「どーぞー」
ドアがノックされたので許可を出せば。
入ってきたのは常務だった。
散々催促されてきたライブがようやくできるからか、嬉しそうな雰囲気を纏っている。
と、同時に。
男である俺がステージに立つため、その心配があるようだ。
一応、ステージには警官を配置してるが、観客全員が興奮して押し寄せてきた場合は逃げるしかない。
その為のルートもあるのだとか。
「そろそろライブが始まる時間だが……大丈夫そうだな」
「何を見てそう思ったし」
大丈夫そうと言った常務は、壁を見ながら発したセリフであった。
部屋の中では鼻血を出してるのが二人。
明らかに自家発電して賢者になってるのが三人いる(楓もあのあと、トイレへと向かった)。
「……プライベートだと、いつもこんな感じなのだろう?」
「いや、そんな事ないんだが。もっとまともなん……」
「…………」
「…………」
何故だか知らんが微妙な空気になってしまった。
だけどいつもこんな感じと思われたくない。
どうすればよかったんだ……。
「どーぞー」
この空気を壊すように、再びノックの音が響き。
これ幸いにと許可を出す。
「失礼します。…………失礼しました」
「待て待て待て。早苗さんよ、迎えに来てくれたんじゃろ? 逃げるのは許さん」
「嫌よ! 翠くん、最後に本音漏れてるもん!」
「しっかり仕事しろ! 俺の付き人みたいな感じなんだから!」
部屋の中を確認し、出て行こうとする早苗を引き止める。
俺の推薦で付き人みたいな立ち位置になっているというのに、仕事をしないとは何事か。
「翠くん。私たちは大丈夫ですよ?」
「うんうん。任せとけって☆」
「鼻に詰めたティッシュを取ってから言おうか」
なんでドヤ顔しながらなのか分からないが、腹が立つ。
「菜々はいつでもいけま──いだだだだっ!?」
肩に手を置かれたので振り向けば、キリッとした表情を作ったウサミンが何か言いかけていたが。
腹が立ったのでアイアンクローをしておく。
その叫びで浮ついていた皆は落ち着いたのか。
いつも真面目な雰囲気でいた奈緒やちっひーは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「おし、いくか」
衣装なんてマント羽織って仮面つけるだけ。
顔は出すけどマント脱がないから、中は私服のままだ。
演奏するステージだが。
例えるならば……壇上に上がった校長が俺ら。話を聞く生徒が観客。
みたいな形式? が殆どだろう。
ただ、今回ってか今後も、俺らがライブやるときは盆踊りみたいた感じだ。
真ん中で太鼓叩いてるのが俺らで、周りを観客が埋めている。
俺らが立つステージは回転するらしく、後ろ姿しか見れないという事もないようで。
リハで一度立ってみたが、変な感覚だ。
「翠くん。大丈夫ですよ」
「そうそう。菜々たちがついてますから」
「さっきまでのちっひーたちに言われたくない……」
やはりどこか緊張していたようで。
皆に心配されて声をかけられてしまった。
ここまで来たらやるしか無いんだし、腹くくってやりますか。
なお、既に皆は仮面つけていたため、身長と声でしか判別できなかったのが少し面白かったりする。
いつもは動画撮ってすぐに外すから、仮面つけたまま話すってことがないからね。