ありがとうございます
やっぱり温泉っていいなぁ。
男がいないから貸切状態だ。
「ふぅー」
体を洗い、髪の毛をまとめあげてタオルを巻きつけ、湯に浸かれば。自然と声が出てくるものだろう。
なんだかんだで結構疲れていたみたいで、体の中から疲れが湯に溶け出しているような感じがする。
男が少なくても狭いなんてことはないし、露天風呂まである。
中居さんに聞いた話だと女湯は男湯の倍広さがあるらしいが。まあ、比率的に仕方がないだろう。
日はほとんど沈んでしまったが、まだ完全には沈んでおらず。
そこから見えるグラデーションがとても綺麗であり、空に浮かぶ少し欠けた月が放つ優しい光と相まって一枚の絵のようだ。
「…………ぁ」
そういえば、本来の目的は絵を描くことだったような。
……………………。
…………。
まあ、いっか。
ノープランで決めた旅なんてこんなものだろう。
この景色に合うような曲を今は考えてみるか。
…………『夕映えプレゼント』か『ハルカカナタ』が出てきた。
『ハルカカナタ』はバンドでのイメージが出来るけど、『夕映えプレゼント』はアイドルとして歌ってるとこしか想像がつかない。
楽器を少し変えるしかないか。
部屋に戻ったらバイオリンで試しに弾いてみるのもありかな。
温泉も十分に堪能したし、脱衣所でノンビリしながら髪を乾かしていく。
「…………」
いい加減に面倒くさくなってきたなぁ。
髪乾かすのに割く時間がだるくなってきた。
そろそろ説得して短くさせてもらおうかな。
短くない時間をかけて髪を乾かし、バイオリンと携帯、財布を持ってロビーへと来ている。
あの広い部屋で一人弾いてるのはなんだか寂しく感じたし、誰かに聞いてもらいたい気持ちが少しあった。
もちろん、中居さんに許可は貰っている。
とりあえずということで、昼間に一度弾いた『忘れじの言の葉』にしよう。
弾いている途中、脈絡はないが『longing』が頭に浮かんだ。
うん。好きな曲だし、これも練習用に書き出しとくか。
一曲弾き終え、肩の力を抜くために息を吐いた時に気付いた。
ロビーに人が増えていると。
みんなもやっぱり部屋じゃ寂しいのかな。
なんてことを思いながら、中居さんに紙とペンが買えないか聞いてみる。
明日みんな来るなら、合宿みたいな感じで練習するのもありかなと。
だから楽器を持ってくるように伝えるのを忘れないようにしなければ。あとは俺みたいにどこかで新しい楽器を買ってきてもらうか。
お金いらないからとペンと紙を10枚ほど貰った。
そして貰ってから気付いた。
今までパソコンでやってたから気にしてなかったが、紙だと専用のが必要なのだ。
白紙だと一から自分で線を引かなければならない。
「うーむ……」
「やっぱりお姉さんだ」
「お?」
どうするか悩んでいたら声をかけられたのでそちらを見れば。
昼間に友達となった杏ちゃんではないですか。
「昼間聞いたのが聞こえてきたから」
「なるほど」
立たせているのもアレなので近くのイスに座るようすすめる。
「何か悩んでるみたいだったけど?」
「んー、別にそれほど困ってはないんだけどねー。ちょっと面倒なだけで」
まだ10歳にもなっていないのに聡い子だ。
「まあ、面倒だからやらない事にしたし」
ちっひーにパソコンも持ってきてもらうよう頼んでおかないと。
紙とペンがいらなくなったけど、返すのは後でいいだろう。
もしかしたら何かで使うかもしれないし。
「何か弾くけど、聞いてく?」
「うん!」