俺は貴女を守る剣となる(リメイク版投稿中)   作:凪里

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グレンVSシスティーナ

 グレンの授業態度は相当酷いものだった。遅刻は当たり前、当然講義をすることは無く自習。本人は教卓で毎時間爆睡。次第に黒板に書いていた自習の文字すらも適当になっており最近では入ってくるなり───

 

「あー今日もいつも通りなー」

 

 この一言だけ発しすぐさま教卓で寝始める。よくまあ毎時間寝れるものだと生徒達は思っていた。今ではグレンの授業の際はグレンが来る前から生徒は自習をしている。なぜこの男は非常勤とはいえこのアルザーノ帝国魔術学院の講師になれているのか本当に謎だった。

 

 

 

 グレンが非常勤講師となってから一週間がたったこの日。教室の雰囲気はいつもとは違っていた。漂うのは緊張感。

 

 自習する生徒などはこの場に一人もおらず全員がペンを起き教卓のグレンに注目している。但し決して授業をしているのでない。

 

「貴方にそれが受けられますか?」

 

「シ、システィ!だめ!早くグレン先生に謝って、手袋を拾って!」

 

 日々の適当な授業の連続に怒りが頂点に達したシスティーナがグレンへと左手に嵌めた投げつけたのだ。古来より左手を覆う手袋を相手に向かって投げつける行為は、魔術による決闘を申し込む意思表示となる。そしてこの投げつけられた手袋を相手が拾うことで決闘は成立する。

 

 烈火のような視線でシスティーナはグレンを真っ直ぐに見つめる。そんなシスティーナをルミアは止めにかかる。が、システィーナは全く手袋を拾おうとはしない。

 

「……お前、マジか?」

 

 流石のグレンも驚いた様子でシスティーナの事を見る。そこにはいつもの眠そうで気だるそうな顔などは全く見られず眉をひそめ、真剣な表情でシスティーナを注視している。

 

「大マジです。その野放図な態度を改めて、真面目に授業を行ってください!」

 

「…辞表を書けじゃないのか?」

 

「もし、貴方が───」

 

 システィーナとグレンの口論をクラス中がハラハラしながら見守っている。

 

「り、リアム君…システィが…」

 

 親友のシスティーナの事が心配なのであろう彼女の顔には心配な表情が見てとれる。それも当然だ。とある事情からルミアはシスティーナのフィーベル家に下宿している。言わば家族なのだ。その家族がこんな無茶をしているとなると心配も当然である。リアムも驚いた様子で二人のことを見ていた。

 

「流石に先生も決闘は受けないと思うけど…」

 

「だといいんだけど…」

 

 グレンがどんなにロクでなしであったとしても仮にもアルザーノ帝国魔術学院に非常勤だが講師として招かれるような人物だ。そんな男にただの学生に過ぎないシスティーナが勝てるような相手では無いはずなのだ。決闘を挑んだシスティーナでさえ事実軽く震えている。生徒達も全員がグレンは決闘を受けないで適当にあしらうと思っていたが…

 

「いいぜ。その決闘、受けてやるよ」

 

 グレンは目の前の手袋を拾った。クラス中が驚愕の目をグレンへと向ける。そんな中グレンがルールの提示を進めていく。

 

「じゃあ俺が勝ったら、俺に対する説教禁止な。それでいいな?」

 

「分かり…ました」

 

 システィーナの同意の言葉を聞いたグレンはさっと振り返り教室のドアへと向かっていく。

 

「ほら、さっさと中庭行くぞ? なんだ? 怖くなったのか? やめてもいいんだぜ?」

 

「だ、誰がっ! 貴方絶対に許さないんだから!」

 

 肩を怒らせてシスティーナはグレンの背中を追った。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 針葉樹が芝生を囲んだ学院中庭にて。グレンとシスティーナよ二人は互いに十本程の距離を空けて向かい合っていた。

 

「カッシュはどっちが勝つと思う?」

 

「心情的にはシスティーナなんだけどなあ…」

 

 クラスの生徒達の他にも、講師と生徒が決闘を行うという噂を聞きつけて集まった野次馬たちが二人を遠巻きに取り囲んでいた。

 

「システィ…」

 

 ルミアは心配そうな表情でシスティーナを見つめている。その横にはリアムがいる。

 

「心配すんな。大丈夫だって」

 

 グレンは余裕の表情を浮かべており対するシスティーナは真剣な表情で油断なく身構えている。

 

「おーい。いつでもいいぜ? ルール忘れたのかー? 一応言っといてやるがショックボルトのみだぜ?」

 

