リアムは学園敷地内にある、学生会館の多目的ホールにいた。
入学式が終了すると、新入生達はここに集められ新入生歓迎のパーティーが開かれた。
見れば新入生以外にも有志で参加した先輩達もいる為大変賑わっていた。
「なぁリアム!この飯すげぇうめぇな!」
「カッシュ食い過ぎだ」
「あはは、カッシュはたくさん食べるんだね」
「セシル! この薄くスライスされたビーフ! 食べてみろよ!世界が変わるぞ!」
リアムはすぐに二人の男子生徒と仲良くなり三人共に行動していた。
一人はカッシュ=ウィンガー。不思議な愛嬌のある大柄の少年だ。もう一人がセシル=クレイトン。まるで少女のような茶髪の少年である。
その時突然リアムが食事の手を止める。
「ん? どうした…?」
「可愛い子が集まってる! しかも二組のテーブル…クラスメートみたいだ! これは行くしかない!」
カッシュがリアムとセシルの手を取り談笑している少女達の元へと向かった。
「いつか必ず貴女を越えてみせますわっ! 貴女をわたくしの好敵手と認めてさしあげますわっ!」
ツインテールの少女が涙目で地団駄を踏む横で、一人の少女は穏やかな微笑を浮かべ、銀髪と金髪の少女、そして小柄の眼鏡の少女が困ったように笑っている。
「おっと、ちょっといいかな? そこの可愛い子ちゃん達!」
そこにカッシュがリアムとセシルを伴ってやって来た。
「っと、まずは自己紹介だな! 俺、カッシュ=ウィンガー。で、こっちが、この学院で最初に俺の友達になったセシルだ!」
「あはは、セシル=クレイトンです。よろしくね、皆」
「あ、こちらこそよろしく! 私はシスティーナ。こっちが、ウェンディとテレサ。この眼鏡の子がリンよ。それに───…って、あれ?」
男子生徒二人の愛想が良い挨拶に、システィーナも名乗り返すが……
「あれ? ルミアは……?」
「ルミアさんならあちらですわ」
テレサが見た方にはリアムとルミアが居て二人で何やら話していた。
「ん、あの人はカッシュ達といた…」
「あぁ、あいつは───」
「リアム君はなんで魔術師になろうと思ったの?」
ルミアはリアムとの話に花を咲かせていた。
「あぁ、兄貴に憧れたんだ」
「へぇ! お兄さんがいるんだ! お兄さんはなにか職業に?」
「帝国宮廷魔導士って言って…まぁ軍の魔術師なんだ」
「凄いね! じゃあリアム君も帝国軍に?」
「まぁ、そうかな。ルミアはどうして魔術師に?」
「私はね───」
リアムとルミアは共に容姿端麗である。そんな二人にお近付きになろうと男子生徒や女子生徒が二人の事を見ていたが何にせよ相手はルミアにリアムときている。適うはずもなく肩を落としていた。
そんなことは露知らず二人の話はどんどん盛り上がっていった。
盛り上がる生徒達から離れた会場の端で三人の男女が立っていた。
その姿は異彩を放っていたが魔術によって会場の者は誰一人としてその姿には気が付かなかった。
「なぁアルベルト。お前何見てんだ?」
突然一人の男が声を発する。
話しかけられたアルベルトは右目でどこかを見据えたまま、左目では遠見の魔術を起動している。
アルベルトは鬱陶しそうにその声に応えた。
「護衛対象の監視だ」
「いや、そっちは分かってるよ…」
グレンは先程までアルベルトが見ていた先を確認して何か納得したような顔になる。
不快感を覚えたアルベルトがグレンに話し掛ける。
「なんだ」
グレンの顔がたちまち憎たらしいにやけた表情に変わる。
「いやぁあ、まさかアルベルト君にこんな趣味があったとはなぁああ!?」
「?」
グレンが見ている先にはルミアがいる。
「いや確かにあの娘はすげぇ可愛いが。まさかアルベルトにそんな趣味が…」
「なにを言っている。黙れ」
アルベルトがグレンを睨むがグレンは気にせず話し続ける。
「爺の事をさんざん言いながらも実は自分にはこんな趣味があったなんて───」
