春休み最終日。
「──けほっ、けほっ」
俺は熱を出し、ベッドに寝ていた。
枕元には飲み物が置かれ、部屋には俺一人。
初めは皆がいたのだが、母さんに追い出されていた。
その後は碧に少し世話をしてもらったが……。
恐ろしいくらいに、家の中が静かだと感じる。
それでいてリビングは空気が重いような。
……俺が体調崩すの、初めてだな。
ちっひーたちを追い出した後、母さんも顔を青くして世話を焼こうとしていたけど……碧に追い出されていた。
恋人が引き離されるときの女性みたいな感じだったが、碧の『邪魔』という一言に沈んだ。
ここにきて熱を出すとは……。
無理してるつもりは無かったんだが、疲れが溜まっていたと思う。
なんだかんだ、何もせずにボーッとするような日がなかった気がする。
いつも何かしらやっていたような……いや、やっぱりダラダラしてた日は結構あるな。
んー、体調管理してたとしても崩れるときは崩れる。
今回のはなるべくしてなった感じだろう。
「…………」
体は重いけど、眠くはない。
なにより。
──一人は、寂しいな。
慣れていたはずだけど、ちっひーと一緒に過ごし始めてから。
ずっと誰かが側にいたし、楽しい時間を過ごしてきた。
だからだろう。
こんな気持ちになったのは。
ベッドから起き上がり、フラフラとした足取りでリビングに向かう。
部屋を出る前に時計を見れば、昼近くになっていた。
ボーッとしてても時が進むのは早いな。
リビングのドア近くまで来たんだが。
ドア越しでも重い空気を感じる。
え……開けたくないんだけど。
「────」
「────」
「────」
何か話してる声が聞こえてきた。
内容までは聞こえてこないけど、何を話してるのかは逆転含めて考えたら、なんとなく分かるような……。
「──翠! 大人しく寝てないと!」
ずっと廊下に立ってるのもしんどいので、ドアを開けて中に入れば。
すぐに気づいた母さんが寄ってくるがソファーに座り、碧に紅茶を頼む。
「…………すっごいお葬式みたいな雰囲気なんだけど」
周りを見回せば、ちっひーたちが辛そうな……悔しそうな?
そんな表情をしていた。
考えてた通り、俺が熱を出したことについて母さんと話していたと思う。
それで負い目を感じてるのかな?
「はい、ミルクティー」
「おおっ。俺が飲みたいと思っていたのを当ててくるとは。さすが碧」
空気ぶち壊している気がするが、淹れてもらったミルクティーを飲み。
ホッと息をつく。
「んー……楓、おいで」
うまく考えは纏まらないが楓を呼び、膝枕をしてもらう。
ああ、いい匂いするんじゃ……。
この世界で十数年生きてきたけど、まだデレマスのイメージがある。
だからあの高垣楓に膝枕をされてると考えれば……もう、たまらん。
「兄さん、悪くなるよ」
いつ部屋から取ってきたのか、楓に膝枕されて寝そうになってる俺に碧が毛布をかける。
「あざー……」
眠気は先ほどまでなかったのに、気づけば俺は深い眠りについていた。
☆☆☆
「寝ちゃいましたね」
楓の膝枕でスヤスヤと眠る翠。
それを見た翠の母親はため息をつく。
「……私が何を言ったところで、初めから意味なんてないのは分かっていたけど」
そこで一度区切り、お菓子を一口齧ってから続きを話し始める。
「これを見せられたら、認めたくないのも認めなくちゃ……ね」
どこか寂しそうに話す姿に、ちっひーたちは何も言えなかった。