貞操観念逆転ガールズ   作:不思議ちゃん

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断じてロリでコンではない

 案の定、旅館に戻ってすぐ。土産を置いたら二人が部屋まできてお説教が始まった。

 

「それで、どういうわけだ?」

「どういうわけって聞かれても……」

「まさか翠くんが二次元にしか存在しない、ビッチという分類だったとは……」

「たかだか小学生のキスだぞ? 犬猫に舐められたものじゃん」

 

 二人は俺の顔を見た後、深いため息をつく。

 なぜ、そんな反応をされなくてはいけないのか。

 それよりも勉強しかしてこなかったちっひーが二次元、とな? しかも話し振りから同人誌にも手を出していそうだ。

 反応しない奈緒も知っているのだろう。

 

「小学生だろうと女であることに変わらん! お前はもう少し意識すべきだ」

「そうです!」

「…………ふむ」

 

 貞操観念が逆転していることを、よく忘れそうになる。

 ちっひーと奈緒はもう少し意識を持てと言うのだが。

 

「きゃー、男一人に対して女二人で迫ってくるなんてー。逃げられないようにして何されるのー。こわーい」

「……いや、確かにそうなんだが」

「そう言われると、今更な……」

 

 自分の体を守るようにする演技までする必要はなかったか。

 痛いところを突かれたらしいちっひーと奈緒は『むむむ』といった表情をしている。

 

「そうなんだよ。俺に対して何か言うなんて今更なん。……もしかして、俺の初めて取られて嫉妬してる?」

 

 からかうつもりで言ったのだが、二人は顔を赤くして黙ってしまい。気まずくなったのか、踵を返して自分たちの部屋へと戻っていく。

 俺としては鼻で笑われるぐらいならあると思ったんだが。

 二人も今ので意識し始めたら、なんだか面倒なことになりそうだな。

 

 まあ、一晩経てばなんとかなるか。

 

 さすがに夕食を食べている時はそれほど時間が経っていなかったため、少し話しにくい雰囲気ではあったが。

 

 

 

 

 

 八ッ橋は旅館の人に話してみたら家まで送ってくれるらしく。それを頼んだから荷物が少なくて済む。

 一晩明け。朝食のときにはまだ少し変な雰囲気だったが、いくつか店を見て回った後は普段通りになっていた。

 

「ああ、やはり和菓子は最高だ。碧にも作ってもらえるよう頑張ってもらわねば」

「自分で作ろうとは思わないのか?」

「作れなくはないけど、やっぱり人に作ってもらった方が美味しいやん」

「翠くんが料理してるところを見たことないですけど」

「んー、それなら今度、何か作る?」

「機会があればな」

 

 今日も食べ歩きを満喫している。

 伏見稲荷とか、鹿苑寺とかも行きたいとは思っているが、雰囲気を楽しみながら食べ歩きしているだけでも結構満足だ。

 家から離れるだけでこれほど解放されるとは。

 

「あっ! おにーさん!」

「お? 周子ちゃん」

 

 呼ばれて振り向けば周子ちゃんと、もう一人女の子がいた。

 気づけば周子ちゃんのお店の近くだな。

 

「昨日は怒られなかった?」

「少し怒られたけど大丈夫!」

「そかそか。そっちの子は?」

 

 人見知りなのか、周子ちゃんの後ろにいて服をキュッと掴んでいる。可愛い。

 

「ほら、自己紹介」

「ぁ、……ぅぅ」

 

 背中を押されて前に出てきた女の子は恥ずかしそうにもじもじと指をいじっていたが、周子ちゃんに励まされたようで。

 

「う、うち……小早川紗枝、いいます。……あの、どうぞよろしゅう……」

「紗枝ちゃんだね。俺は九石翠。こっちがちひろで、こっちが奈緒」

「翠、にーさん……ウサギさんみたい……」

 

 ウサギみたいな見た目だなとたまに思っていたが、人から言われるのは初めてだ。

 恐る恐る伸ばされた手を拒まないでいたら、紗枝ちゃんは俺の頬をムニムニといじってニヘラと笑みを浮かべるので、俺もお返しに頬をいじる。

 ああ、やわっこくて可愛いんじゃ……。

 

「おにーさんたち、昨日初めてあったけど地元の人?」

「私たちは東京です。翠くんのわがままで京都に観光で来てます」

「なら、案内してあげよっか?」

「ここら辺、詳しいのか?」

「よく遊びまわってるから!」

 

 俺の横で三人が何やら話してるので頬の弄り合いを切り上げ、紗枝ちゃんと手を繋いでそちらに加わる。

 

「お母さんに出かけてくること言わなくて平気?」

「すぐそこだから、紗枝ちゃんも一緒だって伝えてくる!」

 

 走って行った周子ちゃんが戻ってくると、紙袋を持っていた。

 

「これ、お母さんが!」

「気にしなくていいのに」

 

 中にはお菓子と何か書かれた付箋が貼ってあった。

 

『周子と紗枝ちゃんをよろしくお願いします』

 

 案内してもらうのはこちらなのだから、感謝するのは俺らだと思うのに。

 このお菓子は皆で食べるか。

 

「ここの通りは地元の人しか知らないんだよ」

 

 和を感じるつくりになっている道を歩いているが、周子ちゃんの言う通り、人がいない。

 美味しいお店に案内を頼んだら、この道が近道なのだとか。

 食べ歩きをしていたけど、お昼はまた別腹だ。

 

 

 

 

 

「二人とも、今日はありがとね」

「あたしも楽しかった!」

 

 空がオレンジに染まり、周子ちゃんの店の前に戻ってきた。

 昨日のことを警戒してか、俺のそばにちっひーと奈緒がいる。

 

 周子ちゃんと紗枝ちゃんの手には買ってあげたお菓子が。

 穴場などを教えてもらったお礼として買ってあげた。また旅館の人に頼んで家に送らなければ。

 

「紗枝ちゃんも楽しかった?」

「うん。翠にーさん、また遊ぼ?」

「んー、明日は雨って予報だったよね?」

 

 昼食べた時、テレビで天気予報をやっていたのだが、明日は朝から雨らしい。

 ちっひーと奈緒も頷いているし、俺の見間違いとかじゃなくよかった。

 雨の日は引きこもるに限る。なので。

 

「二人とも、明日は俺たちが泊まってる旅館に遊びおいで。あそこに泊まってるから」

「わかった!」

「うん」

「……二人とも、宿題はきちんと終わらせてるよね?」

 

 ふと、思ったことをそのまま口にすると、周子ちゃんはさっと目をそらした。反対に紗枝ちゃんは首を縦に振っている。

 昨日今日と過ごして、周子ちゃんはどこか俺と似た感じがしたと思ったが……やはりか。

 

「二人とも、俺たちが宿題見てあげるから、明日は宿題持っておいで」

「え…………」

「それが終わってから、たくさん遊ぼうか」

 

 裏切られたみたいな表情をする周子ちゃんに思わず笑ってしまうが、やる事やらずに遊ぶのはいただけない。

 手を振って二人と別れ、旅館へと戻って行く。

 

 ああ、旅館の人たちに昼飯を二人追加してもらう事を頼まないと。




九石翠
花より団子。美味しいものが正義

千川ちひろ 日草奈緒
少し意識してしまった

塩見周子
美味しいものたくさん食べられて幸せ

小早川紗枝
ウサギのにーさん、優しくて好き

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