アルベルトがさらに鋭くグレンを睨むが構わずグレンは話し続ける。
「ちょっと、グレン君!」
もう一人いた白髪の美女がグレンを止めにかかる。それでもグレンは止まらない。
「おいセラ! この情報、イヴの野郎に売ってやろうぜ! あいつもさぞ面白がるだろうよ!」
アルベルトが小さくため息をつく。
「……忠告はしたぞ」
「いやぁ、まさかアルベルトがロ───」
「《万物を凌駕する雷神よ・その腕に宿りし迅雷以て───………》」
アルベルトがグレンに向かって左腕を突き出し魔術の詠唱を開始する。
グレンは即座に黙り一気に青ざめる。
「おまっ! それ、プラズマカノンじゃねーか!? こんなとこでそれはヤバイだろ!?」
「安心しろ。外さん」
「いや外せよ!? 外しても駄目だけど!?」
「あ、アルベルト君! さすがに…」
「安心しろ、サラ。流石に殺さん。軽く半殺しにするだけだ」
グレンが飛び上がると華麗なムーンサルト土下座をアルベルトに決める。
「お、お助けを───!」
じめんに這いつくばったグレンの姿を暫く見た後アルベルトが左腕を下ろす。
アルベルトが左腕を下ろした瞬間即座にグレンは立ち上がり再びふざけた顔をして───
「いやぁあ…まさかアルベルトがロリコンとはなあ」
グレンに反省の色は全く見えない。
アルベルトがグレンに向かって指を突き出す。
「《しね》」
アルベルトの左指から電撃が放たれグレンを捉える。
「ぎゃぁあああああああああ───!!」
「お、お前…【ライトニング・ピアス】なんて…軍用魔術だぞ…」
「安心しろ。威力は抑えた。【ショック・ボルト】みたいなもんだ。だが…」
アルベルトが放った【ライトニング・ピアス】は威力が格段に抑えられており【ショック・ボルト】とほとんど変わらなかった、
「次は本気で打ち込む。それが嫌なら護衛対象の近くを見張りに行け」
「はぃいいいいい!!」
黒焦げになったグレンは目にも留まらぬ早さで走り去っていった。
グレンが去った後セラがアルベルトに話しかけた。
「アルベルト君が見てたのって男の子の方だよね?」
「……」
「もしかして弟君とか? 髪の色似てるし! 」
しかしすぐにないか。と、セラが笑う。
「…………そうだ。義理だがな」
「……え?」
期待してなかった返事が返ってきてさらにはその返ってきた返事が予想だにしないものだった事でセラが驚く。
「へぇ──! アルベルト君に弟君がいたんだね…! そう…あの子が──」
「グレンには言うなよ」
分かってる。と、セラが微笑んだ。
そして二人はその場を後にした。
やがて楽しかったパーティーは終わりを告げる。
時分はすっかり、夕暮れ時だ。
生徒達は別れを惜しみながら解散す流れとなった。
「じゃあな、リアム! 明日からよろしくな!」
「じゃあね! リアム君!」
「あぁ、また明日」
リアムはカッシュ、セシルと別れを告げる。
リアムは学院の中へと戻って行った。
(システィーナを見ていた女の目…何かやりそうだな)
(システィーナは大丈夫だろうが……ルミアは…)
リアムの歩く足はだんだんと早くなり、やがてリアムは駆け出していた。
学院校舎本館の中庭───
ルミアと三人の女子生徒の姿があった。
仲良く話している様には到底見えなかった。
二人の女子生徒は背後からガッチリとルミアを拘束していた。
「先輩方は何でこんなことを!?」
ルミアの問にリーダー格の女が答える。
「目障りなのよね。システィーナとかいう新入生。少し魔術が使えるからって調子乗って」
「……ッ!? 」
「だから貴女には人質になってもらうわ。安心して。今からあの新入生を連れてくるわ。貴女には危害は加えないわ。貴女には…ね」
「システィに……何をする気なんですか」
「ただの『指導』よ。先輩として…ね?」
「……!」
睨みつけてくるルミアを無視しリーダー格の女が振り返りその場を去ろうとした時───
