あの後は持ってきて欲しいものだけを伝え、また明日と電話を切った。
あのまま場所を伝えていたら、明日の朝起きた時におはようと挨拶される未来が見えた。
いやはや、世の中便利になったものだ。
「…………どこ行く?」
「杏はもう、ここら辺見て回ったよ」
翌日、気づけば杏ちゃんと二人きりになっていた。
朝食の時間がたまたま重なり、一緒にご飯を食べていたのだが。
なんか……流れでこうなった。
俺からしたら普通に見えるが、杏ちゃんとこの夫婦はとても仲が良いらしく。食事中も目の前でずっとイチャイチャしていた。
だからといって杏ちゃんを蔑ろにしているわけではないが。
杏ちゃんたちはもう一泊して明日、帰るそうで。
今日一日だけと、頼まれたのだ。
「寂しい?」
「……いや、あの間に入るのはしばらく良いかな」
「あっはっは」
理由がおかしく、笑ってしまった。
そりゃ、ずっとあの間にいたらうんざりもするわな。
お母さんにずっと絡まれてるような気持ちだろう。あの人、未だ一緒に寝ようと誘ってくるのだから。
「それじゃバスでも電車でも乗って少し離れたところいこうか。そこでぶらぶらと食べ歩きでもしようね」
「バイオリン持ってるってことは、また弾いてくれるの?」
「それはその時の気分だよ。今日一日はその時の気分で全てを決めていこう」
「それは少し、楽しそうだね」
ああ、忘れるところだった。
ちっひーたちに泊まっている旅館を伝えないと。
仲居さんにもちっひーたちが来ることを伝えておかないと、入れてもらえないかもしれない。
少しだけ待ってもらい、用を済ませておく。
これで後は気兼ねなく遊べる。
「どこ行くか決まってるの?」
「いんや。近くのバス停で来たバスに乗って行くよ」
「本当に気ままな旅なんだね」
ほんと、そう思う。
気ままな旅っていう番組作ったら視聴率とれるかな?
自惚れじゃなかったら俺ってだけで取れる気がしないでもないけど。
……ああ、普通に撮れる前提で考えてたわ。
多分無理になるんではないだろうか。
どっかから情報漏れたりでもしたら撮影どころじゃないもんね。
ただ、訪れた場所がそのあと人増えたりして経済回るのは良いと思うんだが……そううまくはいかないんだろうな。
「お、なんか駅に行きそうなバスじゃん」
バス停に着いて話しながら待っていたら、なんとか駅って書かれたバスが来た。
「それじゃ、ぶらっと気ままな旅の始まり始まり」
「カメラでもあったら番組みたいだね」
「……ハンドカメラでも持って来ればよかった」
「撮られてると恥ずかしいよ」
「雰囲気って大事だと思わない? 今、ものすごくハンドカメラが欲しい気分になってきた」
「えぇ……」
杏ちゃんの口から『カメラ』と聞いて思い至った。
ハンドカメラで撮っておいて、常務なりに渡せば後はどうとでもしてくれたやないか。
口ではなんとか言いつつも照れているだけなのは丸わかりだし、どこかで見かけてその時に気が向いたら手に入れよう。
感想はきちんと全部読ませていただいてます!
一度返信追いつかなくてそのまま返してないですが、とても嬉しいです!