三月は登校日が何日かあるが、ほぼ休みみたいなものだ。
休みの日を数日書き、この日なら話を聞けると返信すれば。
五分と待たずにメールが返ってきた。
一番近い休みの日に来てくれとのこと。
「……あ、フード被って行ったら不審者だよね?」
「そうですね」
「ってことは、姿バラさなきゃいけないのか」
「了承したんなら断るの無理だぞ」
「正確にはできるけどやらない方がいい、ですね」
「まあ、受けちゃったしなぁ……」
追加でメールを送ることにした。
内容は『маскировать』が誰なのか他言しないことについて。
すぐに了承の返事がくる。
そこには話し合いの場で誓約書まで書いてくれるとか。
「……あの、菜々はいきなりテレビ出演ですか?」
「何言ってるん。一曲載せたやん」
「……九曲あるうちの一曲ですけどね」
ウダウダ言っているが、ちっひーや奈緒が言う通り断ることはできません。
諦めてカメラ前で演奏するがいい。
……みんな、緊張とかしないよね?
早くも約束の日となった。
格好よく言ったが、テレビ出演の説明を受ける日だ。
約束の時間は十時だったので、八時から開いているという346カフェで朝食を頂きつつノンビリしている。
といっても、ノンビリしてるのはちっひーたちだけで、俺はノートパソコンを開いて曲を書いている。
ウサミンも追いついているというのに、新しいのが出来上がっていない。
……楽しいからいいけど、もっとノンビリできると思ってた。
社員用に七時から開いているらしく、スーツ姿の女性がサンドイッチやコーヒーを片手に資料を読んだりしている。
会社が近くの人もよくここを利用するそうだと、ウサミンから聞いた。
この間と同じテーブル席に座っているのだが、誰か近づいてくるのが視界の隅に入る。
なんとなく、誰だか予想つきながら顔を上げれば。美城常務がそこにいた。
「美城さん。久しぶりです」
「ああ、久しぶり。……例の件は考えてくれたか?」
時計を確認して話し始めているが……何か予定でもあるのかな?
「アイドルになるのはもう少し様子見てからにします。今日来てるのは別件で用があるので」
「そうか。少しでも肯定的な意見が貰えただけよしとしよう。私もこのあと予定があるため、これで失礼する」
美城常務が去って行った後、時間を確認すれば九時半だった。
「俺は曲作ってたからあれだけど、皆は暇じゃなかった?」
「いえ、特には」
「話してたらあっという間だったよ」
特に不満がないなら別にいいか。
そもそも、不満があったら俺に話しかけてきただろうし。
少し早いけど、大丈夫だよね。
周りのものを片付け、受付へと向かう。
テレビ出演の件で呼ばれたと受付に伝えれば、案内の人が呼ばれ。会議室まで誘導された。
すぐに担当の人を呼んでくれるらしい。
大人しく待っていれば、ノックの音が響いて入ってくる。
俺らに気づいた美城常務が驚いた表情でこちらを見ている。
後から入ってきたのは今西さんかな?
やっぱり、アニメの時より若い。
……まだ、原作前だもんな。この世界がアニメの通りになるかは分からないけど。
「さっきぶりだね」
「別の用はこの事だったのか」
「おや? 二人はすでに知り合いだったのかい?」
「この間声をかけたのが彼です」
「なるほどね。僕は今西。よろしくね」
男性だ。男性が働いている。
流石に年取った人は対象外なのか?
「誓約書はコレになるが、大丈夫だろうか?」
テレビの話し合い、の前にと。
紙を渡されたので目を通す。
そこには中身が誰なのか口外しないことについてと、もし外に漏れた場合の罰則について書かれてたんだが。
「バレない方がいいけど、別にバレたらバレたで構わないと思ってるから。意図的にバラすのは困るけど……さすがに、346プロ解体はやり過ぎかなと」
「男性の情報が漏れるのだ。コレぐらいは必須だろう」
「俺のストレスになるから、もう少し軽くして」
ちっひーたちも解体について何も言ってこないが……うん。もう少し軽くしてもらおう。