「きゃああああ───ッ!?」
女子生徒の声がその場に響いた。
リーダー格の女が驚き振り返るとそこには倒れた2人の女子生徒がいた。そして先程まではいなかった一人の男が立っていた───
「!?」
「ただの【ショック・ボルト】ですよ」
ルミアを助け出したリアムの姿がそこにはあった。
リアムの事をリーダー格の女が睨みつける。
「ふふっ…ピンチに駆けつけた王子様ってわけ」
「そんな柄じゃないんですけどね… それにしてもこの学院にもこんなくだらない人がいるんすね」
リアムが挑発的な言葉を投げかける。
だが、リーダー格の女は余裕の表情で答える。
「あらあら、たかが不意打ちで上手くいっただけで調子に乗らない事ね。新入生。私の名前はカレン=ナーシャ。いいわ。貴女にも特別に指導してあげるわ」
「リアム君! 逃げて! 先輩と正面から戦って勝てるわけない! 私のことはいいから!」
「安心しろルミア。大丈夫だ」
リアムはルミアを安心させるように目配せする。
そのリアムの目はとても頼もしいものだった。
カレンがリアムに向かって右手を突き出すと
「大した自信ね。さぁ、いつでもどうぞ? 王子様?」
カレンがリアムに先行を促す。
「じゃ、行きますよ、先輩」
カレンは余裕であった。
それもそうだ。
自分は二年次生の中でも実力はトップクラス。ましてや相手は新入生だ。
その実力差は言うまでもない。
この新入生は【ショック・ボルト】が使えるようだが、所詮は新入生の三節詠唱だ。
一節詠唱ができる自分が負ける筈がない。
そうカレンは思っていた。
「《雷精の紫電よ》」
しかしリアムは一節詠唱で【ショック・ボルト】を唱えていた。
驚いたカレンが咄嗟に魔術を唱えようとするが当然間に合うはずもなく…
「ああああああああ!?」
リアムの左手から放たれた紫電はカレンを捉えた。
紫電はバチバチと音を立てて、カレンの全身を這い回りら蹂躙して一瞬にしてカレン視界を暗闇へと変えた。
カレンはその威力のあまり気絶していた。
「リアム君…!」
ルミアがリアムの元へとすぐに向かう。
「助けてくれて…ありがとう」
「当然のことをしたまでだよ」
そこへ一人の少女が駆けつけてきた。
「ルミア───ッ!」
「システィ…」
「急にいなくなって…もう心配したんだから! ってなにこれ…」
システィーナが目にしたのは倒れて気絶した三人の上級生の姿であった。
周囲を一通り見渡すとシスティーナはようやくリアムの存在に気がつく。
「貴方…たしか…」
「リアム=ロディウスだ。改めてよろしく、システィーナ」
まるで状況が分からないシスティーナ。
そこにルミアが割って入った。
「リアム君が助けてくれたんだよ!」
「えっ? どういう…」
再びシスティーナは周りを見渡す。
そして状況を察すると…
「ルミアを助けてくれて、ありがとう。リアム。そしてこれからよろしくね」
「あぁ、よろしく」
そんな中庭に面した、学院校舎の屋上にて。
「……………」
帝国宮廷魔導士団の黒い魔導士礼服に見を包んだ青年と女が、そこにはいた。
「……かっこよかったね? 弟君! まさに白馬の王子様って感じだったね!」
アルベルトにセラが話しかける。
「ふん………」
そこに屋上のドアが開いてグレンがだらだらと歩いてきた。
「ちっ…面倒な後始末押し付けやがって……おーいアルベルトー、終わったぞ」
「大臣の護衛任務は終了だな。では予定通り、次の任務へと従事するぞ」
「ジャティス君の捜索……だよね」
「あんなイカレ野郎。どっかでくたばってればいいんだけどなあ」
「これは任務だ。集中しろ」
「……ちっ……お前も相変わらずいけ好かねぇ野郎だぜ」
「あはは、二人とも、仲良く仲良く」
喧嘩腰になるアルベルトとグレンをセラが取り持ち宥める。
三人は、学院校舎屋上を後にした。