移動した先は目的であるステージの真下だ。
これからステージというか、会場全体が真っ暗になり、ほぼ何も見えない状態となる。
その時に俺たちが今立つ床が上がっていき、スタンバイするのだ。
演奏が始まるとともにパッとライトが付くのだが……まあ、なんとかなるだろ。
俺たちの目が暗闇になれるよりも早くライトが付けばいいだけのこと。
「そんじゃ、楽しんでいこっか」
『ご褒美のためにっ!』
……………………お前ら。
色々思う部分はあるが、いつまでも待たせるわけにはいかない。
ステージに立ち、楽器を構え──。
☆☆☆
二日間のライブが終わった。
振り返ってみればあっという間で、今も歓声が耳に残っているような気さえする。
二日目が終わった興奮のまま、ご褒美をみんなに与えた。
今日は一日ゴロゴロとしていたかったが、現在346でお昼を食べている。
電話で話があると呼ばれていたのだが、ここに来たのは俺とちっひーだけであり、残りは家でダラダラとしている。
俺とちっひーに全て任せると言われているので、同意が必要な話だったとしても問題ない。
「すまない。待たせたようだ」
少しして常務と今西さんが部屋に入ってきた。
「いえ。ちょうどお昼を食べ終えたところです」
「……俺、まだ食ってるよ?」
ちっひーのお皿は空になってるが、俺はまだ半分くらい残っている。
「そんな重要な事でもないし、ゆっくり食べながらでも話を聞いてくれ」
「気にしないなら遠慮なく」
ここのお店のオムライス、美味いな。
今度、碧に食べさせて再現してもらお。
「遅くなったがライブ、お疲れ様。特に問題もなく終わってよかったよ」
「翠くんが一言かけてくれたからですね」
なんてことはない。
ただ、大人しくしててねーと言っただけである。
実は、効果があるか半々の賭けだった。
逆に興奮して手がつけられなくなる可能性もあったりしたのだが……まあ、わざわざ言わなくていいだろう。
「本題だが、ライブを円盤にして売り出しても構わないかといった確認だ」
「構わんよ」
「渋るのも分かるが、すでに催促の電話やメールが…………今なんて?」
今西さんはニコニコしてるし、ちっひーは諦めたようにため息をついている。
というか、何故渋るのだろうか。
逆転してることを含めて考えてみても、その理由に行きあたらない。
「円盤にして売るのは構わんが、数が足りないってのはないようにね」
「いいのか?」
「ん? 売りたくないの?」
「いや……こうもあっさりと許可が下りるとは思わなくてだな」
「普通は不特定多数の見知らぬ女の人に見られるのを嫌がるんですよ?」
ちっひーが助け舟として説明をしてくれるが……よく分からん。
「アイドルをやりたくてやった人ばかりじゃないですから……」
なんらかの事情でやらざるを得ないとかあるのか。
他人事だが……大変そうだな。
「二度目だけど、十分な数を用意するなら構わないよ。円盤を含めてライブやってたし。作らない方が不思議」
「なら、これを読んでサインしてくれ」
そう言って俺に紙を渡してきたので、ちっひーへとそのまま流す。
しばしの時間を置き。
「後で文句を言わないでね。売り上げの五割あげるよ。……ってとこですかね」
「ほい」
大まかに訳してくれるので、問題がないことも分かり。
サインして常務へと紙を返す。
すぐにでも作り始めるためか、挨拶もそこそこにどこかへ電話をかけながら部屋を出て行ってしまった。
…………。
そういえば、売上の五割って……多くね?