貞操観念逆転ガールズ   作:不思議ちゃん

5 / 78
三人に分身したい

 高校生になれる許可をもらえたため、中学最後の年は気楽に過ごせるかと思っていたのだが、そう簡単にはいかなかった。

 

 なんだかんだで二年生も終わり、三年生になった。

 ちっひーと奈緒の二人とクラスが離れることはなく、また三人一緒でバカやっていこうと思っていたんだが。

 

 一学期の中間テストまではまだよかったのだが、問題が起こったのはそれが終わってからだ。

 俺に分からないところを質問する人が増えすぎて全員を見きれなくなった。

 他のクラスから文句が出たらしい。

 

 一年生の時のクラスメイトは二年生になってクラスが違っても聞きに来ていたし、新しくクラスメイトになった子たちも聞きにきていた。

 三年生になった今も同じ事だったのだが、話を聞いてやってくる子も増え、時間が足りなくなったのである。

 

「さて、どうするか」

「どうするか、と聞かれてもな」

「でも、どうにかしないとまずいですよね?」

 

 というわけで。ちっひーと奈緒を家に呼び、リビングでどうしていくかの話し合いが行われている。

 

 日が経つにつれて腕が上がり、レパートリーが増えていく碧のお菓子を食べながら、いくつかの案を考えるが、どれも母さんの許可を取らねばならない。

 

「放課後、時間を取ったとしても部活がある人たちから不満が来そうだな」

「なら、その人たちはまた別の日に……」

「一人一人相手だと、放課後使えるようになっても時間が足りないな」

 

 いい案が出たと思っても、問題がでてくるでてくる……。

 

「んー……まとめて面倒みるしかないかなぁ……」

「どうするんだ?」

「学校に講堂みたいな場所あるんならそこで。参加する人は事前に声かけてもらって、分からないところや苦手なとこを教えてもらうか、テストのコピーでももらうか」

「人、結構集まると思うんですけど、大丈夫なんですか?」

「え?」

「「え?」」

 

 何故、二人は俺が一人でやると思っているのだろう。

 当然、そこらへんは二人にやってもらうに決まっている。

 

「ちひろさん、奈緒さん。よく分からないですけど、頑張ってください」

 

 できた弟の碧はいいタイミングでお菓子を差し出し、応援する。

 これで二人も手伝わなければいけなくなった。

 強制ではないのだが、二人自身が納得しないだろう。

 

「兄さんもお母さんから許可取らないとね」

「事情説明したら分かってくれるはず」

「そういえば、講堂? ってところを使うには先生から許可もらわなくていいの?」

「「「…………あ」」」

 

 碧の一言に俺たちはまだまだ問題が山積みなことを理解した。

 

 

 

「ってことなので、放課後も学校に残るから」

 

 昨日、買い物から帰ってきた母さんにそう伝えると膝から崩れ落ちたが、しぶしぶ許可をくれた。

 

 今日は朝のHRが始まる前に職員室へ向かい、そこらへんを説明して部屋を使えないか確認に向かう。

 当然、ちっひーと奈緒も一緒に。

 

 結論から言えば簡単に許可が下りた。

 本来ならば分からないところを教えるのも先生の役目なのだがうんたらこうたら。

 学生同士で励むのも他の生徒にいい刺激になるだろうとかなんとか。

 

 そういうわけで、HRに三年生は担任からそのことが伝えられたのだが。

 休み時間になるたびに人が来るわ来るわ。

 クラスメイトたちに悪いと思ったが、わざわざテーブルを端に寄せて広いスペースを作ってもらい、俺とちっひー、奈緒の三人でメモを取っていく。

 三列に並ぶ整理をやってくれたのは本当に助かった。

 

 まあ、休み時間だけじゃ足りなかったので放課後まで使ったのだが。

 時間が足りないなと昼休みに思ったので、あらかじめ別の紙に書いて来てくれるよう頼んでいなければもう二日ぐらい必要だっただろう。

 書き忘れ伝え忘れがあっても後から言ってくれればそれでいいし。

 