 グレンがシスティーナを小馬鹿にするがシスティーナはそれに食ってかかろうとはしなかった。静寂が中庭に流れやがてシスティーナが動く。覚悟を決めたシスティーナがグレンを指指して、呪文を唱えた。

 

「《雷精の紫電よ》───ッ!」

 

 システィーナの指先から放たれた輝く力戦は真っ直ぐグレンへと飛んでいく。その攻撃をグレンは得意げな表情で───

 

「ぎゃあああああああ──っ!?」

 

 まともに受けグレンはあっさりとその場に倒れ伏した。

 

「……あ、あれ?」

 

 システィーナは驚きのあまり指を突き出したまま固まった。

 

「え?」

 

 決闘を眺めていた生徒達もざわめいている。

 その後グレンがあーだこーだ言い訳をしながらシスティーナの決闘を続けるがグレンの惨敗。それもそのはずグレンには【ショック・ボルト】の一説詠唱が出来ないのであった。

 

「と、とにかく決闘は私の勝ちです。先生は明日から──」

 

「え? なんのことでしたっけ?」

 

「あ、貴方……ッ!?」

 

「とりあえず今日は引き分けってことにしてやるよっ! ふはははははははははは──!」

 

 そのままグレンは高笑いをしながら走り去っていった。何度か転びながら。

 

「最低だわ」

 

 システィーナはまるで親の敵のようにうめいた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 システィーナとグレンの決闘から数日立つがグレンの態度は一向に変わろうとはしなかった。やがて生徒達は自由に自習を始め、それぞれが勉強に励むようになった。

 

 ただでさえ担任講師が辞めたことで授業が遅れているのだ。それを差し引いても皆、元々が学習意欲が高い生徒達である。グレンの授業の時間を無駄にしたくないと思うのは当然のことであった。いつしかグレンの授業では自習というのが当たり前となっていった。

 

 

 そしてある日、その授業は決闘があった日と同じように雰囲気が違っていた。誰も自習をせずに教卓の前に立っているシスティーナとグレンを見ている。

 

 二人は魔術について口論をしている。システィーナが魔術が崇高であると称えた矢先グレンがそれに噛み付いたのがきっかけだ。魔術は崇高で偉大であると謳うシスティーナに対し、グレンは魔術はそもそもなんの役にも立たない。医学や建築学のように多くの人の役には立たないと称えている。

 

 確かに魔術は使える人には恩恵があるがそれはあくまで使える人、魔術師だけであって、魔術を使えない人には恩恵は魔術師程はない。この世界は魔術が使える人間ばかりではなく、全く魔術が使えない人も大勢いる。しかしグレンはこれまでの言い分とは全く違うことを急に言い出した。

 

「いや、すまんすまん。魔術は凄ぇ役に立ってわ」

 

 その言葉にクラスの生徒の視線はグレンへと向けられる。

 今更何を言ってんだ───そんなことを生徒達が思っていた矢先グレンが口を開く。

 

「人殺しにな」

 

 生徒達の背筋が一瞬にして凍る。グレンの姿は今までのふざけた非常勤講師とはうってかわり別人と化していた。

 

(人殺しねえ……)

 

 リアムは魔術が人殺しの道具と言い放ったグレンのことを静かに見つめていた。

 

(ただの非常勤講師が魔術を人殺しって言うかね…? ただの教師じゃないなこりゃ…)

 

 リアムはやはりどこかでグレンの名前を聞いていたことを確信しどこで聞いたかを必死に考えていると…

 教室にぱぁんと乾いた音が響いた。

 

「大嫌い、貴方なんか」

 

 システィーナはグレンの頬を掌で叩き教室を後にしていた。

 

「───ち」

 

 グレンはガリガリと頭をかきながら舌打ちする。

 

「あー、なんかやる気でねーから、本日の授業は自習にするわ」

 

 そう言い放つとグレンは教室を後にした。

 その日グレンは姿を表すことはなかった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 放課後、あたりの景色が赤く染まり始めた頃。

 

「さーて帰るか」

 

 リアムは帰ろうとして席を立つとカッシュやカイ達に別れを告げ教室を出る。

 

 すると廊下で突然リアムの手が誰かに掴まれる。優しい温もりのある手だ。

 

「!?」

 

 リアムは驚き振り返るとそこにはルミアの姿があった。

 

「リアム君、ちょっと手伝ってくれないかな?」

 

 話を聞くと法陣の復習がしたかったらしい。その手伝いをリアムに頼んだというわけだ。リアムが承諾するとルミアは笑顔でありがとうと言った。

 

(はぁ…ずるいなあ…)

 

 正直疲れが溜まっているので帰ってすぐ寝たいのだがルミアの顔見ると断ることができる筈はなかった。リアムはルミアと一緒に歩き始めた。

 

 

 

「おっかしいなあ…なんで上手くいかないんだろう?」

 

 二人が居るのは魔術実験室。床には法陣が描かれている。無論魔術実験室の個人使用は禁止だ。見つかったら只では済まない。それもハーレイ先生などに見つかったら大変だろう。

 

「なあルミア、それ水銀が…」

 

 リアムがルミアに話しかけようとした瞬間──

 ばんっ!

