ苗字で呼び合ってるんですか?」
碧にそう言われて千川と顔を見合わせる。
向こうも俺と似た考えなのだろう。
「今更名前呼びも違和感あるんだよな」
「九石くんって語呂がいいのよ」
「なら、あだ名とかは?」
あだ名……あだ名、ねぇ……。
「…………鬼、悪魔、ちひろ」
「それ、悪口よね?」
「将来的にそうなりそうな気がした」
「失礼な」
その素質があることだけは確かだ。
確かなことなのだ。
「なら、ちっひーで」
「私はなんて呼べばいいかしら?」
「余程じゃなければ何でもいいさ」
「…………翠くん?」
「あだ名じゃないの?」
ほんと、変わらないと思いながらもこれこそが千川……ちっひーなんだと、どこかホッとする。
「今年は同じクラスになれるといいんだが」
「九石くん……翠くんは、私以外に友達はいないの?」
その質問には首を縦に振っておく。
話す間柄ではあるんだが、友達というにはなんか違う。
ちっひーみたいに気楽な関係がいいんだよな。
「そう言えば兄さん。ちひろさんからチョコ貰ってましたけど、お返しはしたんですか?」
「んー……んふふ」
「碧くん、いいことを言ったわ。九石く……翠くんたら、すっかり忘れているみたいなの」
すでに三月末。
ホワイトデーなんかとっくに過ぎている。
「…………」
俺はそっと手元にあった碧の作った菓子をちっひーの元へ移動させる。
「これ、あなたじゃなくて碧くんが作ったものじゃない」
「……お前から貰ったのも市販だから一緒だろう」
「…………」
「…………」
「…………」
ちっひーがジッと見て来ている気がするが、無視して菓子を食べ勧めていく。
「って、ほとんど無くなってる!」
「そりゃ、食わないからいらないのかと」
「あはは、すみません。兄さんがほとんど食べちゃいました」
もうお菓子はないのかとちっひーは碧を見るが、残念だったな。俺が全部食べた。
何か騒いでいる千川から視線を外して外に目を向ける。
どこかで桜が咲いているのか、花びらが舞っていた。
……こうしてみると、どこにでもあるようなとある日常の一部なんだよな。
…………。
俺はついに、去年の夏に起きたとある件により、この世界の違和感に気づいた。
もっと早く気づいてもよかったのではと自分でも思うが、ちっひーの件がでかすぎてそのことにまで考えがいかなかった。
だから貞操観念が逆転していることに気づいた時、色々なことに納得したものだ。
母さんや家政婦さんたちの度が過ぎた過保護だったり、ちっひーを除いたほぼ全ての女性が俺に向ける目。
クラスメイトの男子たちの過ごし方など。
それらに納得し終えたらハーレムだと素直に喜べたらよかったんだが……。
先ほど言ったとおり、度が過ぎた過保護が邪魔で好きにできないのがなぁ……。
二学期の中間期末でマンガとかの娯楽が増え、家の中でも飽きることは無いといえば無いんだが、それ以上に外へ行きたい欲求が強い。
……実は、碧は母さんか家政婦が一緒だったら外に出れたりする。
俺はアルビノのせいにより未だ無理なのだ。
初めはアルビノの見た目を格好いいと思っていたりしたが、ここに来てこの仕打ちとは……。
三学期末からついにバラエティ番組など、他のチャンネルを観れるようになった。
男性が出るだけで共演者の女性はデレデレしたり太鼓持ちをしていたのだが、その男性が引いているのには笑ってしまう。
腹を空かせたライオンに肉を与えるような感じだろうか。
ここまで考えると、ちっひーはある意味で純粋では無いのだろうか。
「ジッと見ても許さないものは許さないわよ」
何かほざいてるが、普通なら顔を赤くして目をそらすか、肉食になって襲ってくるかの二択と断言してもいい。
だがちっひーは先ほどのお菓子を根に持ち、ジト目を向けてくる。
…………。
「えっ、ちょっ! ……いた、いたたたただ!?」
「碧が遠慮するなと言ったからって本当に遠慮がない奴め」
考え過ぎてストレスが溜まった。たまたま目の前にいたちっひーなら鬱憤ばらしにちょうどいいだろう。
前にもやった逆エビ固めを決めるが、すぐさまギブアップされたので仕方なく解放してやる。
「兄さん、もう少し大人しくしようよ」
「善処する」
「もう少し優しくしなさいよ……」
「善処する」
ああ、今も楽しいんだが、もっと面白おかしい事が起こらないかな……。
…………。
「なあ」
「……どうかしたの?」
「つまらなくて、面白おかしい事がないんならさ、自分から行動するしかないんだよな」
「……そ、そうね」
「…………」
「…………」
「何も思いついてないから」
そう言うと、どこかホッとしているちっひーは碧に紅茶を入れてもらっていた。
んー……ちっひーも俺のノリについて来れるようになったか。
ソファーに寝転がり、先ほど自分が言ったことを思い返す。
うん、つまらないなら自分から面白いことを探すなり、何かするなりしないといけないんだよな。
九石翠
とある件で逆転したら事に気付いたが、縛りの多さに嘆く
ちっひーとの気楽な関係をとても気に入っている
将来、ちっひーに逆らえなくなる
九石碧
翠とちひろが名前、あだ名で呼び合う中に進展させた功労者
千川ちひろ
今まで勉強しかしてこなかったせいなのかおかげなのか、翠と接しても異性として意識していない
そろそろ成績で負かしたい気持ちがあるが、翠の教えがわかりやすく、その決意はすぐに鈍る