 今週は休み時間でさえも勉強を断り、ちっひーと奈緒の三人でノートパソコンを使い、データとして纏めていった。

 母さんにおねだりしたらちっひーと奈緒の分まで買ってくれたので作業がずいぶん楽になる。

 

 分けていたデータをまとめ、科目ごとに分からない人が多い箇所ごとに纏めていく作業をちっひー。

 それを参考に問題解説の内容と時間を考えるのが俺。

 俺の補助やその他必要なことを奈緒。

 

 そう分担して行い、なんとか翌週の放課後から毎日勉強会のようなものが行われるようになった。

 どうしても出られない人は、言ってくれれば分かりやすく纏めた紙を渡す。

 それでも勉強会が始まる前のちょっとした時間や、終わった後に優先して説明をしている。

 

 こうして俺は休み時間や昼休みにゆっくりできるかと思っていたが、授業が進めば分からないところが出てくるため、その説明を纏めたりしていた。

 

 ちっひーと奈緒も文句を言わないで手伝ってくれている。

 いや、昼飯を食べている時など、俺をいじるためにボソッと言ってくる。

 

 そんなこんなで迎えた一学期の期末テストの結果を聞けば、一番低い点数でも70点以上取れていたので良かったと思う。

 

 

 

 夏休みに入り、変わらず俺の家に集まってお菓子をのんびり食べていた。

 

「いやぁ……疲れたね」

「本当です」

「これ、学生のやることじゃないだろ」

 

 外から聞こえてくるセミの声、暑い陽射し。

 夏だということを感じさせてくれるが、変わらず引きこもりの俺はクーラーの効いた部屋でゴロゴロ三昧である。

 肌も真っ白であり、自分でも病弱だなと思う。

 

「なんか、夏休み明けたら嫌な予感がするんだよなぁ……」

「バカなこと言うのはやめろ」

「そうです。休みが明けたらまたあの日々が戻るんですから」

「ちっひーと奈緒も点数上がったんだからええやん」

 

 なんと、二人も手伝いをして大変であると思うのにオール満点を取っている。

 上位三人がオール満点であるのを見た時、思わず笑ってしまった。

 そして三年生自体の学力も底上げされ、勉強会に意味があることが実証されてしまったのが俺の懸念事項だ。

 

 休みが明けたら先生から頼まれそうなんだよな。

 一年生と二年生の分も見てくれと。

 ……………………。

 このことは二人のためにも黙っておこう。

 

 

 

 

 

 夏休みが明け。

 俺たち三人は職員室に呼び出されていた。

 

「ちっひー、何やらかしたん?」

「私に押し付けないで下さい」

「やらかすとしたら翠しかいないだろ」

 

 そんな軽口を言い合いながら向かうと。

 

「一、二年生の生徒たちから、私たちにも勉強会をしてくれって言われてね。何とかならないかい?」

 

 俺の予想通りのことを言われ。二人は隠すこともせず、嫌そうな顔をしていた。

 優等生だった(・・・)ちっひーと奈緒の表情に先生が驚いている。

 

「……私たちから勉強会を始めといてなんですが、そもそも先生方がやらなければいけないことではないのですか?」

「……そう言われると何も言い返せないんだが」

 

 ちっひーがキツイことを言ってもぼかして答える先生に二人はため息をつく。

 

「内申、期待してますよ」

「他の先生方も、ね」

 

 職員室で話しているため、当然他の先生もいる。

 今の話も作業しているフリをしながら聞いていたのは二人も気づいていたようで。

 

 結局引き受けることになり、二人は一日中不機嫌であった。

 夏休みの間に先生たちがどのようなことをして欲しいのか纏めていたらしいのだが、それは俺たちのより酷く。

 結局は自分たちでやらなきゃいけないことも原因であった。

 

