脳筋の美少女がやって来ます。
脳筋美少女転校生がやって来た
フェジテの街中を歩く二人の少女が居た。
ルミアとシスティーナだ。
学院へ続く歩道を今日も二人仲良く歩く。学院に到着するまで今までは二人きりの時間だった。
そう今までは…
毎日通る広場の噴水の前に今では見慣れた二人の人物が待ち構えていた。
「おはよう! リアム君!」
「今日も遅刻してないですね。先生」
「ルミア、システィーナおはよう」
「……おはよう。お二人さん…はぁ…」
リアムとグレンの二人である。
魔術競技祭の一件以降グレンとリアムは護衛の為にルミアとシスティーナの二人と共に登下校をするようになった。
ルミアが『天の知恵研究』に本格的に狙われていると分かったためリアムも護衛の警戒度を上げ、グレンも今まで以上に干渉するようになった。
「はぁ…」
グレンが大きな溜息をつく。
ルミアとシスティーナが不審に思いグレンに話しかけるがグレンは何でもないと言う。
だがグレンの目は明らかに死んでいる。死んで三日たった以前のグレンのような目だ。
リアムにはグレンがため息をつく理由に心当たりがない事は無い。
今日から護衛の為に特務分室から新たに一人派遣されるという事をリアムはイヴから聞かされていたのだ。
恐らく。そのことであろう。だが、それでため息をつくのはおかしい。
生徒として送られるのだから《法皇》のクリストフでほぼ間違いない。
教師だったら兄のアルベルトなども候補だったが生徒として違和感が無いのはクリストフぐらいだ。
クリストフの結界術は護衛において相当心強い。またクリストフはコミュニケーション能力も高い為学院にもすぐ馴染むだろう。
なのに何故グレンはこんなに落ち込んでいるのか全くわからなかった。
「何か…嫌な予感がする」
その後、他愛のない会話を交えながら学院の正門へと続く上り坂の麓に差し掛かった時グレンが気に病む正体がリアムにははっきり分かった。
「あ…」
リアムがルミアとシスティーナを連れてその場をさっと離れる。
「? リアム君…?」
「ちょっと? どうしたのよ? リアム」
「危ないから離れとけ」
「「危ない…??」」
ルミアとシスティーナは何が危ないのか全く理解出来ず二人は顔を見合わせる。
すると突然、上り坂の麓に佇んでいた小柄な少女が側の大剣を手に取ると、地を蹴り弾丸にように飛び込んでくる。
「おはよう。グレン」
淡々と告げられる言葉とは裏腹に少女は大剣をグレンへと力一杯振り下ろしていた。
それをグレンが白刃取りによって防ぐ。
カタカタカタとグレンは震えている。
「新たな護衛ってクリストフ先輩だと思ってましたよ。俺」
リアムが白刃取りに成功しているグレンに離れた位置から話しかける。
「俺もそうだろうなと思ってたよ……でも何でお前なんだよぉおおおおおおおお!?リィエルぅううううううう───ッ!!」
グレンは、リィエルの剣を奪い取ると剣を放り投げる。
ああーとリィエルがトコトコと剣を追いかける。その姿はまるで小動物だ。
「リィエル!? 何のつもりだこれ!?」
「挨拶」
リィエルは剣を拾いグレンに振り返ると淡々と答える。
「確かにおはようって言ってたな……て
違うわぁあああああああ! 何でもれなく大剣で斬りかかってきてんの!? そのオマケは何なの!?」
「でもアルベルトが久々に会う戦友に対する挨拶はこうだって」
リィエルが再び剣を構える。
「んなわけあるかッ!? アイツ何やってくれてんだッ!? おい、リアム! てめぇの兄貴どうなってんだよ!! て、何構えてんだよ!? 剣をしまえ!剣を!!」
「いや、俺に言われても…」
「わかった」
リィエルがその時ようやくリアムに気付く。
「あ、リアム。アルベルトがこれ渡してくれって」
思い出したかのようにリィエルが小さな石をリアムへと渡す。
それはグレンがセリカとの連絡にも使っている通信用の魔導器だった。
「あー通信用の魔導器か」
「あと伝言が」
「伝言? なんだって?」
「んー。忘れた」
「おいおい…」
リアムが魔導器を見ると紙が括りつけられていた。リアムが少しその場から離れその紙を確認するとリィエルが忘れることを見越してアルベルトからの伝言が書かれていた。
『今後何かがあればこの魔導器より連絡する。それとリィエルは任せた』
(なるほど。兄貴はリィエルという帝国軍が誇る一緒に仕事をしたくない同僚ランキング万年一位の超厄介物件を俺に押し付けてきたわけか…はぁ…)
リアムがため息をつきながらリィエルの方を見るとリィエルはルミア、システィーナとそれぞれ自己紹介をしているようだった。
(まぁ…頑張るか)
リアムは覚悟を決め皆の元へ戻っていくのだった。
※※※
二組の教室は今沸き立っていた。
転校生としてたった今リィエルが紹介されたのだ。
リィエルは見た目だけは美少女だ。
人気が出るのも頷ける。だがあくまで見た目だ。
リィエルがシスティーナと同じような外見だけの残念美少女とは知る由もない男子生徒の間では早速新たな派閥が生まれようとしていた。
