入学して一週間もすれば学校で知らない人はいません。
そんな彼──九石翠は皆の注目を集めるほど、魅力的でした。
中学生になり、どんな楽しいことが待っているのだろうかと考えていた私の隣の席が九石くんです。
アルビノという病気だと、自己紹介のときに言っていました。
髪は真っ白で目は赤く、肌は透き通るほど……というよりは病的な白さです。
ですが九石くんの雰囲気がそれらを神秘的に見せ。女性が多いので男性の隣になれるだけ運がいいのですが、彼の隣になれた私は更に運が良かったと思います。
授業でペアを組むときは九石くんだったため、自然と会話をする仲になりました。
仲良くなったクラスメイトたちからも羨ましいとよく言われます。
残念ながら体育は参加できないとのことですが、授業中にふと見る彼の横顔は……その、とてもいいオカズになりました。
伸ばした髪を搔き上げる姿や、ちらつくうなじ。髪が揺れたときにフワリと香ってくる匂い。
加えて他の男性と違い、女性と接する事に忌避感がないのか、とても自然な表情を見せてくれます。
だから私が彼とくっつき、あんなことやこんなことをする妄想をしても不思議ではありません。
こんな話は男性のいる場所ではできないので、友達の家で遊んでいる時や泊まった時などに話しています。
クラスメイトだけじゃなく、他のクラスの子や先輩たちまで九石くんで捗っていると聞いたときは隣の席であることに優越感を覚えました。
中間テストが終わり、ついにきてしまった席替えがあったのですが、また九石くんと隣になり。もう少し踏み込んでみたいなと考え始めた頃。
彼の元に他のクラスの女子がよく来るようになりました。
たまに聞こえてくる話をまとめると、彼女は中間テストで二位だった千川さんらしく。オール満点を取った九石くんに分からないところを聞きにきているらしい。
気づけば千川さんは九石くんと一緒にお昼を食べるまでになっていた。
私は隣の席で満足しているだけじゃなく、千川さんみたいに勉強や他の口実を作ってもっと接点を持つべきだったのだ。
そうすれば九石くんと一緒にお昼を食べているのは私だったのに。
…………。
でも、やっぱり横から見てるだけでもいいと思ってしまう。
一応、千川さんにあやかって私も九石くんに勉強の質問をし始めると、クラスメイトのほぼ全員が後に続いた。
夏が近づくにつれて暑くなり、九石くんの汗を舐めたいな。など考えながら修学旅行でもっと近づこうと思っていたけど、彼は参加できないらしく。
お土産としてお菓子の詰め合わせを渡したら、今まで見たことのない笑顔を浮かべながら手を握ってくれた。
その日がいつもより激しくなったのは言うまでもない。
二学期、三学期と席替えをしても私はずっと彼の隣だった。
いつからか千川さんと九石くんが互いに名前とあだ名で呼び合っていたけど、私は不思議と落ち着いていた。
二年生になっても私は彼と隣の席だった。
そして彼の周りに日草さんが加わったけど、羨ましいなと思っただけ。
たぶん、私と彼の距離感はずっとこのままなのだろう。
でも、不思議とこの距離感が心地よかった。
二年生の時も体育祭、学園祭、修学旅行と参加できないらしく。
また、彼にお土産を買ってきて渡し、素敵な笑顔をもらう。
三年生になっても私と彼は同じクラスで隣の席だった。
ここまできたら運命的なものを感じるけど、また同じだね、と言葉を交わして笑い合うだけ。
大きく変わったことといえば、九石くんに勉強の質問をしすぎる人が増えたから纏めて説明されるようになったこと。
個別の質問は無くなってしまったけれど、ふとした時に話す関係は変わらないまま。
勉強の準備を三人でやっていて大変そうだったけど、私には手伝えそうになかった。
夏休みが終わると、今度は一年生と二年生の分も見なきゃと愚痴を言っていた。
私は三人に飲み物を奢ってあげた。
大きく手伝えることはないけれど、少しは気分転換になってくれたらいいな。
卒業の日。
式が終わり、皆はすでに教室を出ていって後輩や先生たちと校庭で騒いでいるが、私は少しだけ教室に残り、自分の席に座って教室を眺めていた。
「あれ? まだ残ってたの?」
そう言って教室に入ってきたのは九石くんだった。
聞けばトイレに行っていたらしいとのこと。
彼も自分の席──私の隣に座って教室を見回していた。
その姿は入学した時よりも神秘的に見え。
私はなんとなく、理解した。
九石くんといい関係になりたいのは事実だけど、きっとそうなることはないだろう。
だけど私は満足している。
そうなることはないだろうけど、この関係はずっと続いていく気がして。
こうして二人きりで過ごせた時間ができただけでも十分だ。
「うし、そろそろ皆がいるところに行こうか」
もう少し一緒にいたかったけれど、これ以上遅くなれば友達が心配してしまう。
彼に続いて私も立ち上がり、教室を後にする。
友達に遅かったねと言われたけど、笑って誤魔化しておいた。
周りを見回せば、千川さんと日草さんは多くの人に囲まれて話していたけど、九石くんは日傘をさして一人立っていた。
その姿は何度も思う通り、やっぱり神秘的で。
だからだろうか。
皆、九石くんに話しかけたいんだろうけど、その一歩を踏み出せないでいる。
それを見て、さっきまで二人で過ごしてた時間を思い返し、笑みが溢れる。
高校の入学式が終わり、クラス分けされた教室に向かう。
自分の席に座って少し経つと彼が入ってくる。そして張り出されてる紙を見て自分の席を確認し、私の方へ向かってくる。
九石くんも私に気づいたようで、微笑んで手を振ってくれた。
だから私も手を振って声をかける。
「また三年間、よろしくね」
こんかいはとあるモブ少女の話です
本当はもう少し、逆転世界について書ければよかったのですが、普通の恋愛小説感になったのは何故でしょう
モブ少女
中学三年間、ずっと翠の隣の席という幸運の持ち主
高校もきっとそうなる