さて、思いつきというか、俺の運というか。
広島の厳島神社に来ました。
いや、ダーツ刺さったのは広島であってるんだが、知ってるのがここか原爆ドームくらいだったから来たわけだが。
「さて、ここからノープランだぞ」
ずっとここでボーッとしたまま鳥居を見ているわけにはいかないし。
かと言ってあんな手紙まで書いといて日帰りもなんとなく嫌だ。
しかもまだ昼を少し過ぎたあたりなわけだし。
日傘と白い髪が目立つからか視線を集めてるが、男だと気付いてないのか声をかけてくることはなかった。
ここに来るまでもそうだったし、自分で思っているよりも女顔なのかな……。
少し凹みつつも今の手持ちを確認しよう。
ギター、カバン、サイフ──そしてバイオリン。
なんとなく見かけた楽器屋に寄ったらあったので、半ば衝動的に買ってしまった。
まだ初心者だが最低限なものとして買ったから10万は軽く飛んだ。
……いや、もともと金を世の中に回らせるため使おうって決めてたんだからこれで問題ない。
……視線を集めてるの、ギターとバイオリンのケースを持ってるからか?
ここも十分堪能したし、昼も軽く済ませた。
どこか良さげな場所を見つけて練習でもするか。
周りにいるのが出来る子ばかりだから見栄張るために頑張らんと。
☆☆☆
「はぁ……」
パパとママに連れられて広島まで来たわけだけど。
娘を放ってずっとイチャイチャしているし、周りの嫉妬の視線集めてるのに気付いてない。
ほとんど話の世界でしかなくなった一人しか愛さない純愛が両親なわけだが。
「杏、ちょっと散歩してくるね」
「いってらっしゃーい」
「気をつけるんだぞ」
「はいはい」
少しは配慮というものを覚えて欲しい。
一通り見たし、時間もある。ならば普通なら行かないような場所を歩いてみたくもなるだろう。
春にしては温かい今日。
どこかで咲いているであろう桜の花びらが杏を追い越していく。
何となく導かれるようにその花びらを追っていけば、バイオリンの音が聞こえてきた。
すでに花びらは地面に落ちているけれど、まるで役目を終えたかのように満足気である。
……どの花びらか区別つかないんだけどね。
あとは音の聞こえてくる方へ足を向けて角を曲がれば。
桜の木とベンチがあるぐらいの小さな公園があった。
そのベンチに人が座っており、その人がバイオリンを弾いているようだった。
長く伸ばした白い髪を後ろで一つにまとめ、シャツにスキニーとカッコイイコーデだ。
「…………?」
集中しているのか杏に気付いていないようだけど、近づいてみてお姉さんをどこかで見たことがあるような気がしてきた。
それもつい最近。
地元が北海道だから知り合いという可能性はものすごく低いし。
なんて引っかかっているのに集中して考えていたら杏に気付いたようで。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは」
「ここの人?」
「ううん、北海道。お姉さんもここの人じゃないでしょ?」
「あはは……まあね」
荷物をどかして座るところを作ってくれたのでそこに座ったのだが。
どうして苦笑いをしているのだろうか。
「杏のこと気にしなくていいよ。バイオリンの音、好きだから」
「んー、まだ練習ちゅうなんだよなぁ」
そう言いながらもお姉さんはベンチから立ち上がる。
音の出を確かめてるみたいだから何か弾いてくれるのだろう。
「この曲はまだ誰にも聞かせてないから、君が初めてのお客さんになるね」
そう言って弾き始めたのは聞き覚えのない曲だった。
クラシック……といった感じでもない。
だけど不思議と落ち着く。
曲が終われば杏は自然と拍手をしていた。
だけど他の場所からも聞こえてきたのでそっちを見てみたら、ジャージを着て首にタオルを巻いた女の子が立っていた。
「あ、えっとその……とてもいい曲だったので」