貞操観念逆転ガールズ   作:不思議ちゃん

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ごねたらなんとかなる

 春休みが終わり、今日は自分のクラスの確認と全校集会、簡単なHR、宿題の提出だけで終了である。

 組み分け表をもらい、自分の名前が書いてある組を確認してそこに向かえば先に来ていたちっひーが女子生徒と楽しげに話していた。

 

 ……ああ、よかったね。ちっひーは俺以外にも友達がいたんだ。ほろり。

 

 なんて思いながら黒板に貼ってある紙を見て自分の席を確認する。

 といっても、俺の席はずっと固定なんだよね。日が当たるところには座れないため、廊下側の一番後ろが俺の席だ。

 大して物が入っていないカバンを机に置き、イスに座れば横目にちっひーが話してた女子生徒と一緒にこっちへ向かってくる。

 

「おはよう、翠くん」

「おっはー。俺、九石翠。よろしく」

「ああ、日草(ひぐさ)奈緒だ。よろしく」

 

 ちっひーが選んでくれたのか、こちらの女子生徒、日草さんも気安い感じだ。差し出した手も普通に(・・・)握ってくれるし。

 聞き覚えがあるような気がしたら、テストでいつも三位にいた人か。

 ………いやはや。

 

「どうかしたんですか?」

「三人も日本人がいるのに髪色が黒、茶、白と揃わないんだなって」

「……ちひろ、九石はいつもこんななのか?」

「……いつもよりマシ、かな?」

 

 何故だか分からないが、日草さんは面倒臭そうな表情で俺を見ている。

 

「あんな事をする仲なのにそんな顔するなんて……」

「あんな事って……もしかして握手のことか?」

「もしかしなくても、握手のことだよ?」

 

 おやおや、日草さん。ため息をつくと幸せが逃げると言いますよ?

 

 残念ながら時間が来てしまったのでここまでとなるが、ちっひーも面白そうな子を連れて来てくれた。

 ……友達を売って自分の被害を軽くしようとしたわけとか、違うよね?

 

 全校集会は聞き流し、宿題も前の席に渡すだけ。HRは今週の説明である。

 といっても身体測定があるだけなんだが。

 

 

 

 俺、165センチ

 ちっひー、151センチ

 日草さん、167センチ

 

 男はこれから成長期だから!

 

 

 

 俺的に盛り上がらない身体測定が終わり、早くも中間テストが近づいて来た。

 授業内容も濃くなっており、テストの問題もそれなりの難易度となっている。

 それでも平均を1、2点しか落とさなかったお二方は流石だ。

 

 ちっひーのいつもの質問に日草さんが増え、昼食も三人で取っている。

 ちっひーほどではなかったが、日草さんは日草さんでだいぶ真面目だ。

 来年の今頃、どのように変わっているのか想像すると楽しい。

 

「……ちひろ、なんで私たちはこいつに勝てないんだ?」

「……私は半ば諦めかけてます」

 

 二人は俺の顔を見てため息をついているが、失礼なやつらだ。

 

☆☆☆

 

 二学期の期末テストも終わり、冬休みに入った。

 俺とちっひー、奈緒、碧でコタツにこもり、みかんを食べながらテレビを見ている。

 

 奈緒の家もちっひーと反対方向に二十分歩けば着く距離にあるらしく、俺の家に集まることがほとんどである。

 俺が外に出られないのも関係があるのだが。

 

 夏休みに奈緒を家に呼んだときは久しぶりに母さんが騒いでいたが、ちっひーと似た雰囲気を感じてからは大人しくなっている。

 未だに母さんがなんの仕事をしているのか知らない。

 一軒家に家政婦二人、バカにならない値段のピアノ。……気になって聞いてもはぐらかすんだよな。

 

 そんな母さんのことは一旦忘れ、ボーッとテレビを眺める。

 もう少しで今年も終わりかぁ。

 今年も学校行事に縁がなく、二人で楽しそうに話す姿を見てちっひーに逆エビ固めをしておいた。

 この流れもなんだか決まって来た感じがある。

 

 室内だけなら体育に参加してもいいと許可をもらったので、ストレスの発散がちっひーに逆エビ固めと合わせて楽になった。

 

 このまま中三、高校と自由にやることができる範囲が広がると嬉しい。

 家出をしたいところだが、そんな事をしたらニュースになるほどの大事になるので無理だ。

 

 貞操観念が逆転してるのって、いいことばかりじゃないんだな……むしろ実際に体験すると嫌なとこばかり目につく。

 

「あ」

「どうかしたのか?」

「来年になったらもう三年生じゃん。二人は高校どうするん?」

 

 通っている中学は高校、大学まであるのだが、場所が離れている。

 加えてテストも受けなければならない。

 まあ、普通に入学するよりは楽であるのだが。

 

「私とちひろはそのまま高校に通うが」

「わざわざ他のところを受ける理由もないですし」

「んじゃ、俺も高校行こうかな」

 

 そう言えば、二人が驚くのは分かっていた。

 ほとんどの男性は中学を卒業したら引きこもる人が殆どだ。高校の男女比率になると三クラスに一人いるぐらいに。

 ましてや大学なんて共学なのにほぼ女子校。

 

 男は引きこもって何をするのかと言えば、花嫁修行ならぬ花婿授業をしているらしい。

 そして複数人の嫁をとり、生活するのだとか。

 

「私たちは分からないところを翠に聞けるから構わないが、蒼さんがなんて言うかだな」

「翠くんのことですから、高校に行きたいと言うのはなんとなく分かってましたが……」

 

 二人も分かっているように、俺の母さんが許してくれるかと言うところだ。

 碧が淹れてくれた緑茶を飲みながら、どう頼もうかと考える。

 

「素直に言ってみたらいいと思うけど。お母さんはなんだかんだで兄さんに甘いから」

「ふーむ……考えておこう」

 

 

 

 

 

「高校に行かせてください」

 

 言われたことは即実行(ものによる)。

 リビングの床に土下座をし、帰って来たばかりの母さんに誤魔化さず伝える。

 

「す、翠? 中学を卒業したらずっと家にいてくれるって約束……」

「……そんな約束、した覚えは一切ないんだが」

「そうお腹に語りかけたとき、蹴って答えてくれたのを覚えてる」

「それはただ言葉に反応しただけで、返事じゃない」

 

 なんだかんだ、ごねたら高校に通っていいと許可もらったぜ。




九石翠
ボケ担当。ちっひーに逆エビ固めを仕掛けるのが趣味

千川ちひろ
ツッコミ(仮)。翠によく弄られる

日草奈緒(オリキャラ)
ツッコミ担当。翠のおかしな行動に慣れた自分に落ち込んだ

九石蒼(あおい)
母親の名前。ついに決まった。
泣く泣く高校行きを許可した

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