演奏も成功に終わり、二人と別れたあとはまたプラプラと散歩に戻ろうかと思っていたが。
「泊まる宿を見つけないとなぁ」
時間的な余裕はまだあるが、ギリギリになって慌てるのも嫌だし。
それにあとは宿でゆっくりするのも悪くは無いと思う。
イイ加減に荷物も重いと感じ始めてきたのもあるが。
「どっかいいとこないかなー」
傘をくるくると回しながら何となくで歩き進んで行く。
まだギリギリ春休みだが観光客はちらほら見かけるぐらい。なら飛び入りでも部屋空いてるだろうし。
対応が良さそうでゆっくり出来そうなところがいいかな。
「…………ふー」
日も傾きかけた頃。
でかい旅館にようやくたどり着いた。
途中、迷子になってた赤毛の幼女を見つけたので買い食いしながら親御さんを探したりもした。
無事合流できた後、泊まっていくかと声をかけられたが、それではゆっくりできない。
代わりにここの旅館の場所を教えてもらったわけだ。
「えーっと……」
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
こういったのはちーちゃんか奈緒に任せていたから入ってすぐにどこへ行けばいいか分からなかったが、仲居さん、かな?
すぐに気付いて声をかけてくれた。
「本日、予約などはされておりますか?」
「あー、いえ、してないです。紹介されてここに……ああ、これを見せればいいって」
「…………大変申し訳ありません。確認してまいりますので、少々こちらでお待ちいただけますでしょうか?」
旅館を教えてもらった後にこの紙を渡してって言われて受け取っていたものがあり、それを渡したのだが。
プロ根性なのか表には出さないようにしているが、どこか緊張しているような雰囲気へと代わり。
ロビーへと案内され、茶菓子とお茶を用意された。
荷物などを置き、柔らかいイスへと体を預けて深く息を吐く。
立派な旅館だし、予約なり紹介なりが必要なのかもしれない。
受け取ったものを初めはただの届け物かと思っていたが、こうして考えてみると紹介状でも書いてくれたのかなと思い始めてきた。
なんだか義理堅そうな感じだったし、宿を紹介するだけじゃと思ったんだろう。
「大変お待たせいたしました」
茶菓子とお茶がなくなってすぐ、仲居さんよりも偉そうな役職だと分かる着物を着たやってきた。
「お部屋のご用意ができましたのでご案内させていただきます。こちらにお名前の方だけお願いします」
「ほいほい」
紙とペンを受け取り、名前を書いている間。中居さんが荷物をカートへと乗せている。
「九石……翠、さま?」
名前を確認したのか、驚いた顔で俺を見ている。
そして何度か名前と顔を行き来させ、荷物にギターがあるのを見つけると本物だと確信したようで。
「あの…………いえ。それではお部屋に案内させていただきます」
握手か、サインか。
求めようとしていたと思うが、プロ根性でそれを押さえ込んだようだ。
案内された部屋は一人で泊まるには広すぎる。
簡単な説明を受けて一人となった今。
窓際にあるイスに座り、素晴らしい景色を見ながら携帯へと手を伸ばす。
「あ、ちっひー?」
『今どこにいるんですかっ!?』
「そんな怒らんといてや」
『みんな心配していますよ!』
きっと俺が想像している心配なんて軽いのだろう。
だけどちっひーたちには悪いが、こういったことが楽しいと思えて仕方ない。
「いま、いいとこの旅館に泊まってるから。まあ数日ゆっくりしたら帰るよ」
『私たちもそっちに行きますから、場所を教えてください!』
「んー、明日になったらね」
『いまですよ!』
「そしたらゆっくり出来んから……」
今から出ても夜にはこっちに着く。
一晩も一人でゆっくり出来ないのは旅に出た意味がない。
『……明日、絶対ですよ』
「大丈夫大丈夫。…………たぶん」
『いま、たぶんって言いませんでした?』
「あー、電波がー!」
『えっ、ちょ話はまだっ──』
どうせ怒られるのだから今更理由が一つ二つ増えたところで変わらない。
とりあえず、限られた時間はゆっくり楽しむとしますか。