やはり無理な話だったか…
まだ昼の時間より早いけども、俺が暑さでグロッキーなのでオサレなカフェで休憩ということになった。
このまま軽い軽食も取り、オヤツを食べればいいだろうという話に。
「テラス席、結構涼しくていいのな」
「まさか作るとか言いませんよね?」
「流石にそこまではちょっと……」
いったい俺のことをなんだと思っているんだか。
「それにしても私たち、結構見られてね?」
「確かにな。翠の女装は問題ないはずだが……」
「何故でしょうね?」
ちっひーたちも有名人である。
一緒に歩いていたら女装していようが何だろうが、髪ですぐバレるために変装しているのだが、確かに視線を集めている気がする。
「店も混んできましたね」
「本来ならこのくらいから人が増えるのだろう。昼時だとどこも混むからな」
何が原因で視線を集めているのか分からない以上、どうすることもできないため。
気にしないで楽しむ事にした。
「それ、美味そうじゃん。少し頂戴よ」
「少しって言って半分持ってくなっつーに! 私が移すから!」
「これ、美味しいな」
「本当ですか? 少し貰っても?」
「いいぞ。私にもそれを少し分けてくれ」
各々仲良く、それはもう仲良くお互いのものを交換しながら食べ勧めていたのだが。
「おっ?」
「どうかしたのか?」
「あの子、迷子でね?」
俺が指差した所には銀髪の小さな女の子が一人で立っており、キョロキョロと周りを見回していた。
腰まで伸びた銀髪のストレートで、白いフリルの服がとても似合っている。
ジッとその子を見ていると、目が合った。
手を振ったあとにおいでー、と手を動かせば、トコトコと可愛らしくやってくる。
「お嬢ちゃん、迷子かな?」
「うん……お母さんとはぐれちゃった」
「それじゃ、動かないでジッとしてたほうがいいね。何か食べる?」
イスを貰って女の子を座らせ、メニュー表を渡す。
デザートのページをキラキラとした目で見ているのはなんとも可愛らしい。
「これ!」
女の子が選んだ苺のパンケーキとジュース、紅茶のお代わりを頼み、それが出来上がるまでの間に色々と聞いていく。
なんでも母親と来ていたところ、俺らを見ている間に逸れたとのこと。
この様子だと居なくなったこの子を探しにすぐ戻ってくるだろう。
「蘭子!」
「あ、おかーさん!」
とか考えていたら、頼んだものがくる前に無事会えたようだ。
まあでも、せっかく頼んだのだしお母さんにも座ってゆっくりしてもらおう。
お母さんは女の子──蘭子に何か言おうとしていたが、ちょうど来たパンケーキを見て満面の笑みを浮かべる姿を見て困ったような、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「おにーちゃん、ありがとう!」
「うん……うん?」
代金は払うと言ってくれたが、こっちで全部払った。
俺とお母さんとで言ってる間にちっひーをレジに向かわせたのだ。
こういったのは払ったもん勝ちである。
だから蘭子からお礼を貰ったのだが、おねーちゃんでなく、おにーちゃん?
「よく分かったね?」
「私、おにーちゃんの歌大好き!」
「何これめっちゃ可愛い」
「気持ちは分かるけど連れ帰るなよ?」
流石にそこら辺の分別はできていますよ。
あれだろ? 熊本に引っ越せばいいんだろ?
そんな半分の冗談は置いといて。
別れる前に何かプレゼントでもと思ったのだが。
あっ、そうだ。
「ちょっと後ろごめんよー」
女装するとき、ツインテにしようと思っていたが二つ結ぶのが面倒になり、結局ポニテにしたのだが。
その際、余ったシュシュを手につけていた。
それを使って蘭子を俺と同じ髪型に揃える。
「おそろいだ!」
「いえーい」
「いえーい!」
心から鏡を借りて蘭子に見せれば、お揃いだと喜んでくれる。
だが残念なことにそろそろお別れの時間となってしまったようで。
「うう……蘭子……」
「彼女の方が元気に手を振っているぞ」
「うるさい……熊本引っ越す……」
「そんな事聞いたらお義母さん発狂しそうですね」
「連絡先交換したんだし、また会えばいいじゃん」
くそう……心から励まされるとムカつくぞ。
「それで次はどこに行きますか?」
「しばらく服見てなかったから、どこかで見たいねぇ」
「男物の服見てたらバレるんじゃないか?」
「あー、そっか。んじゃ、ちっひーたちの服見るか」
みんなは俺が行くとこに付いてくる感じらしいので特に反対もなく、行き先は決まった。
よく女子だけで買い物に行っているし、なかなか外に出れない俺に気を使っているのだろう。
まあ、アルビノのせいで出れないのではなく、ちっひーたちによって出れないのだが。
俺もいい年なのだから一人で出歩かせてくれてもいいと思う。
特に何か酷いことをした覚えはないし、過保護が過ぎるというかなんというか。