ライブ当日になった。
昨日初めて聞いたのだが、会場はだいたい五万五千人と沢山入るけれど、音が悪いらしい……が、なんか頑張ったらしい。
検証と計算を繰り返し、とても良く音が聞こえるようになったのだとか。
そこまでの執念、すごいと思う。
あと、ライブを二日もやるなんて聞いてない。
……まあ一日だけだと不満が出るのも何と無く分かるんだけどさ。
それだったらリアタイで見られるよう、ネット配信すればいい。
もちろん、お金は取って。
…………俺の浅はかな考えはすでに実行されてますね。はい。
やっぱり画面越しと実際に見るのは違うって分かるが、俺はそこまで気にしない派だから……。
そこまでして見たいものなのかな?
未だに実感として薄いから、男ってだけで騒がれるのは不思議な気分だ。
ライブをやるってニュースで見たとき、大丈夫か不安になったもん。
わざわざ海外から来てくれる方もいるらしい。
「観客の声、すごいね」
「緊張して上手く歌えるか不安だわ」
「菜々も上手くできるか……」
「私に任せとけって☆」
あと30分ほどで開演である。
愚痴をやめて皆に声をかけてみるが、テンションは低い。
任せとけと言った心だって震えてるし、ちっひーと奈緒も少し俯いている。
このままだと失敗するのは目に見えてるが。
はてさて……どうしたものか。
「ちっひー」
「……どうかしまし──んんっ」
言葉かけるよりもこれが一番早いかなと。
奈緒、楓、心、菜々と順番にキスをしていく。
「今日のライブが終わったら……ね?」
実感は薄いが、逆転してるんだから。
これで簡単に釣れると考えたんだが。
「……………………ぉぉ」
今度は皆、ニヤニヤし始めて気味が悪い。
これこれで不安になるが……さっきよりはマシか。
予想していたとはいえ、これほど効果があるとは。
…………今後、これを使って弄っていけそうだな。
「動画撮ったときみたいに演奏すればいいから。……俺基準だけど、上手くてきた人には加えてご褒美があるかもね」
意味ありげな笑みを浮かべながら唇を人差し指でなぞれば。
皆が同時に生唾を飲み込んでいた。
ちっひーと心に至っては鼻血を垂らし始め、鼻にティッシュを詰めている。
奈緒と菜々もトイレに向かったし、まともなのは楓だけかと思っていたが。
顔を赤くさせながらビクリと体を震わせていた。
…………うん。
俺の周りに変態ばかりが集まってるのか、それともこの世界の女性みんながこうなのか。
デレマスキャラはマトモだと思っていたが……全然そんなことは無かったな。
気付けばいつも通りの雰囲気になってるから、ライブは大丈夫だろう。
俺はそっと壁に目を向け、お茶を飲み始めた。