 

 突然魔術実験室の扉が開いた。

 ルミアとリアムは驚いて飛び上がった。

 扉の方を振り返るとグレンが立っていた。

 

「て、なんだよ、リア充かよ。邪魔したな」

 

 グレンがその場を立ち去ろうとすぐドアを閉める。

 

「ちょっと、待ってくださいよ」

 

 リアムが足をすぐさまドアに挟んでグレンを引き止めた。

 

「はぁ…なんだよ」

 

 グレンも帰るのを諦めドアを開き教室へと再び入ってくる。二人が事情を説明する。

 

「ふーん。なるほどねえ…」

 

「あ、ごめんなさい、すぐに片付け──…」

 

「いーよ」

 

「え?」

 

「もうほとんど完成してんじゃねーか。崩すのは勿体ねえから最後までやっちまえ」

 

 グレンは昼間とは違ってとても優しい言葉をルミアにかけていた。これにはルミアも少し驚いている。

 

「でも…上手くいかないんです」

 

「水銀が足りてねーだけだよ」

 

 そういうとグレンは水銀の入った壺を掴みあげると、水銀を手早く足していく。

 

「凄い…」

 

 あまりの手際の良さにルミアが感心していると

 

「よーし起動してみろ」

 

「は、はい」

 

 ルミアが法陣の前に立ち呪文を唱える。

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ》」

 

 その瞬間法陣が光りだした。光が収まるとそこには七つの光と輝く銀が織り成す幻想的な法陣が現れていた。

 

 その、光景は美しく、神秘的なものであった。

 

「綺麗…」

 

 

 

 その後ルミアの提案により三人で一緒に帰ることになった。その帰り道システィーナとその祖父の事をルミアから聞いたグレンは

 

「……悪いことしたな」

 

 素直に反省していた。その後グレンの過去の話をしたり、ルミアが魔術を志す理由を話したりなんかした。

 

 ルミアの魔術を真の意味で人の力にしたい。という想いはグレンの心をちょっとだけ動かしていたがその事にルミアは気づいていない。

 

 その後も他愛ない話を続けているとグレンのその言葉が唐突に訪れた。

 

「それで、お前らって付き合ってんの?」

 

「ブフォッッ!」

 

「おいおい、きったねえな!」

 

 唐突にグレンがそのような事を二人に聞いた。

 リアムは飲んでいたジュースを吹き出す。

 そんなリアムのことをグレンが呆れる。

 ルミアの顔は赤くなっている。

 

「ち、違います…」

 

「俺にルミアは勿体ないですよ」

 

 リアムの一言でルミアは一瞬さらに赤くなったがその事に二人は気づいていない。

 

「ふーん……まあいいや」

 

 その後も他愛も無い話が続きやがて三人はそれぞれの家へと帰っていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「昨日は───悪かった」

 

 次の日、生徒達は信じられない光景を目にしていた。

 なんと、グレンが授業開始時間前に教室に居て、システィーナに謝っているのである。

 

「……え? あ、は…はい」

 

 謝られたシスティーナは信じられないものを見たと言う表情だ。

 クラス中に動揺が走る。あれは本当にグレン=レーダスなのかと。

 グレンは教卓へと向かって行き静かに立っていた。

 やがて予鈴がなる。今日も適当な感じだろうと皆が思い思いに自習を始めようとする。

 そんな中教卓に立っているグレンが発した言葉は予想だにしないものであった。

 

「じゃ、授業を始める。早速だがお前らって本当に馬鹿だよな」

 




『青髪天才魔術師と禁忌教典』を読んで下さっていた方の多くがリメイク版の今作を読んでいただいてるようで非常にありがたいです!
また、今作から初めて読むという方もおられるようでとても有難いです!
三月中には加筆修正部分を終えたいなとは思っています!出来たら新話投稿も出来るかな?という感じです。


次回。グレン、覚醒───
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