 わざわざ来てもらうのも悪いため、アンケート用紙を作成して学校でそれを印刷。

 先生に配ってもらい、次の日に回収。そしてまたデータにしてまとめる作業になる。

 

 俺は去年、一昨年とクラスメイトたちに教えていたため、大体どのへんを聞かれるのか分かっているからそれを纏めていく。

 他に分からないところがあればその時にまた纏めればいいし、作ったものも無駄にはならないだろう。

 

 それらをしている間も勉強会は通常通りなのだが、ふと思った。

 一、二年生もやるとしたらどうするんだろう。

 放課後の時間を分割なのか、曜日で分けるのか。

 現実的なのは後者だが、そうすると今でさえそこそこある三年生の勉強会。その密度が上がる。

 無理をしてもきちんと理解がなければやる意味がなくなる。

 

 時間が……時間が圧倒的に足りない。

 俺が三人に分身できたら……そうじゃなくても俺と同等の学力がある人……。

 

 ……………………。

 

 

 

「なあ、ちっひーと奈緒」

「「うわ……」」

 

 人の顔を見てそれは酷いと思うが、今は見逃そう。

 逃げられないよう、二人の手を取る。

 

「一年生と二年生の教師役、任せた!」

 

 そう伝えた瞬間。逃げようとした二人だったが、俺に手を掴まれているためそれは叶わない。

 

「大丈夫だって。教える事は決まってるんだし、メモも渡すから。何かあったら電話なりメールなりしてくれていいし」

 

 二人とも理論派だからきちんと筋道を立てて説明してくれるだろうし、大丈夫だろう。

 学力だって十分ある。

 まだ納得いかない二人に、とりあえず二学期の中間テストまでやってみて、それでダメならまた考えよう。と期限を提案すると、一先ず納得してくれた。

 

 大丈夫。俺には成功する未来しか見えてないから。

 

 

 

 結果的には成功したため、そのまま継続する事になった。

 ただ、一部で俺から教わりたいと不満があるらしいが。それを聞いて、逆転していることを思い出す。

 ちっひーと奈緒が特殊なだけで、周りは飢えた獣であることを。

 俺もずっと見られ続けてきたから、慣れて違和感を覚えなくなってきた。

 

 ちなみに俺が三年生を教えるのは変えられない。

 ちっひーと奈緒は現役の中学三年生である。スペックが高くて時々忘れそうになるが。

 そのため、俺が教えるのが一番いい。

 

 勉強会に参加できなくなる二人は休日に分からないところをパパッと教えてダラダラしている。

 

 

 

 秋が過ぎ、冬も終わり。

 たったいま、卒業式が終わったところである。

 一緒に卒業する同級生のほぼ全員は同じ高校に行くため、そんな別れを感じない。

 

 それは俺だけのようで、皆は後輩や先生たちと涙を流している。

 ちっひーや奈緒も泣いてはいないが、勉強会を通じて知り合った後輩たちに囲まれて話をしていた。

 

 俺は一人、日傘をさしてそれをボーッと見ている。

 

 俺たち三人は先生たちから卒業しないで欲しいと真面目なトーンで言われたときは笑ってしまった。

 なのでそれぞれの学年に一学期、二学期、三学期と三冊の解説ノートを作り、コピーして一クラスに一冊、置いてもらうようにした。

 これでなんとかなると思いたいが、ならなかったらそのときだ。

 

 今日は特例でこうして外に出ているが、高校生になったらもう少し縛りが緩くなることを聞いている。

 母さん、家政婦二人、ちっひー、奈緒のうち、誰かと一緒であれば外出できるようになる。

 

 願っていたことが叶うため、高校からは更に楽しいことが待っているだろう。




九石翠
ちっひーとの勉強がこんな事になるとは思ってなかった

千川ちひろ
この勉強会を経て、事務能力がアップ

日草奈緒
この勉強会を経て、事務能力がアップ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。