現在二組の主な派閥はルミア派、ウェンディ派だが、それに加え最大勢力を誇る二組の男子生徒ほぼ全員が兼任で所属するリアム爆発しろ派がある。
そして今ここにリィエル派が新たに誕生しようとしている。
リアム爆発しろ派のみに所属している生徒達が続々とリィエル派との兼任を決めているようだ。
「おい、リィエル。自己紹介しろ」
「ん。わかった」
生徒全員がリィエルに注目する。クラスの生徒全員に注目される中、リィエルが放った第一声は…
「リィエル=レイフォード」
クラスに沈黙の時間が流れる。
「いや、名前はさっき紹介しただろ…何か他にだな…とりあえず特技とか言えばいい」
「わかった。帝国軍が一翼、帝国宮廷魔導士団、特務───」
「だぁああああああああ──ッ!? 何言ってくれちゃってんのぉおおおおお───!?」
グレンがリィエルを首根っこを掴んで引き摺りながら慌てて教室の外へと出る。
「あの…バカ…」
流石のリアムもリィエルがここまでべらべら話そうとするとは思わず頭を抱えていた。
リィエルは護衛任務をなんだと思っているのか、と。
潜入している者が潜入してますと宣言することなど普通に考えて有り得ない。
他の生徒は何が何だか分からず騒いでいる。
「なぁさっき帝国軍とか言ってなかったか?」
「俺もそう聞こえた…」
「リアムもそう聞こえたよな?」
カッシュがリアムにそう言ってくるがリアムは当然肯定せず
「気のせい…じゃねーかな。ははは」
しばらくしてグレンとリィエルが戻ってくると再びリィエルが自己紹介を始める。
「私は、将来、帝国軍へとの入隊を目指し、魔術を学ぶためにこの学院にやってきたらしい、出身は……ええとイテ?」
「イテリア地方な」
「そうイテリア地方……? 年齢は多分、十五。趣味はなんだっけ?」
「読書な」
「そう読書。特技は───」
リィエルとグレンによる漫才のようなやり取りが繰り広げられ生徒達は困惑していた。
自分達は一体何を見せられているのか、と。
やがてグレンたち二人の漫才のようなやり取りも終わり質問タイムになる。
様々な質問が飛びそれにリィエルが答えていると
「リィエルちゃんとグレン先生って仲良さそうだけどどんな関係なんですか?」
カッシュからの質問が飛んだ。
これはクラス全員が聞きたかったことだ。誰が見てもグレンとリィエルは初対面ではない。
「あー、俺とリィエルの関係はな───」
元同僚などとは言えるはずもなくグレンが何とか切り抜ける手段を考えるがリィエルがグレンが考えているうちに宣言した。
「グレンは私の全て。私はグレンのために生きると決めた」
その言葉に教室内は沈黙。
そしてやがて…
「きゃぁああああああ──ッ! 大胆〜ッ! 情熱的〜ッ!」
「禁断の関係! 先生と生徒の禁断の関係よ〜ッ!」
「もう失恋だぁあああああああああ──ッ!?」
「表に出ろやぁあああああああ──!!」
もう生徒それぞれが言いたい放題の大騒ぎとなる。
「何言ってくれちゃってんのぉおおおおおお!?」
グレンがリィエルの頬を引っ張り上下にシェイクする。
しかしその行動が火に油を注ぐことになる。
「なにイチャイチャしてんだ、こらぁあああああああ─ッ!!」
「リィエルちゃんに触るんじゃねぇえええええ──ッ!!」
さらに関係が疑われることになってしまった。
(うぉおおおおお!? やっちまったぁああああああ! これじゃリアム爆発しろ派に続いて新たにグレン爆発しろ派が生まれちまうぞ…それはヤバい…ヤバすぎる………ん、まてよ?)
この状況を打開する秘策を思いついたグレンがリィエルに耳打ちをする。
「リアムは私と愛し合ってる? 私達は将来を誓いあった仲」
リィエルの言葉にクラス全員が反応する。
「ぶっふぉ!!」
リアムが吹き出す。
「リアムてめぇえええええええええ!!!」
「ルミアちゃんだけじゃなくリィエルちゃんにまで手を出しやがったのかぁあああああああ!!」
「リア充爆発しろぉおおおおおおお!!!」
「俺は今までお前のことを思って入ってなかった…だが、この瞬間から俺もリア充爆発しろ派の一員だぁあああああああああ!!」
この瞬間リア充爆発しろ派はギイブルなどの極小数の男子を除いた全員が所属することになった。
リアムがグレンを睨みつけるがグレンは何処吹く風だ。
「こ、殺してやる……痛!?」
リアムがグレンへの殺意を募らせていると右手に激痛が走る。
見るとルミアがリアムの右手を抓っておりリアムへと笑顔を向けていた。笑顔だがルミアの目の奥は全く笑っていないのが分かった。そのルミアの様子に教室内の温度は一気に下がり他の生徒達は恐怖のあまり声が出せなかった。
((る、ルミアちゃんこええええええ!!?))
「ねぇ、リアム君。これはどういうこと?」
「違っ!? る、ルミア!? これは…ッ!?」
「ねぇ、どういうこと?」
ルミアの指にさらに力が込められる。
「誤解なんだぁああああ!!」
リアムはこの時のルミアの笑顔を二度と忘れることは無かった。